羊をめぐる冒険
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『羊をめぐる冒険』(ひつじをめぐるぼうけん)は、村上春樹の長編小説第3作。文芸誌『群像』1982年8月号に掲載され、1982年10月に単行本化。「僕と鼠もの」シリーズの第3作。野間文芸新人賞を受賞。
村上春樹がジャズ喫茶「ピーター・キャット」をやめ、専業作家として初めて書いた小説。1981年10月に北海道取材旅行を行った後、千葉県習志野市で約4ヶ月間集中的に第一稿を書き上げた。この作品以降、書き下ろしが中心となる。
前2作(『風の歌を聴け』『1973年のピンボール』)に見られる私性・時代性を帯びた主題を残しつつも、以降の作品に見られる独自の世界観が描かれている。文体も、1つ1つの章は短いが断章のような形式はとられなくなり、中期以降の洗練されたストーリーテリングを予感させる。
一見、通過儀礼の物語であるように見えるが、主人公の困難の克服・成長などは描かれることはない。空転している、平板であるなど、物語性に問題点が指摘されるが、読者からの支持・愛着は非常に高い作品である。
「僕と鼠もの」シリーズの完結作だが、後に更なる続編(実質的に完結編)である『ダンス・ダンス・ダンス』を発表している。
2002年時点までに、単行本・文庫本を合わせて247万部が発行されている。
目次 |
[編集] 話の概要
注意 : 以降に、作品の結末など核心部分が記述されています。
1978年7月24日「僕」が誰とでも寝る女の子の葬式から帰ってくると、別れた妻が荷物の整理をしに戻って来ていた。8月のはじめ、「僕」は耳専門のモデルをしている女と親しくなる。9月、彼女は「僕」に羊をめぐる冒険が始まると予言する。「僕」が共同経営している事務所に大物右翼の「先生」から圧力がかかり、「僕」は先生の秘書からPR誌に使った写真の中の羊を探せと脅迫される。その羊は戦時中に右翼の先生に取り憑き、彼に超越的な力をもたらしたと言う。羊が写っている写真は友人の鼠から送られてきたものだった。「僕」は会社を辞め、ガール・フレンドと鼠のいる北海道へ渡る。「いるかホテル」(旧・北海道緬羊会館)に宿泊した2人は羊博士に面会し、写真の土地はかつて所有していた牧場だと聞いて十二滝町へ向かう。かつての牧場は鼠の別荘となっていたが、別荘に鼠はおらず、ガール・フレンドも突然消えてしまう。その後羊男が別荘にやって来るが、鼠や羊の事を尋ねても答えようとしなかった。やがて「僕」は「先生」の秘書が全てを理解した上で、自分を別荘に送り込んだことに気付く。ようやく鼠と再会すると、鼠は羊を呑み込んだまま、支配される前に羊を道連れに自殺をしたことを知る。別荘を去ると「先生」の秘書が待っていて、これから「彼」を手に入れると言う。秘書が別荘に着いた頃、「僕」が鼠に頼まれて仕掛けた爆破装置が爆破する。「僕」は故郷の街へ行き、鼠と過ごしたジェイズ・バーで飲んだ後、ジェイに秘書からもらった小切手を渡し、自分と鼠を共同経営者に入れて欲しいと頼む。ジェイズ・バーを出た「僕」は砂浜で生まれて初めて2時間泣いた。
[編集] 登場人物
- 僕
作中の語り手。29歳。1948年12月24日生まれ。山羊座。A型。
- 誰とでも寝る女の子
「僕」は1969年に17歳の彼女と出会い、1970年秋から1971年春まで週に一度会う。25歳で死ぬと言い、1978年7月26歳で死亡する。
- 妻
25歳。4年間の結婚生活の後、1978年6月に「僕」と離婚し家を出て、27歳のジャズ・ギタリストと暮らしている。「僕」が共同経営する事務所の事務員だった。21歳で結婚し、22歳で離婚している。
- ガール・フレンド
21歳。耳専門の広告モデル、小さな出版社のアルバイトの校正係、ささやかなクラブのコールガール。耳に特殊な力を持っている。 続編、『ダンス・ダンス・ダンス』ではキキという名前で登場する。
- ミセス・エクス
コール・ガール・クラブの経営者。赤坂に事務所を持つ。白髪のイギリス人女性。日本語が堪能。
- 相棒
30歳。「僕」と翻訳事務所を設立し、1975年からPR誌や広告関係の仕事に手を広げる。アルコール摂取量が増え続けている。「僕」が事務所を辞めると会社を解散してしまう。
- 先生
右翼の大物。1913年北海道十二滝町生まれ。1936年に羊が入り込み、夏に出獄すると右翼のトップに躍り出る。1937年中国大陸に渡って情報網と財産を築き、戦後A級戦犯となるが釈放。政権政党と広告業界を牛耳る。脳に血瘤があり、1978年春に羊が離れると意識不明になる。
- 先生の秘書
先生の第一秘書。組織のナンバー・ツー。12年前から組織で働く。30代半ば~40歳。身長175cmあまりで、余分な肉は一切付いていない。端正な顔立ちで、浅黒く日焼けしている。日系二世。スタンフォード大学卒。
- 先生の運転手
クリスチャンで神様に毎晩電話をかけている。「僕」の飼い猫を「いわし」と名付ける。
