ヴィットリオ・ヴェネト級戦艦

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戦艦ヴィットリオ・ヴェネト

戦艦ローマ

ヴィットリオ・ヴェネト級戦艦（伊:Navi da battaglia Classe Vittorio Veneto）とはイタリア海軍（王立海軍）戦艦の艦級。イタリア海軍が第二次世界大戦中に竣工させた最初で最後となった45,000トンの超弩級戦艦である。基本的な艦体設計は第一次世界大戦時に計画されたフランチェスコ・カラッチョロ級戦艦を踏襲しているが、ライバルであるフランスのダンケルク級戦艦を研究し数々の新機軸を投入して全くの別艦となっている。

資料によっては本級をリットリオ級戦艦（英:Littorio class battleship）と呼ぶが、これは予算措置上リットリオが1番艦、ヴィットリオ・ヴェネトが2番艦として扱われたためであった。なお、イタリア海軍の表記はヴィットリオ・ヴェネト級戦艦であったが、現在のイタリア海軍はリットリオ級戦艦と表記する傾向がある（外部リンク参照）。

[編集] 建造までの経緯

ワシントン軍縮会議にて70,000トンの建造枠を得ていたイタリアは1928年に新型戦艦の研究を開始した。この頃に381mm砲を6門積んだ「23,000トン型中型戦艦」や406mm砲を積んだ35,000トン型の「条約型戦艦」を研究していたが、当時のイタリアに新型戦艦を建造する財政的余裕もなく、地中海を挟んで対峙するフランスの心象を悪化させ、フランスとの建艦競争を引き起こしたくは無かったために見送られた。しかし、1930年代初頭にドイツがドイッチュラント級装甲艦3隻の建造に踏み切り、それにフランスが優秀なダンケルク級戦艦でそれに対抗したために、イタリア政府は1932年9月～12月にかけてドイツの装甲艦に類似した343mm砲3連装二基6門の「18,000トン型小型戦艦」の研究がイタリア海軍の依頼によりアンサルド社にて行われたが、海軍はこの艦の一連の研究結果から1万トン代小型戦艦は攻撃力・防御力双方から非実用的との判断を下し、より大型で高速の巡洋戦艦として計画し直された。これには同時期に発表されたダンケルク級戦艦の多大なる影響があり、当時のイタリア海軍の主力艦たるコンテ・ディ・カヴール級戦艦、カイオ・ドゥイリオ級戦艦では攻撃力・防御力・速力共に対抗不能だったのである。そして1933年に計画されたのが主砲13,5インチ連装4基8門、速力29ノットの「1933年型26,000トン型戦艦案」である。しかしダンケルク級に比して対空火力が機関砲だけしかなく貧弱な事と、航空機運用能力が皆無（要求性能の航空機四基＋カタパルト二基のスペースが無い）なことから、この案を踏まえて35,000トン型戦艦として設計が続行された。これが後にヴィットリオ･ヴェネト級戦艦となった。要求性能は381mmか406mmを搭載し、自艦の主砲の砲撃に対し17,500m～28,500mの決戦距離での安全圏を確保する防御力を有するというものだった。主砲サイズはイタリアの工業力と船体サイズの兼ね合いから正15インチ（381mm）砲を9門装備した。また、この砲に対し16,000m以上の防御力を持つ頑丈無比な主要区画防御を与えられた。結果的に排水量は4万トンを超過したが対外的に35,000トン艦として押し通した。

[編集] 特徴

[編集] 艦体について

本級の艦体構造は典型的な長船首楼型船体である。主砲塔を艦首方向へ低仰角で射撃可能という要求を可能にするために艦首甲板のシアは弱く、凌波性が劣っていたことは否めない。また、艦首形状は竣工当時では優雅なカーブを描いていたが、公試において飛沫が艦橋付近まで跳ね返って来るので、元の艦首構造に強固な直線形状の艦首を貼り付けて改めたが、逆に力強さと優美さが増した。これにより全長が1,8m伸びたが凌波性能は改善された。船体形状は全長が237,8mに対し全幅が32,95mと充分な全幅と全長を持っていた。これは低出力の機関で高速を得るためにこの様な船体形状を選択したためである。長い船体は直進性能を約束するが反面、旋回性能が劣る傾向にあるが、機動力を重視するイタリアは大型の主舵一枚と副舵二枚を装備することで改善した。そのため、本級の旋回性能は良好で、重巡洋艦並の速度で旋回行動が行えた。

