赤外線
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
赤外線(せきがいせん, 英語 : infrared rays)は、可視光の赤色の外側(=周波数がより低い)に分布する電磁波の一種。人間の目に見えない光である。
目次 |
[編集] 赤外線の種類
赤外線は赤色光よりも波長が長く、ミリ波長の電波よりも波長の短い電磁波全般を指し、波長ではおよそ 1mm ~ 700nm に分布する。すなわち、可視光線と電波の間に属する電磁波と言える。
赤外線は波長によって、近赤外線、中赤外線、遠赤外線に分けられる。
[編集] 近赤外線
近赤外線は、およそ0.7~2.5マイクロメートルの可視光(赤)にほど近い電磁波。可視光線に近い性質を持つため、「見えないが、可視光線に似た性質の光」として応用されている。
IrDAなどの赤外線通信、セキュリティ用CCDカメラの夜間光源などに利用される。赤外線LEDが光源としてよく利用される。
[編集] 中赤外線
中赤外線は、およそ2.5~4マイクロメートルの電磁波。近赤外線の一部として分類されることもある。
[編集] 遠赤外線
遠赤外線は、およそ4~1,000マイクロメートルの電磁波である。電波に近い性質も持つ。 遠赤外線は熱を持った物体(絶対温度が0Kを超える物体)からは必ず放射されている。すなわち熱線としての性質を持ち、高い温度の物体ほど赤外線を強く放射する。
主として、熱線として調理や暖房など加熱機器に利用される。一般に電磁波は、波長が長い方が物体に浸透する能力が大きくなるので、遠赤外線を用いることにより、対象を内部から暖めることができる(その好例がコタツである)。ただし、遠赤外線の効果を謳う商品の中には、科学的に実証されていないばかりか妄説にすぎない商品(浄水器、燃費改善剤など)もあるので注意を要する。
[編集] 用途
[編集] 赤外線カメラ
近赤外線に感光する赤外線フィルムやカメラなど映像装置を用いることで、特殊なメリットを得ることができる。
- 赤外線は可視光に比べて波長が長いため散乱しにくい性質があり、煙や薄い布などを透過して向こう側の物体を撮影するために用いることができる。
- あくまで光であるため、近赤外線光が当たっていない物体は写らず認識できない。一方で、赤外線は目に見えないため、外部に近赤外線光源を持つことで、被写体に気付かれることなく夜間などでも撮影することができる。100m先の物体を照らすことのできる光源も存在する。
- これらの利点から、軍事用の暗視スコープでも利用されている。ライトや星から放たれるわずかな可視光線・近赤外線を増幅し、明瞭な画像を得るものである(暗視装置参照)。
赤外線カメラは、可視光をシャットアウトする赤外線フィルタを通して用いる。なお赤外線は可視光と比べてガラスに対する屈折率も小さいため、撮影の際には焦点距離を大きく取る必要があるものもある。そのため、一部のレンズについては通常の光で焦点を合わせた後、赤外線でピントを合わせるための目印を付けたものもある。なお、その特長を悪用して、水着を透かして撮るなどの盗撮行為が可能となっている。その為、赤外線に透けない素材の使用を売りにした水着も販売されている。
近年の世界的な治安悪化で、近赤外線まで感度分布を持つCCDカメラに、赤外線LEDランプ照明を使用したセキュリティ用監視カメラが、多方面に使用されてきている。赤外光を利用して夜間でも相手に気付かれず、相手を刺激せずに撮影することができる。街中の監視カメラや各種料金所ゲートのカメラから、家庭用のドアホンまで幅広く利用されてきている。
[編集] 家庭電化製品のリモコン
ほとんどのリモコンは赤外線を利用している。
[編集] 赤外線通信
→代表的なものはIrDAを参照。
近距離赤外線通信規格IrDAの携帯電話への普及により、赤外線通信が一般に認知され、使用されるようになった。 電波で通信する方式に比べて、信号が空間的に広がりにくく(回折を起こさず)、障害物があると通信できない欠点はあるものの、それは第三者に傍受されにくいというセキュリティ上の大きな長所でもある。
