民間放送
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
民間放送(みんかんほうそう)は、主として民間の資本によって設立された放送事業者(放送法上の一般放送事業者)によって行われる放送をいう。受信料を主な収入源とする日本放送協会(NHK)、国営ではない放送大学学園、WINJ、CS放送事業者、ケーブルテレビ、ミニFMは含まない。かつては放送事業者の中に財団法人の形態を取るものもあった(例・初期の文化放送、財団法人日本科学技術振興財団時代のテレビ東京)。コミュニティ放送が誕生してからは、コミュニティ放送を含むかどうかについては議論がある(コミュニティ放送にはNPO法人経営の法人が誕生したため、現在も放送事業者はNHKでなくとも株式会社とは限らないことになる)。
「民放(みんぽう)」という略語が用いられるが、この語は民間放送を行う放送会社を指すことも多い。営利企業による放送なので、政府や日本放送協会を中心に「商業放送」という呼称も用いられていた。「民間放送(民放)」という言葉が使われるようになったのは、NHKが国営ないし国営に近いイメージがあることを利用したとみられる。現にこの言葉を使うことによって、NHKのこのイメージは強化されている。
目次 |
[編集] 概要
民間放送を行う放送会社は、放送法上は一般放送事業者と位置づけられ、一般放送事業者にはCS放送と同時に登場した委託放送事業者と受託放送事業者も含まれる。委託/受託放送事業者は衛星放送のみに見られる形態である。ただし、受託放送事業者は番組制作を行わないので、一般に民間放送事業者という語は地上系一般放送事業者と委託放送事業者を指す(これに有線放送事業者を含める場合もある)。
プラットフォーム事業者は委託放送事業者の取りまとめを行っているが、送信施設を持たないので受託放送事業者ではなく、番組制作を行わないので委託放送事業者でもない。放送事業者ではないが、委託放送事業者的な性格をもつ。日本民間放送連盟は地上系一般放送事業者と、BSデジタル上での一部の委託放送事業者のみを会員としている。
地上系一般放送事業者の場合、番組制作設備から放送用電波の送信施設(電波法上の無線局免許状の一種である放送局)まで一式を保有するが、委託放送事業者の場合は、自社で放送電波の送信施設を保有せず、番組コンテンツを製作し、衛星を保有する受託放送事業者に送り出すのみとなる。
民間放送事業者数は以下の通りである(2004年3月末現在、資料1・2による)。
- 地上系一般放送事業者 (362社)
- 衛星系一般放送事業者 (134社)
- BSアナログ放送 : 2 (単営 0 ・ 兼営 2)
- BSデジタル放送 : 19 (単営 13 ・ 兼営 6)
- 東経110度CSデジタル放送 : 17 (単営 13 ・ 兼営 4)
- CS放送(東経110度CSデジタル放送を除く) : 105 (単営 101 ・ 兼営 4)
- 有線テレビジョン放送(ケーブルテレビ)事業者(一般放送事業者ではない)
- 自主放送を行う事業者数 : 571
地上波による放送事業者は、短波帯での音声放送事業者(ラジオ日経)などを除けば、主に、関東・中京・近畿の各広域地区、そしてその他の都道府県などの単位で免許されている。新聞社や地元の有力企業などが主な出資者になっていることが多い。
テレビ局の多くは、関東広域圏のキー局を中心とするニュースネットワークによるグループを構成し、キー局から番組や全国向けのコマーシャルの配信を受けたり、地元のニュースをキー局を通じて系列各局に提供するなどしている。ラジオ局の多くにも系列によるグループは存在するが、その結びつきはテレビ局のそれよりは弱い。
テレビ局のうち、ニュースネットワークから独立した局が、広域放送を行う区域内に於いて県域放送を行っているが、これらは俗に独立UHF放送局(或いは省略して独立U局)と呼ばれている。
