NPO
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NPOとは、「Nonprofit Organization」又は「Not-for-Profit Organization」の略で、広義では非営利団体のこと。狭義では、非営利での社会貢献活動や慈善活動を行う市民団体のこと。最狭義では、特定非営利活動促進法(1998年3月成立)により法人格を得た団体(NPO法人)のことを指す。
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[編集] 概説
[編集] 広義のNPO
NPOは、広義では、利益の再分配を行わない組織・団体一般(非営利団体)を意味する。この場合の対義語は営利団体、即ち会社(会社法による)などである。この意味では、社団法人や財団法人、医療法人、社会福祉法人、学校法人、宗教法人、生活協同組合、はては地域の自治会なども広義のNPOである。法令に定められた各種法人格を持つものにあっても、行う事業あるいはその組織・団体自体を維持するために収益を上げることに制限はない。有給専従職員を置く団体も数多い。
アメリカに於いて制定された内国歳入法典に「NPO」という呼称が使われた事から、この言葉が広まったとされる。アメリカでは各州の法律によって非営利団体の活動を保護また規定している。例えば、ウィキペディアを運営する Wikimedia Foundation は、フロリダ州法に基づく非営利団体である。ほとんどの財源は民間や個人の寄付金によって賄われ、一般的な認識としては市場経済の一員である。
北欧では、スウェーデンの1809年憲法に明記された近代的オンブズマンが起源である。憲法に記載されていることから分かるように、れっきとした行政機関である。財源は原則として福祉国家から拠出されるため、政府の代理人という性質を持つ。
フランスでは、1901年法という法律に基づいて設立された結社(アソシアシオン association)が、日米でいうところのNPOと類似の活動を行っている(社会福祉目的の他、スポーツ・文化活動など)。長い伝統に基づき、どこにも属さない市民社会の中核として活動している。
[編集] 狭義のNPO
NPOは、狭義では、各種のボランティア団体や市民活動団体を意味し、さらに狭く「特定非営利活動法人」(通称、NPO法人)をNPOとする場合もある。日本では、1995年の阪神・淡路大震災を契機に市民活動団体、ボランティア団体等の法人格の必要性がクローズアップされ、市民活動団体の法人格取得を容易にするため、新進党案、自民・社民・さきがけ連立与党案、共産党案などが提案されたが、与党案に民主党の修正が加わった4党案「市民活動促進法案」が1997年6月に衆議院を通過。しかし参議院自民党で「市民」の語への反発から「市民活動」を「特定非営利活動」にするなどの修正が加わった後、1998年に特定非営利活動促進法がほぼ全会一致で可決制定された。これにより、条件を充たすものは特定非営利活動法人として法人格の取得が可能となった。また近年、社会起業家の概念が普及してきており、コミュニティ・ビジネスの主体としても期待されている。また、国、地方自治体の財政逼迫等から全国的に行政とNPOとのいわゆる協働がブームとなっている。
「特定非営利活動促進法」によって国、又は都道府県に認証をうけたNPOをNPO法人という。
そうした行政とNPOとのいわゆる協働の流れの中で、新しい試みが、行政とNPOが協働してルール作りを行った「しが(滋賀)協働モデル研究会」である。
NGO(非政府組織)という表現との使い分けは視点の違いであって、「民間団体の中で、営利目的ではなく社会的な事業を行っているもの」という、非営利性を強調した表現がNPOであり、「社会的な非営利事業の中で、行政ではなく市民によって行われているもの」という、非政府性を強調した表現がNGOであると言える。一般的には、国際的な分野で活躍するのがNGOと呼ばれる。ただし、ともに非営利であり、非政府であるという意味ではNPOとNGOは共通している。
最近では、CSR(Corporate Social Responsibilityー企業の社会的責任)のステークホルダー(利害関係者)として、企業にとっても無視できない存在になっている。
[編集] 特定非営利活動促進法の課題
