ゲド戦記
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ゲド戦記(ゲドせんき、Earthsea)は、アーシュラ・K・ル=グウィンによって英語で書かれ、1968年から2001年にかけて出版されたファンタジー小説。世界3大ファンタジーと言う人もいる。 宮崎駿が以前この作品の映画化を申し入れたが断られた事があり、近年になって映画化された作品である。
目次 |
[編集] 本書の構成
訳者は清水真砂子。邦訳は岩波書店から出版。岩波少年文庫、ハードカバー、内容は変わらないが、大人向けにデザインを変えた物語コレクション、映画化の際に発行したソフトカバーの4ヴァージョンが発売されている。
- 「影との戦い」A Wizard of Earthsea(原作1968年、邦訳1976年)
- 「こわれた腕環」The Tombs of Atuan(原作1971年、邦訳1976年)
- 「さいはての島へ」The Farthest Shore(原作1972年、邦訳1977年)
- 「帰還 -ゲド戦記最後の書-」Tehanu, The Last Book of Earthsea(原作1990年、邦訳1993年)
- 「アースシーの風」The Other Wind(原作2001年、邦訳2003年)
- 「ゲド戦記外伝」Tales from Earthsea(原作2001年、邦訳2004年)
[編集] 概要
注意 : 以降に、作品の結末など核心部分が記述されています。
太古の言葉が魔法の力を発揮する多島世界(アーキペラゴ)・アースシーを舞台とした魔法使いゲドの物語。
アースシー(のうち、主にハード語圏)では森羅万象に、神聖文字で表記される「真(まこと)の名前」が存在し、それを知る者はそれを従わせることができる。人は己の真の名をみだりに知られぬように、通り名で呼び合う。主人公を例に採れば、ゲドが真の名で、ハイタカが通り名である。
※下記では、「真の名(通り名)」と表記する。
なお邦題のシリーズ名は「ゲド戦記」となっているが、ゲドが主人公と呼べるのは実質的に第1巻のみである。 また戦記とあるが、本作では指輪物語のような戦争の描写はあまりなく、代わりに自己の許容や葛藤、心理的成長といった、内面的なテーマが主題として扱われている。 実際、原作でのシリーズ名は「Earthsea」(アースシー)であり、これらに関して、「ゲド戦記」は名前としては良いが、訳題としては適当でない、という意見がある。
余談だが、最初の邦訳版が発表された1970年代以前は、例えば「Mission:Impossible」を「スパイ大作戦」、「The Longest Day」を「史上最大の作戦」と訳するなど、邦題が原題に忠実でない作品も少なくない。
[編集] 影との戦い
第1巻は、ゲド(ハイタカ)の少年期から青年期の物語。ゲドは才気溢れる少年であったが、ライバルよりも自分が優れていることを証明しようとして、ロークの学院で禁止されていた術を使い、死者の霊と共に「影」をも呼び出してしまう。ゲドはその影に脅かされ続けるが、師アイハル(オジオン)の助言により自ら影と対峙することを選ぶ。
[編集] こわれた腕環
第2巻は、カルガド帝国が舞台。アチュアン神殿の巫女テナー(アルハ)が中心の物語。名前(自己)を奪われ、地下の神殿の闇の中で育てられてきたテナー。しかしそこに、二つに割られ奪われた「エレス・アクベの腕輪」を本来あるべき場所に戻し、世界の均衡を回復しようとする魔法使いゲドが現れる。少女の自己の回復と魂の解放の物語でもあり、ゲドとテナーの信頼、そして愛情の物語としても読める。
[編集] さいはての島へ
第3巻では、大賢人となったゲドが登場する。世界の均衡が崩れて魔法使いが次々と力を失う中、エンラッドから急を知らせて来た若き王子レバンネン(アレン)と共にその秩序回復のため、世界の果てまで旅をする。
[編集] 帰還 ―ゲド戦記最後の書―
第4巻は、ゲド壮年期の物語である。ゲドは先の旅で全ての力を失い、大賢人の地位を自ら降りて故郷の島へ帰ってきた。そこで未亡人となったテナー(ゴハ)との生活が始まり、さらに親に焼き殺されかけた所を危うく救われた少女テハヌー(テルー)が加わる。ところがかつて大賢人であったゲドと、元巫女のテナーの二人は故郷の一般の魔法使いにとっては目障りでしかなく、三人の「弱き者」たちを容赦なく悪意に満ちた暴力が襲う。魔法の力を失った後に見えて来るアースシーの世界を覆う価値観とは、一体何なのか。それを作者自らが問いかけている作品とも言える。
第3巻と4巻の間には発表までに長い間隔があり、フェミニズム色の強い4巻に戸惑う読者も少なくないようだ。また、5巻以降は「9.11」(アメリカ同時多発テロ)後の混沌としたアメリカの世界観が如実に表れている。
[編集] アースシーの風
かつてゲドと共に旅をし、アースシーの王となったレバンネン(アレン)や、ゲドの妻となったテナー、その二人の養女となったテハヌー(テルー)が物語の核となっていく。これまで正義とされていた「真の名」という魔法の原理に対し、竜や少数派である異教徒によって批判が行われ、これまで作り上げられてきたアースシーの世界観を一から壊していくような物語構造となっている。女の大賢人の可能性や世界の果てにある理想郷、また死生観への再考、長年敵対していた異教徒との和解も暗示。テハヌーと竜との関わりも明らかにされ、確実に物語の中心はゲドからレバンネン、テハヌーの世代へと移り変わってきている。
