児童虐待
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児童虐待(じどうぎゃくたい、child abuse)とは、子供・未成年者に対する虐待である。
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[編集] 法律による定義
日本では「児童虐待の防止等に関する法律」(平成12年法律第82号)において、
「保護者(親権を行う者、未成年後見人その他の者で、児童を現に監護するものをいう)がその監護する児童(18歳に満たない者)に対し、次に掲げる行為をすること」と定義されている(第2条)。そして、同条各号において列記されている行為は、次のとおりである。
- 身体的虐待
- 児童の身体に外傷が生じ、または生じるおそれのある暴行を加えること。例えば、一方的に暴力を振るう、食事を与えない、冬は戸外に締め出す、部屋に閉じ込める。
- 性的虐待
- 児童に猥褻行為をすること、または児童を性的対象にさせたり、見せること。例えば、子供への性的暴力。自らの性器を見せたり、性交を見せ付けたり、強要する。
- ネグレクト(教育放棄)
- 児童の心身の正常な発達を妨げるような著しい減食、もしくは長時間の放置その他の保護者としての監護を著しく怠ること。例えば、病気になっても病院に受診させない、乳幼児を暑い日差しの当たる車内への放置、食事を与えない、下着など不潔なまま放置するなど。
- 心理的虐待
- 児童に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと。心理的外傷は、児童の健全な発育を阻害し、場合によっては心的外傷後ストレス障害(PTSD)などの症状を生ぜしめるため禁じられている。例えば、言葉による暴力、一方的な恫喝、無視や拒否、自尊心を踏みにじる。
[編集] 要因・状況と対策
現在、良く知られている要因としては
などが挙げられる。
また、虐待を行う親の多くが、自らも虐待を受けた経験がある事が知られている。しかし再婚者や被虐待者だった保護者の多くは虐待を行っている訳ではないにも関わらず、ある種の社会差別を被ったり、本人のコンプレックスになる等の、付随的問題も発生しており、これらの状況におけるケアを、より難しいものにしてしまっている面もある。
また家庭内だけでなく、保育園、幼稚園、児童養護施設内のものもこれに含まれる。こうした子供が病院を受診した場合、診察した医師は、担当でなくとも速やかに警察に通報する義務がある。(「児童虐待の防止等に関する法律」においては、発見した者全てが児童相談所等に通報の義務がある(第5条)と定められている。また、通告義務は他の法が定める守秘義務より優先される(同条2項)ことも同時に定められている)
いずれも家庭内や施設内などの閉鎖環境において行われている事もあり、その大部分が暗数となっている。児童を保護する児童相談所にしても、事実関係の調査中に親権を盾に両親が保護した児童を連れ去ったり、醜聞を恐れて引越しをしてしまう・児童が親を庇おうとして被害を訴えたがらない・両親の親が介入して児童を親元に戻してしまう等の問題もあって、手遅れになるケースも少なくは無い。
このような問題が浮上したのは比較的近年であり、「親は子供に折檻を行うもの」という常識が世界的に受け入れられ、最近までは全く問題視されなかった部分がある。特に近代以前においては、児童は親の所有物という考えが社会通念としてあったために、人身売買や、果ては口減らしとする殺害すら行われていた。特にそれらの思想は現代においても根強く残る部分も少なくは無い。また、民法においても、親権者による「必要な範囲内」での体罰は認められているため、現実に虐待と体罰の区別を明確にすることは難しいとされている。
- 民法第822条
- 親権を行う者は、必要な範囲内で自らその子を懲戒し、又は家庭裁判所の許可を得て、これを懲戒場に入れることができる。
躾と体罰においては、現代でこそ度を越した体罰はトラウマの要因として問題視されてはいるが、近年までは全ての肉体的な苦痛を与え得る体罰が有効な教育方針として考えられていた背景があり、特に躾と体罰と拷問を混同する保護者の存在が、事態を悪化させる要因になっている。なお1980年代のアメリカでは菓子の包装紙にすら「ストップ・ザ・チャイルド・アビュゥズ」という標語が記されていたという。児童虐待問題の社会的取り組みが行われているアメリカでは、「子供は社会で育てるもの」という意識のもと、警察・病院・民間団体など、社会全体で問題の解決に取り組んでいるのに対し、日本では「子供は親が育てるもの」という意識が根強く、虐待問題の負担が児童相談所に集中するという問題が起きている。
こうした子供の救済、保護を担当するのは、児童相談所であるが、特に緊急を要する場合は、警察がまず加害者である側から児童を引き離して保護し、しかる後に児童相談所に事態の収拾を預ける事もある。しかし実際にはさほど行われていないのが実情である。児童相談所では、それぞれのケースを調査し、親に対するアドバイスや援助を行ったり、児童に必要な医療措置を手配したり、必要な場合には、親権の剥奪や児童養護施設への児童収容を手配する事もある。
- 警察の援助については児童虐待防止法第10条で規定されているが、現実的に児童相談所と警察が連携した対応はほとんど行われていない。
[編集] 日本国内の取り組み
日本で児童虐待のニュースが目立つようになったのはここ数年のことであるので、アメリカに対して20年弱の状況認識の遅延が認められる。
このため近年では、増加する傾向にある日本国内の児童虐待に的確に対処すべく、従来は育児全般に関する相談を受け付けていた児童相談所だが、2003年9月に厚生労働省は「児童虐待と非行問題を中心に対応する機関」とする位置付けの変更を決定した。特に事件報道が増えるにつれ、社会的にも児童虐待に対する認識が広まり、隣人などからの通報により、事件が発覚するケースが増えている。
[編集] 最近発覚した児童虐待
- 岸和田中学生虐待事件(2004年)
[編集] 関連項目
- ペットのいる児童虐待の見られる家庭では、その6割に動物虐待行為(内3割は被虐待児によるもの)が見られるとする統計もあり、兎角世間から気付かれ難い児童虐待行為のシグナルとして、これに注目する向きがある。
[編集] 外部リンク
- 児童虐待対処の手引き静岡県
- 児童虐待って何?児童養護の現場から