刑務所
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刑務所(けいむしょ)とは、何らかの法令に反する行為に及び(又は状態に達し)、裁判の結果身体拘束を伴う刑罰(懲役、禁錮など)が確定し、その刑に服することとなった者を収容する施設のことをいう。日本では法務省の施設等機関とされ、同省矯正局(矯正管区)が所管している。平成19年5月から始まるPFI方式を採用した刑務所は「刑務所」に代えて「社会復帰促進センター」と呼ばれる。
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[編集] 概要
日本では、刑務所、少年刑務所及び拘置所を総称して「刑事施設」という。このうち刑務所及び少年刑務所は、主として受刑者を収容し、改善更生、社会への円滑な復帰などを目的とするさまざまな処遇を行う施設であり、拘置所は、主として刑事裁判が確定していない未決拘禁者を収容する施設である。刑務所及び少年刑務所では、受刑者への指導を通じて様々な処遇を行っており、平成18年現在、全国に67庁(その他に若干の支所あり)が設置されている。拘置所では、主として勾留中の被疑者・被告人を収容し、これらの者が逃走したり、証拠を隠滅したりすることを防止するとともに、公平な裁判が受けられるように配慮すべきとされていて、平成18年現在全国に東京拘置所等7庁が設置されている。なお、拘置所7庁の他に、全国の刑務所の下に「拘置支所」が多数置かれている。平成18年現在、全国の刑務所、少年刑務所及び拘置所(それらの支所を含む。)においては、約16,000人の刑務官が勤務している。
日本の刑務所は世界的に見て極めて特殊な環境である。「男子被収容者への丸刈り強制」や「担当制」はその典型と言える。また、非常に少ない人員で運営を行っており、通常は施設警備隊以外の職員は警棒すら持たない完全な丸腰であるが、暴動や脱走が極めて少ない。これは世界的に誇れる事でもある。
しかし、刑務所は極めて閉鎖的かつ特殊な空間であるのは事実であり、各種法律等を根拠に受刑者は多くの自由を制限される。そのため、様々な人権侵害と疑われる事例が発生しがちである。不祥事の相次ぐ発覚からのみならず、元受刑者や刑務官への取材、あるいは内部告発により、日本の刑務所内で受刑者に対する人権侵害と疑われる事例が多数報告されている。
日本の刑務所に関する法律である監獄法は、受刑者の人権保護に関する規定が不十分であったこと、2002年(平成14年)に問題化した名古屋刑務所での刑務官によるとされる受刑者への過失致死事件などをきっかけとして法改正の機運が高まり、刑事施設及び受刑者の処遇等に関する法律が2005年(平成17年)5月18日に国会で成立、2006年(平成18年)5月24日から施行された。ただ、注意しなければならない点として、この監獄法は刑務官の行為を正当化する為の法律としては不十分な法であり、更に刑務官と言う言葉は監獄法には出てこない。明治期に作られた法律ではあらゆる面で問題があり、そのため数十年前から法改正の動きはあった訳であり、その改正を先取りせんとばかりに訓令や通達等で監獄法の不足分を補いながら行刑の運営を行ってきたと言うことを知っておくべきであろう。新法では、受刑者の人権保護だけでなく、刑務官の行為の根拠についての規定も大幅に増えている。
なお、刑事施設及び受刑者の処遇等に関する法律は,監獄法施行の明治期以来の行刑立法であり、新法施行後の職員や被収容者双方の認識不足から生まれるトラブルが懸念されていたが、各施設において職員研修を実施する等して対策を進めていた結果、実際は大きなトラブルもなく、新法での施設運営は順調にスタートしたと思われる。
日本の刑務官(一般的に言われる「看守」とは刑務官の階級のことで、一番下の階級名である。)は国家公務員法により労働基本権が認められておらず労働組合を結成することができない。しかし主な先進国では各国で原則として認められており、日本でも労働者としての性格を十分に考慮して、団結権は認めるべきだとの意見がある。またその仕事の特殊性から心身のバランスを崩す職員が増加傾向にあるため、採用時点で適性を慎重に吟味しつつ職員数を増やす、定期的な職員への研修やカウンセリングを行い、指導能力の向上、悩みや問題点の早期解決の助けにするなどの改善策をとって、刑務官の業務を少しでも適正にする必要がある。犯罪を犯しても、人権の制限は矯正に必要な範囲で適正に保たれるべきであるのは現在の憲法の理念からいっても当然であるため、刑務官の質の向上と適正な人員の配置が求められる。