主砲は前級より引き継いだ新設計の「1934年型38.1cm（50口径）砲」を3連装砲塔に収めている。配置は1、2番主砲塔を背負い式に2基、中段部に7,2m測距儀3基を二段に持つ、二重円筒型装甲艦橋と1番煙突の間に立てられたポール・マスト、2番煙突、後部艦橋を組み込んだ塔型後檣、3番主砲塔はタービン・シャフトをクリアする為に一段高められた。対空火器も「1939年型9cm（50口径）砲」を単装砲塔に納め、片舷に6門、両舷に計12門搭載した。舵は主舵1枚を中央にと副舵2枚を外軸と内軸の間に1枚ずつの計2枚配した。

[編集] 主砲塔について

主砲は、新設計の「1934年型38.1cm（50口径）砲」であり、この砲を3連装砲塔三基に収めており、配置は1、2番主砲塔を背負い式に2基、後部に3番主砲塔である。この砲は、発射速度は毎分1,5発、仰角は＋35度/-5度、最大仰角35度で重量885kgの砲弾を射距離42,260 mまで届かせる高性能砲であった。なお、砲塔形式は軽量化できる自由角装填方式である。本級の主砲は高初速により打ち出す事により近距離での大貫通能力を有し18,000mで510mmの垂直装甲を抜く能力があった。これは、実際の対戦艦戦闘が2万m前後で行われた事を考慮すれば、列強の新戦艦全ての舷側防御を貫通できる性能を持っていた事になる。反面、水平甲板に対する命中率が低く舷側に当たりやすい弾道特性を持っていたために射距離3万以遠の遠距離砲戦に向いていなかった。

[編集] 副砲・対空装備等

副砲は前級のカイオ・ドゥイリオ級戦艦よりも更に口径がアップしているがこれは従来の口径ではフランスの大型駆逐艦には対抗できても、軽巡洋艦を駆逐するには不十分であるとの判断であるとともに、このくらいの口径でも発射速度がよく軽量な砲が開発できるようになった為である。こうして「1936年型15.2cm（55口径）砲」を3連装砲塔に収め、前部艦橋左右に1基ずつ、後檣左右に1基ずつの計12門搭載した。この砲は発射速度が毎分4～5発、仰角は＋45度/-5度、最大射程は仰角45度で射距離25,740 mである。なお、この砲は他にルイージ・ディ・サヴォイア級軽巡洋艦にも採用されている。

他に対空火器として「1929年型9cm（50口径）砲」を採用し、砲塔構造を採った。舷側に単装砲塔6基、計12基装備した。この砲は発射速度が毎分12発、仰角は＋75度/-3度、最大射程は仰角45度で射距離13,000 m、最大仰角で高度10,800 mと、優秀な砲であった。近接火器としては「1932年型37mm（54口径）機関砲」を連装砲架で10基装備した。他に「2cm（65口径）機関砲」を連装10基20門装備した。他に、照明弾や礼砲用に「アームストロング社1892年型12cm（口径不明）砲」を舷側中央部に二門ずつ計4基装備した。

[編集] 機関について

機関出力は130,000hpで4万トンを超える船体を公試で31.4ノットを発揮し、基準排水量状態で速力30ノットで走らせる事が出来た。航続性能は14ノットで4200海里と駆逐艦並の航続性能しかなかったが、イタリアは地中海という狭い海域だけで行動できれば良しとされたので、燃料タンク自体の容量を小さく出来た結果であった。これは、列強他国にはないイタリア海軍だけの特徴である。

[編集] 艦歴

進水するインペロ

1940年11月、スパルティヴェント岬沖海戦で戦闘中のヴィットリオ・ヴェネト

計画4隻中3隻は第二次大戦開戦直後に就役した。ヴィットリオ・ヴェネト（Vittorio Veneto）とリットリオ（Littorio）は1940年に竣工。3番艦ローマ（Roma）は1942年に竣工したが、4番艦インペロ（Impero）は船体は完成し機関を繋いで自力航行が可能になったものの、ついに大戦中に完工する事はなかった。

