道路特定財源制度
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道路特定財源制度(どうろとくていざいげんせいど)とは、自動車の利用者が道路の維持・整備費を負担する、受益者負担の原則に基づく、日本の制度。
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[編集] 概要
道路特定財源制度は、「受益者負担」(利益を受ける者が費用を負担する)の考え方に基づき、道路の利用者、つまり自動車の所有者やその燃料を使用した人が道路の建設・維持費用を負担するという、合理的な制度である。財源にはガソリン税や自動車重量税などが充てられる。国の制度のように見えるが、国と地方との間で税収の配分比もも定められており、地方も関係している。「道路整備5箇年計画」(現在は他の分野と一本化)と合わせ、道路の集中整備に貢献してきた。
幹線道路の中央分離帯等に「この道路はガソリン税でつくられています」といった巨大看板があり、またガソリンスタンドのレシート・給油記録には内訳としてガソリン税の額が明記されるものもあり、費用を負担しているという感覚は国民にある程度浸透している。ただ、支出の仕組みについては十分に理解されているとはいえない。
[編集] 歴史
道路特定財源の仕組みの大元は、諸外国の制度をヒントに田中角栄らの議員立法で作られた。戦後の復興が進み高度経済成長の足がかりをつかもうとしていた昭和20年代後半、貧困な状況にあった道路を急ピッチで整備する必要性があり、財源の確保が問題となった。1953年(昭和28年)に田中角栄議員(当時)らの議員立法により、「道路整備費の財源等に関する臨時措置法」がつくられ、「揮発油税」が道路特定財源となった。同法は、1958年(昭和33年)に「道路整備緊急措置法」となった。
その後、1970年から始まる第6次道路整備五ヵ年計画に約3000億円の財源不足が予想されたため、自民党幹事長(当時)の田中角栄が「自動車新税」構想を打ち上げ、自動車重量税を創設した。自動車重量税は他の税と異なり、法律上は特定財源であることを明示していないが、制定時の国会審議において運用上特定財源とすることとされた。
このように、道路特定財源制度の基礎を作ったのは田中角栄らで、その後継である竹下派(後の小渕派・橋本派)をはじめとした「道路族」が予算配分に強い影響力を行使してきたとされる。
- 1949年(昭和24年) 揮発油税創設(正しくは復活)
- 1953年 道路整備費の財源等に関する臨時措置法制定
- 1954年 揮発油税が道路特定財源となる。第一次道路整備五箇年計画開始。
- 1958年 「道路整備緊急措置法」。第2次道路整備五ヵ年計画。道路整備特別会計創設。
- 1966年 石油ガス税創設
- 1968年 自動車取得税創設
- 1971年 自動車重量税創設
- 1993年 軽油引取税・揮発油税の税率引き上げ及び地方道路税の税率引き下げ(結果としてガソリン税としては増減なし)
- 第11次道路整備五ヵ年計画(1993年度~)の財源不足が見込まれると共に、ガソリン車からディーゼル車へのシフトは環境上好ましくないため。
- 1997年12月25日 旧国鉄債務処理に道路特定財源の活用見送り(閣議決定)
- 2003年度(平成15年度) 使途拡大始まる。本四公団の有利子債務を切り離し、道路整備特別会計ではなく一般会計で処理する方針(自動車重量税を充当)。5年間の予定。
- 2005年12月 政府「道路特定財源の見直しに関する基本方針」
- 一般財源化を前提に、2006年度の改革の議論において具体案を得ることとしている。
- 2006年度中 本四公団の債務処理が終了の見込み。
[編集] 種類
自動車の取得、保有、利用(走行)の各段階で課税される。
など。
石油ガス税・自動車重量税のうち一定部分は地方へ譲与されることになっている。なお、自動車重量税は厳密には道路特定財源ではない(下記「あゆみ」参照)。一般によく目にする「ガソリン税」は、ガソリンに対して課せられる「揮発油税」と「地方道路税」を合わせた通称である(本稿中、わかりやすくするため、「ガソリン税」と表現することがある)。
なお、自動車の保有に対して地方自治体から課せられる「自動車税」や「軽自動車税」は一般財源であり、道路特定財源ではない。
[編集] 税率
- 揮発油税 税率48.6円/リットル(暫定、本則は24.3円/リットル)
- 石油ガス税 税率17.5円/kg(本則)
- 自動車重量税 自家用乗用車の場合、税率6300円/0.5t・年(暫定、本則2500円)
- 地方道路税 税率5.2円/リットル(暫定、本則は4.4円)
- 揮発油税と併課
- 軽油引取税 税率32.1円/リットル(暫定、本則は15.0円)
- 自動車取得税 自家用の場合、税率 取得価格の5%(暫定、本則は同3%)
- 暫定税率
