平仮名
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平仮名(ひらがな)とは、日本で使用されている日本固有の音節文字である。仮名の一種で、万葉仮名をその起源として成立した。
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[編集] 概要
五十音で整理される。辞書の配置はひらがなの五十音順に基づく。いろは順も参照。
平仮名は日本語を記述する上で主に次のような状況で用いられる。
- 動詞・形容詞・形容動詞の活用語尾などの送りがなや助詞・助動詞の部分
- 日本固有の事物を表す言葉で、該当する漢字が存在しないものであって、和製漢字も存在しないもの
- 漢字を用いず仮名を用いることが一般的であるもののうち、片仮名を用いないもの
日本語教育においては、片仮名と並んで最も基本的な文字であるため、他の文字で表記されるべき語句を、想定される読者が音読することが難しいと思われる状況で、代用もしくは注釈(ルビ)として用いられる場合がある。
[編集] 仮名の一覧
あ行 | あ | い | う | え | お |
---|---|---|---|---|---|
安、阿、愛 | 以、伊 | 宇、有 | 江、衣、盈 | 於 | |
か行 | か、が | き、ぎ | く、ぐ | け、げ | こ、ご |
可、加、香 | 幾、木、起、支、貴 | 久、具 | 計、介/个、希 | 己、古、許 | |
さ行 | さ、ざ | し、じ | す、ず | せ、ぜ | そ、ぞ |
左、佐、散 | 之、志 | 寸、春、須、寿 | 世、勢 | 曽、楚、所 | |
た行 | た、だ | ち、ぢ | つ、づ | て、で | と、ど |
太、多、堂 | 知、地 | 川/州/都、徒 | 天、帝 | 止、登 | |
な行 | な | に | ぬ | ね | の |
奈、那 | 尓、仁、耳、二 | 奴、努、怒 | 祢、年 | 能、乃 | |
は行 | は、ば、ぱ | ひ、び、ぴ | ふ、ぶ、ぷ | へ、べ、ぺ | ほ、ぼ、ぽ |
波、者、八、盤 | 比、飛 | 不、婦 | 部、遍 | 保、本 | |
ま行 | ま | み | む | め | も |
末、万、満 | 美、三 | 武、無、无 | 女、免 | 毛、裳 | |
や行 | や | ゆ | ** | よ | |
也、屋 | 由 | 江、要 | 与 | ||
ら行 | ら | り | る | れ | ろ |
良、羅 | 利、里 | 留、流、類 | 礼、連 | 呂、路 | |
わ行 | わ | ゐ | ゑ | を | |
和、王 | 為、井 | 恵、衛 | 遠、越 | ||
ん | |||||
无 |
- * 崩す元になった漢字のこと。或いは、崩している字を別の書体で表したもの。
- **ヤ行のエについては相当する仮名がコードに存在しないので、画像で示した。字母は「江」で、音韻は /ye/ 或は国際音声字母で子音は硬口蓋接近音 [j]なので、[je]。10世紀前半ごろには使用されなくなっているため五十音やいろはには含まれない。
[編集] 歴史
ひらがなの元となったのは万葉仮名である。「あ」は「安」、「い」は「以」に由来するなど、万葉仮名として使用されていた漢字を極端に草書化して成立した文字である。既に奈良時代の正倉院文書に字形や筆順の上で平安時代の平仮名と通じるものがいくつか見られ、また平安初期の訓点資料でも、漢文の訓点を記すのに、漢字の字画の一部を省略した片仮名系の文字に混じって平仮名系の文字が一定数使用されているが、この段階ではあくまでも万葉仮名の文字体系に属していたものと見るべきである。同様に『藤原有年申文』(867年)や同時期の『智証大師病中言上艸書』などの文書類に見られる草体の文字も、字形としては平仮名に近づいてはいるものの、やはり万葉仮名の文字体系に属する草仮名として捉えられる。