3隻はイタリア海軍の中心として期待されたが、リットリオは1940年11月11日の「タラント空襲」において、魚雷前部右舷に2本、後部左舷に1本、計3発が命中し大破した。翌朝、リットリオの竜骨の真下に不発魚雷が泥に埋っているのが発見され、そのためにドックへの曳航は細心の注意と共に行われた。僚艦は直ちにドックに曳航されたが戦線復帰には翌年8月まで待たねばならなかった。イタリア側は再度のイギリス海軍空母の攻撃を恐れて、残った艦隊をナポリに逃避させた。結果的に英国海軍の戦略的大勝利で、イタリア海軍は艦隊を出撃する時は大回りで時間をかけて地中海に出さねばならなくなったのだ。ヴィットリオ・ヴェネトは1941年3月26日の「マタパン岬沖海戦」に参加して航空魚雷攻撃により艦尾避雷、左舷部スクリューに被害を受けて中破し、リットリオとともに8月までドックで過ごした。修理が終った1941年9月、ヴィットリオ・ヴェネトはマルタ島への英軍補給線警戒行動を実施したが、12月14日夜の「第一次シルテ湾海戦」においてイギリス潜水艦アージの雷撃3発を前部砲塔の下部に受けて、注水のために速力は20ノットに減じ、火災発生も伴って多くの乗員が死傷、一時は火薬庫への引火の恐れもあったが、乗員の献身的な努力により火災を消し止めた。イアチノ大将はヴィットリオ・ヴェネトをタラントに回航させ、かろうじて自力でタラントに帰港した。修理が終ったのは1942年の春だった。

リットリオも「第二次シルテ湾海戦」に参加し、長時間に渡りイギリス艦隊と交戦した。戦闘は対艦戦闘能力に勝るイタリア艦隊に有利に展開して、軽巡3隻、駆逐艦4隻に命中弾を与えたが、英国側も商船を散り散りに避難させた為にマルタ島に陸揚げ出来た物資は5,000トン足らずでイタリア側の戦術的敗北戦略的的勝利だった。

1942年夏になるとイタリア海軍の燃料事情は深刻を極め、艦隊としての出撃は制限された。改装型旧式戦艦も港湾防御の対空砲台とし、乗員は護衛艦艇に配置転換したが、新型戦艦2隻だけは有力艦であったためにそのまま残された。同年11月になるとイタリア海軍の目的は地中海攻略から本土防御に変わり、改装戦艦も現役に復帰し、ヴィットリオ・ヴェネトとリットリオはタラント港からナポリに移動した。その頃、新たに竣工した3番艦ローマはイアチノ大将 (Iacino) の後を継承して艦隊司令長官となったカルロ・ベルガミニ大将の旗艦に指定された。しかし、ラ・スペツィア港で1943年6月5日の連合軍の大爆撃によって、3隻は命中弾を受け、取り分けヴィットリオ・ヴェネトは損害甚大でジェノヴァに回航、そこで同年9月までドック入りした。同爆撃でラ・スペツィアの造修施設が爆撃で壊滅したからである。

1943年8月末に軍部のクーデターによりベニート・ムッソリーニが逮捕され、老将バドリオ元帥が首相の座に納まるとリットリオはイタリアに改名された。イタリア本国艦隊司令長官C・ベルガミニ大将 (Carlo Bergamini) はイタリア敗戦の数日前に旗艦のローマに各部隊指揮官を集め、「英・米軍のサレルノ上陸を阻止するため、わが艦隊は断固出撃する！」と訓示したばかりだった。休戦直前のイタリア艦隊は燃料が不足して、思うように行動できなかったが、全土から油をかき集めてイギリス艦隊と砲戦を交えるのを夢みていた。しかし、9月8日に軍令部次長サンソネッティ大将 (Sansonetti) からベルガミニ大将に、「連合軍と休戦の条件を打ち合わせているんだが、明朝、全艦隊を率いてイギリス領のマルタ島へ南下してくれたまえ。まさかと思うが、艦隊を率いて交戦すれば、イタリアは再起不能なほどに解体される。戦争はもう終りだ。君は、そこで降伏してくれないか、詳しい情報は追って連絡する」と電話をかけた。そこへ今度は、海軍大臣兼軍令部総長デ・クルタイン大将 (Raffaele De Curtain) から電話で、「いいかね、ベルガミニ君。君は全艦隊を率いて、サルデーニャのマッダレーナ島へ行くんだ。イギリス軍へは、私からその許可を貰える様に取り計らおう。じつは国王陛下とイタリア政府も、そこへ移そうという案がある。だから…いま、駆逐艦ヴィヴァルディとダ・ノーリの2隻はラ・スペツィアから出港、国王陛下をお迎えに行く予定なのだ」と指示が出された。

