燃料噴射装置
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
燃料噴射装置(ねんりょうふんしゃそうち、 "fuel injection system" )とは、エンジンに採用されているパーツで、キャブレターの代わりに燃料を直接噴射する装置のこと。電子制御式が主流。
目次 |
[編集] 概要
古くからある技術の一つであり、第二次世界大戦前にはドイツ空軍戦闘機、メッサーシュミットBf109のエンジン、DB601にも用いられていた。短時間のマイナスGには耐えられたという。
自動車への適用は1954年に発表されたメルセデス・ベンツ・300SLが最初であり、同時に世界初のガソリン直噴エンジンでもあった。
インジェクタを吸気バルブの直近に装着できること、霧化が良いこと、およびキャブレターを使用した場合のベンチュリー部が存在しないため吸入空気流路の抵抗が低減できること等により高レスポンス / 高出力を得ることが可能となった。
現代の自動車用エンジンにおいては、コンピュータを利用して細かに噴射量を制御しており、空気と燃料の混合割合を理論空燃比に近づけることや状況による空燃比の細かい制御が可能となっている。そのため、燃費向上と環境にやさしい燃焼やパワー重視の燃焼が可能で、多くの四輪車や一部の二輪車にも搭載されている。ただし、作動には電気が利用されるため、完全にバッテリーの上がった車両ではエンジンを始動させることは困難である。また燃料はポンプにより圧送されており、燃料パイプは高圧にさらされるため金属製となっている。
オートバイでは1980年代に本田技研工業が電子制御の燃料噴射装置付きエンジンを実用化し、日本国内では川崎重工業が先頭を切って車両を販売したものの、トラックに搭載されることの多い高出力の違法無線(CB無線・パーソナル無線)により、暴走したりエンストするなどの問題が多発したために影を潜めてしまったが、最近では信頼性の向上や技術的に熟成されてきた事もあり、性能向上に伴う出力の大幅な増加や近年の環境問題に対する対策で、400cc超の大型車から採用されてきている。
2003年10月3日には本田技研工業が最小となる燃料噴射装置つきの49ccの4サイクル原動機付自転車用のエンジンを開発したことを発表して話題になり、2004年10月にはスズキが燃料を重力落下式とした燃料噴射装置(ディスチャージポンプ式)を開発したが、この技術は燃料ポンプや金属パイプを不要とし、樹脂やゴムパーツを多用した燃料噴射装置となっている。これは同社の49ccの4サイクル原動機付自転車「レッツ4」から採用されており、メーカー側では安価かつ機構の信頼性が高いことを売りにしている。
なお大型自動二輪車などでは、一つのボアに直列に二つのバタフライバルブ(ツインバルブなどとも呼ばれる)を設け、片方をアクセルワイヤーで駆動し、もう一つをECUで制御する方式を採用している車種がある。これは燃料噴射装置が直接開閉式キャブレターに近い特性を持っておりエンジン出力が急激に立ち上がる特性のため、ECUによってバルブを制御し、負圧開閉式キャブレターに近い特性を与えて操縦性を向上させる工夫がされている。一種のTCSでもある。
レシプロ機関を持つ民間用航空機への電子制御式燃料噴射装置の採用は、信頼性その他の理由で自動車用に比べやや遅かった。だが1990年代以降の新製機ではほぼ全面的に置き換わった。高度により大気圧(空気密度)が変化する航空機では、混合比コントロール操作が操縦者の負担であったが、電子制御により自動化が容易となった。
[編集] 制御方式
[編集] 機械式
燃料噴射量の決定に電子式の演算装置を用いないもの全般を指す。
- クーゲルフィッシャー式:基本構造、システムとしては、ディーゼルエンジンの燃料噴射と同様で、気筒数分のカムとプランジャーを内蔵させたインジェクションポンプをエンジンの動力によって作動させ、各気筒の吸気ポートに噴射させる方法をとる。噴射量の制御も、ディーゼル同様、アクセル開度に連動した遠心ガバナーとラックアンドピニオンによる、プランジャーの圧縮ストローク制御となる。1960年代から1970年代前半のポルシェ、ベンツ、BMWなどに使用例がある。
