NHK受信料
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NHK受信料(えねえいちけーじゅしんりょう)は日本放送協会(NHK)が受信契約を締結した者から徴収する料金のことである。
単に受信料と言われることもある。
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NHK受信料の法的根拠
受信契約・受信料に関しては放送法第32条に規定されている(他条文の準用規定にも注意が必要である)。
- 放送法第32条(受信契約及び受信料)
- 協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、協会とその放送の受信についての契約をしなければならない。ただし、放送の受信を目的としない受信設備又はラジオ放送(音声その他の音響を送る放送であって、テレビジョン放送及び多重放送に該当しないものをいう。)若しくは多重放送に限り受信することのできる受信設備のみを設置した者については、この限りでない。
- 協会は、あらかじめ総務大臣の認可を受けた基準によるのでなければ、前項本文の規定により契約を締結した者から徴収する受信料を免除してはならない。
- 協会は、第一項の契約の条項については、あらかじめ総務大臣の認可を受けなければならない。これを変更しようとするときも同様とする。
上記条文により、条件を満たすテレビ等の受信設備を設置した者は、NHKと受信契約を締結する義務があることになる。
NHKは総務大臣の認可を受けた日本放送協会受信規約(以下「受信規約」と書く)を定めており、そこでは以下のように定めている。
- 受信規約第5条(抜粋)
- 放送受信契約者は、受信機の設置の月からその廃止の届け出のあった月の前月(受信機を設置した月にその廃止を届け出た放送受信契約者については、当該月とする。)まで、1の放送受信契約につき、その種別および支払区分に従い、次の表に掲げる額の放送受信料(消費税および地方消費税を含む。)を支払わなければならない。(以下略)
このため、受信契約締結義務者は、受信規約の条項によってNHKと受信契約を締結すると、民法上の規定によりNHKに対し受信規約に定められている金額の受信料を支払う義務が課せられることになる。 ただし、支払いの義務はあくまで民法の規定であり、民法において契約は「両者の合意がなければ成立しない」ものである。つまり支払い契約条項で合意しなければ、支払いの義務は成立しない。
受信料制度の目的
放送法には、受信料制度の目的がどのようなものであるかは特に明記されていない。なお、放送法の目的として以下三点があげられていることから、受信料制度も以下目的に資するとして規定されたと考えられる。
- 一 放送が国民に最大限に普及されて、その効用をもたらすことを保障すること。
- 二 放送の不偏不党、真実及び自律を保障することによつて、放送による表現の自由を確保すること。
- 三 放送に携わる者の職責を明らかにすることによつて、放送が健全な民主主義の発達に資するようにすること。
以下の受信料制度の必要性と問題点も参照のこと。
受信契約の種類・内容
NHKは、受信契約を日本放送協会受信規約により締結することにしている。法律上適切な手続きを取れば、他の条項によって受信契約をすることも可能であるが、現在のところそのような例は知られていない。
日本放送協会受信規約の内容
日本放送協会放送受信規約によると、受信契約は個人の世帯では世帯毎(自家用車に取り付けられているテレビ受像機も個人の世帯に含まれる)に、事業所の場合は設置する受信機毎に行うこととなっており、受信機の能力などに応じて「衛星カラー契約」「衛星普通契約」「カラー契約」、「普通契約」、衛星放送のみの受信を目的とした「特別契約」に分けられ(2007年に、「衛星普通契約」「普通契約」が廃止され、それぞれ「衛星カラー契約」「カラー契約」に一本化)受信料の金額もそれぞれで異なっている。さらに、生活保護を受けている者や災害被災者、聴覚・視覚障害者のいる世帯などは受信料の全額または半額免除といった処遇制度があったり、小中学校などで教育の為に使用するテレビにおいては課金しないといった制度もある。
