自動列車停止装置
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自動列車停止装置(じどうれっしゃていしそうち、ATS:Automatic Train Stop)は、鉄道での衝突防止や過速度防止の安全装置(=運転保安装置と呼ぶ)の日本での分類の1つ。列車や軌道車両が停止信号を越えて進行しようとした場合、または信号機の指示速度を超過した場合に乗務員に警報を与えたり、列車のブレーキを自動的に動作させて停止させる装置だが、過速度転覆事故を繰り返したため信号現示に関わりなく制限速度設定を超えた場合に警報・停止させる機能を加えた。連続制御主体で自動緩解の自動列車制御装置(ATC)より簡易な点制御により強制停止させる動作が主体のものを指す。日本の鉄道と軌道法において一般的な運転保安装置であるが、鉄道事業者や軌道経営者によってその内容は大きく異なる。
また国によって安全装置の考え方が違い区分法が違うのでATCを含め直の対応語はないため、同様の機能の装置に様々な命名があり、AWSと称しているところもある。
目次 |
[編集] 導入・改良の背景
ATSなどの運転保安装置は、人為的なミスによる事故を未然に防ぐための装置であり、労災防止の安全装置の機能基準としては「操作者のエラーを前提に、致命的事態を回避できる」ものが求められるが、残念ながら鉄道ではこの基準は不徹底で、導入・改良のきっかけは、過去に発生した苦い事故の教訓によるものがほとんどである。ATS導入・改良のきっかけは、「山陽線網干事故」「参宮線六軒事故」「常磐線三河島事故」'68年前後に相次いだ分岐器での過速度転覆事故、お茶の水・日暮里追突事故、新宿駅タンク車炎上事故、「山陽線西明石事故」「中央線東中野駅追突事故」、「飯田線北殿駅列車正面衝突事故」「JR福知山線脱線事故」(以下、尼崎事故)など(詳細は鉄道事故を参照)の教訓によりその都度現象面を追って部分改良されたものが主である。
網干事故を受けて戦時中に設置準備が進められたATSは「常時速度照査型」で衝突防止に非常に優れたものだったが、これは戦災(工場爆撃)により取り付け直前の受信機を全損して頓挫した。また、戦後'66年に国鉄全線へ導入されたATSは、当初は(後述の通り)警報機能のみだった。翌'67年の私鉄ATS通達は衝突防止に冒進速度抑制という基本点を抑えた優れたもので以降私鉄に大事故の発生がなくなったが、国鉄廃止に際して廃止されてJRには適用されていない。また'68年前後に国鉄で分岐での過速度転覆事故が多発したが対策は国鉄に任されて分岐器過速警報装置を主要箇所に設置、曲線制限などは'05年福知山線尼崎転覆事故後の国交省通達まで手つかずだった。詳細は私鉄のATS項、および鉄道事故を参照されたい。
この点ATS-P型は、目標点から制限を逆算して事故防止を図る方式で、原理に遡った制御であり防御の穴を生じないばかりか輸送容量も増やす優れた方式と認められ、このP方式の実績からパターン速度照査方式が新ATCにもDS-ATC、D-ATCなどとして採用された。
[編集] ATS動作・構造概要と分類
ATSの機能としては大別して信号現示に対して働く衝突防止のATSと、信号現示とは独立に進行信号で働く過速度に対するATSがある。福知山線尼崎過速度転覆事故は後者過速度ATSをリスクの大きい現場に設置しなかったため防げなかった事故であり、ATS方式がATS-PかATS-SWかには関係していない。(「ATS-Pであれば防げた」という事故直後からの誤った報道は繰り返し訂正されながら未だに終息していない)
ATSには各路線の設備、運転状況などに応じて多種多様の方式が存在するが、大きく2タイプに分けることができる。
- 停止信号に近づいたときに警報を発し、乗務員が警報に応じた所定の確認の取扱をしない場合に列車のブレーキを動作させる装置。(国鉄B型・S型)
- 乗務員が信号に従った運転取扱いを行っている場合はその運転に介入せず、乗務員の(体調不良、錯誤、故意など理由を問わず)異常な取扱いが行われた場合にだけ介入して列車のブレーキを動作させる安全装置。(上以外のタイプ)
衝突防止機能を受け持つ信号ATSでは、冒進距離を制限することが絶対条件で、そのため地点に応じた制限速度を管理して冒進速度を抑制する。私鉄ATS通達(昭和42年鉄運第11号通達)ではATSの自動投入、2~3段階の速度照査、信号直前の照査速度20km/h以下など6項目を定めて私鉄各社がこれを設置以降、ATS故障時誤扱いを除き大事故を押さえ込んだし、目標位置基準で各列車の制動特性から手前側の制限速度を車上で算出して比較照査するいわゆる「パターン方式(P方式)」が安全性が高く線路容量も増やす最も優れた方式として採用される様になった。基本的に後者の方式でありながら最大冒進距離比=冒進エネルギー比でみると ATS-Sx:私鉄通達:ATS-P≒36:1:0 という著しい安全性能の違いが存在する。
