開かずの踏切
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開かずの踏切(あかずのふみきり)は、遮断機が降りた状態が長時間続き、通行が困難な踏切の通称。線路が多く交通量が多い踏切や駅に近い場合に開かずの踏切となりやすい。
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高架化される以前の阪和線には、ラッシュ時には1時間に56分遮断する踏切もあった。
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JR・名鉄の計8線を跨ぐ、屈指の開かずの踏切として有名な神宮前駅北の手動踏切(名鉄神宮前1号踏切とJR東海御田踏切)
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[編集] 概要
国土交通省(旧・運輸省)では「ボトルネック踏切」の名で、「ピーク時の遮断時間が1時間あたり40分を超える踏切」または、「1日あたりの踏切交通遮断量が5万台時を越える踏切」と定義している。同省の調査によると1999年(平成11年)度において日本には約1,000箇所あり、ほとんどが首都圏と関西地方に集中していた。
長い待ち時間から通行者のストレスが高まり、また開いている時間が短いことが多く、転倒事故などを誘発している。さらに、遮断機が下りてからの歩行者・自動車の通行もたびたび発生し、事故の要因となっている。踏切待ちによる時間損失を貨幣価値に換算すると年間約1兆5,000億円にも上ると試算されている。
線路の高架化・地下化などによる抜本的な対策が今後の課題となっている。線路の連続立体交差化事業は国からの補助のもと自治体の負担によって行われるが、財政状況の悪化や住民の反対によりなかなか進捗しないのが現状といえる。
[編集] 主な開かずの踏切
- 東武鉄道伊勢崎線竹ノ塚駅~谷塚駅間「竹ノ塚駅第37号踏切」 - 急行線の通過列車が多く、緩行線では東京地下鉄(東京メトロ)日比谷線の車両基地である竹ノ塚検車区への出入庫列車・竹ノ塚駅北方への引込み列車も存在する。事故の影響により隣接する手動踏切とともに2005年9月に自動化された。
- 東日本旅客鉄道(JR東日本)東海道本線(東海道線・横須賀線・湘南新宿ライン・京浜東北線)鶴見駅~新子安駅間「総持寺踏切」 - 線路11本をまたぐ踏切。通過列車も多く遮断時間が長い。
- 東海旅客鉄道(JR東海)東海道本線(熱田駅から南へ約300mほど)「御田踏切」および名古屋鉄道名古屋本線・常滑線神宮前駅付近「神宮前1号踏切」 - 閉塞時間短縮のため、手動で遮断機を上げ下ろしする第1種乙踏切となっている。更に踏切全体を三分して別々に動かせるようになっており、「全開」・「閉鎖」のほか自転車・歩行者のみが通行できるように遮断機を半分だけ上げる「半開」が存在する。ただし、歩行者については踏切横にある歩道橋の利用が可能である。なお、会社ごとに呼称は異なるが、実質的には1つの踏切として運用されている。
- 西日本旅客鉄道(JR西日本)JR京都線(東海道本線)東淀川駅付近 - 線路8本をまたぐ踏切。朝夕ラッシュ時など通過列車も多く、列車の通過時刻が近接しており遮断時間が長い。
- 近畿日本鉄道奈良線菖蒲池駅~大和西大寺駅間・京都線平城駅~大和西大寺間踏切 - 奈良線、京都線、橿原線が大和西大寺駅で平面交差し、他の線の列車発車待ちのために踏切上で停車する場合も多い。
- 九州旅客鉄道(JR九州)鹿児島本線、南福岡駅付近「相生踏切」 - 九州で唯一の開かずの踏切であり、南福岡駅での緩急接続・退避、列車編成の連結・解放、南福岡電車区への出入庫列車の徐行・停車などが遮断時間を延ばす要因となっている。
[編集] 近年解消された開かずの踏切
- 京成電鉄本線京成船橋駅(船橋1号踏切) - 高架化により踏切そのものを解消。当時は、複線ではあるが交通量の多い駅前の繁華街の道路を横切る形で、そのうえ上下線ホームが踏切を挟んで別々にあり、上りホームはJR・東武鉄道船橋駅とは踏切を挟んで反対側にあった。特に朝通勤時、JR総武線に乗り換えるため上り列車から降りた通勤客が遮断機を無視して渡るなどの危険行為が多発。日本テレビのニュース番組で福澤朗による実況レポートを行った特集が報道された。
- JR東日本中央本線(中央快速線)武蔵小金井駅「小金井街道踏切」 - 中央線の三鷹~立川間の連続立体交差・複々線化工事のため、ただでさえ朝夕に遮断機が開いている回数・時間が少なかったところに、現在運行中の地上複線と立体交差用敷地分を含めた踏切に「距離を延長」する形となった。このため、遮断機が上がったら駆け足で踏切を渡る人や、遮断機が再び下がるまでに踏切を渡りきれない人などが多数おり、電車が一時停車するなどのトラブルが続出した。これらの問題が指摘されてからかなりの期間を経てようやく保安員を配属し、さらに自転車も載せられるエレベーター付の歩道橋を設置した。ただ、抜本的解決にはしばらく時間がかかる。
[編集] 関連する事件・事故
- 2003年(平成15年)、JR中央線高架化工事に際し、三鷹~国分寺間で踏切の横断距離が延び、また遮断時間が工事前よりも増える箇所が出るなどしたため、一時期社会問題となった。その後、切替工事が進んだため横断距離は多くの箇所で以前と同程度に戻っている。
- 2005年(平成17年)3月、東武伊勢崎線の竹ノ塚駅近くの踏切において踏切保安係の操作ミスが原因で人身事故が発生。この事故の後、通行者の苦情を避けるため保安係が規則を無視して自分の判断で遮断棒を上げ下げする行為が日常的に行われていたことが発覚し、問題となった。その後人身事故の原因となった踏切保安係は逮捕され、実刑判決を受けた(「竹ノ塚駅#踏切」も参照)。
- 2005年10月、京浜東北線・東海道本線の大森駅~蒲田駅間の開かずの踏切で発生した死傷事故では、列車ダイヤの乱れが原因で30分以上遮断機が下り続け、踏切に「こしょう」(故障)との表示が出ていた。これは踏切の故障でなくとも、遮断機が30分以上下りていた場合は自動的に表示されるが、この表示が原因で「踏切の故障で遮断機が下り続けている」と通行者の誤解を受けたのではないかとの指摘がなされ、JR東日本では踏切の故障表示について見直しをするとの発表を行った。なお、これと同類の事故が2006年(平成18年)3月に東海道本線三河大塚駅~三河三谷駅間の踏切でも発生した。これらの事故を受け、国土交通省は「こしょう」の表示を廃止するよう全国の鉄道事業者に指示した。
- 2006年7月、東武東上線の池袋駅~北池袋駅間および埼京線の池袋駅~板橋駅間の開かずの踏切で東上線の池袋発志木行き下り普通列車に親子がはねられる事故が発生、母親は死亡し子供は重傷を負った。この親子は遮断機が下りていた踏切をくぐった男性に続いて踏切内に進入した模様。この踏切は以前から遮断機が下りている状態での歩行者の横断が目立っていて、2001年(平成13年)にも男性が埼京線の列車にはねられる死亡事故が起きていることがわかった。また、事故当日は併走する埼京線のダイヤが乱れ、70~80分間も踏切が開かない時間があったことがわかった。