地上波による放送事業者の収益源は、スポンサーからのコマーシャル(広告)によるところが主である。コマーシャルの広告効果は重要視され、またテレビの場合は番組視聴率を広告効果の指標とすることも多い。また、民間放送は放送事業に投資した資金をスポンサーや市場(視聴者)から回収出来るかどうかという問題が常につきまとうとも言える。このため、興味本位あるいはスポンサーに迎合した番組制作が行われることが懸念されたり、果ては視聴率買収工作が発生したことなどが問題となったこともある。
そういった理由から、放送倫理・番組の質を確保するため、かねてより放送界の自主的な取り組みを行っているが、NHKと共同で「放送倫理・番組向上機構」(BPO)を2003年7月1日から発足させている。
委託放送事業者の収益源には、主にスポンサーからのコマーシャル放映によるものと、視聴者やケーブルテレビ事業者との契約により徴収する視聴料金によるものがある。テレビショッピングチャンネルなど、放映した商品の売り上げそのものが収益源となる場合もある。
いくつかの委託放送事業者は安定した経営を行っているが、そのほかの委託放送事業者は赤字が続き、一部を元の放送内容とはかけ離れた(有料の成人向け番組等)内容に変更するところもあるなど、経営基盤の弱さが指摘されている。また、委託放送事業者は受託放送事業者への設備使用料を払う必要があるが、受託放送事業者の選択肢は少ないため、この料金を巡って争いが起きがちである。
[編集] マスメディア集中排除原則
- マスメディア集中排除原則は、「放送をすることができる機会をできるだけ多くの者に対し確保することにより、放送による表現の自由ができるだけ多くの者によって享有されるよう」にするため、1の者により所有又は支配できる放送局等の数を制限するもの。
- その際の支配の基準は、議決権保有に関しては、地上放送については、原則として1の者による「10分の1(10%)を超える」議決権の保有。ただし、放送対象地域が重複しない場合は「5分の1(20%)以上」の議決権の保有。(放送局の開設の根本的基準(昭和25年12月5日電波監理委員会規則第21号)第9条)
ただ、今後の放送のデジタル化による設備投資額の増大や、放送チャンネル増加による競争の激化などから、特に地方局やBSデジタル局の経営基盤が厳しくなる事が予想されることから、従来の思考に囚われない運用が求められており、出資比率については緩和することが検討されている。
[編集] 沿革
日本では、1951年(昭和26)4月21日に、NHK以外で初めて次の16局に予備免許が交付された。
会社名 | 場所 | 呼出符号 | 周波数 | 出力 | 放送開始日 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|---|
ラジオ東京 | 東京都 | JOKR | 1130kHz | 50kW | 1951年12月25日 | 現・東京放送(テレビ)・TBSラジオ&コミュニケーションズ(ラジオ) |
(財)日本文化放送協会 | 東京都 | JOQR | 1310kHz | 10kW | 1952年3月31日 | 現・文化放送 |
北海道放送 | 札幌市 | JOHR | 1230kHz | 3kW | 1952年3月10日 | |
ラジオ仙台 | 仙台市 | JOIR | 1250kHz | 3kW | 1952年5月1日 | 現・東北放送 |
中部日本放送 | 名古屋市 | JOAR | 1090kHz | 10kW | 1951年9月1日 | |
京都放送 | 京都市 | JOBR | 1140kHz | 500W | 1951年12月24日 | 後の近畿放送→現・京都放送 |
新日本放送 | 大阪市 | JOOR | 1210kHz | 10kW | 1951年9月1日 | 現・毎日放送 |
朝日放送 | 大阪市 | JONR | 1010kHz | 10kW | 1951年11月11日 | 1959年に大阪テレビ放送と合併によりテレビ放送開始 |
神戸放送 | 神戸市 | JOCR | 1490kHz | 1kW | 1952年4月1日 | 現・ラジオ関西 |
