京急600形電車 (3代)
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京浜急行電鉄の600形電車(600がたでんしゃ)は、、1994年(平成6年)4月に登場した電車。1500形に次いで、旧1000形の老朽取り替えを目的として導入された。
地下鉄対応車両としては珍しく全座席クロスシート車両として製造された。他の大手私鉄やJRは朝夕の混雑時における乗降円滑化のため多扉車や大型扉車の導入を図っていた時期であったが、京急はオールクロスシート車を導入して「個の尊重」を打ち出し、利用者の快適性を優先する姿勢を表した。
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[編集] 外観
登場時の2000形と同様に、赤い車体に窓回りを白く塗装している。前面形状はアンチクライマーがなくなり、前照灯が上部に移るなど新しいスタイルとなった。このデザインは後に2100形や新1000形にも引き継がれている。当初は前面のワイパーカバーが「イロンデルグレー」であったが、視認性向上のため後にアイボリーに変更されている。
コスト低減を図ったためか、台車形状は京急の標準であるウイングバネ - 円筒案内式ではなく、800形に類似した軸バネ式となっている。
なお、606編成はロングシート化改造と同時に車体全体を青く塗装し、2005年3月14日より「KEIKYU BLUE SKY TRAIN」として運転を開始した。また2005年11月1日から約1ヶ月間は京急羽田空港駅開業7周年記念イベント「京急虹計画」の一環として側面に虹のラッピング、前面の白い帯の下に虹のグラデーションが貼り付けられ、2100形「KEIKYU BLUE SKY TRAIN」とともに「レインボートレイン」として運行された。車内には浦賀寄りから総合、富山、石川、広島、香川、長崎、鹿児島、沖縄と車両ごとに7県のPR広告が掲載された。
[編集] 内装
都営地下鉄浅草線や京成電鉄・北総鉄道にも乗り入れる一般通勤車両ではあるが、3扉オールクロスシートで登場した。ロングシート化改造された編成を除き、8両編成の車両は運転室後部を除いてボックスシートが並ぶ。一方、4両編成の車両ではドア間の座席はボックス席と2人掛け固定座席を1つずつ組み合わせた配置となっており、座席数が少ない。ともにドア付近には補助席が設置されているが、混雑時には施錠され使用できない。シートピッチを広めにとっているため、補助席を使用しない場合は同じドア数のロングシート車より座席定員が少なくなる。
608編成は製造当時、試験的に「メディアルトラン」と称する液晶ディスプレイや転換式クロスシートを装備していたが、その後どちらも撤去された。転換式クロスシートの試行結果は2100形の設計に反映されている。
座席表地の傷みが著しくなってきたため2002年から順次モケットの張り替えを行い、ツイングルシートは形態には手を付けずそのまま固定化した。また翌年の施行車以降はヘッドレスト部分の色と材質を変更した。2005年度以降は扉間のロングシート化改造を開始したため打ち切られている。
[編集] ツイングルシート
8両編成の車両では、ラッシュ時に立席収容力を確保するため、一部のボックス座席は2人掛けと1人掛けが可変な「ツイングルシート」を採用していた。運転室からの操作により可動式座席が転換する。「ツイングル」とは「ツイン」と「シングル」をかけた造語である。
可動式座席には通路側の座席を窓側の座席にかぶせるように収納するものと座面を跳ね上げて背もたれに密着させるものがあり、それぞれ肘掛の位置が異なることから見分けられる。補助席と合わせ、1両あたり最大32人座席定員を変えることができる。しかし機構が複雑でコストが高く、座席数が少ない上座り心地も悪いため乗客からの評判は芳しくなかった。当初懸念された地下鉄線内の運用においても、補助席の鎖錠のみで混雑時間帯の営業をほぼ問題なく行えると判断されたことから他社局への乗り入れでは全可動式座席の展開が義務付けられた。このため可動式の特徴が活かせなくなり、4次車では通常の固定座席が採用された。
[編集] ロングシート化改造
603・604・606・608編成は扉間の座席をロングシート化するなどの改造を実施した。詳細は以下の通り。
- 扉間座席をロングシートに改造。ロングシートは片持ち式で、モケットの模様は新1000形や1500形更新車などと同じである。
- 袖仕切りは新1000形と同じタイプだが、立席ポストのところに仕切り板は設置していない。
- 車端部と運転室後部のクロスシートおよび車端部の補助いすはモケットの張り替えのみが施された。張り替え後のモケットの模様は第3編成目以降の座席張り替え車と同じである。
- ドア上部に LED式の車内案内表示器を設置。
- 1500形更新車や新1000形と同様のドアチャイムを設置。
- 転落防止幌の設置。
オールロングシートとはせず、車端部の座席はクロスシートのまま残された。今後は他の編成にも同様の改造を実施する予定である。
[編集] 編成
太字はロングシート改造車、T は東急車輛製造、K は川崎重工業
- 第1~3次車 8両編成
M1c | M2 | Tu | Ts | M1' | M2' | M1 | M2c | 製造会社 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
601-1 | 601-2 | 601-3 | 601-4 | 601-5 | 601-6 | 601-7 | 601-8 | T |