- 猫
「僕」の飼い猫。年老いた雄猫で、「僕」が北海道に行く際に運転手によって「いわし」と名づけられた。
- 鼠
29歳。「僕」の親友で、1973年黙って故郷の街を出てから多くの街を放浪している。1978年十二滝町の別荘で首吊り自殺。
- ジェイ
ジェイズ・バーのバーテンダー。中国人。ジェイと言う名前は戦後米軍基地で働いていた時に米兵がつけたあだ名。1954年に基地の仕事をやめ、近くに初代ジェイズ・バーを開店。店が落ち着いた頃に結婚するが、5年後に死別。1963年街に二代目ジェイズ・バーを開店。1974年道路拡張のために店を移転し、現在は三代目。同年、12才で飼い猫が死亡。
- 鼠の恋人
33歳。1973年に鼠が街を出て別れた。設計事務所に勤務。21歳で結婚し、22歳で離婚している。
- 羊
背中に星型の斑紋がある。
- いるかホテル支配人
羊博士の息子。頭の禿げかけた中年男。左手の小指と中指の第二関節から先がない。
- 羊博士
73歳。1905年仙台生まれ。旧士族の長男で神童。東京帝国大学農学部を首席卒業後、農林省に入省。1935年7月満州で緬羊視察に出かけ行方不明になり、羊が入り込む。日本に戻ると羊は抜け、羊博士は左遷され、農林省を辞職して北海道で羊飼いになる。いるかホテルの2階にこもっている。
- アイヌの青年
アイヌ語で「月の満ち欠け」と言う名前を持つ。目が暗く、やせている。開拓民を十二滝町に案内するとそのまま留まり、定住に奮闘した。村が発展すると緬羊の飼育に取り組み、日露戦争後は村を離れ牧場にこもって暮らした。享年62。
- 十二滝町の駅員
- 十二滝町役場畜産課の職員
- 十二滝町営緬羊飼育場の管理人
40代後半。新兵教育係の下士官のような外見。
羊の皮の衣装を頭からすっぽりかぶっている。十二滝町生まれ。戦争に行きたくなかったため隠れて暮らしている。
[編集] 他作品の影響
川本三郎との対談『対話 R・チャンドラー、あるいは都市小説について』(『ユリイカ』1982年7月号)にて、村上春樹はレイモンド・チャンドラーの小説『長いお別れ』を下敷きにしていると述べている。また、フランシス・フォード・コッポラの映画『地獄の黙示録』に着想を得たといわれている。特に、羊とカーツ大佐との類似はよく指摘される。ちなみに『地獄の黙示録』はジョゼフ・コンラッドの小説『闇の奥』を下敷きにしている。
[編集] 舞台となった地
最後の舞台となった鼠の別荘がある地は北海道美深町と推測される。
- ○アイヌ人に率いられた一行が、旭川から北へと行き、その後東へ向かったこと。
- ○主人公たちが、旭川から北へ向かう列車に乗りつぎ、塩狩峠を越え、東に走るローカル線に乗り、終点が終着駅であること。また全国三位の赤字線である事。
- ○東から西へ流れる川(ニウプ川)があり、台地があること。
などからである。 中継の地は美深町と推測され、主人公が乗ったローカル線は廃止となった国鉄美幸線、終着駅は仁宇布駅である。
[編集] 評論『同時代としてのアメリカ』
北海道取材旅行と『羊をめぐる冒険』第一稿の執筆に並行して、『海』に1981年7月から1982年7月まで連載された。『羊をめぐる冒険』の創作ノートとも取れる。
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- 第1回 - 「疲弊の中の恐怖 - スティーブン・キング」
- 第2回 - 「誇張された状況論 - ヴェトナム戦争をめぐる作品群」
- 第3回 - 「方法論としてのアナーキズム - フランシス・コッポラと『地獄の黙示録』」
- 第4回 - 「反現代であることの現代性 - ジョン・アーヴィングの小説をめぐって」
- 第5回 - 「都市小説の成立と展開 - チャンドラーとチャンドラー以降」
- 第6回 - 「用意された犠牲者の伝説 - ジム・モリスン/ザ・ドアーズ」
村上春樹 | |
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作品 | |
長編小説 : | 風の歌を聴け | 1973年のピンボール | 羊をめぐる冒険 | 世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド | ノルウェイの森 | ダンス・ダンス・ダンス | 国境の南、太陽の西 | ねじまき鳥クロニクル | スプートニクの恋人 | 海辺のカフカ | アフターダーク |
短編小説 : | パン屋再襲撃 | ファミリー・アフェア | TVピープル | トニー滝谷 | 東京奇譚集 |
随筆 : | 意味がなければスイングはない | 遠い太鼓 |
ノンフィクション : | アンダーグラウンド | 約束された場所で |
翻訳 : | キャッチャー・イン・ザ・ライ | グレート・ギャツビー | ロング・グッドバイ |
関連 | |
カテゴリ : | 村上春樹 | 小説 |