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イーゴリ・ストラヴィンスキー - Wikipedia

イーゴリ・ストラヴィンスキー

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

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イーゴリ・フョドロヴィチ・ストラヴィンスキーIgor Fyodorovitch Stravinsky/И́горь Фёдорович Страви́нский, 1882年6月17日 - 1971年4月6日)は、ロシア作曲家で、初期の三作品、『火の鳥 』(L'Oiseau de feu, 1910)、『ペトルーシュカ』(Petrushka, 1911)、『春の祭典』(Le sacre du printemps, 1913)でとくに知られる他、指揮者ピアニストとしても活動した。ペテルブルク近郊のオラニエンバウム(現・ロモノソフ)に生れ、ニューヨークで没した。

И́горьは「イーゴル」「イーゴリ」「イゴール」など様々に記されるが、「イーゴリ」が最も近い様である。

目次

[編集] 略歴

フョードルはペテルブルク・マリインスキー劇場のバス歌手で、家には図書館並みの20万冊もの蔵書を持っていた。イーゴリは法律を学ぶ為に大学に入った。しかし在学中に作曲家となる意思を固める。

  • 1902年 - 1908年(20歳-26歳)- 大学で知り合った息子の仲介によりリムスキー=コルサコフに作曲法と管弦楽法を学ぶ。
  • 1906年(24歳)- 従妹エカチェリーナ・ノセンコと結婚。翌年息子テオドール、翌々年娘リュドミラを授かる。
  • 1908年(26歳)- 自作曲『幻想的スケルツォ』と『花火』が初演され、ロシア・バレエ団の主宰者セルゲイ・ディアギレフに認められる。『花火』はもともとリムスキー=コルサコフの娘の結婚祝いに書いたものであった。
  • 1910年(28歳)- ロシア・バレエ団の為の第1作『火の鳥』がパリのオペラ座で初演し、大成功を収める。
  • 1911年(29歳)- 第2作『ペトルーシュカ』が委嘱され、これも成功を収める。
  • 1913年(31歳)- 第3作『春の祭典』がパリで初演され、楽壇をセンセーショナルな賛否両論の渦に巻き込む。これら3作によってストラヴィンスキーは若手の革命児として名を刻まれる事になった。
  • 1914年(32歳)- 第一次世界大戦勃発とともにスイスに居を定める。
  • 1917年(35歳)- ロシアの十月革命により故国の土地は革命政府に没収される。
  • 1920年(38歳)- この年から1950年までは、彼の新古典主義の時代といわれ、バロック音楽への回帰の時期である。この年パリで初演した『プルチネルラ』を始めとして、『きつね』、『結婚』、『八重奏曲』、『詩篇交響曲』、『ダンバートン・オークス協奏曲』などがこの時期の作品である。
  • 1938年(56歳)- 長女を結核で失い、翌年妻と母を失う。当時ナチス政府は前衛的なストラヴィンスキーを快く思っていなかった。
  • 1939年(57歳)- 秋にアメリカ合衆国へ渡りハーバード大学で教鞭をとる。その後ハリウッドに住む。画家のヴェラと再婚。アメリカでは『3楽章の交響曲』、バレエ『オルフェウス』、『ミサ』、オペラ『放蕩者のなりゆき』などがこの時代の代表作である。
  • 1950年 - 1971年(68歳-89歳)- これまで否定的だった12音技法を採用して新たな創作の可能性を開く。『七重奏曲』、『エレミアの哀歌による「トレニ」』、『バリトンと室内オーケストラの為のバラード「アブラハムとイサク」』、『J.F.ケネディへの哀歌』などを作曲。
  • 1959年(77歳)- 日本を訪問。
  • 1962年(80歳)- ソ連訪問。1914年に祖国を離れて以来、最初にして最後の帰郷。
  • 1969年(87歳)- ニューヨークに転居し、その後1971年4月6日に89歳で没する。ディアギレフの眠るヴェネツィアのサン・ミケーレ島に埋葬された。

[編集] 人物

20世紀を代表する作曲家の1人として知られ、20世紀の芸術に広く影響を及ぼした音楽家の1人である。生涯に、原始主義、新古典主義セリー主義と、作風を次々に変え続けたことで知られ、「カメレオン」というあだ名をつけられるほど創作の分野は多岐にわたった。さまざまな分野で多くの名曲を残しているが、その中でも初期に作曲された3つのバレエ音楽火の鳥ペトルーシュカ春の祭典)が名高く、特に原始主義時代の代表作『春の祭典』は、音楽史上の最高傑作の1つにも数えられている。

また、オーケストラ作品ではリムスキー=コルサコフ仕込みの管弦楽法が如何なく発揮され、さらにそこから一歩踏み込んだ表現力を実現することに成功している。これらの作品によって、ベルリオーズラヴェル、師のリムスキー=コルサコフなどと並び称されるオーケストレーションの巨匠としても知られるに至っている。