- ボッシュ・Kジェトロニック式:ディーゼル機関用の燃料噴射装置の流用では機構構造が複雑で高価となるので、量産車用として開発されたのがKジェトロニックである。フラップ式のエアフローメータが噴射量を制御するプランジャに構造的に直結している。カムによる加圧を行わず,また燃圧も上記ディーゼル流用タイプに比べ低い(後年の電子制御式燃料噴射に比べればやや高いが)ことが特徴で、全気筒に対し連続的に燃料噴射を行う。
- ボッシュ・KAジェトロニック式:三元触媒装着車に対応するため排気中のO2(酸素)センサー信号に応じた噴射量の制御機能を追加したタイプ。O2センサー信号は簡単なコンピュータにより処理され燃料噴射量を制御するという意味では「電子制御式」であるが、主要な燃料噴射の制御はKジェトロニック同様のフラップ式エアフローメータが制御プランジャと構造的に直結しているもの。
この時期の機械式インジェクションは、主にエンジンの出力アップを目的としていたため、その後の排出ガス浄化には適応できず、電子制御式に取って代わられた。
[編集] 電子制御式(KEジェトロニク)
吸入された空気量をバタフライ・フラップ式のエアフロセンサーで計測するシステムで、その他は機械式のインジェクションシステムと変わりが無かった。ただし、エンジンコントロールユニットに電力が必要だったために、バッテリーが上がると始動する事が出来ない。排気ガス浄化としてO2センサーと三元触媒を装着して対応するようになった。
[編集] 電子制御式(Dジェトロニク)
吸入された空気量を直接計測するシステムではなく、プレッシャセンサーで計測したスロットルボディ付近の吸入空気圧を基本データとし、吸気温センサーで計測した吸入空気温度とスロットル開度センサーからのスロットルバルブ開度の情報を補足データとして、吸入された空気量を予測する。これも初期タイプは出力アップのみを目的としていたが、O2センサーと三元触媒を装着することによって、排気ガス浄化システムとして継続している。 コストが抑えられるため、日本では気筒数の少ない軽自動車や小型自動車用のインジェクションシステムとして使用されている。
[編集] 電子制御式(Lジェトロニク)
吸入された空気量をエアクリーナーとスロットルボディの間に装着したエアフローセンサーで直接計測することで、吸入空気量を基本データとして燃料噴射量を決定する。 エアフローセンサーは、初期タイプではバタフライ・フラップ式の物が使われていたが、これだと吸気管内での抵抗になるため、ホットワイヤー式やカルマン渦流式のエアフローセンサーが採用されるようになった。 吸入空気の脈動による計測誤差が少ないので、気筒数の多いエンジンに採用されることが多い。また、吸入空気を過給するターボチャージャーやスーパーチャージャーを装着させたエンジンにも向いている。 三元触媒が排出ガス浄化に用いられるようになり、O2センサを用いたフィードバック制御が必要になった時期から急速に発達した。
なお、二輪車等で排出ガス規制の対象外車種においては、電子制御式といっても主としてアクセル開度と回転数から噴射量を決定しており、実際の吸入空気量(質量)を計測していない。
[編集] 各自動車メーカーでの呼称
- EFI(Electronic Fuel Injection) - トヨタ自動車・ダイハツ工業・ヤマハ発動機での呼称。
- EGI(Electronic Gasoline Injection) - 日産自動車・マツダ・富士重工業。日産・ECC(電子制御キャブレター)及び(日産自動車では、燃料噴射装置を含めたエンジン集中制御システムECCS(Engine Central Control System)を併記している場合が多い)
- PGM-FI(ProGraMmed Fuel Injection) - 本田技研工業での呼称。採用されていればF1から4サイクル50ccまで同一の名称が使用される。
- ECI-MULTI(Electronic Controlled Injection-Multi) - 三菱自動車工業での呼称。尚、Multiとは、各シリンダーに1つずつ噴射装置が装備されているということを表す。
- EPI(Electronic Petrol Injection) - スズキでの呼称
- ECGI(Electronically Controlled Gasoline Injection) - 、1970年にいすゞ自動車が日本で最初に開発した自動車用アナログECUによるシステム。最初に採用されたモデルは117クーペ。
- DFI(Digital Fuel Injection) – 川崎重工業製のオートバイに採用されている燃料噴射装置の呼称。