受信料は原則的に前払い扱いであり、最低1期分(1期は2ヶ月)は払わなければならないとされている。但し、6ヶ月(支払いは6月と12月)・12ヶ月(支払いは6月または12月のどちらか)分をまとめて払ったり、訪問集金ではなく口座引き落としで払うなどすれば、月額に月数を掛けた金額よりも若干受信料は減額される。数ヶ月分前払いをしていて、その途中で受信設備を廃止し受信契約を解除した場合は、元々の前払いの月数及び残りの月数から精算を行い、返戻(へんれい)金を得ることが出来ることがある。この返戻金は、受信契約の解除手続きを行っておよそ3週間後に入金されることが多いようである。但し返戻が可能なのは、NHKに申し出て手続きをした月からとなるので、基本的に遡及返金はできない。
日本放送協会受信規約以外の条項による受信契約について
受信契約を締結する義務がある者であっても、法律上は日本放送協会受信規約で受信契約を締結することは義務づけられていない。
そのため、日本放送協会受信規約ではなく他の条項によって受信契約を結ぼうとする主張をする者がいる。多くは受信料を格安に又は無料にすることが目的であるように思われるが、日本放送協会受信規約によれば総合テレビ・教育テレビの片一方が受信できる場合と双方が受信できる場合の受信料が同一であるなど、当事者にとっては必ずしも合理的と言えない料金設定になる場合もある。このため、日本放送協会受信規約以外の条項(または日本放送協会受信規約の該当部分の改定)による契約を求める声を一律に不合理と言い切ることはできない。
日本放送協会受信規約ではなく他の条項によって受信契約を結ぼうとしたところ、NHKに受信契約を断られた者が受信契約締結義務を果たしているかについては微妙である。ただし、NHKが仮に「受信契約締結義務を果たしていない」として訴訟をするならば、NHK側から受信契約を断った事実があれば裁判上不利に作用すると考えられる。
受信契約締結時の割引について
日本放送協会受信規約によれば、契約が成立すればその条項により受信機設置時からの受信料を支払う事になる。しかし、NHKのスタッフが受信契約を締結するように訪問してお願いする際などに、受信機設置後で契約締結日以前の月の受信料を徴収しない場合があるとされる。
これも、厳密に言えば「日本放送協会受信規約以外の受信契約」を結んでいると考えることができる。
受信契約対象外の受信設備
NHKは以下のように主張していると言われる。法的な定義ではない。
- 放送法第32条に書かれた「放送の受信を目的としない受信設備」とは販売を目的として店頭に陳列・在庫している受信設備のことを指し、「多重放送に限り受信することのできる受信設備」とは放送事業者がその事業の為に他局の放送をモニタリングする目的で設置している受信設備のことを指すとのことである。
- チャンネル設定の変更またはチューナー設定をずらすことによりNHKの放送が見られないようにしても、一般の人が簡単にまた元に戻せる状態であるならば「受信することが出来る設備」と解釈されるとしている。
- 「NHKを見ている・見ていない」といった事実や「NHKを見たい・見たくない」という意志に課金するのではなく、「NHKを見る事が出来る」という受信設備の能力や「(将来的に)NHKを見る」という可能性に対して課金をしようとしているようである。
一方、NHKの受信契約制度に批判的な立場の者などからは、法律を根拠として以下のように主張されることがある。(なお、主張の詳細は人によって異なり、以下の一部のみを主張する者も多い。)
- ビデオ再生・DVD鑑賞・ゲーム機用のモニタ使用を目的として、例えばアンテナを設置せずにテレビを設置した場合は、放送の受信を目的としない受信設備であることから、受信契約締結の義務はない。携帯電話として使用することを目的として購入したテレビ付き携帯、ケーブルテレビの場合も同様である。
- アンテナ・フィルタの組み合わせ等により民放の放送が受信できるがNHKの放送が受信できないテレビを設置した者は、協会の放送を受信することのできない受信設備を設置しているので受信契約締結の義務はない。
- チャンネル設定を変更することまたはチューナー設定をずらすことでNHKの放送が受信できないテレビを設置している者は、設定を変更してNHKの放送を受信できるようにするまでは受信契約締結の義務はない。一般の人がすぐに設定を変更できる状態であっても、設定を変更するまでは協会の放送を受信することのできない受信設備である事実には変わりないことから、受信契約締結の義務はない。
