未成年者飲酒禁止法
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通称・略称 | なし |
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法令番号 | 大正11年3月30日法律20号 |
効力 | 現行法 |
種類 | |
主な内容 | 未成年者に対する飲酒禁止 |
関連法令 | 未成年者喫煙禁止法、酒税法 |
条文リンク | 総務省法令データ提供システム |
未成年者飲酒禁止法(みせいねんしゃいんしゅきんしほう)は未成年者の飲酒の禁止に関する日本の法律である。
目次 |
[編集] 概説
この法律は、満20歳未満の者の飲酒を禁止する(1条)。また親権者やその他の監督者、酒類を販売・供与した営業者に罰則を科す。 1922年(大正11年)3月30日に制定され、1947年に改定された後、長らく改定がなかった。しかし、未成年者の飲酒は、喫煙とならんで、青少年の非行の温床にになるという懸念などを背景に、その取締りを強化するために、1999年(平成11年)、2000年(平成12年)、2001年平成13年に、相次いで改定された。全4条からなる法律である。
[編集] 条文
- 1条
- 2条
- 3条
- 4条
- 酒類を未成年者に販売・供与した営業者の経営組織の代表者や営業者の代理人、使用人、業務委託先・偽装請負などで従事している従業者が、その業務上酒類を未成年者に販売・供与した場合には、行為者とともに営業者を罰する(両罰規定)。
[編集] 罰則
本法は、未成年者の飲酒を禁止し、未成年者自身の飲用目的での販売・供与を禁止しているだけであり、未成年者が酒類を所有・所持・使用することを禁止していない。 本法には、違反行為をした未成年者本人を処罰する規定が無いので未成年者本人は刑事処分されない。
未成年者の飲酒を知りつつも制止しなかった親権者やその他の監督者は、科料を処せられ、酒類を販売・供与した営業者とその関係人は、50万円以下の罰金に処せられる。
営業者などに対する罰金額は、長らく低額のままであったが、2000年(平成12年)に制定された「未成年者喫煙禁止法及び未成年者飲酒禁止法の一部を改正する法律」(平成12年法律第134号) によって、その最高額が50万円に引き上げられた。
[編集] 少年法との関係
少なくとも飲酒する様な悪いことをしているのだから、家庭裁判所で少年審判に付されるかと思えば、少年法(昭和23年7月15日法律第168号)第3条で審判に付される少年は、次のように定められている。
- 罪を犯した少年
- 14歳に満たないで刑罰法令に触れる行為をした少年
- 次に掲げる事由があつて、その性格又は環境に照して、将来、罪を犯し、又は刑罰法令に触れる行為をする虞のある少年
- イ 保護者の正当な監督に服しない性癖のあること。
- ロ 正当の理由がなく家屋に寄り附かないこと。
- ハ 犯罪性のある人若しくは不道徳な人と交際し、又はいかがわしい場所に出入すること。
- ニ 自己又は他人の徳性を害する行為をする性癖のあること。
本法は未成年者本人も罰せられる刑罰法令ではなく、当然、罪も犯していない(第1号・第2号)。ただ単純に飲酒したからといって、家出(第3号イ・ロ)、暴走族や暴力団へ加入(第3号イ・ハ)、売春(第3号ニ)と直結するはずもなく、大麻・覚醒剤等の濫用や密売のように重大性がない限り、本法違反のみで審判に付すことはほとんど困難である。
少年法第24条の2には没収の規定があるものの、没収するものはすべて刑罰法令に触れる行為に付随したものを、調査又は審判での決定時に併せて没収するため、本法は未成年者本人に適用がある刑罰法令ではないので、少年審判では、家庭裁判所が酒類・器具を没収することはできない。
[編集] 行政処分
未成年者が飲用する目的で所有・所持する酒類や器具などは、没収や廃棄などの行政処分を受けると規定されているが、現在、それに対応して処分をする行政庁や、具体的な方法に関する法令が存在しない。また処分をするにしても次のような問題がある。
- 未成年者は制限能力者なので親権者か未成年後見人がその処分の法定代理人として参加しなければならない。
- 処分庁はその未成年者に対して行政手続法第13条2号による文書による「弁明の機会の付与」とその処分の理由を提示する必要がある。
- 事件発覚からその行政処分の最終的な確定(裁判であれば確定判決まで)後、その処分庁が権限を行使するまでの間に、所有・所持する酒類や器具などを差押などの保全の権限などが存在していないために、未成年者本人や家族の手で勝手に酒類・器具を廃棄することができてしまう。
[編集] 酒類の定義
本法には、『酒類』という言葉が出てくるが、その酒類について具体的な定義がない。
なお、酒税法第3条では、アルコール分1度以上の飲料と粉末を溶かしてアルコール分1度以上になる粉末酒とあるために、みりんや、燃焼用・消毒用アルコールや化粧水も含まれるが、製造用に使用されるアルコール度数90度以上ものはアルコール事業法により規制されるために酒類にならないということになってしまう。
[編集] 営業者の定義
本法には『営業者』という呼称が出てくるものの、その営業者について具体的定義がない。
営業者とあるからには、株式会社のように営利を目的とした業者であって学校法人や公益法人などの非営利事業を含まないことを指すのか、経営組織や目的を問わず酒類等の販売業を営んでいる者であって、業としてではなく、個人的に少量を気が向いたとき売買した者は含めないことを指すのか、それとも酒税法の酒類販売業の免許を受けた者を指すのか、様々な解釈ができてしまう状況である。
