チェンバロ
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チェンバロ(独:Cembalo, 伊:Clavicembalo)は、弦を爪で弾いて発音する楽器で、撥弦楽器(はつげんがっき)、または鍵盤楽器の一種に分類される。英語ではハープシコード(Harpsichord)、フランス語ではクラヴサン(Clavecin)という。
目次 |
[編集] 歴史
古くは14世紀頃から西ヨーロッパ圏に存在し、17、18世紀には人気の撥弦鍵盤楽器になっていた。特にバロック期の音楽家ヨハン・ゼバスティアン・バッハによって、チェンバロ音楽は一つの頂点を迎えた。自ら堪能に弾きこなした彼は、それまでおもに通奏低音やオルガンの代用品といった脇役の地位であったチェンバロを、室内楽や管弦楽における独奏楽器として主役の地位にまで高めた。しかし、18世紀後半古典派期には、よりダイナミックな音色の出せるピアノに人気を奪われ、徐々に姿を消していった。
しかし19世紀末頃から古楽演奏のためにチェンバロは必要だという声が上がり、博物館に残された楽器を参考に、さらに当時のピアノの要素を組み込んだモダンチェンバロが新しく開発された。モダンチェンバロは20世紀前半まで頻繁に使われたが、バロック時代に実際に使われていた楽器とは大きく異なるという批判が生まれ、古い時代の楽器を忠実に再現することに努めたヒストリカルチェンバロが生まれた。これが現在の標準的なチェンバロである。その後、オペラのレチタティーヴォ・セッコの伴奏の他、ルネサンスのダンス音楽やバロック音楽を演奏する際の通奏低音などで、古楽器として活躍している。
今日では、ルネサンス・バロック期の音楽をいわゆる古楽の形式で演奏する際にはヒストリカルチェンバロを用いるのが一般化した一方、モダンチェンバロも歴史上の楽器として、ヒストリカルチェンバロとはいわば別の種類の楽器として認識されて受容されている(たとえば、フランシス・プーランクの「クラヴサンと管弦楽のための田園のコンセール」などは時代背景や作曲の経緯に照らして、モダンチェンバロで演奏するのが妥当である)。
[編集] 種類・様式
大きく分けてイタリアン、フレミッシュ、フレンチ、ジャーマン、イングリッシュの各様式があり外見や音色に特色がある。構造で分類すると一段チェンバロ、二段チェンバロと分けることができる。また、スピネット、ヴァージナルなど小型の同属楽器もある。
[編集] 構造
外見はピアノに似ているが、発音の仕組みがピアノとは異なる。チェンバロは、鍵盤を押し下げると他端に載っているジャックと呼ばれる薄板状の部品が瞬間的に跳ね上がり、その際にジャックの側面に装着された鳥の羽根軸などからできたプレクトラムと呼ばれるツメが弦を下から上にひっかいて音を出す。そのため音色などもピアノとは全く異なる。
ジャックは、チェンバロの機構でもっとも大事な部品であり、通常、硬い木で作られ、鍵盤の上に垂直方向に配置されている。鍵盤はてこのように作用し、奏者が鍵盤の一方の端を押し下げると他方が持ち上がり、それに従ってツメのついたジャックが押し上げられ、ツメが弦をはじくのである。ジャックの上部には、タングという硬い木でできた小さい可動性の部品が、イノシシの毛などを用いたバネを介して取り付けられている。タングは、鳥の羽根軸や革、またはデルリン等の代用素材でなどでできた「プレクトラム」(ツメ)を備えており、これが弦を持ち上げる。ジャックが上昇するにつれ弦に押し当てられたツメは徐々にたわんでいき、最後に弦を放って振動を引き起こす。鍵盤を押し下げるのをやめると、鍵盤のもう一方の端は元の位置に戻るので、それに従ってジャックも下に降りる。この際ツメは弦に触れるが、弾力のあるタングの働きによって後方に退き、ほとんど音を生じることはない。その後バネの仕掛けによってタングは元の位置に戻る。ジャックが元の位置まで降りるとフェルト製のダンパーが弦の上に乗り消音する。
このような発音構造のため、チェンバロではキータッチによって音の強弱がつけられない。これを克服するため、オルガンのストップのように撥弦本数を変えることのできるレジスターという強弱の発音メカニズムを備えた楽器も存在し、音色に何通りかの変化を付けることも可能である。このような機構を備えた楽器では、例えば、1つの鍵盤操作で複数の弦を同時に鳴らすことで、倍音を多く含んだよく響く音色を得たり、ミュートによるリュートに似た柔らかい音色を得ることができる。
鍵盤を2段備える楽器の場合、張られている全ての弦を撥弦させるように上下鍵盤が連動するカプラーという機能をもつ型も存在する。2つの鍵盤からひとつの同じジャックを操作するための機構は、主に2種類ある。
- 引き出し (tiroir) 連結方式
