リプレイ (TRPG)
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リプレイとは、主にテーブルトークRPG (TRPG) などのゲームを実際に遊び、その経緯を記録したものである。
特に定まった形体はなく、小説、コミック、実際のプレイの様子を録音し記録したCDなどによって表現されたものも存在するが、1986年、グループSNEがパソコンゲーム雑誌「コンプティーク」に『ロードス島戦記』のリプレイを掲載する際に用いた、キャラクターの名前の後に台詞や行動を記した台本(戯曲)の形式を模した表現で書かれるのが、日本では一般的である。
ストーリーを作り出すゲームであるというテーブルトークRPGの特徴を活かした、いわば「即興戯曲」のようなものである。
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[編集] 概要
1986年、グループSNEがパソコンゲーム雑誌「コンプティーク」に『ロードス島戦記』のリプレイを連載したのが日本における本格的なリプレイ形式の確立とされる。 [1]なお、この際、遊ばれたゲームシステムは『ダンジョンズ&ドラゴンズ』であった。 [2]
ゲーム風景を書き起こすという発想は、日本人だけのものではなく、外国製テーブルトークRPGのルールブックにチュートリアルとして示されるなど一般的なものである。ただ、リプレイが単行本として商業ベースで出版され、テーブルトークRPGを牽引する大きな要素となっているのは日本独自の特徴である。
リプレイは実際にゲームを遊んだ内容を実況するものであるが、一方では読み物としても受容されており、必ずしも一言一句、プレイ風景を忠実に書き起こしたものではない。商品として出版する際には、冗長な部分を削り、描写や演出を修正・加筆し、読ませる物語にするための工夫が欠かせない。このため、商業リプレイの執筆者にはライトノベル作家的な構成力や文章力も求められる。出演するキャラクターやそのプレイヤーが人気を博すこともあり、遊ばれているゲームそのものを知らないファンがつき、ライトノベルの変種として消費される傾向もある。
個人や同人においても、リプレイは、楽しかったゲームセッションを記録し追想する、また他者とその楽しさを共有する手段として執筆されている。こうした効用を積極的に認めて推奨し、リプレイを執筆した参加者には追加の経験点が与えられるといった特典を定めているゲームシステムも存在する。
[編集] ライトノベルとの関係
上記でも記されている通り、日本においてはリプレイはテーブルトークRPGの関連製品であると同時にライトノベルの一種としても扱われている。 実際、現在において商業出版されているリプレイは、ライトノベルのレーベルにより文庫サイズで出されているものが数多い。
これは、ライトノベルというジャンルの黎明期において、牽引役になったのがスレイヤーズなどをはじめとする「ゲーム的冒険ファンタジー小説」であり、さらにそれらに影響を与えたものが、テーブルトークRPGを原作としたジュブナイル小説(ドラゴンランス、小説版ロードス島戦記など)だったためである。
当時は冒険ファンタジーというものがまだ珍しかった時代でもあったため、それを扱っていた黎明期のライトノベルとテーブルトークRPGは近似ジャンルを扱う兄弟同士のような関係にあった。そのため、「テーブルトークRPGのプレイの記録」という非常にマニアックな書籍であっても、ライトノベルというレーベルの場を借りることで、全国の書店に流通させることができたのである。
この結果、ライトノベルの読者層がリプレイからテーブルトークRPGの世界に入っていき、1990年代前半の日本のテーブルトークRPGブームが起こったといえるだろう。
ライトノベルの主流がテーブルトークRPG的なジャンルから離れていった現在でも、出版形態としてのテーブルトークRPGとライトノベルの関係は(当時ほど蜜月ではないとしても)友好的なものとして続いている。
その関係から、リプレイだけでなくテーブルトークRPGのルールブックやサプリメントなどもライトノベルのレーベルを持つ出版社から出されているものも多い。 (富士見書房、エンターブレインなど)
リプレイがライトノベルのレーベルで出続けていることで「テーブルトークRPGはやらないが、リプレイは読んでいる」という読者層が生み出されたのも1つの特徴である。 この読者層のおかげでリプレイはライトノベルのレーベルの中でもそれなりの立ち位置を有することができているようで、テーブルトークRPGのルールブック関係の出版が減退した「冬の時代」(1990年台後半)でさえ、リプレイの出版はテーブルトークRPG市場とは切り離された形で、ライトノベル市場で継続して行われていた。
[編集] リプレイの評価
リプレイがTRPG普及の原動力の一つとして果たした役割は大きかった。一方で、「ライトノベル的な読み物」として発展していく中で、従来の「テーブルトークRPGの記録」としてリプレイを楽しんでいた層からの批判も生まれた。リプレイをあくまで「テーブルトークRPGの展開の一つ」ととらえるか、「ライトノベルの変種」として求めるかという需要の違いにより、評価が分かれる作品もある。
昔からある批判としてリプレイの「ヤラセ」疑惑というものがある。多くのリプレイは読み物としての娯楽性を高めるためにキャラクターの台詞やシナリオの展開などをドラマチックに編集する場合があるが、この行為が「ゲームの記録としては捏造につながる」と批判されることがある。[3]
参加プレイヤー、GMの個性が上手くかみ合った場合は名作ともなるが、人間関係がギスギスしたり、ゲーム本来の面白さを引き出せていない場合、批判を受けることも多い。また、かつてはプレイヤー名を伏せて、「キャラクターの“中の人”」を明らかにしない場合が多かったが、近年では、プレイヤーを積極的に公開し、参加メンバーの個性を商品価値にすることも多い。かつては「○○というゲームのリプレイ」ないしは「○○というキャラクターが出てくるリプレイ」で売れていたものが、今では「○○というプレイヤーが参加したリプレイ」という形でも売られるようになったのである。
