遷移元素
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遷移元素(せんいげんそ、transition elements)とは周期表で第3族元素から第11族元素の間に存在する元素の総称である。かつては第12族元素(亜鉛族元素、Zn、Cd、Hg)も周期表上から遷移元素に分類されていたが、化学的性質が典型元素の金属に近いことが分かり、現在では典型元素に分類される。
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[編集] 歴史
歴史的には、当初メンデレーエフが周期表(短周期表)を作成した際には、今日の第3族~第7族元素で発見されているものは少なく、また発見されていたものが多い第8~第10族元素に属する元素であっても1つの族(VIII族)に纏められていた。それというのも、短周期表を区分する物性や化学的性質は、s電子やp電子など、主に最外殻電子の性質に由来するものであり、d電子やf電子などの内殻電子の構成に由来する元素の変化は目だって現れなかった為である。メンデレーエフは原子量順に並べると、化学的性質の異なるVII族とI族の間に、性質の似通った3つの元素の組から構成されるVIII族元素が来ることを見出し、VII族とI族を繋ぐ元素グループという意味で遷移元素という名称を与えた。
その後第3族~第7族元素の発見により、周期表も改良され今日の第1・2および12~18族元素から構成される典型元素(短周期族名の後にAをつけて区別する)と第3族~11族元素から構成される遷移元素(短周期族名の後にBをつけて区別する)が短周期表の中で分類されるようになった。
量子力学により元素のもつ電子殻の構造が理解され、s、p、d、fなど電子ブロック分類に基づく長周期表や拡張周期表で元素が分類されるようになり、今日では、第3~第11族元素を指して遷移元素と呼ぶようになった。
[編集] 遷移金属
遷移元素は金属元素であり、その大多数はd軌道またはf軌道などの内殻電子に空きを持つため、典型元素の金属とは異なる化学的性質を持つ。これらの金属元素を遷移金属と呼ぶことがある。
例えば、d軌道に不対電子を持つことで遷移金属の多くは常磁性である。また遷移金属はいくつかの酸化数をとることが可能である。さまざまな配位子と結合して、錯体を形成する。
一方亜鉛、カドミウム、水銀(←亜鉛族元素)などは化学的性質が典型元素の金属に近いので遷移元素とは言わない。
[編集] 遷移元素の電子配位一覧
第一遷移元素(3d遷移元素)
元素記号 | 元素名 | 電子配位(基底状態、中性原子) |
---|---|---|
Sc | スカンジウム | 3d4s2 |
Ti | チタン | 3d24s2 |
V | バナジウム | 3d34s2 |
Cr | クロム | 3d54s |
Mn | マンガン | 3d54s2 |
Fe | 鉄 | 3d64s2 |
Co | コバルト | 3d74s2 |
Ni | ニッケル | 3d84s2 |
Cu | 銅 | 3d104s |
Zn | 亜鉛 | 3d104s2 |
第二遷移元素(4d遷移元素)
元素記号 | 元素名 | 電子配位(基底状態、中性原子) |
---|---|---|
Y | イットリウム | 4d5s2 |
Zr | ジルコニウム | 4d25s2 |
Nb | ニオブ | 4d45s |
Mo | モリブデン | 4d55s |
Tc | テクネチウム | 4d55s2 |
Ru | ルテニウム | 4d75s |
Rh | ロジウム | 4d85s |
Pd | パラジウム | 4d10 |
Ag | 銀 | 4d105s |
Cd | カドミウム | 4d105s2 |
第三遷移元素は、ランタンから水銀までの元素を言う。 第四遷移元素は、アクチニウムからローレンシウムまでの元素を言う。
[編集] 特徴
- 単体では金属である。
- 金属結合に供給する電子数が多いため、単体では一般に高い融点と固さを有する。
- 常磁性を示すものも多い。鉄、コバルト、ニッケルのように強磁性を示すものも存在する。
- 化合物や、水和イオンが色を呈するものが多い。
- 種々の配位子と錯体を形成することができ、触媒として有用なものも多い。
[編集] 電気伝導性
遷移金属とも呼ばれるように、遷移元素は単体では良導体であるが、酸化物になると配位数や格子間距離などに応じて、様々な電気的特性を示す。
例えば、PrNiO3やNdNiO3は低温では絶縁体であるが、 室温になると金属になる。これらは典型的なモット絶縁体であり、低温では価電子が Niサイトに局在している。しかし、温度が上昇すると Pr、Ndのイオン半径が増加するため、結晶構造に歪みが生じる。 これにより、Niサイトに局在していた電子が波動性を回復して結晶全体に広がり、金属に転移する。