F4U (戦闘機)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
F4U コルセア
F4Uコルセア (F4U Corsair) は、アメリカのチャンス・ヴォートが開発し(社内呼称はV-166)、第二次世界大戦と朝鮮戦争でアメリカ海軍と海兵隊が使用したレシプロ単発単座戦闘機である。グッドイヤー製の機体はFG、ブリュースター製の機体はF3Aという制式名称が与えられた。また、AUという呼称がある攻撃機型も存在する。
目次 |
[編集] 概要
F2Aバッファロー艦上戦闘機などの後継として航空機メーカーのチャンス・ヴォートが1938年2月に開発を開始した。コルセアとは海賊の意。逆ガル翼が特徴的な機体である。
当時、戦闘機用エンジンの主流は1,000馬力以下であったが、コルセアは設計当初から2,000馬力級エンジンの搭載を予定していた。もともと海軍の要求では1000馬力級搭載であり、当時としてはかなり大胆な機体である。当時としては大きさも怪物級であり、海軍で一番大きなプロペラをつけた、海軍一重たい艦上戦闘機となった。
1940年に機体は完成したものの、F4Fの後継機としての座はF6Fヘルキャットに譲っている。失速挙動が危険・前方視界が不十分(そのため空母への着艦が難しい)・プロペラブレードが長く下手をすると着艦(着陸)時に甲板(地上)にプロペラを打ち破損する可能性がある、といったものがその原因であり、すでに艦上での実績と戦果もあるF4Fの設計改良版であるF6Fのほうが信頼性に優れるため、ということだったようである。このことから一部の意見では「空母に搭載される為の機体設計をしなかった欠陥機」との意見もある。
そのため、初期生産機はすべて海兵隊に引き渡され、陸上機として使用されている。大戦中期以降になるとこの機体は主に太平洋戦線に現れ、既に弱点を見抜かれていた日本軍機を相手に、性能・戦術で圧倒していった。この時点でも空母での運用は許可されておらず、許可されるのは結局大戦末期になってからである。
大戦末期になると空母での運用が開始され、持ち前の空戦性能を生かしての空中戦に加え、その馬力を利用した爆装も可能であり、戦闘爆撃機としての運用も行われ、硫黄島や沖縄などを攻撃している。なお、本格的に空母に搭載されるようになったのは、初の本格的な戦闘爆撃機型であるF4U-1Dからである。
F4Uはイギリスにも供与されており、こちらも大戦末期に日本近海での空母作戦に参加、一定の戦果を上げている。
大戦後は戦闘機のジェットエンジン化が進んだが、初期のジェット戦闘機は空母での使用に難があったため、戦後もF4Uの生産は続けられた。純粋な戦闘機としての任務はジェット戦闘機に譲り、レシプロ機は戦闘爆撃機として使われる事になったが、F4Uはこの目的にぴったりであり、生産は50年代まで続いた。朝鮮戦争では海兵隊所属機として開戦当初に活躍した。また、当戦争で米軍初のMiG-15ジェット戦闘機の撃墜記録をもっている。
1969年のサッカー戦争でも当機が使用され、レシプロ戦闘機が使用された最後の戦争として記録に残っている。
当機はエンジンの交換、電子ポッドの装備など、数多くの派生型が存在している。これは当機が大型であった上、馬力にもかなり余裕をもって設計されているためにできたことであり、当機の設計の優秀さを物語っている。
[編集] 名称の注意
同じF4とついている機体の、F4Fワイルドキャットとはまったく別の機体である。またこの項ではF4Uと標記しているが、F-4Uと表記する場合もある(正確な表記ではない)。これも双発ジェット戦闘機であるF-4ファントムIIとは関係ない。
海軍が使用する航空機は、開発・製造メーカーごとに型番を振る事になっている。F4Uはチャンス・ヴォート社の海軍戦闘機の4番目を意味する。同時にF4Fはグラマン社の海軍戦闘機の4番目である。確かに「F4〜」という型番の機体が同時代に複数存在すると、紛らわしいのは事実である。1950年代においても「A3〜」という型番の攻撃機が2機種存在して、混乱が生じている。結局1962年に制定された3軍統一名称制度によって、この型番の付け方は改正されている。
[編集] 仕様(F4U-1型)
諸元
- 全長: 10.16 m
- 全幅: 12.50 m
- 全高: 4.90 m