ATS装置には、様々な構造があり、メーカから各事業者に納入されていて、同一路線で併用・機能分担されているものもあるので事業者毎の説明にはなじまない部分があり、構造・分類を概説する。
[編集] 制御方式
ATSの制御情報を地上から車上に伝える方式とその装置にはいくつかの種類がある。
[編集] 連続制御・点制御
ATSの制御情報を連続的に車上に伝えるものを「連続制御」、地上子など1点で情報を伝えるものを「点制御」としている。 なお、この区別は、情報の伝達に関するものであり、受けた情報に基づく速度照査の方法とは異なる。 「点制御」の場合にも、速度照査に関して、地上子から受けた情報を即時に照査する「点照査」の方式と、地上子からの情報を記憶して連続して照査する「連続照査」の方式がある。
[編集] 地上装置・車上装置
ATSは、基本的には以下の装置によって構成される(詳細は後述「ATS動作・構造」参照)。
- 地上装置
- 地上に設置されている、信号機の現示や速度制限などの情報を列車に送る装置。
- 車上装置
- 車両に搭載されている、地上装置が送った情報を受け取り、条件によって自動的にブレーキを動作させる装置。特に、列車の速度がある値を超えた時に自動的にブレーキを動作させる機能を速度照査機能(速照)という。
地上装置と車上装置で情報を送受信する方式には、大まかに分けると以下の方式がある。
- 打子(うちこ)式
- 線路上のトリップアーム(打子)で、機械的に列車のエアコックを操作する方式。日本では現在使用されていない。(点制御)
- 地上子式
- 線路上に置かれた「地上子」を用いて、電気的に点で列車へ情報を送る方式。(点制御)
- 軌道回路式
- レールに流した信号電流を用いて、電気的に列車へ情報を送る方式。(連続制御)
列車在線検出のための信号電流と、信号現示を列車に伝えるための信号電流があり、ATS-Bや新幹線ATCでは両者が兼用されているが、後日ATSを拡張設置した場合などは別の信号電流として重畳するものもある。
実際には、送受信の方式が同じ場合でも地上子やレールに流す信号の周波数や電文(コード)地上子の設置場所などが事業者によって異なるため、さらに細かく分けられている。地上、車上ともに信号の周波数などを含めた方式が一致して初めてATSがシステムとして有効になる。
ATSの持つ「地上から列車にブレーキを動作させる」仕組みを利用したものとして、踏切防護装置、曲線速度制限装置、分岐器速度制限装置が存在する。
[編集] 軌道回路
軌道回路とは左右の線路を電送線とし閉塞区間先端から入り口に向け信号電流を送り車軸が左右を短絡することで、閉塞入り口には信号電流が届かなくなって在線を検知して停止信号となり、一方車軸での短絡で1巻きのコイルを構成してこれを車上コイルで拾って地上から車上に情報を流す方式を言い、連続制御可能である。ATCやATS-B、1号型ATS、阪急ATSなどで使われている。
[編集] AF・商用周波数・分倍周
軌道回路に流す信号電流の種類により商用周波数軌道回路、分倍周軌道回路、AF軌道回路、と分けられる。機能で見ると自動信号装置での在線検出用信号電流と、現示を列車に伝えるための信号電流があり、ATS-Bや都営地下鉄1号型ATS、新幹線国鉄型ATCでは双方兼用である。
- 軌道電流式
- レールに流した在線検出用信号電流を用いて、電気的に連続的に列車へ情報を送る方式。(連続制御)
鉄道の場合のAFとは慣行的に電話・通信と同様300Hz~3000Hz余の周波数を指しているが、元々は可聴周波数(16Hz~20,000Hz)を指すもの。分倍周は交流電化区間などノイズの多い区間に採用されて当初は電動発電機など機械装置で供給されていてAFとは区別された。
[編集] 地上子
情報を受け渡すための地上装置一般。動作原理により変周式、トランスポンダ式、等があり、これを基準に制御する場合が「点制御」となる。但し「点制御」で受信した速度制限値などのデータを記憶して参照する場合には点制御でも「連続照査」「連続参照」となり、「点照査」とは異なる。
[編集] 変周式(単変周・多変周)地上子
変周式とは、車上の結合帰還型発振回路の車上子(送信コイルと受信コイル)に地上の共振コイル(=変周地上子)が電磁結合して発振周波数を引き上げ、この周波数をフィルターで検出して地上情報を得る方式を指す。