[編集] 職務上の使用
そもそも、法令で酒類を飲用又は使用若しくは取扱等を、業務上及び職務上行う者が、成年者であることを必要とする直接的な規定は存在していない。しかし、官公庁や業界団体によるボイコットによる結果、法律上は可能であるのに就業が不可能となっている職業が存在するに至っている。
就業不能の職業は、次の通りである。ただし、その職業又は資格に理論上最短で従事又は取得できる年齢誕生日が学校等の卒業又は修了後にがある場合や4月1日である者のいるため、4月1日現在の満年齢で表示する。
[編集] 就業不能職業
[編集] 中学校卒業
中学校卒業後で可能
[編集] 中学校卒業以後
- 准看護師 中学校卒業後2年の養成機関卒業で可能(16歳)
- 調理師 2年以上の実務経験(16歳)
- 製菓衛生師 養成施設で1年以上(15歳)又は実務経験2年以上(16歳)
- ふぐ調理師 調理師免許を持ち2年以上の実務経験(16歳)
- 食品衛生責任者 17歳以上
- あん摩マッサージ指圧師 学校(盲学校等)若しくは養成施設で3年以上の視覚障害者(17歳)
[編集] 在学に注意を要する学校
[編集] 年齢確認
関係省庁や業界団体などでは、酒類販売時に年齢確認を行うのはあたかも義務であるかのよう表現をポスターやチラシに掲載しているが、本法第1条第4項は、『営業者ニシテ其ノ業態上酒類ヲ販売又ハ供与スル者ハ満二十年ニ至ラザル者ノ飲酒ノ防止ニ資スル為年齢ノ確認其ノ他ノ必要ナル措置ヲ講ズルモノトス』と、訓示規定である。
法律用語で「義務」を課す場合には「○○スへシ」、「○○為スへシ」と「べし」と文末がなるが、「モノトス」では、義務を課すものではなくそれらを訓示する意味である。
[編集] 未成年者への販売・供与
本法は営業者による未成年者への酒類の販売・供与は、営業者が未成年者の飲用目的で使用することを知っている場合に禁止しているのであって、一律に未成年者への酒類の販売・供与を禁止しているものではない。
根拠とされる第1条第3項ではあくまで営業者であって業態上酒類を販売する者が(個人取引や非営業者は対象外)、未成年者自ら飲酒することを知った上で販売することを要件としており、営業者たる販売者が、未成年者が医療・調理用に購入したり、自身が成年に達した時点以降に飲むことを前提とした(引渡し時にはすでに成年に達している)予約注文をしたり、成年者のために代理購入をしたり、他の未成年の酒類販売者(酒類販売業免許は未成年者でも取得できる)に酒類卸売業者が卸売販売しても本条に抵触しない。
[編集] 関係省庁・関係団体の対応
本法の所管庁は一応、国税庁とされるものの、青少年の保健・保護育成など観点を含めると厚生労働省や内閣府など多数の関係省庁や都道府県、さらに担当する内部部局が縦横無尽に存在しているが、本法の実施に関して主務官庁は定まっていない。業界団体についても、目的は同一でも所管庁や設立の根拠法が異なるため、統一的団体が結成不可能であるため、未成年者の飲酒禁止に関するポスターやチラシ、書籍について、必ず2~100の多数の官公庁・団体名・部局名が掲載されるのはこのためである。
そのため、政府や業界団体の見解・解釈の統一化が現実的に不可能であったために、本法自体の仕組みについての広報は一切行われず、未成年者への販売はしない、未成年者への酒類の販売は法律で禁止されている旨のみの発表しか行われていないために、本法が未成年者への酒類の一律禁止であるとの印象を与えるような結果を招くような、嘘ではないが真実ではない報道発表を繰り返している状況である。
2006年現在、酒類小売業者や各業界団体は、全部が「直ちに自ら飲酒するための購入」と一律にみなして未成年者への酒類(みりん・料理酒、医薬品を含む)の販売に応じていない。自ら飲酒しようとするために、成年者の代理や非飲用などと偽って購入を企む不良未成年者の存在も否定できないものの、中学校卒業でなることができる調理師や准看護師は、調理や医療に必ず酒類を必要とするため、未成年で免許取得した後も成年になるまで通常業務に就けない状態となっている。
[編集] 批判
なお、日本では未成年者喫煙禁止法ともども破られがちである。大学生は成年・未成年を外見で区別するのが難しく、また新歓コンパなどで酒に慣れ親しむ者も多いため、この年齢層の取り締まりは困難を極めている。2003年に法律の罰則が強化され、酒類を販売する店には必ず未成年者の飲酒を禁止し、販売できない旨を掲示するなどの事が義務付けられたが、それに関わらず状況はなんら変わっていないということもあり、ザル法であるという指摘がある。また、アルコール飲料メーカーは10代をターゲットにした広告を流しているという見方もある。
また諸外国ではドイツ・イギリス・フランス・スペイン・オランダ・イタリア・ベルギーなどでは16歳以上、タイ・スリランカ・スウェーデン・ノルウェー・ハンガリー・チェコ・フィンランド・ブラジル・ペルー・コロンビア・アルゼンチン・南アフリカ・モロッコなどでは18歳以上で、カナダでは19歳以上で法的に飲酒可能である[1]。
未成年者の身体への影響はあるものの、未成年者である18歳や19歳の身体と成年である20歳の身体では差がほとんど無い。また20歳以上でも毎日大量に酒を飲んでいれば健康を損なう可能性が高くなる。
一方において、飲酒は飲酒運転事故や妊婦の胎児性アルコール障害、アルコール依存症、数々の犯罪の原因ともなりうる。現在は、かつてないほどアルコール消費量が多く、24時間いつでも入手可能である。したがって、20歳以上であっても健康被害や社会的被害が後を絶たないため、一層の規制が必要と考えられる反対意見もある。