「刑務官と受刑者の関係」については、スタンフォード監獄実験が有名である。
[編集] 職員の不祥事
2006年、職員による飲酒運転、窃盗事件、贈収賄事件といった事件が多発した。いずれも罪を犯した者を改善・更生させるはずの刑務官が罪を犯したわけで、社会的な影響は大きいと思われる。今後、職員の質の向上は非常に大きな課題となっていくだろう。
[編集] 名古屋刑務所事件
名古屋刑務所において平成13年(2001年)12月に刑務官が受刑者の尻に向けて消防用ホースで放水して1人を死亡させた事件が発生。その他にも翌平成14年(2002年)5月に腹部を革手錠で締め付け受刑者が死亡する事件、同年9月に受刑者が刑務官から暴行を受け外部の病院に移送された事件が発生し、現職刑務官が特別公務員暴行陵虐罪で起訴された。平成14年5月の事件では刑務所側の弁護士は「転倒によって受刑者が死亡した」と主張。2007年3月30日に名古屋地裁で刑務官4名に有罪判決が出た。「懲らしめ目的で革手錠を使用した」と認定した。これらの事件は、長年検討され続けながらも実現に至らなかった行刑改革を急激に進め、実現に至るきっかけとなった事件であった。
[編集] 刑務所の民営化
アメリカ、イギリスなどでは行政改革の一環として、刑務所の民営化(民間委託)が行われている。日本でも、出所後の再犯率の改善が急務となっており、現在の矯正プログラムでは不十分との見方も多く、小さな政府を志向する政府としては刑務所の民営化をも含めた抜本的な改革が必要といえよう。 2004年(平成16年)から従来の研究目的に限った参観に加え、一般の施設見学も可能になった。
そして、2006年(平成18年)の構造改革特別区域法施行令の改正により、構造改革特区の指定を受けた地域へのPFI手法による刑務所の設置が可能となった。この方式により設置されるのが、2007年(平成19年)4月に供用開始予定の美祢社会復帰促進センター(山口県美祢市)である。この施設は、刑務官と民間職員が協働して運営する混合運営施設であり、刑罰権の行使にかかわる業務は刑務官、その他の業務(施設の維持・管理、食事の提供等)に関しては社会復帰サポート美祢株式会社が担当する。日本における刑務所改革の一つの動きとして注目される。
山口県以外にも栃木県や島根県、兵庫県などにPFI方式を利用した刑務所が出来る。PFI方式を利用する施設と言っても、職員は全て民間人というわけではなく刑務官もいる。しかし、職員は殆ど増員されない上に2007年問題も重なり、既存施設に欠員が出るのは避けられない状況となっている。仮に増員されたとしても新拝命職員での補充となるわけであり、現場のベテラン職員の不足は深刻な問題になると思われる。既存施設は現状でも厳しい職員配置状況であり、刑務官の更なる負担増が懸念される。
[編集] 日本の刑務所
[編集] 刑務所一覧と、その所在地(管区ごと)
[編集] 札幌矯正管区
- 札幌刑務所 北海道札幌市東区東苗穂2条
- 旭川刑務所 北海道旭川市東鷹栖3線
- 釧路刑務所 北海道釧路市宮本
- 帯広刑務所 北海道帯広市別府町南
- 網走刑務所 北海道網走市三眺
- 月形刑務所 北海道樺戸郡月形町
- 函館少年刑務所 北海道函館市広野町
[編集] 仙台矯正管区
[編集] 東京矯正管区
- 栃木刑務所 栃木県栃木市惣社町(女子収容施設)
- 黒羽刑務所 栃木県大田原市寒井
- 前橋刑務所 群馬県前橋市南町
- 千葉刑務所 千葉県千葉市若葉区貝塚町
- 市原刑務所 千葉県市原市磯ケ谷
- 府中刑務所 東京都府中市晴見町(日本最大の刑務所施設)
- 横浜刑務所 神奈川県横浜市港南区港南
- 横須賀刑務所 神奈川県横須賀市長瀬
- 新潟刑務所 新潟県新潟市江南区山二ツ
- 甲府刑務所 山梨県甲府市堀之内町
- 長野刑務所 長野県須坂市馬場町
- 静岡刑務所 静岡県静岡市葵区東千代田
- 水戸少年刑務所 茨城県ひたちなか市市毛
- 川越少年刑務所 埼玉県川越市南大塚
- 松本少年刑務所 長野県松本市桐
[編集] 名古屋矯正管区
- 富山刑務所 富山県富山市西荒屋
- 金沢刑務所 石川県金沢市田上町公
- 福井刑務所 福井県福井市一本木町
- 岐阜刑務所 岐阜県岐阜市則松
- 笠松刑務所 岐阜県羽島郡笠松町中川町(女子収容施設)