ケーブルテレビでの受信契約義務
最近になって、ケーブルテレビでNHKを視聴する場合は受信契約の義務を負わないという主張をする者が増えているようである。これは、放送法と有線テレビジョン放送法のそれぞれの解釈から出てきたものである。
- NHK側の主張
- 放送法第32条1項では、協会の放送を「直接受信出来る」ではなく単に「受信出来る」となっている。このことは、アンテナを用いて直接受信しようがケーブルテレビによる再送信で間接的に受信しようが「受信出来る」には変わりなく、最終的にNHKの放送が視聴可能であればケーブルテレビであっても受信契約義務は発生する。アンテナが「自宅にあるか」「自宅以外にあるか」の違いだけであり、有線テレビジョン放送法にはその点についての表記が無いが、これは「書くまでもないこと」ゆえに他ならない。
- ケーブルテレビ契約者側の主張
- 放送法上で定義される「放送」とは「公衆によつて直接受信されることを目的とする無線通信の送信」(第2条1項)であるのに対し、有線テレビジョン放送法上で定義される「有線放送」とは「公衆によつて直接受信されることを目的とする有線電気通信の送信」(第2条1項)である。
- このため、放送法第32条1項ただし書きの「放送の受信を目的としない受信設備」に該当するので、受信契約の締結義務は存在しない。
- 有線テレビジョン放送法第17条にて「放送法第3条、第3条の2第1項及び第4項、第3条の3から第4条まで、第51条並びに第52条を準用する。」とあり、有線テレビジョン放送法内に明確に放送法からの準用部分が規定されている。しかしながら、放送法第32条については準用規定は設けられていない以上、受信契約締結の義務はないと法律上解釈するほかはない。
- なお、この場合は誰も受信契約を締結する義務を負ってはいないとされていることが多いが、ケーブルテレビ会社に受信契約を締結する義務があると主張されることもある。
なお、現在のところ一般のケーブルテレビ会社では、NHKの受信契約については「ケーブルテレビ視聴料金にはNHKの受信料は含まれておりません」とだけなっていることが多いようである。但し、ケーブルテレビにおけるNHK衛星放送の再送信については、その顧客の希望に応じて再送信を行わなかったりするところもあったり、またそのようにしようとしてNHK側から「公共放送」を理由に衛星放送も再送信するようかなり強い要請をかけたりしている実態もある。
受信契約の解約
放送受信契約の解約は、受信規約第9条に基づき、受信設備の故障等により撤去した・他人に譲渡したなどで受信設備を廃止した等の契約の必要性が無くなった場合に、NHKに対し受信設備廃止届を出すことにより受信契約を解約することが出来る。その手続き方法の詳細についてはNHKのサイトに記載されている受信契約相談窓口か、自分の住所を管轄するNHKの放送局・支局・営業センターを探し出して問い合わせをするとよい。
受信契約解除の際に受信料不払い(未納)分がある場合、その支払いを済ませてから解約するようNHKが要請してくる事がある。 法的には不払い・未納分があるからという理由で受信設備廃止届が受理されない事は無い。 NHKは、解約を防ぐために紛らわしい物言いをする事が有るようである。
また、消費者契約法に基づき「明確な説明の無い契約・強引な取り次ぎによる契約は無効」という理由や、民法第5条に基づく「未成年者の契約であり、親権者の許諾が無いものは、取消理由に当る」という理由により、受信契約の取り消し(解約ではなく取り消し)が行われる場合もある。
BSデジタル放送等におけるメッセージ表示
最近ではBSデジタル放送に限り、NHKチャンネル(BS-1・BS-2・BS-hi)に合わせた時に画面左下にNHKへ受信機設置の連絡をするよう促すメッセージが出ることがある(BS日テレなど、民間放送のチャンネルでは表示されない)。これは受信規約第7条に基づくもので、目的は受信料の公平負担を徹底することであり、受信を開始してから30日が経過した時点で設置届をまだNHKに出していない場合に表示される(衛星放送の受信契約を締結していても、受信機の設置届を出していないとメッセージが表示される)。