原題であるThe Other Wind に対し邦題は「新しい風」の予定であったが「新しいではない」との翻訳者および作者本人の意見を受け現在のものとなった(尚、the otherの直訳は「他の/もうひとつの」となる)。
[編集] ゲド戦記外伝
『アースシーの風』以前に発表された中短編5作品と、著者によるアースシー世界についての解説を収録。特に「トンボ」は『アースシーの風』と深いかかわりがあり、先に書かれたこちらを読むと理解が早い。
収録作品
- 「カワウソ」
- ロークの学院開設の功労者にして、初代守りの長、メドラ(カワウソ/アジサシ)の一生を通じて、学院の黎明期を描く。
- 「ダークローズとダイヤモンド」
- エシーリ(ダイヤモンド)とローズの恋物語。(ローズの方は真の名が明かされない)
- 「地の骨」
- アイハル(ダンマリ/オジオン)がヘレス(ダルス)に師事した時と、二人が協力してゴントの大地震を鎮めた時の顛末。
- 「湿原で」
- ロークから逃げ出した魔法使いイリオス(オタク)と、彼を匿った未亡人エマー(メグミ)、そしてイリオスを追ってきた大賢人ゲドの物語。
- 「トンボ」
- 『アースシーの風』の重要人物オーム・アイリアン(トンボ)の幼年期と青春時代、ロークへの旅と呼び出しの長達との対立、竜への覚醒までを描く。
- アースシー解説
- アースシーの世界観について、文化や歴史、伝説などの、作者による解説。
[編集] 登場人物
- ゲド(ハイタカ 原書ではSparrowhawk)
- アースシーの魔法使いで大賢人(最後の。ゲドが退いた後、大賢人は選出されていない)。また竜と交渉出来る者、竜王でもある。若い頃、「影」を呼び出し顔に傷を負う。アレンと共に最果ての地に赴き世界の均衡を取り戻すが、魔法の力を失う。
- アイハル(オジオン)
- ゲドの故郷である島、ゴントの魔法使い。山羊飼いだったハイタカに魔法使いの才能を見い出し、彼を魔法学院があるローク島に送り出す。
- テナー(アルハ、ゴハ)
- かつてカルガド帝国においてアチュアンの墓地の巫女をしていた女。ハイタカの活躍により、巫女アルハからテナーに戻る。 後にオジオンの庇護を受け、テルーを引き取る。「腕環のテナー」として、真の名を明らかにしている数少ない存在。
- テハヌー(テルー)
- 幼い頃、両親からの虐待により顔の右半分がケロイドになってしまった少女。竜の化身でカレシンの娘と言われる。
- レバンネン(アレン)
- エンラッドの王子。ゲドと共に最果ての地に赴き、生きて死後の世界から帰り、世界を統治する王となる。
- カレシン
- 最長老にして竜族の長を務める竜。崩れてしまった世界の均衡を再び正してもらう代わりに、ゲド達を援助する。
- アイリアン(トンボ)
- オーム・アイリアンとも。テハヌーと同じく、人間の親を持ちながら竜である存在。自分の存在を探求していく過程で、女人禁制が徹底されているロークの学院に例外的に招かれ、己の真の姿を見出す。例外的に真の名を2つ持つ。
- イエボー
- 人間の領地に侵入して住み着き、子供を育てていた竜。普段はペンダーにいる。度々人間の船や居住地を襲っていたが、ゲドに真の名を見破られ、調伏される。人の姿に化けることができるという。
[編集] アースシーの世界
- ハーブナー
- アースシーにおいて、人間が居住しているものとしては最大の島。
- ハーブナー港 - アースシーを統治する王が居を構えるといわれる都市。
- ローク
- 魔法使いを養成する学院が存在する島。空位が続いているアースシーの王に代わって、秩序を維持するものとしてアースシーに強い影響力を与えている。アースシー世界の中心。
- 学院 - 魔法を正しい方向に導くために設立された学院。アースシーにおける魔法使いとは、この学院の出身者のことを指す。“魔法使い”の称号を受けていない者は“まじない師”でしかない。
[編集] 用語
[編集] 映像化作品
[編集] TVシリーズ版
- 米SCI FI Channelが、アーシュラ・K・ル・グウィン原作「ゲド戦記」1巻と2巻を「Earthsea」のタイトルでTV化(ミニシリーズ)。2004年秋に放送された。ゲドの師、オジオン役にベテラン黒人俳優ダニー・グローヴァーが充てられている(外部リンク:SCIFI.COM Earthsea、およびこのドラマへの原作者ル・グウィンのコメント)。外国では既にDVD化。日本でも「ゲド~戦いのはじまり~」として、DVDが2006年8月6日に発売される。日活発売。
[編集] アニメ映画版
- 詳しくはゲド戦記 (映画)を参考の事
- スタジオジブリ制作、宮崎吾朗(宮崎駿の長男)監督・脚本。オリジナルとは異なるストーリーであるため、原作者からそれに対する公式コメントが出されるなど論議を呼んでいる。なお、この映画の副題として用いられている "Tales from Earthsea" は、原作「ゲド戦記外伝」の原題。
- 原作の第3巻以降をメインにした独自の脚本。東宝配給で2006年7月29日より、長編アニメーション映画として劇場公開されている。