彼は晩年まで「商品価値のつく個人語法、かつ同時代性を有する未聴感はなにか?」を追い求めた。ロシア革命により一時収入が不安になった苦い経験もあってか、金銭への執着はすさまじく、「原曲の著作権料がアメリカでは入ってこない」という理由のために、『火の鳥』以下3曲のバレエ音楽の改訂を行い続けた。自分の演奏が録音されるチャンスがあるとわかれば、専門技術を受けていないにもかかわらず、指揮やピアノの録音を残した。

後期は現代音楽界からやや離れた次元で、自分の為の音楽を本当に書くことができたが、この時期の音楽は現在も賛否が割れている。

彼はドイツやロシアの管弦楽に見られるような残響を毛嫌いし、どんな全奏でも必ずスタッカティシモで演奏するように要求した。『火の鳥』1945年版組曲の最終部にその特徴が顕著に現れている。

[編集] 作風

[編集] 原始主義時代

ストラヴィンスキーの作風は大きく分けて3つの時代(厳密にはデビュー当初は原始主義を標榜していない)に分けることができるが、その最初に当たるのが原始主義時代である。

この時代の主要な作品として、大規模な管弦楽のための3つのバレエ音楽火の鳥ペトルーシュカ春の祭典)が挙げられる。この原始主義時代は「火の鳥」は調性音楽だが、「ペトルーシュカ」においてはハ長調と嬰ヘ長調を並行して用いるなど複調的であり、また「春の祭典」は無調的なセクションに支配されることが多く、この三大バレエ時代をもって一つの作風でくくることには確実に無理が生じる。ただし当時において極めて斬新だった、変拍子やリズム主題の援用など多くの共通した特徴を挙げることはできる。

[編集] 新古典主義時代

バレエ音楽『プルチネルラ』から、ストラヴィンスキーは新古典主義の時代に入り、バロック音楽古典派のような簡素な作風に傾倒するようになる。この時代には「詩篇交響曲」でセリー的操作を用いていたことが後日の研究で明らかとなり、彼も最先端の音楽語法を常に見張っていたことが良くわかる。響きはブロック構造の積み上げが初期に比べてかなり簡明になっており、指揮し易い音響でもあるが、これは彼の演奏能力と照らし合わせた結果であることはいうまでもない。

[編集] セリー主義時代

第二次世界大戦後は、シェーンベルク12音技法を取り入れたといわれるが、本当はストラヴィンスキーと同じくアメリカに亡命していたクシェネックの教科書からの影響である。各楽器をソロイスティックに用いる傾向が一段と強まり、室内楽的な響きを多くのセクションで優先するために、初期の豪華な響きの光沢は全く聞かれなくなった。

ストラヴィンスキーが本当にこの時代に追求したことは音列の絡み具合ではなく、諸様式の交配で得られる一種の「Co-Style」的な感覚である。晩年にはレクイエムと題される作品も二作残しているが、その中でオケヘムのリズム法に12音を無理やり当てはめたり、楽譜が十字架を描いたりと、より個人的な作風へ化していった。国際派時代に世界中のオーケストラを指揮し倒して威圧するイメージは、もはや聞かれなくなっていたし、ストラヴィンスキー本人がそう願っていたからでもあった。「レクイエム・カンティクル」のラストではチェレスタとグロッケンのデュオに教会の鐘を想起させる模倣を行っており、晩年になってもさらに新しい音楽を求めていたことが良くわかる。

[編集] 主要作品

[編集] バレエ音楽

  • 三大バレエ
  • プルチネルラ』(Pulcinella, 1920年; 初演1920年)
  • 『結婚』(Les Noces, 1923年; 初演1923年)
  • 『ミューズの神を率いるアポロ』(Apollon Musagète, 1928年; 初演1928年、改訂1947年)
  • 『妖精の口づけ』(Le Baiser de la fée, 1928年; 初演1928年、改訂1950年)
  • 『カルタ遊び』(Jeu de Cartes, 1936年; 初演1937年)
  • 『オルフェウス』(Orpheus, 1947年; 初演1948年
  • アゴン』(Agon, 1957年; 初演1957年

[編集] バレエ以外の舞台作品

  • 夜鶯』(Le rossignol, 1907年-1914年; 初演1914年オペラ座) - 後の1917年に同作の主題を用いた交響詩が書かれている。
  • 『兵士の物語』(Histoire du Soldat, 1918年; 初演1918年
  • 『エディプス王』(Oedipus Rex, 1927年; 初演1927年、改訂1948年) - ジャン・コクトーの台本によるオペラ・オラトリオ。
  • 『放蕩者のなりゆき』(The Rake's Progress, 1951年; 初演1951年