また、デジタル放送受信機に同梱されているB-CASカードのユーザ登録を行う際、「登録されたユーザ情報を使って各放送局がその利用案内を送ることに同意しますか」の選択肢で「いいえ」を選択していると、NHKに受信機を設置した情報が伝わらない為にメッセージが出るようになる。
メッセージ表示を消したい場合は、B-CASカードのユーザ登録の際に先述の選択肢で「はい」を選んで登録するか、メッセージ中に表示される所定の電話番号(フリーダイヤル)に電話をして自分の名前・住所・電話番号、受信機に同梱されていたB-CASカードの番号を言えば、その後NHK(BSデジタル)にチャンネルを合わせた時にB-CASカードのデータ更新が即座に行われてメッセージを消すことが出来る。
この設置届でNHKの受信契約が成立することにはならないが、NHK側で受信者としての情報を把握されることになる為、その後受信契約を締結しなければ訪問・電話などで衛星契約手続きをするよう話を受けることになる。
受信料制度の必要性と問題点
受信料制度の必要性
NHKおよび受信料制度の賛同者は、受信料は「NHKを見る・見ない」に対する対価ではなく、テレビ放送受信機所有者から公平に徴収される「特殊な公的負担金」であると主張する。そして、受信料制度には以下のような目的があることから必要性があると主張される。
- 公正な報道を行う為、政府・企業等の圧力に屈しないよう財源の独立性を維持する
- 国民の「知る権利(情報受領権)」を守る
- 一部の権力者等にとって都合の良い情報ばかりが流され、結果的にそれで国民が誘導されたり洗脳されたりすることを防ぐ
- 安定した財源を確保して視聴率等の市場経済の原理に流されない機能を維持する
- 放送普及の為に日本全国広くあまねく放送が利用出来るようにする
- 文化の(生活基盤を支える)担い手となり、国民の生命・財産を守る
- 情報を共有して地域の人々の結束を深める
- 視聴率が得られなくとも必要とされる教育放送・福祉放送・災害緊急放送を行う
- 視聴率の影響を受けると、視聴者の興味本位的な番組やスポンサーに迎合する番組制作が行われて放送内容が低俗化することなどが懸念されることから、それを防ぐことにより放送そのものの質の維持・向上を図る
- テレビ設置者に公平な負担を課すことによって、より民主的な事業運営を図る
- 株式会社の制度では、より多くの株を持っている株主がその会社を動かす権力を持っていると言える。このような事態になることを防ぐ為に特定の人や企業に負担が偏らないようにし、事業運営に民主主義を反映する
受信料制度の問題点
現行の受信料制度には様々な問題点が指摘されており、これらの理由から受信料制度の抜本的な変更や廃止が必要であると主張されることもある。また、このことを理由として放送法で受信契約の義務が定められていてもそれを締結しない者、受信料を払わない者もいる。
指摘されている問題点にはおよそ次のことがある。
- 「選択の自由」が無い・奪われている
- 実際の放送はNHKの放送以外にも無料・有料の民間放送が存在しており、例えば「無料の民間放送だけを見たい」「WOWOWやスカパー!といった特定の有料放送だけを見たい」と思っても、NHKには受信料を払わなければならないことになる。さらに法律の文面だけを見ると、NHKを視聴する意志が無く受信契約を望まない人はテレビが持てない状況を強いられることになる。それゆえ「何故、利用もしないものにお金を払わなければならないのか」「放送電波の押し売りだ」などと不満を持たれることになる。前述の通り公共放送の受信料は対価ではない「特殊な公的負担金」とNHKは主張しているが、WOWOWやスカパー!などの有料放送を視聴する権利を買う為の視聴料も視聴者が経済的負担をすることには違いないことから、「公共放送も有料放送ではないのか」という考えを主張する意見もある。また受信料は全額が消費税対象となっており、対価に類するものであると政令(消費税法施行令)に明記されている。
- テレビ所有者全員が受信料を払っていない