602-1 | 602-2 | 602-3 | 602-4 | 602-5 | 602-6 | 602-7 | 602-8 | K |
603-1 | 603-2 | 603-3 | 603-4 | 603-5 | 603-6 | 603-7 | 603-8 | T |
604-1 | 604-2 | 604-3 | 604-4 | 604-5 | 604-6 | 604-7 | 604-8 | K |
605-1 | 605-2 | 605-3 | 605-4 | 605-5 | 605-6 | 605-7 | 605-8 | T・K |
606-1 | 606-2 | 606-3 | 606-4 | 606-5 | 606-6 | 606-7 | 606-8 | T |
607-1 | 607-2 | 607-3 | 607-4 | 607-5 | 607-6 | 607-7 | 607-8 | K |
- 第4次車 8両編成
Muc | T | Tp1 | Mu | Ms | T | Tp1 | Msc | 製造会社 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
608-1 | 608-2 | 608-3 | 608-4 | 608-5 | 608-6 | 608-7 | 608-8 | T |
- 第4次車 4両編成
Muc | T | Tp2 | Msc | 製造会社 |
---|---|---|---|---|
651-1 | 651-2 | 651-3 | 651-4 | K |
652-1 | 652-2 | 652-3 | 652-4 | K |
653-1 | 653-2 | 653-3 | 653-4 | K |
654-1 | 654-2 | 654-3 | 654-4 | K |
655-1 | 655-2 | 655-3 | 655-4 | T |
656-1 | 656-2 | 656-3 | 656-4 | T |
[編集] スペック
[編集] 性能
- 設計最高速度:130km/h
- 運転最高速度:120km/h/s
- 起動加速度:3.5km/h/s(1~3次車)/3.3km/h/s(4次車)
- 常用減速度:4km/h/s
- 主電動機:120kw(1~3次車)・180kw(4次車)
[編集] 保安装置
京成電鉄・新京成電鉄・北総鉄道・京浜急行電鉄・都営浅草線で使用されている1号型ATS及びC-ATS
[編集] 制御装置
東洋電機製造および三菱電機製GTO素子によるVVVFインバータ制御で、電動機を8個制御する1C8M方式(1~3次車)と4個制御する1C4M方式(4次車)が存在する。基本的に東洋製インバータは東急車輛製造製に、三菱製インバータは川崎重工業製に搭載するが、4次車には東洋・三菱インバータ混載編成も存在する。
[編集] 補助電源装置
補助電源用静止形インバータ (SIV) は1~3次車では1500形と同じく偶数号車の山側に搭載し、601・603・606編成は東洋ブースター式、602・604・605・607編成は三菱チョッパインバータ式となっている。4次車にはIGBT-SIVをTpの山側に搭載している(651・653・654・656編成は三菱製、652・655編成は東洋製)。
[編集] 電装品
集電装置は3次車まで菱形パンタグラフ(M1c・M1に各1基、M1'に2基搭載)、4次車ではシングルアーム式である(Tpに2基搭載)。
尾灯・戸閉灯には LED灯具を使用するが、経年変化で照度低下しやすいため、次形式の2100形から電球に戻された。
[編集] 冷房機
東芝製RPU-11009および三菱電機製CU-71F。スクロール圧縮機を採用している。川崎重工業製総てと、東急車輛製造製のうち601編成および605編成(-1~-4)は三菱製を搭載している。
[編集] 運用
8両編成は快特・エアポート快特や特急などを中心に運用される。都営浅草線、京成線、北総線へも入線し、印旛日本医大駅・京成成田駅まで乗り入れる。1998年~2002年は上野、2006年までは成田空港駅へ入線する運用も存在した。ロングシート車に比べ立席スペースが狭いことから朝ラッシュ時には混雑時間帯の上り列車を避けて運用してきたが、運用の弾力性を増すために2005年(平成17年)よりドア間ロングシート化改造を開始し、改造を受けた編成は朝混雑時間帯の上り列車にも使用されるようになった。
4両編成は優等列車の増結車両や空港線の特急、自社線内の普通列車を中心に運用される。行先表示器の地色は全編成が黒から白に変更されている。
4両編成は大晦日から元日にかけての終夜運転の際に通常入線しない路線で運用されるケースがある。1998年~1999年には都営浅草線・京成押上線・金町線に、2002年~2003年には「だるまエクスプレス」として大師線に入線した。
[編集] 鉄道模型
グリーンマックスからNゲージ塗装済組立てキットが製品化されている。
[編集] その他
- 1次車の製造当初は、日中の快特使用時に中間の客用扉を締め切り扱いにして2扉として運用することが考えられていた。そのため、中間の客用扉上部には締め切りであることを表示する装置を装備している。しかし、実用試験の結果乗降客に不評だったため日中の2扉扱いの計画は中止となった。
- 605-1には1500形のデハ1601から移設した架線観測装置を装備し、営業運転中に観測を行なっている。
- 606編成は2007年3月16日より、2010年に中華人民共和国・上海で開催される上海国際博覧会(上海万博)の宣伝車両とされた。車内には、上海の建物や公園の写真が飾られている。