しかしながら、宇多天皇宸翰『周易抄』(897年)では、訓注に草仮名を、傍訓に片仮名を、それぞれ使い分けており、この頃から平仮名が独立した文字体系として次第に意識されるようになっていたことが窺える。古今和歌集(905年)は当然平仮名で記されていたものと思われるが、原本が残っておらず断定はできない。935年頃には紀貫之が『土佐日記』を著しているが、こちらは藤原定家が原本の最終帖を臨模したものが伝えられており、確実に後世の平仮名と同じ字体で記されていたことがわかる。951年の『醍醐寺五重塔天井板落書』になると、片仮名で記された和歌の一節を平仮名で書き換えており、この頃には平仮名は文字体系として完全に独立したものとなっていたと言うことができる。
貴族社会では女性或は私的な場で用いるものとされ、女流文学が平仮名で書かれた以外にも、和歌、消息などには性別を問わず平仮名を用いていた。そのため女手(おんなで)とも呼ばれ、平仮名による最初期の文学作品である紀貫之の作品『土佐日記』も作者が女性であるという前提に立って書かれている。平仮名で書かれたものは、漢文のものより地位が低く見られていたが、中国との公的交流が絶えて長くなるにつれて、勅撰の和歌集が出されるまでに進出した。
字の数は万葉仮名で用いられた字数に比べて圧倒的に少ないが、それでも平安時代は300種ほどの字が見られた。室町、江戸とくだって明治に入る頃には、百数種にまで減少していた。最終的には、1900年の小学校令において一音一字の原則が立てられ、それが結局普及した。小学校令に使われなかったかなを変体仮名と呼ぶ。
小学校令の一音一字の原則で字数が減ったことからもわかるとおり、複数の字形が一音に対して行われていた。たとえば、音「え」に宛てる仮名は、「衣」を崩したものや「江」を崩したものが使われ、「衣」を崩したものが結局小学校令で採用されるが、しかし、「江」を崩したもののほうが、使用頻度は高かったのであった。一音多字の環境では、複数の字体が並行して行われることが珍しくなかった。ほとんど特定の字形を用いる音でも、時折別様の字形が用いられることもあった。また、崩し方の違いによる字形の大きな違いというのもあり、例えば、「お」は、「於」を崩したものであるが、「於」の俗字体で、「方」が「手」になっているものを崩したものを略した字形のほうが、多く流通していた。
[編集] 平仮名の読み(ローマ字表記)
ローマ字を参照せよ。
[編集] 特殊な音(アイヌ語表記用や実用された例がある古い音等)
あ゙行 | あ゙ | い゙ | ゔ | え゙ | お゙ |
---|---|---|---|---|---|
a゙?行 | ? | ? | ? | ? | ? |
うぁ行 | うぁ | うぃ | うぅ | うぇ | うぉ |
wha行 | wha | whi | whu | whe | who |
う゛ぁ行 | ゔぁ | ゔぃ | ゔぅ | ゔぇ | ゔぉ |
vha?行 | vha | vhi | vhu | vhe | vho |
か゚行 | か゚ | き゚ | く゚ | け゚ | こ゚ |
nga行 | kha | khi | khu | khe | kho |
くゎ行 | くゎ | ||||
kwa?行 | kwa | ||||
さ行 | さ゚ | し゚ | す゚ | せ゚ | そ゚ |
sa行 | tsa | tsi | tsu | tse | tso |
た行 | てゃ | てぃ | てゅ | てぇ | てょ |
ta行 | tha | thi | thu | the | tho |
は行 | ふぁ | ふぃ | ふぇ | ふぉ | |
ha行 | fa | fi | fe | fo | |
わ行 | わ゙ | ゐ゙ | ゔ | ゑ゙ | を゙ |
wa行 | va | vi | vu | ve | vo |
- 「n、m」
※「ゐ」「ゑ」は、歴史的仮名遣や人名などの固有名詞において用いられる。 ※( )内は昔の音。