- 現在のところ、受信契約を締結せず受信料を支払っていなくても、実態としてNHKの視聴が可能であり、さらにはそれら視聴者に対しても事実上お咎め無しという状態になっている。また、「日本固有の領土である」と政府が主張する北方領土の受信機設置世帯からは徴収していないこと(外国政府が実効支配しており、徴収が困難なため)や、日本に駐留する在日米軍基地内に設置されているテレビに対しては受信料を徴収していないという実態もある。また、企業などの事業所の契約率が低く、大規模な企業であっても実際の受信機設置箇所数ではなく「全社で3台分契約」といったアバウトな契約も少なくない。ホテルや旅館の場合も、各部屋にテレビがあれば1室1契約必要であるが、正確な台数で契約していないホテル等も多い。これでは払う方が損だということで受信料を納めることを拒む人も多い。そもそも、日本国内における正確な受信機の設置箇所数がはっきりせず、正確な契約率を算出すること自体が不可能な状況なのである。また、2004年7月にNHKの不祥事が発覚して以来、受信料の支払いを拒否する世帯が急激に増え、受信料を払っている人が「なぜうちだけ払わなければならないのか」と不満を抱いている。
- 在日米軍基地の問題については在日米軍のNHK受信料問題を参照。
- 地域開発スタッフらが違法な勧誘を行っている
- 地域開発スタッフ(NHKから委託を受けて受信契約の取り次ぎや受信料の徴収業務などを行っている業者。通称:地域スタッフ、以下同じ)などが放送法32条1項の最初の段落のみを強調した上で、「不満があっても法律にはきちんと従え」「法律を守らないのは非常識だ」と、半ば命令口調・半強制的・強迫的に受信契約をするよう繰り返し要求したり、また早朝・深夜といった時間帯に突然訪問されること、戸をどんどんと叩く行為、受信契約書であることを告げずに「ここにサインをして下さい」などと氏名・住所を記入させ、印鑑を押させるなど違法なケースがある。NHKではスタッフに対して接遇教育を行ってはいるものの、効果が薄く言い訳のための教育となっているのが現状である。
- 地域開発スタッフはあくまでも「契約・集金代行業者」であってNHKとの雇用契約はなく、本来「NHKの者です」と名乗るのは職業詐称にあたる。また、地域開発スタッフに対して「帰って欲しい」との意思表示をしたにもかかわらず退去しない場合は、刑法130条不退去罪に処することもできる。よって地域開発スタッフの不退去により締結された契約は、消費者契約法4条により契約の取り消しが可能である。
- 放送内容が公共放送として相応しくない
- 本来公共放送は、報道の中立性を確保し、視聴率が得られなくても必要とされる放送等を行い、また視聴率稼ぎの為に放送内容が興味本位になることを防ぐ等の目的を掲げていたはずである。しかし実際は、野球中継の放送権を民間放送の相場以上の金額で獲得したりするのをはじめ、視聴率獲得を意識した過剰な演出・表現を行ったり、必要以上に娯楽番組が多かったり、特定の政治勢力や公的組織を擁護する放送に内容が傾いているのではないかということを指摘する者も少なくない。公共放送と言えども、結局自分の都合の悪いことは隠蔽する可能性があり、背後には国会や総務省等の国の機関があることから「報道の中立性を確保する」も机上の空論に過ぎないのではないか、またいかなる外力に屈しないということは、放送・事業内容も独善的になるのではないかという意見もある。
- 安定した財源と法律・政策で守られ、不必要に組織が巨大化している
- 民間放送は市場経済の原理のもと、その存続をかけて厳しい競争の中で動いているが、NHKは受信料収入という安定した豊かな財源が確保され、また特殊法人である故に法人税が免除されている等かなり保護・優遇された組織であると言える。その財源により不必要なまでに子会社を設立して受信料とは別に多くの利潤をあげ、多くの官僚・上層部の天下り先になっているということ、また不必要な事業に多額の投資をしすぎているのではないかとの声もある。そんな中、2004年夏頃に多額のNHK番組制作費用がNHK番組プロデューサーらに着服される事件などの不祥事が相次いで発覚し、それにより従来から受信料を払っていた世帯からも受信契約の廃止・受信料支払いの拒否をされるに至っていることがある。
- もう民間放送のみでも十分ではないのか
- 報道関係の番組や災害緊急放送等は民間放送でも行われており、災害の被災者等の中には公共放送でなくても・民間放送だけでも十分事足りるという考えを持つ者も増えている。柔軟な番組編成や教育番組の充実、衛星放送やデジタル放送など新たな放送技術の開拓など、受信料制度が果たしている役割を評価する一方、日本全国に広くあまねく放送が利用出来るインフラ整備も成熟し、無料で視聴出来る民間放送やWOWOW・スカパー!などの有料放送も多く存在するようになった現在、公共放送・受信料制度を存続させる必要性を疑問視する声もある。