[編集] 交響曲

[編集] 協奏曲

  • ピアノと管楽器のための協奏曲
  • カプリッチョ(ピアノと管弦楽のための)
  • ヴァイオリン協奏曲ニ長調
  • ダンバートン・オークス協奏曲
  • エボニー協奏曲
  • 弦楽のための協奏曲ニ長調(バーゼル協奏曲)
  • ムーヴメンツ(ピアノと管弦楽のための)

[編集] 管弦楽曲

[編集] ピアノ曲

  • ピアノ・ソナタ 嬰ヘ短調
  • ペトルーシュカ』からの3楽章
  • 5本の指で
  • タンゴ
  • ピアノ・ラグ・ミュージック
  • イ調のセレナード

[編集] 室内楽曲

  • 11楽器のためのラグタイム
  • 八重奏曲
  • イタリア組曲(ヴァイオリンとピアノのための)
  • イタリア組曲(チェロとピアノのための)
  • ポルカ
  • カノン

[編集] 合唱曲

  • カンタータ『星の王』
  • ミサ曲
  • クレド(使徒信経)
  • 哀歌-予言者エレミアの哀歌
  • 説教、物語と祈り
  • イントロイトゥス

[編集] 歌曲

  • 2つの歌 Op.6
  • ヴェルネールの2つの詩 Op.9
  • 戦争に行くきのこ
  • 日本の3つの抒情詩
  • 子守歌
  • ナディア・ブーランシェの誕生日のためのカノン
  • 梟と猫
  • 小さな音楽の枝

[編集] 編曲作品

  • グリーグの『コーボルト』の編曲
  • ムソルグスキーの『ホヴァ-ン・シチナ』の編曲(ラヴェルとの合作)
  • ヴォルガの舟歌
  • 星条旗
  • J.S.バッハのクリスマスの歌『高き天よりわれは来れり』によるコラール変奏曲の編曲
  • ジェズアルドのディ・ヴェノーサ400年祭のための記念碑 

[編集] ストラヴィンスキーに関する著作

  • ストラヴィンスキー『音楽とは何か』(佐藤浩訳/ダヴィッド社/1955) 大学での講義をまとめたもの。原題はPoétique musicale(音楽の詩学)。
  • 『ストラヴィンスキー自伝』(塚谷晃弘訳/全音楽譜出版社/1981)
  • ストラヴィンスキー談、ロバート・クラフト編『118の質問に答える』(吉田秀和訳/音楽之友社/1960)
  • 深井史郎『ストラヴィンスキイ』(普及書房/1933)
  • 柿沼太郎『ストラヴィンスキーの音楽と舞踊作品研究』(新興音楽出版社/1942)
  • エリク・ホワイト『ストラヴィンスキー』(柿沼太郎訳/音楽之友社/1955)
  • 宗像喜代次、河野保雄『音楽とは何か ストラヴィンスキー論』(垂水書房/1963)
  • ロベール・ショアン『ストラヴィンスキー』(遠山一行訳/白水社/1969)
  • ミシェル・フィリッポ『ストラヴィンスキー』(松本勤、丹治恒次郎訳/音楽之友社/1972)
  • 船山隆『ストラヴィンスキー 二十世紀音楽の鏡像』(音楽之友社/1985)
  • C.F.ラミュ『ストラヴィンスキーの思い出』(後藤信幸訳/泰流社/1985)
  • ヴォルフガング・デームリング『ストラヴィンスキー』(長木誠司訳/音楽之友社/1994)
  • 『作曲家別名曲解説ライブラリー25 ストラヴィンスキー』(音楽之友社/1995)
  • 遠山一行『「辺境」の音 ストラヴィンスキーと武満徹』(音楽之友社/1996)
  • ロバート・クラフト『ストラヴィンスキー友情の日々(上下巻)』(小藤隆志訳/青土社/1998)

[編集] 日本訪問

彼は1959年大阪東京NHK交響楽団を指揮するために観光を兼ねて来日、約1ヵ月ほど滞在した。

この来日の際、NHK武満徹の「弦楽のためのレクイエム」(武満の作品は、過去に評論家の山根銀二らに「音楽以前」などと酷評されていた)のテープを聴き彼を絶賛する。ストラヴィンスキーに認められたことで、武満の評価は国内外で上昇の一途を辿る。

[編集] 参考文献

  • 黛敏郎「イゴール・ストラヴィンスキー印象記」『音楽の友』1959年7月号、音楽之友社、1959年
  • 山崎浩太郎「ストラヴィンスキー来日のころ」『DVD・大阪国際フェスティバル1959』ライナーノーツ、TDKコア、2004年

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