多言語
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多言語(たげんご)とは、複数の言語が並存すること。もしくは英語の「multilingual」 の訳。また、一個の人間、国家・社会、文書、コンピュータ、ウェブサイトやソフトウェアなどが、複数個の言語に直面したり対応したりすること。 以下に、多言語の例を列挙する。
- ある人間が複数の言語を使用可能なとき、それを多言語話者あるいはポリグロットと呼ぶ。
- 地球規模で展開するインターネットは、多言語の国際組織のような多言語社会である。
- 多言語対応(多言語化, m17n; multilingualization)
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[編集] 多言語話者
多言語話者 (multilingual, polyglot) は、二種類以上の言語能力を持っている人のことである。そのうち、二種類の言語を扱う者をバイリンガル (bilingual)、三種類をトライリンガル(trilingual)と呼ぶ。
実際、複数言語を同等に扱うことができる人はまれで、バイリンガル・マルチリンガルは、状況・話題・聞き手などに応じて言語を使い分けているのが普通である。ポリグロットどうしの一連の会話で複数の言語を織り交ぜる現象(コード・スイッチ)が観察され、それに関する研究も盛んである。
一人の人間が多言語 (multilingual) であるのは、組み合わせによっては二種類だけでも困難である。言語は子供のうちでないと習得が難しい(臨界期説)ため外国語の習得には若い方がよいという主張もあるが、定説には至っていない。また、幼すぎても母語の確立ができないというジレンマがある上、外国語を習得した人材が相次いで海外流出してしまうといった深刻な社会問題に発展する可能性も高い。
ある個人が多言語話者になる要因としては、個人的なものと社会的なものの2つがある。前者の例としては、日本のような圧倒的モノリンガル社会にやってきた移民や出稼ぎ労働者が当てはまる。後者の事例としては、スイスやベルギーなど複数の言語共同体が共存している場合である。しかし、こういった多言語状態を政府は嫌うのが常で、言語政策・言語計画の名の下に「標準語」の策定・普及を推し進め、方言・少数(移民)民族の言語を抑圧し排除されるケースが多々見られる。また、ドイツ語圏やアラビア語圏のように同言語の標準語(公共・教育など)と地方方言(日常生活など)に機能的優劣が付けられた社会も存在し、ダイグロシアと呼ばれる。
ちなみに、一言語のみ習得している者はモノリンガル(monolingual)、二言語の環境にいたものの母語と二言語目の両方において年齢に応じたレベルに達していない者はセミリンガル(semilingual)と呼ばれる。近年セミリンガルという言葉が否定的だという意見が増え、ダブル・リミテッド(double limited)という名称が広まりつつある。ダブル・リミテッドは、日本において帰国子女や日本に住む外国人児童の間に散見されるため、とくに教育関係者の懸案事項となっており、言語学や教育学の専門家による研究が広く行われている。[1][2] 言語獲得は環境および年齢差・個人差が大きい上に、日常会話能力(BICS)はバイリンガルであっても、抽象思考や学習のための言語能力(CALP)がダブル・リミテッドの状態にあり教科学習に支障をきたす者もいる。何をもってバイリンガル、何をもってダブル・リミテッドと判断するのかは未だ曖昧である。
[編集] 2つ以上の公用語が存在する国
- 北米
- アジア
- インド:ヒンディー語の他、英語など多数あり、その数は21にも及ぶ。
- シンガポール:英語・マレー語・中国語(北京語)・タミル語
- 台湾(中華民国):中国語(北京語・客家語・台湾語)
- 中華人民共和国:中国語(北京語)であるが、数多くの方言(上海語・福建語・広東語など)がある。
- 香港(中華人民共和国):英語・中国語(広東語)
- マカオ(中華人民共和国):ポルトガル語・中国語
- フィリピン:フィリピノ語・英語
- スリランカ:シンハラ語・タミル語
- 東ティモール:テトゥン語とポルトガル語の他、インドネシア語、英語、多数の部族語がある。
- フィリピン:フィリピノ語・英語
- ブルネイ:マレー語・英語・中国語
- パラオ:パラオ語・英語など。(国ではないがアンガウル州は世界で唯一日本語を公用語としている)
アフリカでは、大多数の国々が二つ以上の公用語を有する。この他、公用語ではないが多種多様な言語が用いられている国や地域がいくつもある。
- 4ヶ国語以上の言語を話す著名人
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[編集] 参考文献
- ^ コロラド大学内 日本語教師会 『語彙獲得達成レベルにおける第一言語と第二言語の相関性:継承日本語の観点からの考察』
- ^ 母語・継承語・バイリンガル研究会『事例4. 帰国子女教育の現場から』(Word形式ファイル)
[編集] 関連書籍
- Crystal, David (2003), A Dictionary of Linguistics & Phonetics, 5th edition, Blackwell. p. 51 ISBN 0631226648
- Columbia University Press (2004), bilingualism in The Columbia Encyclopedia, 6th edition, Columbia University Press.
- Trask, R. L. (1998), Key Concepts in Language and Linguistics, Routledge. pp. 30-1 ISBN 0415157420
- JACETバイリンガリズム研究会 [編] (2003)、『日本のバイリンガル教育』、三修社。ISBN 4384040067
- 唐須 教光 (2002)、『なぜ子どもに英語なのか』、日本放送出版協会。ISBN 4140019565
- 山本 雅代
- (1991)、『バイリンガル』、大修館書店。ISBN 4469243078
- (1996)、『バイリンガルはどのようにして言語を習得するのか』、明石書店。ISBN 4750308846
- (2000)、『日本のバイリンガル教育』、明石書店。ISBN 4750313246
- 角山 富雄、上野 直子 [編] (2003)、『バイリンガルと言語障害』、学苑社。ISBN 4761403047
- 櫛田 健児 (2006)、『バイカルチャーと日本人』、中公新書ラクレ。 ISBN 4121502124