- NHKの経営に視聴者が参加できない
- NHKは受信料を支払う視聴者の放送局であるはずなのに経営に視聴者の意思を反映する手段が限られており、経営委員会や放送番組審議会の構成員は企業経営者や学識経験者が占めていて視聴者の意見を代弁しているとは言い難い。また、NHK会長の記者会見にマスコミ関係者以外の視聴者が出席する方法が無い。
こういった声は政界の一部からも聞かれたが、2006年1月から自民党の通信・放送産業高度化小委員会等の場で「放送受信料の支払拒否に対する罰則の導入」を内容とする放送法改正の検討を始めてられており、受信料制度廃止の実現は困難な情勢となっている。
スクランブル化について
現在、受信料不払いや受信契約の解消等の問題がある一方で、受信料を払わずともNHKが視聴出来てしまうということや、NHKを視聴していないにもかかわらず受信料が課金される等の不公平感を無くす為、NHKの放送(地上波・衛星放送)については契約者のみに見せるスクランブル方式を導入しようとする討論もなされているようである。今後、デジタル放送に順次切り替わっていくに伴いスクランブル化は技術的に困難ではないとも考えられるが、「特定の人にしか視聴出来なくすることは情報に自由にアクセス出来なくなることになり、高い公共性が失われることになる」「経済的に窮地に立たされている人に対し情報格差を生じさせることになるのではないか」ということを懸念する声もあり、NHKとしては現在のところスクランブル方式を導入するという見解は出していない(つまり、スクランブル化は避けるべきであるという見解を出している)。なお、受信料の義務化・罰則化という流れは、「受信料を払えなければ無料の民放すら見れない」という状況を意味し、スクランブル化以上の情報格差を生じさせる事になる。非常に矛盾に満ちた議論が展開されていると言える。
罰則について
放送法第32条第1項では、所定の条件を満たした者にNHKとの受信契約を義務付けている。しかしながら、条件を満たしているにもかかわらず受信契約を締結しない者に対する罰則は規定されていない。
罰則がない理由としては、以下の意見がある。
- 個人の自由意志を尊重するためである。また、放送法でテレビ設置者に受信契約を義務化すること・受信料を納めることを強要すると、日本国憲法第19条「思想・良心の自由は、これをおかしてはならない。」に抵触する恐れがある。
- 法律の力や公権力でNHKが存続することは、国営放送と何等変わらなくなると考えられることから、罰則を無くすことでNHK・受信料制度の存続について国民の判断にゆだねようとしている。
- 現行法上、NHKは受信契約締結義務者との契約を義務づけられておらず、受信契約締結をNHKに申し入れても契約を断られる可能性がある。このことから、受信契約締結義務者は、NHKが原因で受信契約を締結できない可能性がある。原因が他者(NHK)にある場合でも罰則を受けるのは不合理であるので、法律上罰則は規定されていない。
民法の一般原則を適用すれば、受信契約を結んだ上での受信料不払い(未納)については、契約不履行による損害を受けたとして、NHKは民事訴訟による損害賠償請求が出来ると考えることも出来る。受信契約を締結しない場合は、契約を結ばないこと自体を不法行為として考えることができる可能性があり、民事訴訟による損害賠償請求が出来ると考えることも出来る。いずれの場合も、法的手段による取り立てを行おうとした事例は無い。 また、受信設備廃止届を出す場合、廃止していないにもかかわらず廃止したと嘘を言って手続きをしたり、そうすることをそそのかしたりすると詐欺罪や業務妨害になる可能性も出てくるが、手続きにあたりNHKがその事実を確認する為に訪問・立ち入り調査をするといったことも行ってはいない。これも法的手段で受信料を取り立てることにつながり、ひいては国営放送と変わらなくなると考えられているからである。