広島放送 | 広島市 | JOER | 1260kHz | 1kW | 1952年10月1日 | 現・中国放送 |
ラジオ九州 | 福岡市 | JOFR | 1290kHz | 5kW | 1951年12月1日 | 現・RKB毎日放送 |
西日本放送 | 久留米市 | JOGR | 1120kHz | 500W | 開局にこぎつけられず失効 | 後に九州朝日放送として復活 |
北陸文化放送 | 金沢市 | JOMR | 700kHz | 500W | 1952年5月10日 | 現・北陸放送 |
北日本放送 | 富山市 | JOLR | 620kHz | 500W | 1952年7月1日 | |
福井放送 | 福井市 | JOPR | 740kHz | 50W | 1952年7月20日 | |
四国放送 | 徳島市 | JOJR | 610kHz | 500W | 1952年7月1日 |
上記16社の予備免許取得後、1951年9月1日にラジオ本放送を開始した、名古屋の中部日本放送 (CBC)が民間放送の第一号とされる。ちなみに東京での民間放送の第一号は同年12月24日のラジオ東京(略称KR現在の株式会社東京放送(TBS))、また民放でのテレビ本放送開始第一号は1953年8月28日の日本テレビ放送網である。なお、「民間放送」の語は1947年、すでに国会で使用されている。
[編集] ラジオ
[編集] 中波・短波(AM)放送
中部日本放送、新日本放送(中部日本放送と同日の昼に開局。現在の大阪・毎日放送)の放送開始後、おおよそ1956年頃までに、多くの民放中波ラジオが各地に設立され、放送を開始する。2004年現在、最後の開局は1963年の栃木放送と茨城放送である。しかし、難聴地域のための中継局の開設は現在でも続いている。
同時期の1954年には、日本唯一の民放短波ラジオ「日本短波放送」(現日経ラジオ社・愛称「ラジオNIKKEI」)が放送を開始している。以前はNSB専用ラジオやNSBクリスタルを挿すことで専用ラジオとなる受信機が多数販売され、現在でもソニーと松下電器がNSB専用通勤ラジオを販売している。
[編集] FM放送
1969年の愛知エフエム音楽放送(現エフエム愛知)が民放FMラジオの始め。翌1970年にかけ、エフエム東京、エフエム大阪、エフエム福岡の4局体制となる。 この状態が長く続いた後、1982年2月1日のエフエム愛媛開局を皮切りに各地で開局が相次ぎ、現在ほとんどの都道府県に県域以上の民放FMラジオが開局される。2007年現在、県域局の最後の開局は2001年4月1日の岐阜エフエム放送である。
1988年には、東京2局目の民放FMラジオであるエフエムジャパン(現J-WAVE)をはじめ、既存のFM放送局エリアに相次いで2局目が開局。また1995年の阪神・淡路大震災を契機に開局した外国語放送の関西インターメディア(FM CO・CO・LO)を発端に、外国語放送のFM局が相次いで開局した。この結果、一部都道府県では複数の民放FMラジオが存在することになる。そのうち前者5局は第2のFM系列として1993年にJFLを結成、また後者・外国語放送の4局もFM系列として1999年にMegaNetを形成している。
1992年には、一つの市区町村域を対象としたコミュニティ放送が制度化され、12月24日に第一号の「FMいるか」が函館市に開局した。阪神・淡路大震災以後、非常時の情報伝達手段という側面がクローズアップされ、以後全国に開局の動きが加速度的に広がっている。2003年3月の京都三条ラジオカフェ以来、NPO法人による開局も相次いでいる。
[編集] BSラジオ
BSアナログ放送では、1991年4月1日にWOWOWと同時に、同チャンネルの独立音声チャンネルを利用した放送を開始した「St.GIGA」(→クラブコスモ→現ワールド・インディペンデント・ネットワークス・ジャパン)が最初の例。