- 石油ガス税を除くほとんどの税目において、本則税率(本来の税率)のおよそ2倍の暫定税率が適用されている。これは、昭和48~52年度の道路整備五ヵ年計画の財源不足に対応するために、昭和49年度から2年間の「暫定措置」として実施された揮発油税、地方道路税、自動車取得税、自動車重量税の税率引き上げ(軽油引取税は昭和51年から)が期間延長を重ねているものである。以降、道路整備五ヵ年計画が延長されるたびに若干の見直しを行いつつ「暫定」税率が続けられている。
[編集] 税収
国・地方分合わせて5兆円以上の税収があり、その内訳は次のとおり。
- 揮発油税 2兆9138億円
- 石油ガス税 150億円
- 自動車重量税 5851億円
- 国分小計 3兆5139億円
- 地方道路譲与税 3072億円
- 石油ガス譲与税 147億円
- 自動車重量譲与税 3767億円
- 軽油引取税 1兆0556億円
- 自動車取得税 4655億円
- 地方分小計 2兆2197億円
- 計 5兆7336億円(2004年度)
ちなみに自動車税は1兆7713億円 軽自動車税は1519億円である(2005年度地方財政計画ベース)
[編集] 使途
大部分は道路の建設・整備に充てられるものの使途は多岐に渡り、最近では地下鉄・モノレール・路面電車のインフラ整備や連続立体交差事業(開かずの踏切の解消)、幹線道路沿いの光ファイバー網整備、まちづくり総合支援事業、DPF(ディーゼル微粒子除去装置)等の購入助成、ETC車載器リース制度などにも使用されている。
使途は次第に拡大されているが、根本は自動車ユーザーの利便性を向上するために充てられる。道路や自動車と一見関係が薄いものもみられるが、道路混雑の緩和や安全性向上により自動車ユーザーの利便性向上が期待できるからとされている。また、本四公団の債務処理費にも自動車重量税から2003年度(平成15年度)以降多額が充当されている。かつては国鉄の債務処理に充当する案もあったが、実施されていない。
[編集] 税としての特性
国土交通省によれば、道路特定財源制度は、合理性・公平性・安定性に優れた制度である。自動車の使用量=道路の走行量に見合った燃料に対する課税、道路の損耗に見合った重量に対する課税など、負担と受益とが比較的わかりやすい。また、マイカーは特に地方圏においてはもはや必需品ともいえ、燃料は景気にあまり関係なく消費されるので、税収としても安定している。さらに自動車重量税は購入及び車検の際に販売店や車検業者を通じて納付するようになっており徴収もしやすい。
[編集] 評価
この制度のおかげで、戦後の道路整備が進み、ひいてはわが国の経済・社会の発展を支えた。しかしながら、道路整備が進んだ近年ではその必要性への疑問や重税感を訴えるもの、固定化し現状にそぐわなくなっているので抜本的改革が必要との主張も見られるようになっている。(後述)
本制度については聖域なき構造改革で見直しの対象となっており、一般財源化などが議論されている。
[編集] 問題点と改革の動き
以下に、問題点とされている点について記述する。
- 制度の発足当時(1953年 道路整備費の財源等に関する臨時措置法)と比較して道路整備が格段に進んでいる中、道路特定財源が道路整備にしか使用できないため、資源配分の観点から非効率な制度となっている。
- 予算の配分については中央(与党である自由民主党、国土交通省など)の意向が強く反映されるため、道路整備予算が欲しい地方自治体は中央に陳情をすることになるが、そこに中央官僚の裁量と政権与党の利権が生じている。
- 財源の一般化が議論されているが、一般化した場合、受益者負担の考えに背く。
- 税率が暫定措置として時限立法で引き上げられていて、立法期限の度に更新されている。
[編集] 一般財源化をめぐる2006年11月~12月の攻防
道路特定財源問題は安倍政権にとって小泉政権から引き継いだ「宿題」の一つとなっていたが、参議院選挙を控え(道路整備の未充足な)「地方への配慮」から自民党が一般財源化に難色を示していた。法改正の必要のない自動車重量税の一部の一般財源化が妥協点とも見られていた。これに対し、2006年11月に塩崎恭久官房長官はいったんは「本丸」ともいえる揮発油税も含めた一般財源化を表明したが、郵政造反議員の復党問題の反発に対する「窮余の一策」と受け取られ、安倍首相の指導力、改革への姿勢を問われる状況となった。国土交通相を出している公明党も一般財源化には慎重な姿勢に終始した。
結局、政府・与党は12月7日に2008年の通常国会で所要の法改正を行う方針で合意した。税収の全額を道路整備に充てる現行の仕組みを2008年度に見直し、道路整備費を上回る税収分を一般財源化する方針を明記。2008年度の高速道路利用料金引き下げの原資への充当も検討項目に盛り込んだ。「必要な道路はつくる」ことが確認され、一般財源化反対派も矛を収めた。2007年に作成される中期計画が次の焦点となる。2006年12月8日閣議決定。
[編集] 見直しの必要性の論拠
以下、論拠を掲げるが、多様な立場からの主張を併記しているので、全てが首尾一貫したものではないことに注意。
- 「流用」への批判
- 近年、使途を拡大しているが、そもそも道路の整備という「特定」の目的のために道路のユーザーから預かっているお金であり、ユーザーの利便性向上に資する目的に使われないのであれば、減税なり廃止なりすべきという主張である。
