緊急自動車
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緊急自動車(きんきゅうじどうしゃ)とは人命救助や火災対応など、何らかの理由で急を要する業務に利用される自動車をいう。
道路交通法施行令では、次のように定義されている。
第13条 法第39条第1項の政令で定める自動車は、次に掲げる自動車で、その自動車を使用する者の申請に基づき公安委員会が指定したもの(第1号又は第1号の2に掲げる自動車についてはその自動車を使用する者が公安委員会に届け出たもの)とする。
- 1. 消防機関その他の者が消防のための出動に使用する消防用自動車のうち、消防のために必要な特別の構造又は装置を有するもの
- 1の2. 国、都道府県、市町村、日本道路公団[1]、関西国際空港株式会社、成田国際空港株式会社又は医療機関が傷病者の緊急搬送のために使用する救急用自動車のうち、傷病者の緊急搬送のために必要な特別の構造又は装置を有するもの
- 1の3. 消防機関が消防のための出動に使用する消防用自動車(第1号に掲げるものを除く。)
- 1の4. 都道府県又は市町村が傷病者の応急手当(当該傷病者が緊急搬送により医師の管理下に置かれるまでの間緊急やむを得ないものとして行われるものに限る。)のための出動に使用する大型自動二輪車又は普通自動二輪車
- 1の5. 警察用自動車(警察庁又は警視庁、道府県警察において使用する自動車をいう。以下同じ。)のうち、犯罪の捜査、交通の取締りその他の警察の責務の遂行のため使用するもの ※警察庁本庁は行政官庁なので警察用自動車は保有していない
- 2. 自衛隊用自動車(自衛隊において使用する自動車をいう。以下同じ。)のうち、部内の秩序維持又は自衛隊の行動若しくは自衛隊の部隊の運用のため使用するもの
- 3. 検察庁において使用する自動車のうち、犯罪の捜査のため使用するもの
- 4. 刑務所その他の矯正施設において使用する自動車のうち、逃走者の逮捕若しくは連戻し又は被収容者の警備のため使用するもの
- 5. 入国者収容所又は地方入国管理局において使用する自動車のうち、容疑者の収容又は被収容者の警備のため使用するもの
- 6. 電気事業、ガス事業その他の公益事業において、危険防止のための応急作業に使用する自動車
- 7. 水防機関が水防のための出動に使用する自動車
- 8. 輸血に用いる血液製剤を販売する者が輸血に用いる血液製剤の応急運搬のため使用する自動車
- 8の2.医療機関が臓器の移植に関する法律(平成9年法律第104号)の規定により死体(脳死した者の身体を含む。)から摘出された臓器、同法の規定により臓器の摘出をしようとする医師又はその摘出に必要な器材の応急運搬のため使用する自動車
- 9. 道路の管理者が使用する自動車のうち、道路における危険を防止するため必要がある場合において、道路の通行を禁止し、若しくは制限するための応急措置又は障害物を排除するための応急作業に使用するもの
- 10. 総合通信局又は沖縄総合通信事務所において使用する自動車のうち、不法に開設された無線局(電波法(昭和25年法律第131号)第108条の2第1項に規定する無線設備による無線通信を妨害する電波を発射しているものに限る。)の探査のための出動に使用するもの
- 11. 交通事故調査分析センターにおいて使用する自動車のうち、事故例調査(交通事故があった場合に直ちに現場において行う必要のあるものに限る。)のための出動に使用するもの
2 前項に規定するもののほか、緊急自動車である警察用自動車に誘導されている自動車又は緊急自動車である自衛隊用自動車に誘導されている自衛隊用自動車は、それぞれ法第39条第1項の政令で定める自動車とみなす。
[編集] 緊急車両指定(緊急走行)