- フランス式チェンバロに多く見られる。主鍵盤をわずかに手前にずらすことによって、下の段の鍵盤に取り付けられた垂直方向のクサビ状の突起が上の段の鍵盤の端の下に入る。この状態で下段鍵盤を操作すると同時に対応する上段鍵盤が連動する(逆に上段を操作しても下段鍵盤は連動しない)。
- イギリス式連結方式
- 従鍵盤は「犬の足」状にくぼみのつけられたジャックの下にもぐりこんでいる。ジャックのくぼみによって、下段を操作しても上段を操作してもこのジャックは動く。鍵盤は固定されており、フランス式のようにずらして使用することはない。
カプラーを有効にすると、下鍵盤では強音演奏、上鍵盤では弱音演奏の弾き分けが可能となる。弾き分けは上下鍵盤への手指移動だけで演奏中に瞬時に行えるので、強弱の対照表現を楽曲の中で頻繁にしたい場合、2段鍵盤の楽器を選択することが多い。この他、反響板の開け閉めや付け外しによっても、ある程度の音量調節が可能である。
多くの楽器では本体と足が分解可能で、比較的簡単に持ち運びができるという特徴がある。グランドピアノに比べればサイズも小柄で、場所もとらない。しかし、筐体の材質(木製)の特性からチェンバロは湿度に弱いため、管理が難しいという難点がある。同様の理由で調律が安定しないため、演奏者は演奏のみならず、自ら調律の技術も要求される。
なお、チェンバロはバロック~ロココ期の宮廷において好んで用いられた経緯から、特に反響板の裏には宮廷風の豪奢な装飾が施されたものがある。
一方、チェンバロそのものの製作技術の伝承も断絶しているため、現在製作されるチェンバロは、通常、保存状態の良い古楽器をモデルとした復元が主となっているが、前述の音程誤差の部分に「イントネーション」を込めた演奏が行われていたのではないかという観点と、現存する古楽器イコール名器であるとは言えないという独自の観点から、音響工学的にチェンバロを復活再生させる試みを行う高橋辰郎のような製作家もいる(キース・ジャレットのバロック作品集には、高橋の製作楽器が使われている)。
[編集] 奏法
- 装飾音
- トリル
- モルデント
発音の仕組み上の制約により、音に強弱をつけ辛いため、演奏に表情を持たせるための工夫として用いられる演奏上の技術である。チェンバロ演奏においては特徴的な技術とされる。
バロック音楽ではしばしば通奏低音に用いられ、チェンバロ(兼・オルガン)奏者が一楽団の監督を兼ねることが多かった。その名残で、現在でも古楽系の楽団では指揮者が舞台中央に据えられたチェンバロに着き、通奏低音を弾きながら(目配りや、時折片手を振るなどして)指揮を執る姿が見られる。
[編集] 調律法
[編集] 代表的なチェンバロ音楽家と作品
- ヨハン・ゼバスティアン・バッハ
- 「ブランデンブルク協奏曲」第5番、「チェンバロ協奏曲集」、「クラヴィーア練習曲集」(「イタリア協奏曲」、「ゴルトベルク変奏曲」などを含む)
- ジャン=フィリップ・ラモー
- 「クラヴサン曲集」、「コンセール形式によるクラヴサン曲集」
- フランソワ・クープラン
- 「クラヴサン曲集」
- J.C. シャンボニエール
- ドメニコ・スカルラッティ
- ジャン=アンリ・ダングルベール
- ジョゼフ=ニコラ=パンクラス・ロワイエ
- 「クラヴサン曲集」
[編集] 近現代の著名なチェンバロ奏者
[編集] 海外
- ボブ・ファン・アスペレン
- リナルド・アレッサンドリーニ
- ピエール・アンタイ
- ジョス・ファン・インマゼール
- ヘルムート・ヴァルヒャ
- ラルフ・カークパトリック
- イーゴリ・キプニス
- ケネス・ギルバート
- ウィリアム・クリスティ
- トン・コープマン
- クリスティアーヌ・ジャコッテ
- クリスティーネ・ショルンスハイム
- アンドレアス・シュタイアー
- イェルク・エーヴァルト・デーラー
- ユゲット・ドレフュス
- トレヴァー・ピノック
- エディット・ピヒト=アクセンフェルト
- ニコラウ・デ・フィゲイレド
- ラファエル・プヤーナ
- エリーザベト・ホイナツカ
- クリストファー・ホグウッド
- オリヴィエ・ボーモン
- ミッツィ・メイヤーソン
- デイヴィット・モロニー
- ワンダ・ランドフスカ
- カール・リヒター
- ズザナ・ルージチコヴァー
- クリストフ・ルセ
- グスタフ・レオンハルト
- スコット・ロス
[編集] 日本
[編集] 出版物
- 『チェンバロ・フォルテピアノ』渡邊順生(東京書籍)
- 『古楽器研究 チェンバロをさぐる』渡邊順生・野村滿男・柴田雄康・高橋辰郎共著(日本コレギウム)
- 『<改訂版>チェンバロの保守と調律』野村滿男(日本コレギウム)
[編集] 関連項目
[編集] 外部リンク
- 初期鍵盤楽器のページ チェンバロQ&A・リンク集などを含む