リプレイを入り口としてTRPGを知った世代も多いが、ゲーム中に観客(傍観者)として物語を楽しんでしまう傾向があり、自分から進んで会話に参加することが少ないと批判するゲームデザイナーも存在する。[4]
[編集] 主なリプレイシリーズ
- ソードワールドリプレイシリーズ
- 日本を代表するリプレイシリーズ。複数の作者が何本ものシリーズを書いており、一種のシェアードワールドノベルの体を成している。15年以上続いており冊数もテーブルトークRPGリプレイとしては最大。レーベルは全て富士見ドラゴンブックから。
- ロードス島戦記リプレイシリーズ
- 文庫リプレイの元祖のシリーズ。日本にテーブルトークRPGを広めた立役者でもある。ただし、現在はロードス島戦記のテーブルトークRPGでの展開がストップしているため、シリーズは停止中である。
- レーベルは角川スニーカー文庫および富士見ドラゴンブック。
- ガープスリプレイシリーズ
- どんな世界でも再現可能を売り文句にした汎用RPG「ガープス」は、日本ではその特性を生かして、設定の全く違う複数の世界観でリプレイを出版した。
- 代表的なシリーズは、ルナル・サーガ(ユエル・サーガ)、妖魔夜行(百鬼夜翔)、リボーン・リバース、ドラゴンマークなどで、特にルナル・サーガと妖魔夜行はリプレイとメディアミックス展開を行った小説版がヒットを収めた。
- レーベルは角川スニーカーG文庫および富士見ドラゴンブック。
- セブン=フォートレスリプレイシリーズ
- テーブルトークRPG専門誌である『RPGマガジン』『ゲーマーズ・フィールド』で連載されているリプレイシリーズ。菊池たけしの名前をテーブルトークRPGユーザーの間で著名なものとしたリプレイシリーズだが、ゲーム専門誌連載のため、前項目でも記されている「テーブルトークRPGを遊ばないリプレイ読者層」への認知度は全くといっていいほどなかった。
- この状況は長らく続いたが、2003年からシリーズの文庫化が始まり、これがきっかけとなって多くのリプレイ読者層に菊池たけしの名を知らせるきっかけとなった。
- レーベルはファミ通文庫および富士見ドラゴンブック。
- ナイトウィザードリプレイシリーズ
- 21世紀に入って以降のテーブルトークRPG業界で、ゲーム専門誌以外の雑誌で連載が行われた数少ないシリーズ(E-LOGIN、およびマジキューで連載)。また、CDドラマつきリプレイという往年のメディアミックス路線を強く意識した展開も行っている。
- レーベルはファミ通文庫およびログインTRPGシリーズ。
- アリアンロッドRPGリプレイシリーズ
- レーベルは富士見ドラゴンブック。複数のシリーズがある。
- ダブルクロスリプレイシリーズ
- レーベルは富士見ドラゴンブック。複数のシリーズがある。
- 六門世界RPGリプレイシリーズ
- 初期のリプレイは、正式にルールが発売される前にルールテストを兼ねて行われている。このため、発売されたルールとは整合性が取れていない部分もある。
- レーベルは富士見ドラゴンブック。複数のシリーズがある。
以上に挙げた他にもいくつものリプレイが商業出版されている。また、ここではリプレイが文庫で読めるものを中心に挙げたが、テーブルトークRPGの専門誌やサプリメントに読み物としてのリプレイを掲載するゲームも数多い。 それらも含んで考えると、ほとんどのテーブルトークRPGに商業向きなリプレイコンテンツが存在するといえる。
[編集] 書籍以外のリプレイ
[編集] CD
[編集] パソコンソフト
ソードワールドRPGリプレイ第2部第1話をパソコン(PC-9801シリーズ用)に移植したもの。
パソコンのアドベンチャーゲームやRPGゲームのように発言するキャラクターの顔がグラフィックで表示されると共に、画面下部の領域に台詞が表示された。
[編集] 主なリプレイ作家
[編集] 関連項目
[編集] 註
- ^ 「ルール研究用のプレイ記録なだけではなく、娯楽性のある読み物であるということを意識したリプレイ」の元祖は、ロードス島戦記よりもさらに前、1985年のシミュレイター新1号に掲載されたローズ・トゥ・ロードリプレイ「七つの祭壇」であるといわれている。執筆したのは当時高校生だった藤浪智之であった(余談だが当時シミュレーションゲーム少年だった菊池たけしはこのリプレイに衝撃を受けて、TRPGをプレイするようになり、さらにはリプレイ作家を志すようになったと語っている)。 ただし、「七つの祭壇」が元祖的な位置にあったとしても、「読み物としてのリプレイ」というものを広く知らしめて確立させたのがロードス島戦記であることは事実である。
- ^ 後に角川スニーカー文庫や富士見ドラゴンブックで出版されたリプレイ『ロードス島戦記1』は、この連載の再録ではなく『ロードス島戦記コンパニオン』という全く別のゲームシステムを使ってプレイしなおしたバージョンである。シナリオも小説版を元に若干の変更がされている。そのため、この『ダンジョンズ&ドラゴンズ』版のロードス島戦記は当時の雑誌でしか読めない幻のりプレイとして現在でも語り継がれている(特にキャラクターの性格などが現在のものとはかなり違う)。ウィキペディア『ロードス島戦記』の項目も参照のこと。
- ^ 『○○がわかる本』(プレイガイダンス)付属のリプレイなど、はじめから「架空のプレイの記録」だと明示して書かれているリプレイでは問題にならない。「実際のプレイの記録である」というライブ性を売りにしているリプレイにおける編集行為が問題とされる。
- ^ 水野良『RPG対談 水野良の遊戯空間(ゲームランド)』から、和栗朗との対談より
カテゴリ: リプレイ | テーブルトークRPG用語