- 自重: 4,047 kg
- 最大離陸重量: 6,350 kg
- エンジン: プラット・アンド・ホイットニー製 R-2800-8「ダブルワスプ」空冷複列星型18気筒 × 1
- 出力: 2,000 hp
- 武装: 12.7mm機銃 × 6
性能
- 最高速度: 高度6,000mで670km/h
- 上昇限界: 11,300 m
- 航続距離: 1,600 km
[編集] 仕様 (F4U-4)
出典:「Jane’s Fighting Aircraft of World War II (p. 213-214), ISBN 1-85170-493-0」
諸元
- 乗員: パイロット1名
- 全長: 10.30 m
- 全幅: 12.50 m
- 全高: 4.90 m
- 翼面積: 32.5 m²
- 自重: 4,175 kg
- 運用重量: 6,350 kg
- 最大離陸重量: 6,654 kg
- エンジン: プラット&ホイットニー製 R-2800-18W「ダブルワスプ」空冷複列18気筒星型エンジン × 1
- 出力: 2,100 hp | 2,450 hp(水噴射時)
性能
- 最高速度: 717 km/h @ 高度 7,986 m (26,200 ft)
- 航続距離: 2,510 km(外部燃料タンク装備時)
- 実用上昇限度: 12,649 m (41,500 ft)
- 上昇率: 945 m/min
武装
- 固定武装:
- ブローニング 12.7mm重機関銃M2 × 6 (F4U-4)弾丸2,300発搭載
- イスパノ・スイザ 20mm機関砲 × 4 (F4U-4B or C)
- 最大搭載量:
[編集] 派生機
- V-166:当機の社内呼称
- XF4U-1:原型機呼称。XR-2800エンジン搭載
- F4U-1:R-2800-8エンジン搭載の初期生産型。海軍では使用されず海兵隊にまわされた
- F4U-1A:前方視界向上のための操縦席位置上昇と降着装置改良を施した機体
- F3A-1:ブリュースター社で製造されたF4U-1の呼称
- FG-1:グッドイヤー社で製造されたF4U-1の呼称。なお、主翼折りたたみ装置は廃止されており、陸上での使用が前提となっている
- F4U-1B:英国に供与された機体の米国内呼称(総称)
- F4U-1C:搭載機銃を20mm機関砲×4に変更したモデル。
- F4U-1D:水噴射装置付きR-2800-8Wエンジンを装備した機体。戦闘爆撃機型。空母で使用され始める。
- F3A-1D:ブリュースター社で製造されたF4U-1Dの呼称
- FG-1D:グッドイヤー社で製造されたF4U-1Dの呼称
- F4U-1P:F4U-1を改修した写真偵察機仕様
- F4U-2:機上迎撃レーダーポッドを装備した夜間戦闘機型。搭載武装が従来型よりも減少
- F4U-3:超高々度戦闘機型。原型機は戦後初飛行した
- FG-3:グッドイヤー社製機体を改造した超高々度飛行研究機の呼称
- F4U-4:R-2800-18Wまたは47Wエンジンを装備した第二期生産型
- F4U-4C:搭載機銃を20mm機関砲×4に変更したF4U-4
- F4U-4E:機上迎撃レーダーポッド(APS-4)を装備した夜間戦闘機仕様F4U-4
- F4U-4N:機上迎撃レーダーポッド(APS-5、6)を装備した夜間戦闘機仕様F4U-4
- F4U-4P:F4U-4を改修した写真偵察機型
- F4U-5:R-2800-32Wエンジンを装備した戦闘爆撃機型。第二次大戦中の最終生産型
- F4U-5N:機上迎撃レーダーポッドを装備した夜間戦闘機仕様F4U-5
- XF4U-6:R-2800-83Wエンジンを装備した低空攻撃機型の原型
- AU-1:R-2800-18Wエンジンを装備した攻撃機型。基本はXF4U-6に準拠。武装搭載量が増加している
- F4U-7:最終生産型。軍事援助計画によりフランス海軍へ供与
- Corsair Mk.I:F4U-1の英国海軍における呼称
- Corsair Mk.II:F4U-1Aの英国海軍における呼称
- Corsair Mk.III:F3A-1Dの英国海軍における呼称
- Corsair Mk.IV:FG-1Dの英国海軍における呼称
- F2G:グッドイヤー社製3,000馬力エンジン搭載、低空迎撃機。試作のみ。