トルコ料理
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トルコ料理(-りょうり)は、14世紀から20世紀の初めまでのオスマン帝国の支配を反映し、中央アジアからもたらされたトルコ民族の伝統料理の要素と、ギリシャ、グルジア、シリア地方の料理の要素とが混じり合って独特の発展を遂げたものである。フランス料理、中華料理とともに「世界三大料理」のひとつに数えられることもある。
トルコに限らずオスマン帝国の支配下にあった地中海東部地域の国々は、おおむね共通した料理をもっており(バルカン半島、ギリシア、レバノン、イスラエル、エジプト、チュニジアなど)、その影響は周辺のアラビア半島、北アフリカ、ロシアのみならず、近年ではトルコ系移民の多いイギリス、ドイツにまで及んでいる。
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[編集] 素材
トルコ料理に使われる代表的な野菜としてはナス、タマネギ、豆類、トマト、キュウリなどがあげられる。ブドウ、アンズ、サクランボ、メロン、イチジク、レモンなどの果物、ピスタチオ、マツの実、アーモンド、クルミ、ヘーゼルナッツなどの種実類もよく使われる。
香辛料はコショウ、コリアンダー、クミン、パプリカなどであるが、それほど多くは使われない。ミント、イノンド、イタリアンパセリなどのハーブも好まれる。その他、オリーブオイル、ヨーグルトなども調味料のように用いる。
肉はイスラム教国であるため豚肉はほとんど用いられないことはもちろん、気候が肉牛の飼育に適さないため牛肉もあまり使われず、もっぱらヒツジやニワトリの肉が使われる。
穀類は小麦、米をいずれも使い、米はもっぱらピラヴに調理して食べる。小麦はエクメッキ (Ekmek、パン)やピデ(Pide、ピザに似ている)、マントゥ(Mantı、挽肉を詰めた小籠包のようなもの)、スィミット(Simit、ゴマ入りパン)、ブルグール(bulgur)など様々に加工される。
[編集] 料理
ヒツジやニワトリの肉を使った焼肉料理はケバブ kebap と言い、串焼きにしたシシュケバブ Şiş Kebabı、ヨーグルトを添えて食べるイスケンデルケバブ İskender Kebabıなどが有名である。日本でバーベキューなどで作る長串に刺した料理全般をシシカバブと呼ぶのはこれらの名前に由来する。 屑肉を固まりにし、回転させながら焼いたものを削ぎ切りしたドネルケバブ Döner Kabapは近年トルコ移民によってドイツなどヨーロッパに伝えられて身近なファーストフードとなり、1990年代の後半からは日本でも屋台が見られるようになり始めた。ケバブに対し、挽肉を使ったハンバーグのような料理は、キョフテ(köfte)という。
このほか、街角の料理屋(ロカンタ、lokanta)で出される定番メニューは、鶏がらの出汁をとったスープ(チョルバ、çorba)、米をバターで炒めてから肉の出汁で炊いたピラヴ(pilav)、肉や野菜、タマゴを使った様々な煮込み料理などである。ロカンタでは、パンは無料で食べ放題である。
飲食店に限らずトルコでは店舗の開店が遅いが、ビョレク(börek、おかずパイ)屋は一般に、朝食に間に合うように早朝に開店する場合が多い。また、一部のパン屋も早朝からイートイン形式で朝食を提供している場合もある。
海に近い地域では魚もよく食べられ、ハムスィ(hamsi、イワシの一種)やイスタンブールのサバのサンドイッチが有名である。黒海沿岸には、ハムスィ入りのバクラヴァを作る地域もある。
[編集] コース料理
コース料理では、メゼ(meze)と呼ばれる前菜として、オリーブの塩漬け、チーズなどの乳製品や、エズメ(ezme、野菜や豆などのペースト)、ドルマ(ブドウの葉やピーマンなどに米や肉を詰めた料理)、ビョレク (börek、小麦の皮にチーズなどを巻いて揚げた、春巻やパイのような料理)などが加えられる。数種の前菜をつまみながらラクを飲むことも多い。
デザート・菓子にも豊富な種類があり、バクラヴァ(ハチミツ漬けのナッツのパイ)、ストラッチ(Sütlaç、ライスプディング)、ロクム(Lokum、「ぎゅうひ」の類)、ヘルヴァ(小麦粉やセモリナを使った菓子)などが代表的なものである。ドンドゥルマと呼ばれるアイスクリームは、混ぜられているサレップ(salep)というランの仲間の球根の粉末の効果で、非常によく伸びる。
[編集] 飲み物
トルコはムスリム(イスラム教徒)が国民の99%を占めるが、飲酒はほとんど自由に行われており、ワインやビールは数多くの国産銘柄がある。水で割ると白く濁ることで知られている酒のラク(rakı、アニスで香りがつけられた蒸留酒の一種)は、中東のアラブ人の酒「アラック‘Araq」がトルコに伝わったものである。
紅茶(チャーイ、Çay)やコーヒー(カフヴェ、Kahve)は食後にデザートと一緒に飲んだり、仕事中に一休みするとき、交渉事をするときなど、日常の様々な場面でよく飲まれる。紅茶は蒸して濃く煮出した茶を湯で薄める入れ方が伝統的である。入れるのにはサモワールの一種が使われ、ガラス製の小さなカップに注ぎ、角砂糖を混ぜて飲む。トルコ語で茶を意味するチャイという言葉は、東南アジアから中東まで広い地域で茶を指すチャーイと同じ言葉だが、もともとは茶類を意味する普通名詞であり、例えばインドのチャーイとは名前は同じでも入れ方はまったく異なる。
コーヒーは小さな専用の鍋にコーヒー粉末と砂糖を入れ、直接火にかけて煮出す煎れ方が伝統的である。このような入れ方はバルカン半島から中東まで各地でみられるものだが、欧米や日本では「トルココーヒー」と呼ばれて知られている。飲み終わったカップの底の残滓を模様に見立て、模様から飲んだ人の運勢を占う「コーヒー占い」がある。
[編集] 参考文献
- Algar, Ayla Esen. Classical Turkish Cooking. Harper Collins, New York, 1991.