但し現行の制度では、受信料はテレビ設置者全員からの公平負担を原則としている一方で受信契約をしない者や受信料を払わない者でもNHKが視聴可能であり、また法律の趣旨を全うしている契約者のみが損をするといった事態が起こっていることになり、これを問題視する意見も多い。これに対し「罰則を導入すべきだ」と主張する者もいる。またこういった問題を解消する為、地域開発スタッフらが日夜未契約者世帯を訪問してまわり、受信料制度の必要性を理解してもらうよう説得にあたっているが、これにかかる経費が年間800億円以上であるとも言われており、この経費がかかりすぎているとの指摘もある。
ちなみに日本の受信料制度には罰則が無いが、例えばTVライセンス制度を導入しているイギリスのBBCでは受信料の不払い者を独自の機器などを使って特定したり、訪問調査するなどし、違反者に対しては罰金1,000ポンド(日本円で約20万円)が科せられたり、裁判を起こされてその訴訟費用を請求されたり、警察から逮捕・拘留されるなどしている。このように国によって差違があるのは、その国のたどってきた歴史や文化・国民性の違いがあるからだと考えられる。但し、イギリスなどでもこのTVライセンス制度に対する反対意見・世論があるのも事実で(参考:TVライセンスの撤廃を求めるページ・英文)、「欧州人権規約に反する人権侵害だ」と民事訴訟が起こった事例もある。しかし、5年に毎に行なわれるBBCを公共放送として存続させるかの国民投票で、廃止票が過半数を占めていないので、イギリスの世論はいまのところTVライセンス制度を支持していると言える。また、フランスでも受信料制度廃止論が国会で議論されたこともあった。
なお、日本同様に罰則が無い受信料制度で運用がなされている国としてはイタリア (RAI) がある。
日本の受信料制度の歴史
かつて日本で放送が始まった頃は社団法人日本放送協会によるラジオ放送であり、この頃からラジオを聴くことに対する聴取料というものが存在していた。この当時はラジオ放送とは呼ばず「聴取無線電話」と称しており、まずラジオが聴ける設備を設置した場合、政府の管轄する逓信局から「聴取無線電話私設許可書」という許可証(免許)を得る必要があった。許可証には、「施設者は無線電信法及び放送用施設無線電話規則並びに之に基づく命令を遵守すべし」(現代文に変換して転記)とあり、それに基づき日本放送協会に聴取料を払うというしくみで、当時は「聴取料は当面1円(月額1円)」となっていたようである。聴取料を導入した理由は、放送を電話のように公益性の高い事業にすることで、民間企業による放送局設立出願を排除し、ラジオ放送を速やかに全国あまねく普及させるためであった。
戦前までは、無線電信法という当時の法律によって、電報や電話などの公衆電信や放送の運用・番組内容について規定し、放送事業を政府の一元的管理統制の下におくと共にラジオ放送を社団法人日本放送協会に独占させ、管理統制していた。戦後はGHQにより放送制度の民主化が進められることになり、1950年、現在の放送法などの電波三法を制定。これにより、民間企業による放送事業参入が認められるようになったと同時に、日本放送協会は社団法人から特殊法人に変わり、放送の普及と社会・公共の福祉の為の放送事業を行っていくこととなった。この際、政府・企業等の圧力に屈さないよういかなる組織に依存する体制を無くす必要があり、その結果、放送の受益者よりその負担金を徴収する「受信料制度」が誕生した。
なお、現在ではラジオの受信料というものは存在していないが、これが無くなったのは1968年5月からである。ラジオの受信料が廃止された当時のテレビの普及率は96.4%(うちカラーテレビは5.4%)である。また、1968年5月から続いていたテレビの白黒受信を目的とした普通契約が2007年に廃止され、カラー契約(同様に衛星普通契約も衛星カラー契約に一本化)に一本化される。これにより、テレビの受信料契約種別は地上波のみ受信を対象したカラー契約、地上波・衛星波両方の受信を対象とした衛星カラー契約、地形などにより地上波のテレビ放送がまったく受信できない地域など衛星波のみの受信を対象とした特別契約の3種類となる。
関連項目
外部リンク
- 日本放送協会(NHKオンライン)
- NHKインターネット営業センター
- NHK受信料について語り合いましょう
- 反NHK連合
- NHK受信料を考える
- NHK受信料制度と裏事情 - 情報公開制度を利用してNHKが公開した文書を公開