旧エルサレム聖書
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エルサレム聖書(-せいしょ)はカトリックによる聖書翻訳で、1966年に初めて英語訳が公開された。
[編集] 概説
膨大な量の脚注をはじめとし、プロテスタントの聖書に収録されている資料なども盛り込んでいることが特徴。
1943年、ときのローマ教皇、ピウス12世は回勅「ディヴィノ・アフランテ・スピリトゥ」(Divino Afflante Spiritu)の中で、過去にヒエロニムスによってラテン語で書かれたウルガータではなく、現代のカトリック教徒のための聖書翻訳を、新たにヘブライ語やギリシア語の原典から行う如何について促した。これを受けて、エルサレムのドミニコ会聖書研究所や学者らは聖書のフランス語翻訳を行い、1961年、「エルサレム聖書」(La Bible de Jerusalemm)として出版された。
エルサレム聖書の特徴として、ユダヤ人の経典であるタナハに基づくテトラグラマトン(いわゆるヤハウェ神)の解釈において「主」や「神」といった記述を一本化するといった、それまで見られなかった方針があげられる。「ヤハウェ」はもともとヘブライ語であり、ヘブライ文字では母音を記さず、יהוהと綴る。神聖な神の御名ということを以って長らく発音されず、綴りをラテン文字に直し、「YHWH」としたことによって誤解が生じたという歴史的背景が存在する。なお、世界英語聖書(WEB)やアメリカ標準版(ASV)の修正版では「ヤハウェ」と書かれるが、アメリカ標準版(ASV)および新世界訳聖書では「エホバ」が使われている。
このフランス語聖書は1966年、英語に翻訳され、これが初めての英語訳カトリック聖書となる。英訳は表向きにはヘブライ語やギリシア語を原典としていることになっていたが、基本的にはフランス語を英訳し、その上でヘブライ語やアラム語の原典と比較し、監修を行うことによっており、概ねフランス語の逐語訳といってよい。
しかしヨナ書の翻訳を担当した人物が『指輪物語』などで知られる作家、J・R・R・トールキンであるということを以って、これが看板となり、文学的な側面でこの翻訳聖書は賞賛されることとなる。一方、その内容は新アメリカ標準訳聖書に対して哲学的な側面を持ち合わせ、また、随所に現代的な見解を反映させ、科学に基づいた学者の結論を盛り込んでいる。例えば、創世記をはじめとするモーセ五書は、その名の示すとおりモーセが書いたとされていたが、こうした概念を覆し、否定した内容などがあげられる。
エルサレム聖書は17世紀に翻訳されたドゥエイ訳以来、初めて広く受け入れられた英訳カトリック聖書となった。カトリック教会により、信条や主義といったすべてにおいて正当であるとされ、また、プロテスタントの内容を包括する懐の広さなどによりプロテスタントからも用いられる質を持ち合わせていたことによるといえる。英訳はアメリカ中西部の言い回しを含んでいるといえるが、概ねイギリスとアメリカのいずれの英語圏においても受け入れられる内容になっており、20世紀における優れた英訳聖書のひとつに数えられた。
1973年、フランス語版は改稿され、更に1998年には第3版が編纂された。一方、英語版は1985年に最終改訂に到った。この新たな英訳聖書は新エルサレム聖書(NJB)として知られており、フランス語版を介さずにヘブライ語やギリシア語の原典から改めて翻訳されなおした、旧来のエルサレム聖書のルーツからは切り離されたものとの位置付けができる。