鉄道公安職員
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鉄道公安職員(てつどうこうあんしょくいん)は、司法警察権を持った旧日本国有鉄道職員。現在の鉄道警察隊の警察官の前身にあたる特別司法警察職員である。正式名称は「鉄道公安職員」だが、「鉄道公安官」と俗称されることも多かった。
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[編集] 発足までの経緯
戦前の鉄道省時代にも「鉄道司法警察官吏」という職員がいたが、駅長などの駅員や車掌の兼務であり、専任の職員は存在していなかった。
戦後、駅や列車内の治安が極度に悪化し、犯罪(旅客への暴力行為やスリなど)が横行していた。中でも朝鮮人の行動が問題視されていた。
朝鮮人は「戦勝国民」を自称し、日本人を「敗戦国民」「四等国民」と罵倒した。そして連合軍専用列車の制度に倣い、勝手に既存の車両を「朝鮮人専用列車」に仕立て上げ、中にいた日本人を実力で排除し、抵抗した日本人を袋叩きにした(その中のひとつが、直江津駅で起きた「直江津駅リンチ殺人事件」である)。
GHQや内務省では、朝鮮人を取り締まるよう何度も指令が発令され、昭和22年(1947年)からは警察官の列車警乗が実施された。
[編集] 概要
1947年(昭和22年)に、鉄道内の犯罪に対応する為に創設された。その後1949年(昭和24年)の日本国有鉄道発足に伴い、「鉄道公安職員の職務に関する法律」(昭和25年法律第241号)により鉄道公安制度が確立された。鉄道公安職員は、鉄道管理局及び主要駅に置かれた鉄道公安室に所属し、統括部署として日本国有鉄道本社の中に公安本部が置かれていた。人数はおおよそ3000人規模であった。
「鉄道公安職員の職務に関する法律」では、日本国有鉄道の施設内において公安維持の職務を掌る日本国有鉄道の役員又は職員で、法務大臣と運輸大臣が協議をして定めるところに従い、日本国有鉄道総裁の推薦に基づき運輸大臣が指名した者は、これを鉄道公安職員と称し、日本国有鉄道の列車、停車場その他輸送に直接必要な鉄道施設内における犯罪並びに日本国有鉄道の運輸業務に対する犯罪について捜査することができるとしていた。
当初司法警察職員としての権限は弱かったが、1950年(昭和25年)に定められた「鉄道公安職員の職務に関する法律」施行後は司法警察員としての権限も強化され、武器(拳銃・警棒)の携帯・令状の取得・被疑者の逮捕・証拠品の差し押さえが可能となった。しかし、現行犯人又は被疑者を逮捕した場合には、これを検察官又は警察職員に引致しなければならないとされ、留置できなかった。また、鉄道公安職員の捜査は、日本国有鉄道の列車、停車場その他輸送に直接必要な鉄道施設以外の場所においては、行うことできないとされ、司法警察権の行使もあくまでも国鉄の鉄道用地内に限られた(例えば、国鉄が経営するホテルの中で犯罪が発生したとしても、そこが鉄道用地外であれば、捜査を行なうことはできなかった。また、国鉄の管理権が及ばない綾瀬駅・和歌山市駅・姪浜駅・1984年までの枕崎駅の構内も同様である)。
身分証票は動輪紋章(蒸気機関車の動輪と桐の組み合わせ)に「鉄道公安職員手帳」の文字(全て金箔押し)入りの手帳であった。法律上は拳銃の携帯が認められていたが、混雑するターミナル駅構内や列車の中が活動の中心であり、発砲する事で他の乗客に流れ弾などの危険が及ぶことを懸念してか実際には携帯しないこともあったようである(写真や映像で確認できる限りにおいては、拳銃は携帯せず、警棒または特殊警棒のみを携帯している場合も多かったようである)。ただし、拳銃の訓練は、警察学校で行われた。
[編集] 国鉄民営化と鉄道公安職員の廃止
1987年(昭和62年)4月1日の国鉄分割民営化に伴い、鉄道公安職員はJRから離れて警察組織に組み込まれることとなった。民間企業のJR社員が司法警察権を持つのは適当ではないと考えられたからである。
大部分の公安職員は鉄道公安制度の廃止に伴う特別措置として実施された警察官採用試験(このために警察官の定員数が増加された)を受けて警察官になったが、“鉄道マンでいたい”とJRの駅員や車掌になった鉄道公安職員や退職した者も僅かながらいた。
現在、鉄道公安職員出身の警察官は鉄道警察隊だけでなく、都道府県警察の他の部署にも配属されており、交番勤務や刑事になっている者もいる。
[編集] 鉄道公安職員の教育
国鉄の教育研修機関である鉄道教習所(後に「鉄道学園」と改称)に公安科が設けられ、新規採用された職員はここで3ヶ月間の教育を受けた。
また、中堅幹部職員の養成のために中央鉄道学園に高等部公安科の課程が設けられていた。
[編集] 鉄道公安職員以外の司法警察職員
「司法警察職員等指定応急措置法」により、鉄道公安職員とは別に、日本国有鉄道の役員、駅長、駅の助役及び車掌区の長並びに日本国有鉄道の職員で旅客公衆の秩序維持又は荷物事故防止の事務を担当するもののうちから、運輸大臣が定める運輸省の職員が検事正と協議して司法警察員を指定し、日本国有鉄道の駅又は車掌区の助役及び車掌並びに日本国有鉄道の職員で旅客公衆の秩序維持又は荷物事故防止の事務を担当するもののうちから、運輸大臣が司法巡査に指定していた。この司法警察職員には、捜査権もなかった。