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朱元璋

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

皇帝
姓名 朱元璋
年号 洪武
廟号 太祖
-
諡号 開天行道肇紀立極大聖至神仁文義武俊德成功高皇帝
生没年 1328年-1398年
在位 1368年-1398年

朱元璋しゅげんしょう1328年10月21日1398年6月24日、在位1368年 - 1398年)は、中国朝の創始者かつ初代皇帝廟号太祖諡号開天行道肇紀立極大聖至神仁文義武俊德成功高皇帝。その治世の年号を取って、洪武帝と呼ばれる。

また、生まれた頃の名は、朱重八(しゅじゅうはち)といい、後に朱興宗(しゅこうそう)と改名し、紅巾軍に参加する頃にさらに朱元璋と改名し、字を国瑞(こくずい)とした。

朱元璋の肖像画。ここでは温和な有徳者として描かれている。
朱元璋の肖像画。ここでは温和な有徳者として描かれている。

目次

[編集] 紅巾の乱

末に貧農の家の末子に生まれる。伝承によると母親は夢の中で仙人から赤い玉を授かって妊娠し、朱元璋が生まれると家全体が赤く光り輝き、近所の人々が火事であると勘違いして家の周りに集まってきたという。従兄弟も含めて八番目の子であったため、重八と名づけられる。元末の政治混乱に伴い飢饉凶作が頻発しており、朱元璋の家族は食べるものも無く飢え死にした(流行病で家族を失った説もある)。朱元璋だけは皇覚寺という寺に身を寄せ托鉢僧となり、淮河流域で勧進の旅を続けながら辛うじて生き延びたが、ほとんど乞食同然の生活であった。中国はもとより全世界の帝王・王朝創始者の中でも最も悲惨な境遇から身を起こした人物といわれる所以である。1351年(元・至正十一年)白蓮教徒の集団が各地で反乱をおこし紅巾の乱が勃発した。この大乱により皇覚寺は焼け落ちてしまった。朱元璋は自分の将来を占ってみたところ、紅巾軍に参加することが大吉であると出たため、韓林児を教祖とする東系紅巾軍の一派として濠州で挙兵していた郭子興のもとに身を投じたという。朱元璋は郭子興の下で頭角を現し、養女の馬氏を妻に貰った。これが後の馬皇后である。 朱元璋が郭子興の軍に参加した時、最初は間諜と間違われ、殺されそうになったが、面構えが郭子興に気に入られて、幕下に入ったと言う逸話がある。それぐらい朱元璋の人相が悪かったと言う事もあるだろう。 朱元璋は他の造反軍がただ食料欲しさの目の前の事しか考えない行動に比べ、大略を持った先のことを考えた行動をとった。自分の出自を逆に活かし、貧民の味方と言う立場を打ち出し、元軍の中の徴兵された農民達を取り込む事によって朱元璋の勢力は増していった。

この時期、のちに功臣第一となる徐達や勇猛で知られる常遇春や後の謀臣李善長と出会った。朱元璋は李善長から「乱れた天下を治めるのは貴方である。そのためには同じ農民出身の劉邦の真似をすれば良い」と言われた。これ以降朱元璋の行動は劉邦を意識したものが多くなる。朱元璋が皇帝になる野望を本当に抱き始めたのはこの頃からだろう。

[編集] 江南の統一

1355年に郭子興が死ぬと彼の軍は息子の郭天叙、郭子興の妻の弟、張天祐、そして朱元璋の三名に受け継がれた。しかし郭天叙と張天祐の二人は、元軍との戦いで戦死したため(朱元璋による陰謀との説もある)、朱元璋はそれらの軍を吸収し 1356年(至正16年)、集慶路(現在の南京)を占領し、応天府と改める。応天府を占領した朱元璋は長江下流の一大勢力となった。朱元璋の名声を大いに高まり各地から劉基宋濂ら名望家がやってくるようになった。

そのころ長江上流では西系紅巾よりのし上がってきた陳友諒が大漢国をうち立て、湖北から江西の一帯を支配していた。また非紅巾勢力の張士誠も蘇州を本拠に大勢力を築いていた。朱元璋を含めたこの三勢力で当時、中国で最も豊であるといわれた江南の覇権を争うことになった。1360年、陳友諒は大軍を率いて応天府の目と鼻の先まで進軍し陣を敷いた。そのうえで張士誠に使者を送り共に朱元璋を挟み撃ちにするよう促した。応天府では投降、首都放棄を主張する者まであらわれるほど混乱したが、劉基が「陳友諒との決戦あるのみ」を主張し、部下の偽りの降伏によって陳友諒の軍を竜湾に引きずり出し勝利することができた。1363年3月、陳友諒は前回の敗北を挽回すべく60万を号する大水軍を率いて南昌を攻撃した、7月朱元璋も水軍を率いて迎え撃った。3日にわたる激戦の後、劉基の献策した火薬を用いた火計があたり、漢の水軍の殲滅に成功し陳友諒自身も戦死した。翌年に陳友諒の後を継いだ陳理が降伏し大漢国を滅ぼした。 1364年、朱元璋は呉王を名乗った。同じころ張士誠も呉王を名乗っており、両者は江南の覇権をかけて激突した。朱元璋は張士誠側の要地を一つ一つ確実に落としていった。1366年に朱元璋は韓林児を応天府に呼び寄せたが、その途中、韓林児は水死してしまった。これを機会に朱元璋は方針を大きく転換し白蓮教と縁を切り、逆に邪教として弾圧するようになった。翌、1367年(至正二十七年)11ヶ月にもおよぶ包囲の末に蘇州に拠る張士誠を討ち、淮南、江南を統一した。 1368年正月、応天府(現在の南京)にて朱元璋は即位し、元号を洪武とし、国号を大明とした。

