帰国子女
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[編集] 概要
帰国子女(きこくしじょ)とは、両親の海外勤務などの本人の意思以外の止むを得ない理由により、海外での長期滞在生活を経て帰国した学齢期前後(小学校の入学前後から大学の入学前後まで)の年齢にある子女のことをいう。「子女」を女性差別用語と判断する向きがあることから「帰国生徒」、「帰国生」と呼び換える動きが進んでいる。
[編集] 多様性
帰国子女と一口に言っても、その経歴には様々なケースがある。親の海外赴任や転勤に合わせて、短くて1、2年、長くて15~20年を海外で暮らす。海外生活の始期も、親の赴任先で生まれた者から、小学校高学年や中学生など日本である程度の期間を過ごしてから海外に移転した者までおり、一様ではない。そのため、幼少時代から大学卒業まで海外で暮らすような帰国子女もいれば、1~2学年程度の短い期間を海外で暮らす帰国子女もいる。 なお、自らの意思で海外の学校に進学、または留学した場合は留学生にあたる。
滞在国も一国に留まらず、複数の国を転々として滞在する場合もあり、その結果数ヶ国語を習得する場合もある。幼稚園以前などの小さな頃から外国で育った場合は、複数の言語を自然体で操るバイリンガルの場合も少なくない。一方、日本人学校に通っていた場合は現地語に堪能でない場合が多い(これは通っていた日本人学校の教育内容、及び親の教育方針にも左右される)。ごく例外的に、日本語・現地語ともに中途半端な習得にとどまる場合もあり、セミリンガルと呼ばれる。これは特徴的な事例なために、過大にとりあげられることがあり、また、言語学者の興味の対象となっている[1][2][3]。 一般の生徒や子供と同様、帰国子女の能力の個人差も非常に大きい。
また、「帰国子女=英語」と一般的に受け止められている傾向があるが、上記の通り滞在するのは必ずしも英語圏とは限らないため、「帰国子女であれば英語に堪能である」というのは偏見である。そもそも「帰国子女=外国語(のみ)」と安易に連想することが偏見である。帰国子女特有の特徴としては、若い年齢時に外国で育ったことによって得た国際感覚(外国と対等に接する感覚)があげられる。
[編集] 現地での教育
日系企業が集中しているなど、ある程度の日本人の人口規模が中長期に渡って持続されている都市には、全日制の日本人学校や週1日(土曜日であることが多い)から週3日程度の補習授業校(略称 補習校)がある。どちらも運営母体は現地の日本人会や日本企業商工会であるものの、教育内容には文部科学省が直接関わり、日本の義務教育(小学校・中学校)を対象としている。実質的には、文部科学省管轄下の日本国内の通常の学校と同じである。
日本人学校では、関東地方で使われているものと同じ教科書・教材が使われ、通常3年の任期で各都道府県の学校から志願派遣されてくる教師(外務省の一時嘱託扱い)によって、各日本人学校の裁量で多少の違いはあるものの、日本国内と同様の教育がなされる。帰国後の日本での教育や受験に適応するための備えが目的であり、日本に帰国する生徒向きの学校である。
一方、日本人補習校は日本語の保持と発展を目標にしており、日本に帰国する生徒が大半であるものの、永住予定の生徒も多く在籍しており、今後も増加の傾向にある。そのため各補習校では増え続ける永住者の対応を考えている。[4]
現地校やインターナショナル・スクールの高等学校の事情は、各国の教育内容による。日本人学校に高等部はなく、一部の日本人補習校に高等部が存在する。日本の私立学校が独自に運営している海外の高校は、日本人学校とは言わず私立在外教育施設と言う。
日本人の外国語教育は英語に偏りがちなので、英語圏の場合は平日に現地校、土曜日に補習校に通うのが一般的である。非英語圏の場合は、インターナショナル・スクールやブリティッシュ・スクール、アメリカンスクールなど英語で教育を受けられる学校に入学したり、日本人学校へ通うのが一般的である。しかし、日本人人口が少ない都市の場合には、インターナショナル・スクールや日本人学校はなく、補習校だけかそれもない場合が多く、現地校に通わざるを得ない。非英語圏でも、特にフランス語やドイツ語やスペイン語といった西欧語圏の場合は、日本人学校に通える地域に住んでいても現地校を選ぶ家庭も多い。
[編集] 帰国後の教育
高校では、帰国子女の受け入れのためのクラスを設置した「帰国子女教育学級設置校」や「国際理解教育推進校」などがほぼ全ての都道府県で設定されている。また、首都圏を中心に多くの私立や国立の高校や大学の入学試験において特別制度が設けられている。入試科目などが減免される場合が多い。そのために、海外での滞在期間と帰国後の期間、海外での学校の種類(日本人学校通学期間は海外滞在期間とは認められない)、海外在住理由により、認定条件が設定されている。これは学校ごとに異なる。しかし、この様な学校や学級は限られた大都市に集中するために、実際には、長距離通学になったり、最寄の通常の学校に入学せざるを得ない場合も多い。
受験以前に経験した学習内容の違いに伴い入学後に一般の生徒と学力差があることが多いために、帰国子女が優遇されているとする指摘がある。その反面、特別入試がなかったり、受験資格が合わないために、志望校を受験できずに非志望校に入学せざるを得ないことも多い。 帰国時が中学3年もしくは中学2年後期である場合、本人の意思により、1年下の学年から編入することがまれにある。また、卒業時に帰国がぶつかってしまう場合、日本の学校を受験せずにそのまま現地の学校に進学するケースもある。
[編集] 大学の帰国子女特別選考
今日では多くの大学が帰国子女に対する特別選考(帰国子女(帰国生徒)枠)を設けている。これは帰国子女が通常の日本国内の教育を受けていないために一般の入試に対応することが困難であるために設けられた制度である。「書類・試験・面接」を元に行われる。尚、ほとんどの大学では書類選考を第一次選考としている。 第一次選考では、現地の成績、推薦状、卒業証書、活動(部活、学校以外の教養)、SAT、ACT、GCE、仏バカロレア、独アビトゥア、IB等の各国の実施している統一試験と英語能力試験のTOEFLの点数の提出を求めている大学がほぼすべてである。 第二次選考の試験では、専門科目に加えて論文を課する大学が多い。一般常識、時事用語等の試験を課する場合もある。一部の国立大学においては、センター試験の一部を課するケースもある。 その後に行われる面接では、専門科目の口頭試問に加えて、海外生活で培った知識や考え方や、受験生個人の資質・適性も問われる。面接が最大の難関と言われることもある。
[編集] 脚注
- ^ コロラド大学内 日本語教師会 『語彙獲得達成レベルにおける第一言語と第二言語の相関性:継承日本語の観点からの考察』
- ^ 母語・継承語・バイリンガル研究会『事例4. 帰国子女教育の現場から』(Word形式ファイル)
- ^ 私情つうしん 2002年7月 第24号『セミリンガルの落とし穴』
- ^ 海外子女教育振興財団 在外教育施設事務長等会議 分科会『教育課題にかかわる件』補習授業校グループ