預金通帳
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預金通帳(よきんつうちょう)とは、金融機関が預金者に対して、預金者であることを示す証憑(しょうひょう)として、また預金の受入れ・払戻しの証拠書として交付する冊子をいう。郵便貯金、農業協同組合、漁業協同組合においては法律上「貯金」であり、「貯金通帳」と呼称する。
預金通帳は預金証書同様、あくまでそれ自体の譲渡が債権の移動を伴うものではなく、有価証券とは異なる。
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[編集] 様式
[編集] NCR2000号通帳への統一
かつては、縦書き、縦開きのものが主流であったが、自動取引装置(ATM)による機械処理に、より好適な共通規格として、現在の横書き、横開きの様式(NCR2000号通帳)に統一されるようになった。
[編集] 副印鑑表示の廃止
金融機関における預金業務のオンライン化が開始され、取引店以外における預金の払戻しが取扱われ始めて以降、預金通帳内には副印鑑(届出印と同一の印影)が表示され、取引店以外の窓口においても、副印鑑と払戻請求書にある印影とを照合して払戻請求者と預金者の同一性を確認していた。
この副印鑑を巡っては、預金通帳を窃取し、副印鑑の印影を電子的に複写して払戻請求書を偽造し、不正な支払いを受ける事件が度々発生した。
その際の金融機関の払戻しの過誤を争った預金者の訴訟が提起されるようになるが、1998年(平成10年)前後の事件までは、印影の照合に過失が無いと認められた場合には、民法第478条を適用して金融機関の免責を認める判決が主だった。しかし、副印鑑から印影を偽造する手口が知られる様になり、以後は金融機関の側に厳正な印影照合と本人確認の責任を課して、手続きに過失が認められた場合には預金復元を命じる判決が言い渡されるケースが増えた。
判例が預金者保護の方向で定着したことから、金融機関においては各店舗で管理される印鑑票の印影自体をオンライン参照するシステムへの移行を進め(もしくは払戻しの取扱い店舗を取引店に限定し)、通帳への副印鑑の表示は2000年(平成12年)前後から急速に廃止されていった。但し郵便貯金では印影のオンライン参照システムを導入せず、従来同様、通帳の副印鑑表示と目視にて照合する運用を継続している。現在、新規申込み時や通帳の再発行時、若しくは、預金者から要望があった場合のみ、副印鑑の印影をスキャナ等で取り込みにくくするための保護シールを貼付することで対応している。しかしこのシールの実用性はほとんどないので、貯金者が通帳を盗まれないようにすることが大切である。
なお、各民間金融機関とも現行の通帳においては通例、副印鑑の表示が廃止されているが、従来発行された通帳に残存した副印鑑や、共通式印鑑票の預金者控などにより印影が第三者に漏洩する可能性があり、従来の副印鑑等についても厳重な管理(または処分)が必要である。
[編集] 無通帳口座
預金通帳は預金において重要な役割を担っているが、1960年代の現金自動支払機(CD)の稼働開始以降、預金者にも銀行取引の自動化の認知と進展が進み、給与の振込化の推進(現金取扱事務の削減、銀行の預金獲得と事故抑止)と合わせ、キャッシュカードの発行と自動取引装置(ATM)による取引が一般的になった。そして生活時間帯の拡張による窓口営業時間帯以外の取引、さらには預金の入出金提携の飛躍的な進展による提携金融機関やコンビニATMなどのATM取引で、通帳を用いずに入出金がされることも多くなった。さらに、コンビニATMの全国的な進展や通信端末による銀行取引(インターネットバンキング等)の普及に伴い、通帳に記帳しようとしても利用金融機関の通帳記入が可能な拠点からは遠隔地となり、定期的な記帳が物理的に困難となる事例も出てきた(例えば青森県在住の者がイーネット・ローソンATMでの利用のために三菱東京UFJ銀行に口座を作っても、一番近い同行の記帳拠点は仙台市内または札幌市内の支店となる)。
これにより、入出金に通帳を用いない預金者、インターネットバンキング等の活用により預貯金口座の入出金明細を通帳で参照することを重視しない預金者、盗用や不正引出の懸念から通帳の発行自体を望まない預金者など、預金取引に通帳を必要としない顧客層も今日では一定数存在する。
