すばる望遠鏡
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大型光学赤外線望遠鏡、愛称すばる望遠鏡(-ぼうえんきょう、英:Subaru Telescope)とは、アメリカ・ハワイ島のマウナ・ケア山山頂(標高4,205m)にある国立天文台の大型光学赤外線望遠鏡。1999年1月ファーストライト(試験観測開始)。建設総額は400億円。システム設計・建設のほとんどは三菱電機が請け負った。国立天文台が建設準備を進めていた当初のプロジェクト名は「日本国設大型望遠鏡」(英語名:Japan National Large Telescope, JNLT)だった。建設が始まった1991年に望遠鏡の愛称の公募が行われ「すばる」が選ばれた。
主鏡に直径8.3m、有効直径(実際に使われる部分の直径)8.2mという世界最大の一枚鏡をもつ反射望遠鏡である。主鏡はアメリカのコーニング社とコントラベス社によって、7年以上もの歳月を費やして製造された。なお、分割鏡を含めた光学赤外線望遠鏡の中で最大のものはアメリカのケックI望遠鏡およびケックII望遠鏡(それぞれ有効直径約10m)である(2006年3月現在)。
すばる望遠鏡には高度な技術が多数使われている。例えば、コンピュータで制御された261本のアクチュエータにより主鏡を裏面から押すことにより、望遠鏡を傾けた時にできる主鏡の歪みを補正し常に理想的な形に保たれている(補正光学)。また、天文台の建物そのものの形状を工夫することで空気の乱流を防ぎ星像の悪化を防いでいる。
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[編集] 性能
- 方式:光学式反射望遠鏡
- 望遠鏡
- 設置場所
- 緯度 北緯 19度49分43秒
- 経度 西経155度28分50秒
- 海抜 4139m
- 設置方式 経緯台型(altitude-azimuth)
- 望遠鏡本体
- 高さ:22.2m
- 最大幅:27.2m
- 重量:555t
- 主反射鏡
- 有効直径:8.2m
- 厚さ:20cm
- 重量:22.8t
- 素材:ULE(超低膨張ガラス)
- 平均表面研磨誤差:14nm
- 焦点距離:15m
- 焦点(観測機器を取り付ける焦点は4箇所ある)
- 主焦点F値:2.0(収差補正光学系を含む)
- カセグレン焦点F値:12.2
- ナスミス焦点F値:12.6(望遠鏡本体の左右に2つ)
- ドーム
- 望遠鏡ととも回転する円筒型エンクロージャ
- 高さ:43m
- 基本直径:40m
- 重量:2000t
- 全体はアルミニウムパネルで覆われている。
[編集] 技術的トピックス
世界最大級の一枚鏡であり、かつ、薄いガラスを用いた反射鏡の精度を維持するために、動的支持装置(Active Support)を搭載している。この支持装置は、鏡面精度を常に 100 nm (10 − 7m) の桁に保つための装置である。コンピュータで制御された261本のアクチュエータにより主鏡を裏面から支持することにより、望遠鏡の姿勢変化による主鏡の変形を0.1秒に1回の頻度で自動的に微調整している。
地球大気の乱流などもっと速い変動に起因する星像の揺れを実時間で直す装置(補償光学:Adaptive Optics)は赤外ナスミス焦点に設置されている。これにより近赤外線では回折限界(レーリーリミット)に迫る星像が得られている。2006年10月、人工星(レーザーガイド星)を使った更に高精度な補償によるファーストライト(初観測)に成功した。
特殊蒸着装置や薄膜鏡の開発研究は、将来の宇宙望遠鏡や大型望遠鏡の開発研究に向けた準備でもある。[要出典]
[編集] 観測装置
- 近赤外線分光撮像装置 IRCS(地元ハワイ大学との共同開発)
- コロナグラフ撮像装置 CIAO
- 冷却中間赤外線分光撮像装置 COMICS
- 微光天体分光撮像装置 FOCAS
- 広視野主焦点カメラ Suprime-Cam
- 高分散分光器 HDS
- 多天体近赤外分光撮像装置 MOIRCS 国立天文台及び東北大学の共同開発
これらの観測装置によって可視光から赤外線領域をカバーする観測が可能な仕組みとなっている。撮像を目的にした装置と分光観測を目的とした装置を、観測対象に応じて4つある望遠鏡焦点のいずれかに取り付けることで、広い範囲の波長をカバーする。なお、新しい観測装置は、各大学や三鷹キャンパス及びヒロ山麓施設にて開発研究が進められている(国立天文台の項を参照)。
[編集] 歴史
- 1991年 大型望遠鏡計画開始
- 1992年4月 建設開始
- 1997年4月 ハワイ島ヒロ市に国立天文台ハワイ観測所(山麓施設)開所
- 1998年10月 望遠鏡本体の組み立てが完成
- 1999年1月29日 ファーストライト(試験観測)
- 2004年10月1日 望遠鏡ドーム内への一般見学者受け入れを開始(予約制、16歳以上対象)
- 2006年10月 強い地震の影響で正常に動作しなくなる。11月に観測を再開した。
実際の開発計画の始まりは1980年代の野辺山宇宙電波観測所の建設開始時に遡る[要出典]。 科研費を用いた調査研究に数年を要し、基本計画は1980年代の終わりに完成した。 コンセプト及び基本技術要件を元にした試算によると、計画実現のための日本国民1人当りの負担額は当時の水準で喫茶店のコーヒー1.2杯分に相当するとされた。 3年以上に渡る各地での講演会や日本天文学会等での説明を経て、1991年に政府予算が認められ本計画がスタートした。なお、説明を担当したのは国立天文台の小平桂一名誉教授、海部宣男名誉教授、古在由秀名誉教授の3名である。古在名誉教授がIAU会長就任時に国際公約とし、政府予算が認められた。
大型望遠鏡及びその付帯設備のプロジェクトマネジメントが可能なメーカーを調査したところ、三菱電機、ニコン、パーキンエルマーが残ることになった。最終的に、基本設計及び開発設計は東京大学附属宇宙線研究所・東京大学附属原子核研究所・東京大学附属東京天文台にて行い、その設計資料を基に技術開発及びプロジェクトマネジメントを三菱電機が請け負った。
また、望遠鏡の名称を公募にて行ったのは、支援をした国民への感謝の気持ちからでもあった[要出典]。
[編集] すばる望遠鏡による成果
[編集] 単独観測
- 宇宙の大規模構造の元となる、フィラメント状星雲の発見。また、銀河系の10倍以上の質量を持つ、銀河団の元となる星雲を発見。
- 赤外線によって、宇宙の最遠の超新星爆発を捉える。
- 太陽系外にある微惑星のリングを捉える。
- 2005年2月 くじら座の方向に一番遠方にある銀河団を捉える。128億光年先
- 2006年5月 ガンマ線バーストの解析により、宇宙の再電離はビックバン後9億年まで遡ることを確認。
- 2006年8月 かに座の方向に日本人の発見したものとしては最遠となる127億光年離れたクエーサーを発見。
- 2006年9月かみのけ座の方向に、天体観測史上最遠となる128億8000万光年離れた銀河を発見する。
[編集] 国際連携観測
- NASAの探査機ディープ・インパクトと連携し、彗星への衝突時の光を捉える。
- なお、この観測はマウナロア山頂の望遠鏡群全体でも行った。
- ヨーロッパ南天文台でも観測を行う。
- NASA及びESAの探査機カッシーニと連携し、土星の衛星タイタンのジェット流の観測を行う。
[編集] 関連項目
[編集] 外部リンク
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