リステリア
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リステリア (Listeria) とは、グラム陽性桿菌のリステリア属に属する真正細菌の総称。リステリア属には8種が含まれるが、このうち、基準種であるリステリア・モノサイトゲネス (L. monocytogenes) にはヒトに対する病原性があり、医学分野では特にこの菌種のことを指す。
リステリアという学名は、消毒法を開発した英国の外科医ジョゼフ・リスターを記念して献名されたものである。
目次 |
[編集] リステリア属の特徴
リステリア属は、通性嫌気性の無芽胞(芽胞を形成しない)グラム陽性桿菌に分類される。カタラーゼを有すること、低温(4℃)での増殖が可能なこと、耐塩性があること、運動性があることから、他のグラム陽性無芽胞桿菌と区別される。自然界では、ヒトや動物の糞便や乳のほか、食品中や土壌などにも存在する常在菌の一種である。
リステリア属には8種が含まれるが、このうち基準種であるリステリア・モノサイトゲネスはヒトに感染してリステリア症の原因になる病原体である。このほか、L. seeligeriがヒトから分離されることがあるが、きわめてまれである。またL. ivanoviはヒツジに感染して流産の原因になることが知られている。
[編集] リステリア・モノサイトゲネス
リステリア・モノサイトゲネス (L. monocytogenes) は、リステリア属の基準種であり、0.5x1 µm程度の大きさの、通性嫌気性〜微好気性の短桿菌である。マクロファージなどの食細胞に感染する通性細胞内寄生性菌であり、細胞内では細胞骨格を形成するアクチンを利用して細胞質内を移動し、さらに隣接する細胞に侵入するという特徴を持つ。本菌で汚染された乳製品や食肉などを介してヒトに感染し、リステリア症の原因となるほか、ヒツジやウシなどの家畜に感染して流産や敗血症の原因になる、人獣共通感染症の病原体の一つである。
[編集] 細菌学的特徴
菌体の周囲に4本の鞭毛(周毛性鞭毛)を持ち、これを利用して水中などで運動する。ただしこの鞭毛は25℃培養では観察されるが、37℃ではしばしば失われる。ヒツジまたはウサギ血液寒天培地では、弱いβ溶血性を示す。この溶血は黄色ブドウ球菌によるCAMP試験によって増強され、これらが本菌種を同定する上で重要である。この溶血性は溶血素(ヘモリジン)の一種であるリステリオリジンOによる。
[編集] リステリアの細胞内寄生
リステリア・モノサイトゲネスは、感染した宿主の細胞内と細胞外の両方で増殖することが可能な、細胞内寄生体(通性細胞内寄生菌)の一種である。マクロファージなどの食細胞によって貪食された細菌は、一般に、細胞内にファゴソーム(食胞)として取り込まれた後、リソソームの働きによって分解殺菌されるが、リステリアはリステリオリジンOを産生して、ファゴソーム膜を破壊して細胞質に抜け出し、この殺菌機構から逃れることが可能である。
細胞質内に抜け出したリステリアは、宿主細胞の細胞骨格の一つ、マイクロフィラメントを形成するアクチンを利用して細胞質内を移動することが可能である。菌体の片端でアクチンを再構成して重合させて積み上げ、これを足場にする形で推進力を得る。菌が移動した跡にアクチンの繊維が残って彗星の尾やロケットのように見えるため、この現象はコメットテイル、アクチンロケットなどとも呼ばれる。アクチンロケットによる細胞質内の移動は、リステリア以外では赤痢菌およびリケッチアに見られる。また、感染した細胞内を移動 するだけでなく、隣接する細胞にアクチンロケットを伸ばして貫入し、その細胞内に侵入して感染を広げることが可能である。
[編集] 病原性
リステリア・モノサイトゲネスは、食肉や乳製品、野菜などにも存在し、これらを介して経口的にヒトに感染することがある。健常者が発病することはまれだが、(1) 加齢や他の疾患などで免疫力が低下している人、(2) 妊婦、に感染した場合には、重篤な疾患となることがあり、リステリア症と呼ばれる。
前者のケースは、高齢者や白血病患者などの成人で見られ、本菌に汚染された食物を摂食した後に髄膜炎や敗血症を発症する、一種の日和見感染である。後者のケースは周産期リステリア症と呼ばれる。母体自体での症状は軽いことが多いが、感染した母体から胎盤を介して胎児に感染(経胎盤感染。垂直感染の一種)して、流死産や胎児敗血症、また新生児髄膜炎や新生児敗血症の原因になる。
リステリア症は人獣共通感染症であり、従前はペットなどからの感染が疑われていたが、1980年代にコールスローの原料となったキャベツからの感染が明らかになって以来、食品からの感染ルートが判明して、重要な食品媒介感染症の一つだと考えられるようになった。ただし、健常者での発症がまれなことなどから、原因になった食品の特定には至らない場合も多い。
リステリアは4℃での増殖が可能であり、また耐塩性があるため、冷蔵庫での保存や塩分の添加など、他の菌の増殖を抑えられるような環境で増殖して感染の原因になる場合がある。近年の食品保存や輸送技術の発達に伴い、冷蔵輸送や長期冷蔵保存が増えたことが、リステリア症の発生の一助であると言われている。
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