- 名古屋刑務所 愛知県西加茂郡三好町ひばりヶ丘
- 三重刑務所 三重県津市修成町
[編集] 大阪矯正管区
- 滋賀刑務所 滋賀県大津市大平
- 京都刑務所 京都府京都市山科区東野井ノ上町
- 大阪刑務所 大阪府堺市堺区田出井町(西日本最大の刑務所施設)
- 神戸刑務所 兵庫県明石市大久保町森田
- 加古川刑務所 兵庫県加古川市加古川町大野
- 和歌山刑務所 和歌山県和歌山市加納(女子収容施設)
- 姫路少年刑務所 兵庫県姫路市岩端町
- 奈良少年刑務所 奈良県奈良市般若寺町
[編集] 広島矯正管区
- 鳥取刑務所 鳥取県鳥取市下味野
- 松江刑務所 島根県松江市西川津町
- 岡山刑務所 岡山県岡山市牟佐
- 広島刑務所 広島県広島市中区吉島町
- 山口刑務所 山口県山口市松美町
- 岩国刑務所 山口県岩国市錦見(女子収容施設)
[編集] 高松矯正管区
[編集] 福岡矯正管区
- 福岡刑務所 福岡県糟屋郡宇美町障子岳南
- 麓刑務所 佐賀県鳥栖市山浦町(女子収容施設)
- 佐世保刑務所 長崎県佐世保市浦川内町
- 長崎刑務所 長崎県諫早市小川町
- 熊本刑務所 熊本県熊本市渡鹿
- 大分刑務所 大分県大分市畑中
- 宮崎刑務所 宮崎県宮崎市糸原
- 鹿児島刑務所 鹿児島県姶良郡湧水町中津川
- 沖縄刑務所 沖縄県南城市知念字具志堅
- 佐賀少年刑務所 佐賀県佐賀市新生町
[編集] 医療刑務所
- 八王子医療刑務所 東京都八王子市子安町(「総合病院」としての機能がある。)
- 岡崎医療刑務所 愛知県岡崎市上地(精神障害者を対象としている。)
- 大阪医療刑務所 大阪府堺市堺区田出井町
- 北九州医療刑務所 福岡県北九州市小倉南区葉山町
[編集] 刑務支所
- 札幌刑務所札幌刑務支所 北海道札幌市東区東苗穂2条(女子収容施設)
- 福島刑務所福島刑務支所 福島県福島市南沢又字水門下(女子収容施設)
- 名古屋刑務所豊橋刑務支所 愛知県豊橋市今橋町
- 広島刑務所尾道刑務支所 広島県尾道市防地町
- 松山刑務所西条刑務支所 愛媛県西条市玉津
- 沖縄刑務所八重山刑務支所 沖縄県石垣市真栄里
[編集] PFI方式による施設(整備中)
[編集] 入所から出所まで
以下の流れは、有期刑の場合である。(無期刑の受刑者も改悛の状などによって20~40年で仮釈放されるケースがある)
- 収容
収容後まもなく刑執行開始時の指導・処遇調査・医務診察などが行われる。→処遇方針決定 - 処遇方針決定後、処遇(作業、矯正指導、保護調整)
- 釈放前指導等
- 釈放(満期か仮釈放)
[編集] 外国の刑務所
[編集] アメリカ合衆国
[編集] イギリス
(調査中)
[編集] ドイツ
- スパンダー刑務所:ベルリン
[編集] フランス
- サンテ刑務所:パリ
[編集] 刑務所に対する誤解
劇画・ドラマのようなフィクションにおいても、刑務所を舞台に、または(元)受刑者の視点で描くシナリオは数多く存在し、それらの作品で刑務所の実情を知ることができるように思えるが、(演出の都合からか)現実では絶対あり得ないような描写や、本来禁止されている行為を、何事もなかったかのように行う描写をすることも多く、それらの描写が刑務所への誤解や受刑者への偏見を生む恐れもある。
※よく描かれる誤解や間違いの例
- 受刑者の食事は臭くて不味い
- 刑務所に行くこと(主に懲役刑)をよく「臭い飯を食う」と揶揄され、受刑者の食事は粗末なものだと思われがちであるが、実際には麦飯やパンを主食としており、またきちんと栄養バランスも考慮されている。(このような食事であるため、糖尿病などの病気がよくなって出所するものも少なくないという。)麺類も出る。米と麦飯の割合は7:3。パンは主に外人向け。麺類はそばやうどん。たまにではあるが、秋刀魚が出ることもあり、正月(元日)は、雑煮。ただし、刑務所により美味いまずいの差がある。精製技術が向上する以前のかつての麦飯は、たいへん臭くて不味いものであり、本当に「臭い飯」であった。
- 刑務作業中に私語をするシーンがある
- 一般の工場と異なり、刑務所の秩序を維持するためという目的の下、作業中の私語は一切厳禁とされている。そのため私語はもちろん、脇見でさえも懲罰の対象となるが、ドラマ等のフィクションにおいては受刑者同士が会話をしている描写も多い。
[編集] 関連項目
[編集] 外部リンク
- Video
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