公共の用途のため、特に緊急を要する際に他の交通車両に優先して道路を通行することができる車両。運転には警察においては部内資格(通称“青免”)を要し、消防(一部消防団除く)においても同種資格が必要となる(担当は機関員)。自衛隊では車両適性検査が「適」であることが条件で、部内資格(MOS・初級操縦手資格)を保有し、かつ官用自動車操縦経験が一定以上の者(厳密には1級以上)が操縦できる。その他の官庁または民間所属の場合は資格は不要で、公安委員会の審査を受け合格するか、該当車種(普通・中型・大型・大型特殊)で3年以上の経験があればよい。民間企業の中には、大型自動車免許、第二種免許取得や独自の認定制度を設けて学科試験・車両運転技能試験を実施するなど、独自の社内資格を設ける企業もある。
緊急車両指定を受けた車両は、都道府県公安委員会の認可を受け、国土交通省陸運支局へ登録しなければならない。公安委員会が認可を経て、「緊急車両指定証明書」が交付され、常に該当車両に備え付ける事が義務付けられる(認可されていても証明書を携帯していなければ効力はない)。
一般的には特種用途車両として8ナンバー(現在は800ナンバー、軽自動車にあっては880ナンバー、かつては80ナンバー)を交付される。ただし、現在、いわゆる覆面パトカーのうち、もっぱら交通取締に用いられる車両については3ナンバーのものがほとんどとなっている(8ナンバーの場合すぐに見破られてしまい、「私用概態」としての用を供さなくなるおそれがあるため)。
- 緊急走行を行う要件
緊急走行の際は、信号機現示信号への服従や車両通行帯遵守、通行禁止、左側(寄り)通行、最高速度、道路外出入り・横断等に関する道路交通法上の規制が緩和または適用除外され(道路交通法第40条・第41条)、一般車両はその進行を妨げないよう進路を譲らなければならない(“その場に停車”ではなく“道路左右の端に寄って徐行”。怠った場合は道交法違反「緊急車両妨害等」となる)。
緊急走行の法定最高速度は80km/h(高速自動車国道の本線車道のうち、対面通行でない区間は100km/h)である。交通違反取締のための緊急走行は、当該違反車両と速度を同等の速度で走行して速度を計測する必要があるため、この限りではない。ただしこの際は最低限フロント赤色灯作動などを行う必要があり、赤色灯・サイレンなどを作動させない、一般車扱いの状態では過速度追尾してはならない(ただし、各都道府県の条例により各種交通規制について除外されているケースも多く、交通警察における取締時の運用も一定していない)。また、赤信号や一時停止標識の前では停止しなくてよいものの、徐行して安全確認を行う義務がある等、緊急走行だからといってあらゆる交通規則が適用されなくなるわけではない。道路交通法および同施行令の適用除外事項が同法に定められており、緊急自動車の種別によって異なる。
例外として、警察の緊急自動車に誘導されている他の車両、または自衛隊の緊急自動車に誘導されている自衛隊の車両は、緊急自動車とみなされる(救急車などはこういった誘導することができないため、例えば搬送されている傷病者の家族が自家用車で緊急走行中の救急車に続いて緊急走行して搬送先病院に向かうことはできない)。事例として、警護のパトカーが田中真紀子の車を先導し関越自動車道の路肩を140キロで走行したなどという事件も伝えられたが、これが違法であることは言うまでもない。
※法定速度…法律上車両ごとに定められた速度
※制限速度…道路標識などで、各区間ごとに定められた速度
緊急自動車としては警察車両や消防車・救急車など主に市民の治安に供するものに限り許可される。その他、自衛隊の警務車両や各高速道路株式会社等の道路管理車両、都道府県知事の救援活動用司令車、水道事業者の救援車がある。民間であっても電力会社やガス会社、鉄道会社、JAFをはじめとするレッカー車、電気通信事業者、製薬会社、病院、放送事業者、輸血を緊急搬送する赤十字血液センター等で緊急車両指定を受けているものもあるが、民間の警備会社のパトロールカーや緊急出動車、輸送車などは緊急自動車として許可されない。また、司法警察員が乗務する車両であっても、海上保安庁や麻薬取締官事務所の車両は緊急自動車として許可されない。
緊急自動車の認可台数については都道府県ごとの制限枠があり、警察や消防が大多数を占める。このため民間機関へは回り切らず、各団体とも認可取得に苦労しているのが実情である(一施設につき一台程度しか取れない)。また、警察の捜査用車両にもこの制限から緊急自動車となっていないものが多い。