特定非営利活動促進法が制定され、一定の要件を充たすものは特定非営利活動法人として法人格を取得することが可能となった。従来、日本の非営利法人制度は民法34条に規定された公益法人(社団法人・財団法人)を中心としたもので、非営利かつ公益的な活動をする団体が法人格を取得する際に行政機関の許可が必要であった。しかも、その後も主務官庁による指導を受けることがあるなど活動に制限が多く、市民による自由で自発的な活動に適した法人格が求められていた。特定非営利活動促進法は、主務官庁の許可主義ではなく、所轄庁による認証という形態をとり、主務官庁の指導によるガバナンスの代わりに、市民への情報公開によるガバナンスを志向している。これにより非営利で公益的な活動をする団体が、従来よりも簡便に、自由に法人格を取得できることを目指している。2005年1月には、全国で2万法人を越えている。
しかしながら、法人設立手続きが簡素であるため、会社その他の法人としての設立がより向いていると思われる事業体が特定非営利活動法人として設立する現象も生じている。また、営利企業のペーパーカンパニー的なものや、特定非営利活動法人によるトラブルも指摘されている。こうした状況から、特定非営利活動促進法の法案段階での呼称である「市民活動促進法」に、名称変更するべきという議論もある。 また、公開が義務付けられている事業報告書等の提出状況、公開内容等が不十分なことも出てきている。 こうした状況に対し、行政は、直接の行政指導等を避ける方針から、市民の情報提供や懸念の表明に基づいて、当該法人に対し「市民への説明要請」を求めることとするように法改正に着手した。(→特定非営利活動法人#問題点に詳述)
また、NPO法人の中でも、認定NPO法人と呼ばれる税制優遇資格の認定を客観的に行うために、アメリカのパブリックサポートテストをモデルに日本版にアレンジした制度が導入されているが、これがNPOの持続的活動を維持するに足りる経済的独立性の実現とは真っ向対立するという問題も指摘されている。
[編集] NPO商標問題
角川書店が、雑誌・新聞の分野で、「NPO」「ボランティア」という文言を他出版社に使用させない目的で、商標出願し、商標登録申請をしたところ、特許庁は一旦登録を認めた。あるNPO法人が、雑誌名にNPOの言葉を一部に含んだ雑誌を発刊しようとしたところ、この商標登録の存在が判明し、発刊に支障をきたす可能性が生じたことから、それを知った各地のNPO団体が「万人の公共財といえるNPOという言葉を特定の営利法人に独占させてはならない」と反発。特にNPO界では、さまざまな機関紙や雑誌・新聞などを発刊して意見を出しながら社会改善を行っていくことが多く、そういった雑誌・新聞の表題の一部によく使用されるであろう「NPO」という中核的な言葉を独占されたのでは、他の発刊者の事業に萎縮効果を生じさせ、ひいてはNPO活動に影響が大きいと思われたからである。
また、「NPO」「ボランティア」という言葉は、これら活動を積み重ね大事にその概念を育ててきたNPOの人々にすれば、そういった活動にこれまで目立った貢献をしてきたわけではない角川書店が、抜け駆けで登録したことにも、強い反発を生む原因となった。その後、全国のNPO関係者の支援を受けたNPOが、特許庁へ異議申立を行った結果、NPO団体の主張を認める審決が出され、角川書店の商標登録は取り消された。審決の内容は、「本件商標は、標準文字よりなるものであり、その外観上の印象力及びこの語の有する意味からみて、創作性に欠け、指定商品の主たる内容を表示記述するものであって、取引者・需要者によって『雑誌,新聞』の自他商品識別標識と認識される程度が極めて低く、この語を含む題号の、NPO法人等の発行に係る定期刊行物等が多数存在する実情が認められ、また、この語について特定人に独占使用を認めることは公益上適当とはいえず、かつ、本件商標が使用された結果、自他商品識別力を獲得していた等の特段の事情もないことよりすれば、これをその指定商品である『雑誌,新聞』に使用しても、需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができない商標である、というべきである。」であった。
[編集] 経過概要
- 2003年6月5日 本件問題についてマスコミ等の報道
- 2003年6月6日 角川ホールディングスが各紙に社告掲載
- 2003年7月25日 商標登録異議申立書の提出(特許庁へ)
- 2004年6月17日 特許庁が取消理由通知(角川側に意見書提出の機会付与)
- 2005年5月10日 特許庁が「NPO」商標取消決定
- 2005年5月11日 特許庁が「ボランティア」商標取消決定。
[編集] 関連項目
[編集] 外部リンク
- NPO公式ホームページ (内閣府国民生活局)
- 特定非営利活動促進法(総務省法令データ提供システム)
- 日本NPOセンター
- 財団法人 公益法人協会