電波伝播
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電波伝播(でんぱでんぱ)、電波伝搬(でんぱでんぱん)とは、電波が空中を伝わり、離れた所に到達することである。電波伝播は自然現象に影響され周波数、時間、ロケーション(位置関係)によって大きく左右されるため、無線通信を行う上でその性質を理解することは重要である。
自然現象が原因で通常とは異なる電波伝播が発生することを異常伝播という。
なお、伝播と伝搬の両方の漢字が使われるが、電波法上は伝搬が使われているため、無線従事者の免許を取得して放送や通信関連の仕事をしている人には伝搬のほうが通りがいいと思われる。
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[編集] 周波数による分類
電波伝播の分類をモードと呼ぶ。自由空間、および導波管の内部における電波伝播に用いられる用語である。周波数による伝播モードの分類を示す。
周波数帯 | 周波数 | 伝播経路 | |
---|---|---|---|
VLF | 極長波 | 3 - 30 kHz | - 地球と電離層の間に沿って伝播 |
LF | 長波 | 30 - 300 kHz | - 地球と電離層の間に沿って伝播
- 地表波 |
MF | 中波 | 300 - 3000 kHz | - 昼間は地表波
- 夜間は電離層(E層)反射 |
HF | 短波 | 3 - 30 MHz | - 電離層(E層)反射
- 電離層(F層)反射 |
VHF | 超短波 | 30 - 300 MHz | - 見通し距離の直接波
- 電離層(Es層)反射 |
UHF | 極超短波 | 300 - 3000 MHz | - 見通し距離の直接波 |
[編集] 経路による分類
[編集] 地上波
電波が地球上の地面に沿って伝播する場合には、2点間を直線で結んだ経路上を伝播する直接波、および電波が地面に反射して伝播する大地反射波がある。地上と人工衛星間の通信を直接波に含む場合がある。特にマイクロ波は光と類似した性質を持つため、基本的にこの経路で見通し範囲内に伝播する。
超短波、極超短波においては、地表面や山岳などで電波が回折することにより、見通し距離よりも遠くに伝播する場合がある。これを回折波という。電界強度は、ごく短い距離を除く見通し距離では距離の2乗に反比例、直接波が到達せず地表面に沿って回折する距離では距離の4乗に反比例する。
近距離においては直接波と大地反射波が干渉するため、電波の放射点からある距離において急激に電界強度が減少することがある。
中波以下においては回折の作用が強く、地表面に沿って電波が伝播する性質が強い。これを地表波と呼ぶ。
[編集] 上空波(電離層反射波)
地表面から上空50~500km付近には、電子密度が高い電離層と呼ばれる層が存在する。主に短波帯の伝播が電離層によって反射し、見通し距離よりも遠方に伝播する。また電子密度が非常に高いスポラディックE層と呼ばれる電離層が発生すると、超短波の電波も影響を受けることがある。
[編集] 対流圏波
地球の大気は上層ほど希薄なため、地表面から水平に放射された電波は大気中でわずかに下方に屈折して伝播する性質がある。また、気温や湿度の影響により大気中に屈折率の不連続面ができると、電波が不連続面で屈折・反射しながら伝播することがある。このように、大気中に不連続面が存在するため電波が通常と異なる経路で伝播することをラジオダクトと呼ぶ。主に極超短波で見通し距離をはるかに超える異常伝播として発生する。
[編集] 異常伝播
異常伝播には次のような例がある。
- スポラディックE層
- デリンジャー現象
- 磁気嵐
- ロングパス
- 電離層の影響により、地球上の最短経路以外の経路による伝播が強くなる場合。
- エコー
- 電波が地球を1周するには約1/15秒を要するため、ロングパス、あるいは地球を1周、2周した電波がともに到達するとエコーとして聞こえることがある。
- 赤道横断伝播
- 対蹠点効果(たいしょてんこうか、たいせきてんこうか)
- 宏観異常現象
- 大規模な地震の前後に異常伝播が発生するとされる主張も報告されている。