2000年12月のBSデジタル放送開始時には、ラジオチャンネル23チャンネルが割り当てられ、BSデジタルテレビ系ラジオチャンネルとJFN衛星放送、有料チャンネルとしての「St.GIGA」(→クラブコスモ→現ワールド・インディペンデント・ネットワークス・ジャパン)が放送を開始した。ただし、いずれも放送法上の「委託放送事業者」であり、従来の民間放送の形態とは異なっている。しかし、BSデジタル放送は放送普及基本計画の見直しでデジタルハイビジョン放送を重点に置くため、ラジオチャンネルは大幅に削減され、現在はWINJのみの放送となっている。
[編集] CSラジオ
CSラジオ(CS-PCM放送)放送は、JC-SAT2を使い、1991年2月19日にPCMジパング、ラジオ・スカイ、サテライトミュージック、ミュージックバード4社(後にミュージックバードに一本化)が放送免許を取得し、逐次放送を開始したのが始めて。 放送法改正による規制緩和により、通信衛星(CS)を使った一般個人への放送が可能となったため、「委託放送事業者」「受託放送事業者」という用語が生まれる。
その後、CSデジタル放送のチャンネルへ移行するが、これについては後述の「CSテレビ」を参照。
[編集] テレビ
1953年8月28日、初の民間放送テレビである日本テレビ放送網(NTV)が本放送を開始。 この後、1955年頃から1960年頃にかけて、既にラジオ放送を行っていた民放の多くがテレビ放送を開始する。
1960年代後半には、UHFテレビの研究が進み、1999年開局したとちぎテレビまでUHF民放テレビの開局が続いた。既存のテレビ局も難視聴対策にUHF波を用いた。
2003年から地上波のデジタル化が始まっている。
[編集] CSテレビ
個別契約型のアナログCSテレビについては、1992年2月4日、「委託放送事業者」として「CNN」「スター・チャンネル」「MTV」「スペースシャワーTV」「衛星劇場」「スポーツ・アイ」の6社が認定され、放送を開始した。
現在の主流である多チャンネルのCSデジタル放送のプラットフォーム事業者は、1996年10月1日に日本デジタル放送サービス(株)の「パーフェクTV!」(現株式会社スカイパーフェクト・コミュニケーションズの「SKY PerfecTV!」のパーフェクトサービス)が初めてとなる。プラットフォーム事業者を置いて、放送チャンネルの管理や契約窓口を一本化することで、業務の円滑を図るとともに多チャンネルテレビの幕開けとなった。
1997年には「ディレクTV」もプラットフォーム事業に参入したが、2000年9月に事業を廃止。
東経110度CS放送では、2002年3月1日、「プラット・ワン」をプラットフォームとする事業者が放送開始。4月1日、蓄積型放送「イーピー」放送開始(実際の蓄積放送は7月1日開始)。7月1日「SKY PerfecTV!2」(スカ2)をプラットフォームとする事業者も放送開始したが、2004年3月限りで「イーピー」は蓄積放送サービスを停止、「プラット・ワン」はSKY PerfecTV!2と合併、「SKY PerfecTV!110」(2007年2月に「e2 by スカパー!」へ改称)となった。
[編集] BSテレビ
アナログ放送では、1991年4月1日に本放送を開始したWOWOWが第一号。従来の民放と異なり、コマーシャルのない有料放送の形態である。
2000年12月1日のBSデジタル放送開始時には、従来の民放テレビの関連会社「BS日テレ」(日本テレビ系)「BS朝日」(テレビ朝日系)「BS-i」(東京放送系)「BSジャパン」(テレビ東京系)「BSフジ」(フジテレビ系)が無料放送で、WOWOWと、CS系の「スター・チャンネル」も、コマーシャルのない有料放送の形態を取って参入した。ただし、NHKを含め、いずれも放送法上の「委託放送事業者」であり、従来の民間放送の形態とは異なっている。
[編集] 関連項目
[編集] 外部リンク
- 日本民間放送連盟
- 資料1 平成15年度の一般放送事業者及び有線テレビジョン放送事業者の収支状況 総務省情報通信政策局
- 資料2 平成16年版 情報通信白書 総務省編