- 「暫定税率」への批判
- 「流用」するほど財源が余っているのなら、まず本則税率に戻すのが筋との主張もある。高度成長時代にできた「暫定」をいつまでも引きずるのは好ましくないとの筋論である。一方、暫定という形をとるのをやめ本則を引き上げるべきとの意見もある。
- 重税感
- 自動車ユーザーからは、既に自動車の社会的費用以上の負担をしており重税であり、また自動車取得税は消費税との二重課税(タックス・オン・タックス)ではないかとの主張もある。しかし、現在道路整備に充てられる予算は道路特定財源による税収を大きく上回っており、相応の負担をしてはいないともいえる。
- ガソリン税の負担の「重さ」については、一般に欧州諸国より軽いが、米国よりは重い。これは自動車に対する社会的姿勢の現れともいえる。
- なお道路特定財源ではないが、財産税的性格が強い自動車税・軽自動車税についても、既に多数の家庭が持つ状況であれば負担の軽減が必要ではないかとの主張も自動車関係団体等からはある。
- 道路の充足度に対する認識の差
- 道路はこれ以上整備する必要性が乏しく、特定財源は現在のように必要ないのではないかとの主張(受益者負担は支持しつつも、税率については再考を求めるもの)。総体として、道路はもう足りているのではないか?これ以上の整備は新たな混雑を生むだけではないか?突き詰めて言えば社会資本は満たされつつあるのでは?--という問いかけである。
- 公共事業性悪説に基づく極論ともいえるが、キツネやタヌキしか通らない道路ばかり作っているという、無駄遣い批判も聞かれる。しかし、個々の極端な事例をもとに全国の道路全てが無駄遣いと決めつけるような主張は合理性を欠く。
- 「足りているのか?」という問いには、地方からも大都市からも「足りてはいない」という答えが返ってくる。都市部では渋滞緩和してほしいし、農山漁村部では都会に出る道を良くしてほしいという要望が上がる。国土交通省も、諸外国との比較データを繰り出して「足りない」と主張する。道路がどこまで行き渡ればいいという水準は一律には決めにくい。
- 上記と関係するが、仮に、道路整備はかなり充足したので、そろそろ整備のペースを落としてもよいという国民的な合意が得られ、その結果財源が一部不要になったのであれば、税率の調整や廃止により国民に還元していくべきとの主張につながる。
- 地方の道路財源はむしろ足りない
- 一般によく理解されていない状況にあるが、国においては道路特定財源(と通行料収入)ですべての道路整備予算を賄っているものの、地方自治体においては道路整備のおよそ半分が一般財源(つまり都道府県や市町村の税金や国からの地方交付税)から支出されている。道路特定財源に余剰も生じているというのはあくまで国費ベースの話で、地方費では道路整備予算に占める道路特定財源の割合は約54%に過ぎない。つまり、道路特定財源は「余ってなどいない」のである。(なお、ここで言う地方とはあくまで「国」に対する言葉であり、都市部の自治体も含む)
- これは地方への税源移譲拡大論(国の予算を減らして地方に振り向けるべきとの主張)にも結びつく。
- 環境対策の視点欠落
- 自動車は地球温暖化の原因となる温室効果ガス排出をはじめ大気汚染や騒音公害など深刻な環境問題を発生させており、一部は環境対策に充当すべきではないかとの議論がある(環境税化)。ただし、温室効果ガスについては排出する主体全てに課税すべきであり、既に徴税の仕組みが確立しており徴収しやすい自動車を狙い撃ちにするような制度は不公平であるとの反論もある。
- 固定化批判、特別会計の仕組みそのものの見直し論
- 税収があるからといって、それを聖域視し、特別会計を作って国がコントロールし、国の決めたルールで地方に配分するという中央集権的な仕組みは問題であるとの論である。これは地方への移譲論に結びつく。
- 結果として、いわゆる「道路族」や国から地方に至る公共事業大国を形成し、政治・官僚・関係事業者の強固なトライアングルを形成している。さらには、国民経済的な観点からいうと資源の適正な配分をゆがめ、財政の硬直化を招いていると主張する。ただし、特別会計は道路整備以外にも多数存在しており、特定財源に限らず公共事業のあり方論に及ぶ。
- 交通事情
- 鉄道など公共交通機関が整備され、自動車を保有する必要が薄い都市部と、公共交通機関の利用が困難で自動車を保有して移動するしかない地方との交通格差も問題になっている。また都道府県別で課税対象者率が大きく異なり、都市部は低く、地方は高くなる傾向にある。
[編集] 関連項目
[編集] 外部リンク
- 国土交通省道路局ホームページ
- 道路特定財源一般財源化 両論
- 猪瀬 直樹(作家)「半年ですべての道路建設計画をチェックせよ」2006年12月13日 nikkei BPnet - ビジネススタイル -
- 社団法人日本自動車工業会 対談:石原 慎太郎(東京都知事) 杉山 武彦(一橋大学学長) 『道路整備の重要性と道路特定財源の必要性』 JAMAGAZINE 2006年11月号
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