[編集] 中国統一

太祖は元が内紛を生じたのを好機と捉え、20万を越える大軍を竹馬の友である徐達に授け北伐を行わせた。当時元軍の主力であるココ・テムルの軍は陝西で李思斉の軍と交戦中であり、中原の防備は手薄であった。北伐軍は快調に進撃し、山東、河南を次々に平定した。元の順帝は抵抗を諦め首都大都を放棄して北方へ逃走したため、明軍は抵抗を受けることもなく同年の八月に大都を占領し北平府と改称した。元はモンゴルへ撤退し北元となった。1371年(洪武4年)に紅巾の残党である四川の大夏国を滅ぼし、1381年(洪武14年)には段氏の雲南を平定し中国を統一した。また北元を討つためモンゴルへ繰り返し出兵し元の残党の多くを降らせることに成功し、1387年の遠征で北元最後の主力であったマンジュリア軍団を討ち北元をほぼ壊滅させた。

[編集] 即位後の政策

晩年の洪武帝の肖像画
晩年の洪武帝の肖像画

洪武帝は重農政策を打ち出し、大商人を弾圧して、大商人や大地主の財産を没収、荒地の開拓地への強制移住などを行った。また、貨幣流通の掌握のために銀山の官有や銅銭紙幣の発行、民間におけるの通貨としての使用を禁じた。一方で1380年には不当な商税を廃して、生活必需品を扱うような零細な商人の保護も行っている。

そして文字の獄と呼ばれる大弾圧を行った。光や禿などの字を使っただけで洪武帝が昔僧侶であった事をあてこすったと言われ殺され、洪武帝が盗賊まがいのことをしていたので盗の字と同音の道の字を使った者がそれだけで殺された。文人たちは戦々恐々とし、洪武帝から離れようとしたがそれも許されず、文才のある者は官吏として半強制的に登用された。官吏を選抜するための科挙は極めて難しい試験を課され、及第するためには何年も勉強しなければならなかったが、明の時代に試験の難易度が下がり、定型文を暗記するだけでよくなった。これらの要素により明の官吏の意識は低下し、事なかれ主義に走り、朝廷で目立つ行動を取る事を恐れるようになった。

また独裁権力の確立を目指し中書省を廃止。また六部、軍を皇帝直属とし、宦官の専横を抑えるために宦官は学問をしてはならないと言う布告を出した。

その一方、重農政策の元に1371年には地方官の治績の評価に流民の定着と農地回復の度合いを加え、1381年に全国一斉に魚鱗図冊(土地台帳)、賦役黄冊(戸籍台帳)を作り、里甲制衛所制を実施した。1394年には工部の官吏と国子監の学生を総動員して治水事業を一斉に行い、全国で49,007ヶ所の堤防を修繕したという。

[編集] 粛清

醜悪な朱元璋の肖像画(実態に近いといわれる)
醜悪な朱元璋の肖像画(実態に近いといわれる)

洪武帝は自分が老いてくるに従い後の心配をするようになった。皇太子に選ばれたのは長男の朱標であったが、この皇太子は優しい性格で、洪武帝から見るとあまりにも甘すぎると感じられた。

この後継者の事を心配した洪武帝は1380年(洪武13年)、功臣・中書左丞相胡惟庸の疑獄事件をきっかけとしてそれまでの功臣の大粛清を始めた。これは胡惟庸の獄と呼ばれ、胡惟庸らの誅殺により一旦は終結したものの、十年後の1390年(洪武23年)、再び蒸し返される。自分の寿命が近づいた事を覚悟していたのか、前回の物よりもはるかに激しくなり3万を越える人数が誅殺された。

これでやっと粛清の嵐も収まったかと思った1392年(洪武25年)、皇太子が早世した。洪武帝は皇太子の子の朱允を皇太孫としたが、幼い後継者に変わり、更に心配に成り、またしても粛清を始めた。

洪武帝は死の間際まで功臣を殺し続け、1398年、崩御する。

[編集] 宗室

[編集] 父母

  • 父 朱世珍(元の名は朱五四、後に仁祖淳皇帝とされる)
  • 母 陳氏(後に淳皇后とされる)