爆発を起こしたローマ

異なる上官からかかってきた電話は、ベルガミニ大将をますます混乱させた。しかし、彼は各級指揮官をローマ艦上に召集して命令を伝達した。「イタリアは敗れたが、艦隊さえ健在ならば将来の再建の礎石となりうるのだ」と激励した。そして、1943年9月9日未明にローマ、ヴィットリオ・ヴェネト、イタリア（旧リットリオ）、軽巡洋艦4隻と駆逐戦隊2つを従えてマルタへ向かった。そして午後4時直前にドイツ空軍のドルニエ Do 217から射出された誘導爆弾、フリッツXがローマの後部マスト付近に命中。右舷の主機械をやられ、速力が16ノットまで低下。 2発目が第2砲塔と艦橋との間に命中した。左舷主機械損傷により停止。決死の消火作業が行われたが、竣工が遅れ訓練もろくに受けていない乗員は火災はなかなか鎮火できない。約20分間の人と炎との激闘の末、遂に前部火薬庫に引火した。火薬庫の大爆発はローマの船体を真っ二つに折り、大音響と大黒煙と共に瞬時に沈没した。

イタリアも艦首に1発が命中、約900トンの海水が侵入したが、こちらは何度も乗員が艦の損傷を経験したために、たちどころに応急修理が完了して、ヴィットリオ・ヴェネトとともに9月11日にマルタ島に到着した。両艦はその後、1943年10月17日にスエズ運河南部に抑留され、イタリアへ返還されたのは1946年2月だった。しかし、戦後の保有は認められず、1946年2月1日にヴィットリオ・ヴェネトが、同年6月1日にイタリアが米国との和平条約に基づき除籍、解体処分された。4姉妹のうちインペロは1939年11月15日に進水。1940年6月にフランスの攻撃をおそれイタリア南部のブリンディジへ回航するが鋼材の不足により工事中断するも1942年1月にヴェネツィアへ回航され、その後更にトリエステへ回航。1943年9月にイタリア降伏に伴いドイツ軍に接収され、標的艦兼実験艦として使用されるが、に1945年2月20日に米軍機の爆撃を受け沈没。1947年に浮揚されるが、リシュリュー級戦艦のジャン・バールのように完工される事は無く、ヴェネツィアへ回航され解体処分される。

[編集] データ

[編集] 竣工時

全長：237.79m　
全幅：32.84m
吃水：10.5m　
基準排水量：-トン
常備排水量：-トン　
満載排水量：45,752トン　
兵装：38.1cm（50口径）3連装砲3基、15.2cm（55口径）3連装砲4基、9cm（50口径）単装砲12基、37mm（54口径）連装高射機関砲10基、2cm（65口径）機関砲20門
機関：ヤーロ式重油専焼缶8基＋ブルッゾ式ギヤード・タービン4基4軸推進
最大出力：140,000hp　
航続性能：16ノット/4,580海里　
最大速力：30.5ノット
装甲
- 舷側装甲：280mm（クルップ鋼）+50mm（木材）+70mm＝350mm(8度傾斜)、70mm（第一甲板部）
- 甲板装甲：207mm（最厚部）、168mm（砲塔基部）、148mm（機関区）、70mm（ヴァイタルパート以外）
- 主砲塔装甲： 350mm（前盾）、200mm（側盾）、-mm（後盾）、200mm（天蓋）
- 副砲塔装甲： 280mm（前盾）、-mm（側盾）、-mm（後盾）、-mm（天蓋）
- バーベット部：350mm～280mm
- 司令塔：260mm
航空兵装：Re.2000戦闘機2機
乗員1,900名

[編集] 同型艦

「ヴィットリオ・ヴェネト　Vittorio Veneto（ヴェネト州ヴィットリオ・ヴェネト）」1940年12月11日竣工
「リットリオ　Littorio　（ファシズムの語源であるファスケスと呼ばれる斧の柄を束ねたものを指す）」1941年3月31日竣工、1943年7月にムッソリーニの失脚に伴って「イタリア　Italia」と改名。
「ローマ　Roma」1942年6月22日竣工
「インペロ　Impero　（「帝国」の意）」1947年3月27日除籍