西鉄バスジャック事件
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西鉄バスジャック事件(にしてつ-じけん)は、2000年5月3日、九州の佐賀市から福岡市に向かう西日本鉄道の高速バスを17歳の少年(俗にネオむぎ茶と呼ばれている)がバスジャックした事件である。
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[編集] 事件の内容
2000年5月3日13時35分頃、九州自動車道太宰府インターチェンジ付近で、佐賀第二合同庁舎(佐賀市)発西鉄天神バスセンター(福岡市)行きの西日本鉄道(西鉄)の高速バス「わかくす号」を、刃渡り約40センチの牛刀を持った17歳の少年がバスジャックした。犯人は3人を刺し、うち1人が死亡した。
乗務していた運転士によると、ハザードランプの点灯やパッシングをするなど外部に異常事態を伝えようとした。が、帰省シーズンでわかくす号自体しらないドライバーも多かったため、「わかくす号が太宰府IC(の次の福岡IC)を過ぎて走っている」ことがおそらく伝わっていなかったという可能性が高い。また、行先幕がバンパーにある車両のため、福岡行きが福岡をこえて北九州方面に走っていることがわかりにくいことや交通量が多かったために、対向する西鉄の高速バス(福岡~小倉線など)の運転士も気づかなかった可能性もある。通報があったのは北九州市の九州道とされているが、もし、対向する運転士が気づいていれば、もっと早く通報できていたと思われる。実際に対向する運転士が気づいていたかどうかは公になっていない。近年、西鉄が福岡県内の高速バスを中心に、行先幕を車両上部につけた車両が増えているが、これは運賃値下げ等に伴うコストダウンが一番の理由であるものの、上述のことも影響していると思われる。
なお、このころ、西鉄天神バスセンターでは無線で当該バスに応答を求めていたが、当然応答がなかった。無線は100キロ程度が交信可能エリアだったため、山口県に入ってしまうと無線が途切れる可能性が高かった。当日は博多どんたくの期間中で、バスセンターや高速バスの利用者も多く、また福岡をはじめ九州は高速バス先進地域であるため、この事件が与えた利用者の影響は思いのほか大きいとされている。
バスは九州自動車道から関門橋および中国自動車道を通って山陽自動車道に入り、山口県下松市の下松サービスエリアで乗客1人が走行中に飛び降り、広島県東広島市の奥屋パーキングエリアで数時間停車した後、さらに東進して同市の小谷サービスエリアまで行った。
事件発生から15時間半後の4日午前5時すぎ、小谷サービスエリアで停車中、警察の突入により少年は逮捕された。この突入で警察官1人が犯人に左足を切り付けられ負傷した。
事件の様子はテレビで生中継された。
犯人の少年が「ネオむぎ茶」の固定ハンドルネームを用い、インターネット掲示板「2ちゃんねる」に犯行予告らしき書き込みを行ったことや、警察の特殊急襲部隊(SAT)が出動したことで話題となった。
警察官が突入する際、音響手榴弾(スタングレネード)が日本で初めて使用され、以後人質籠城事件で広く使われることになった。
2006年2月1日、少年(成人していた為、「元少年」と記載)が先月中に仮退院していたと報道された。社会復帰への訓練を始めたとされる。
[編集] 犯人
犯人の少年は2ちゃんねるが創設されてから間もない頃、「キャットキラー」という固定ハンドルネーム(コテハン)を用いて2ちゃんねるに書き込みを行っていた。のちにコテハンを「キャットキラー」から「ネオむぎ茶」に変更した。
この事件の直前、犯人の少年は「ネオむぎ茶」のハンドルネームで2ちゃんねるに「佐賀県佐賀市17歳・・・。」というタイトルのスレッドを立て、「ヒヒヒヒヒ」とだけ書き込んでいた。これが事実上の犯行予告とみなされ、2ちゃんねるに対するマスコミの批判的な報道がなされたが、結果として皮肉にもこの事は2ちゃんねるの知名度を上げることになった。ちなみに、このスレッドは1万を超えるレスが付き、読み込み困難にまで至った(この頃はレス数制限は設けられていなかった)。
[編集] 名前の由来
ネオむぎ茶の名前の由来は、2ちゃんねる創設当時の住民だったスーパーハカー(=「スーパーハッカー」の意:当時の2ちゃんねる内で流行した隠語で、パソコンに詳しい人を揶揄したもの)、ハンドルネーム「むぎ茶」である。この当時、まだ出来たばかりの2ちゃんねるは様々なシステム上のトラブルを抱えていた。むぎ茶はその弱点をみつけては荒らしを繰り返し、有名コテハンとなったが、東芝クレーマー事件前後にその姿を眩ました。
[編集] 事件の影響と対策など
[編集] 社会的影響
この事件は、1997年に発生した神戸連続児童殺傷事件に次いで、「1990年代以降の日本の少年犯罪凶悪化を象徴する事件である」と言う人もいる。また、この事件の直前には愛知県豊川市で17歳の少年が面識のない主婦を殺害する事件が起こっており、両事件の「犯人が17歳」という共通点をマスコミが過度に強調したため、17歳(あるいは10代)の人に対する社会的偏見を惹起した。
[編集] バス事業者での対策
日本バス協会ではこの事件を機に、バスジャックに対する統一対応マニュアルを作成し、各種の緊急連絡体制の整備を決めた。バス車両にも、各種のバスジャック対策装備品の装着が進められている。
またこの事件をきっかけに、バス事業者では行先表示に「SOS」「緊急事態発生」などと表示できるようにし外部に伝えられるようにした。(この事はテレビ番組「トリビアの泉」でも放送された)
西鉄では独自の対策として、ヘリコプターでの追跡時に上空から車両を特定できるよう、屋根上に車両番号を表示するようになった。京王バス、九州産交バスなど、他にも追随した事業者がある。
[編集] 西鉄の影響
この事件後、西鉄の高速バス利用者が大幅減になり収益減となり、JR九州に利用客が流れた。
[編集] 関連項目
[編集] 外部リンク
- 犯行予告が書き込まれたスレッド(4MB以上あるため、一部パソコンではフリーズする恐れがあるので注意。)
- 2典「ネオむぎ茶」