[編集] 后妃

  • 皇后 孝慈高皇后馬氏
  • 成穆貴妃
  • 淑妃
  • 寧妃

[編集]

  • 長男 朱標、後の懿文太子、母は馬皇后
  • 次男 朱樉(木へんに爽 zh:朱樉)、後の秦愍王、母は馬皇后
  • 三男 朱棡、後の晋恭王、母は馬皇后
  • 四男 朱棣、後の燕王、永楽帝、母は馬皇后
  • 五男 朱橚(木へんに粛 zh:朱橚)、後の周定王、母は馬皇后
  • 六男 朱楨、後の楚昭王、母は胡充妃
  • 七男 朱榑、後の斉王(永楽年間に廃されて庶人となる)、母は達定妃
  • 八男 朱梓、後の潭王(洪武年間自焚死)、母は達定妃
  • 九男 朱杞、後の趙王(幼殤)、母は不明
  • 十男 朱檀、後の魯荒王、母は郭寧妃
  • 十一男 朱椿、後の蜀献王、母は郭惠妃
  • 十二男 朱柏、後の湘献王、母は胡順妃
  • 十三男 朱桂、後の代簡王、母は郭惠妃
  • 十四男 朱柍(木へんに央)、後の粛庄王、母は郜氏
  • 十五男 朱植、後の遼簡王、母は韓妃
  • 十六男 朱栴、後の慶靖王、母は余妃
  • 十七男 朱権、後の寧献王、母は楊妃
  • 十八男 朱楩、後の岷庄王、母は周妃
  • 十九男 朱橞(木へんに惠)、後の谷王(永楽年間に廃されて庶人となる)、母は郭惠妃
  • 二十男 朱松、後の韓憲王、母は周妃
  • 二十一男 朱模、後の瀋簡王、母は趙貴妃
  • 二十二男 朱楹、後の安惠王、母は不明
  • 二十三男 朱桱、後の唐定王、母は李賢妃
  • 二十四男 朱棟、後の郢靖王、母は劉惠妃
  • 二十五男 朱イ(イは木へんに彝)、後の伊暦王、母は葛麗妃
  • 二十六男 朱楠、母は不明

[編集]

  • 臨安公主
  • 寧国公主
  • 崇寧公主
  • 安慶公主
  • 汝寧公主
  • 懐慶公主
  • 大名公主
  • 福清公主
  • 寿春公主
  • 十公主
  • 南康公主
  • 永嘉公主
  • 十三公主
  • 含山公主
  • 汝陽公主
  • 宝慶公主
  • 福成公主
  • 慶陽公主

[編集] 歴史的評価

洪武帝の死後、孫の朱允が即位して建文帝となる。洪武帝は孫のために万全の策を尽くしたと思ったのであろうが、翌年には靖難の変で建文帝と息子の朱棣が戦うことになる。洪武帝は家臣にはあれだけ猜疑の目を向けたが、自分の家族は全面的に信じ、大きな兵を預けたままであった(若い頃に家族を失い、孤児となった記憶から家族を強く愛し、疑わなかったのであろう)。

戦いの上手い功臣達はすでに殺し尽くされていたので建文帝軍は二流の将軍しか持たず、結局建文帝は敗死した。

現代に残っている洪武帝の肖像画には二種類ある事が知られている。一方はいかにも君子然とした温和そうな老人であり、もう一つはねじくれた顔をしたひどい人相のものである。後者が実像で、前者は画家に粉飾させたものと推察される。豊臣秀吉にも似たような話があるが、洪武帝の場合本人の二重性格を表しているようで面白い。

文字の獄のような政策は政治上の必要から行われた事もあったろうが、その基盤となったのは洪武帝の文人や商人に対する不信感、あるいは憎悪によるものでもあったであろう。少年時代の極貧生活の記憶が常に洪武帝の頭の中にあった。文人や功臣を大量に殺す一方で肉刑を禁ずる布告を出したり、治水工事を熱心に行うなど農民に対しては常に心を砕き、恤れみの心を持っていた。趙翼は朱元璋の事を「一身において聖賢、豪傑、盗賊を兼ねた才物」と評している。更に、24人の親王を要地に配し、宦官を中心とした全国的なスパイ網を形成した。

洪武帝と永楽帝が中国における皇帝の独裁を確立したと言われている。洪武帝は重農主義と民族主義を基調として国を作ったが、永楽帝に全て引っくり返され、その後の明は洪武帝の方針と永楽帝の方針の間で揺れ動く事になる。なお、近年においては洪武帝の重農主義を彼個人の性格と並んで、長年の戦乱で貨幣体系が崩壊して一時的な自然経済への回帰現象の中で発生したという側面を指摘する歴史学者もいる。

近年においては、農民出身で知識人嫌い、功臣の粛清など毛沢東との共通性が指摘されている。

[編集] 朱元璋を題材にした映画

[編集] 関連項目

[編集] 外部リンク


先代:
-
皇帝
初代:1368年 - 1398年
次代:
建文帝
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