[編集] 熱映像装置
遠赤外線領域を検知する映像装置を使うと、熱源となる物体や生物の存在を検知することができる。また、遠赤外線の強度を解析することで温度分布を割り出し表示する映像装置が、サーモグラフィー(熱映像)である。通例、高温の部分を赤い色で、低温の部分を青い色で表示するものが多い(当然ながら実際の色とは何の関係もない)。
熱映像装置は、肉眼で見ればどんなに暗い場所においても、他の人間などの存在を確実に認識することができる。しかし、ボロメータ型撮像素子の場合、温度差が存在しなければ何も検知することができない。例えば、気温が30度を超えるようなときには、周囲と人間を見分けることは極めて難しい。
また、量子型映像装置が外部に近い温度を持っていると映像装置内部が発する熱に感光してしまい使い物にならない。そのため量子型熱映像装置の検知部は被写体に比べ十分に低温に保つ必要がある(人工のものの場合数十度の差、熱映像視野を持つ蛇などは数度の差)。被写体がより低温である場合は、原理的に検知・撮影することができない。
遠赤外線は近赤外線よりも更に波長が長いため透過性なども更に大きいが、映像装置としては極めて分解能が低くなる。 赤外線撮像素子には大きく分けて量子型とボロメータ型の2通りがある。 量子型赤外線撮像素子はCCDやCMOS撮像素子と同様に光子がPN接合に入射した時に生じる電荷を検出することで撮像する。 ボロメータ型赤外線撮像素子は赤外線の入射に伴う温度変化を検出する事で撮像する。 量子型は熱雑音の影響を受け易い為、撮像素子を冷却する必要があるが、ボロメータ型は相対的な熱量を検出する為、非冷却も可能。 量子型は用いる半導体の種類により、赤外線の波長により感度が変わる(波長依存性)。一方、ボロメータ型は感度は、ほぼ一定である。 量子型は熱源の移動や温度の変化に対して追随性が良いが、ボロメータ型は素子の熱容量に影響を受ける為、量子型に比べ追随性に劣る。 ボロメータ型は強誘電性材料の自発分極を利用した物や、熱電対を利用した物や、トムソン効果を用いた物がある。 近年では、MEMSの技術の発展により開発が進みつつある。
[編集] 遠赤外線加熱
電力や燃料の燃焼で高温に加熱した物体からの赤外線放射による加熱である。 焼付け塗装・食品加工・暖房器具等に用いられる。
[編集] 赤外線分光光度計
全ての分子にはある決まった周波数の電磁波を吸収する性質がある。これを赤外線の領域で調べる手法が赤外線分光であり、分子内部における原子の振動状態を通じて物質の組成や量を知ることができる。赤外領域の基準振動がスペクトル分析の基本であるが、吸収が大きすぎる為、近赤外領域にある、吸収の少ない倍音、三倍音を観測するもことある。近赤外の分光法は赤外に比べ感度が極めて低く、そのため利用が遅れていたが、分析手法の発達により、非破壊検査・測定に利用されるようになった。
[編集] リモートセンシング衛星
地表や海面の温度を調べるのはもちろんのこと、植物は太陽光の近赤外線を最も強く反射するので、植生状況を調べることができる。
[編集] 音の伝送
音のワイヤレス伝送を行う場合に、電波を使わずFM変調した波長を赤外線を発するラジエーターから発信し、受光器で受信して復調する機器がいくつか存在する。家庭用ではヘッドフォンで使用され、業務用ではカラオケのマイクロフォンや同時通訳を聞く際のレシーバに使用されている。
電波を使った場合と較べて混信の心配がなく、マルチチャンネル化も容易で利便性が高いが、一方で送受信器の間に大きな物体があるなど赤外線が届かない条件もしばしば起きるため、使用場所の形状によっては送受信器のうち固定器側について数を増やしたり、人や物に遮られない高所に設置するなどの検討が必要になる。また移動器側も衣服のポケットに入れたり、手で握るなど赤外線を遮らないよう注意する必要がある。
[編集] 関連項目
電磁波 |