一方、通帳は顧客において保管される媒体であり、折れ、損傷、汚損、磁気消失などは特に安定した機械処理に不具合を招きやすい。また、紙を用いた現物としての情報処理媒体であり、その入出力システムの管理は、記帳する情報の蓄積や、通帳冊子の作成、配備も含めて、金融機関側にとって一定の負担となることも事実である。
[編集] 無通帳口座の商品
そこで、顧客の利便性を損なわず、金融機関にとっての省力化を推進する形で、特典の付与と併せて通帳を省略し、キャッシュカードと通信端末、または月次報告書(ステートメント、取引レポートなどと呼ばれる)による取引専用とした普通預金(および定期預金等)口座が発売されており、以下に挙げられるような各商品がある(配列は導入のさきがけとなった外資系銀行を筆頭に、以下都市銀行・信託銀行・地域金融機関の順)。
- みずほ銀行の「みずほ銀行インターネット支店」および、「金融債総合口座」(ただし、いずれも特典を受けるにはみずほマイレージクラブへの加入が必要)
- 三菱東京UFJ銀行の「オールワンe」(現在は、新規は三菱東京UFJ銀行インターネット支店のみの扱い)…ただし、貯蓄預金口座は通帳が発行される。
- 三井住友銀行の「ワンズプラス(通帳不発行型)」
- りそな銀行および埼玉りそな銀行の「ティモ」
- 住友信託銀行の「ユアパートナー」
- 荘内銀行の「マネーライン」(ただし、無通帳式を選択した場合のみ)
- 岩手銀行の「インターネット専用口座」
- 東京都民銀行の「ハローアクセス支店」
- 新銀行東京の「ステートメント発行型口座」
- 北陸銀行の「ウェブアカウント」
- スルガ銀行の「ブックフリー」、及びネット支店預金口座(「ソフトバンク支店」・「ANA支店」・「マイ支店」など)
- 静岡銀行の「ステートメント型総合口座」
- 百五銀行の「イーポケット支店」
- 滋賀銀行の「e-CAMO(いーかも)」
- 京都銀行の「ネットダイレクト支店」
- 近畿大阪銀行の「e・eやん(ええやん)」
- 泉州銀行の「ダイレクト支店」
- 福岡銀行の「Net-One」
- 十八銀行の「デジタル出島支店」
- 労働金庫の「普通預金(無通帳型)」
加えてインターネット取引、自動機網などによって無店舗型営業を行う以下の銀行の口座も無通帳である。
どちらも時間外入出金手数料無料等の特典と併せ、通帳を必要としない顧客層に支持を得ている。一方、三井住友銀行の「ワンズプラス」において、口座手数料が不要となる通帳発行口座の条件が緩和されたほか、三菱東京UFJ銀行の特典付き口座である「メインバンク」や「オールワン」においては通帳の発行を行うなど、一般顧客が引き続き通帳の役割を重視していることをうかがわせる事例も見られる。
[編集] 郵便貯金
郵便貯金では郵便貯金総合通帳に、通常貯金、担保定額貯金及び担保定期貯金の預払いを記録する。取引毎に取扱郵便局長印が押されていたが、平成元年頃から押印が省略された。平成11年頃に通帳の様式が変わり、銀行に類似するようになった。なお、銀行では廃止されている副印鑑表示を現在も継続している。現在、新規申込み時や通帳の再発行時、若しくは、預金者から要望があった場合のみ、副印鑑の印影をスキャナ等で取り込みにくくするための保護シールを貼付している。
一般的に銀行では、ATMでの現金引出にはキャッシュカードと暗証番号が必要であり、通帳と暗証番号のみで現金を引出することはできない。しかし郵便貯金は全ての口座にて、通帳と暗証番号のみでもATMで現金引出が出来る。(事前申請がある口座のみ、通帳と暗証番号のみでもATMで現金引出が出来るようにしている銀行も一部にあるが、全ての口座が対象となっているのは郵便貯金のみである。)
通帳は種類ごとに番号が付いている。(例:チ1001)
[編集] 磁気バーの様式
通帳には磁気バー(磁気テープ)がついており、機器が口座番号を読み取るのに使用する。通帳のサイズは各金融機関でだいたい統一されている(岩手銀行のように横のサイズが広い銀行も存在する)が、磁気バーの仕様は統一されておらず、金融機関によって異なっている。同一金融機関でも三菱東京UFJ銀行は、旧東京三菱店舗の通帳と旧UFJ店舗の通帳では磁気バーの仕様が異なっている。