国鉄のATS-Sでは、車上の発振周波数を105kHz、停止信号時のロング地上子共振周波数を130kHzとして、不動作時は地上子コイルをリレー接点で短絡して共振点を無くして停止信号を伝えた。これは1情報1共振周波数方式だったから、これを特に「単変周」と呼んだが、現在では車上からの地上子良否検査を可能にするためコンデンサーを介して短絡して不動作時の共振周波数を103kHzとして、さらにこれを強制振り子制御の位置マーカにしたから電気的に見れば純粋な単変周地上子は無くなった。ATS-Sx、ATS-Ps地上子はそうした有効-無効(取消:103kHz)2値型の単変周地上子である。
多変周は地上子に複数の共振周波数を割り当てるもので、これに信号現示とその制限速度を割り当てたり、設置位置と併せ限界速度パターン発生に使用する。 京王、小田急、東武などの信号ATSがこの多変周方式で、東武ATS(TSP)は周波数の一部をパターン発生地上子に割り当てている。(信号ATSとは別に過速度・過走防止ATSがある)
最近の分類では意味の薄れた「多変周-単変周」を避け「多情報-(単情報)」と整理されている。 またATSシステムとしては多数の変周周波数を使用しても、単機能地上子として1周波数ということもある。
[編集] トランスポンダ式地上子
トランスポンダ(地上子)とは、鉄道ではデジタル情報送受地上子のことで、送信機能のみのものも含めて呼んでいる。 ATS-Pで知られる様になったが、それ以前にも新幹線には多数使われている。 元々は送受機能を備える「応答装置」で、問い合わせに対して応答するとか、中継器を指している。
[編集] 速度照査
列車の速度を計測し、その速度が許容された速度の範囲内であるか否かを照合する。これを速度照査(そくどしょうさ)という。速度照査の方法やその制御もいくつかに分類できる。
[編集] 点照査・連続照査・パターン照査
速度照査には、ある地点でだけ照査する「点照査」と、連続して照査し続ける「連続照査」があり、更に従前一定値だった照査速度を基準位置に対する列車の位置毎にリアルタイムで算出・照合する「パターン照査」がある。連続制御ではない点制御方式であっても速度制限コマンドを記憶して照査を続けることも「連続照査」方式という。
[編集] 地上時素式過速度・過走防止装置
列車検出コイルで地上タイマーを起動して一定時間停止地上子を有効にし、この間に列車が停止地上子に到達すると非常停止(ATS-SN)や警報(ATS-S警報)する(点照査型)方式。 時素式という照査の原理上絶対停止(0km/h(=時間差∞))を設定できないため、終点の駅などでは過走防止装置として狭い間隔で多数の地上子を配置することに加え、末尾に絶対停止地上子を置いて過走を抑えていることが多い。地上装置に電源が必要なため原則的に分岐器過速防止・警報装置として駅構内にのみ設置されていたが、'05年の曲線速照義務化通達で曲線にも利用されるようになった。 他の方式と併用して、低速で使用する例に京王電鉄・小田急電鉄がある。
京王電鉄の過走防止装置は時素0.5秒の速照地上子対を3~4対設置する方式の他に、1秒時素で15地上子を並べて地上タイマー起動コイルと停止コイルを兼用させて次々切り替える方式のものが新宿駅・渋谷駅に設置されおり、ほぼ同等のものが小田急線新宿駅にも設置されている(これらの駅はいずれも行き止まり式の終端駅)。
[編集] 車上時素式過速度・過走防止装置
[単変周点制御式(点照査型)]
2基一対の地上子を車上子が通過する時間を計って速度を照査する方式。 変周式の場合、地上電源が要らないので地上子を置くだけで動作でき、任意の地点に設置できる。ATS-Sの改良に際しJR東海がATS-STとして独自に開発しJR東海以西のJR各社に採用された。
私鉄ATSでは速度照査が義務付けられているのでATS-Sxとは違いこの過走防止装置で高速突入事故は起こらないが、過走に対する絶対停止機能は義務づけがない。その結果、名鉄新岐阜事故などの低速突入事故が繰り返されている。だから終端駅などへの進入の際には、車止めへの衝突防止などのために用心深さが特に要求される。
採用例 名古屋鉄道・南海電気鉄道・京阪電気鉄道・筑豊電気鉄道・静岡鉄道・遠州鉄道・豊橋鉄道(渥美線)
[編集] ATS導入以前の装置
ATS導入以前(1950年代~1960年代前半)には、「車内警報装置」(車警)という運転保安装置が使用されていた。この装置は文字通り「警報」を発生させるのみであり、自動的に列車を停止させる機能はなかった。
[編集] 打子式ATS
国鉄・JRでは実用として使用された事はないが、打子式ATSが1927年に東京地下鉄道(現:東京地下鉄銀座線)の開業時に採用された。実用的なATSとしては日本で最初に採用されたATSである。帝都高速度交通営団(現・東京地下鉄)丸ノ内線・大阪市交通局(大阪市営地下鉄、御堂筋線・四ツ橋線・中央線)・名古屋市交通局(名古屋市営地下鉄)東山線でも採用されていた。
線路上に設置されたトリップアーム(打子)を地上子、車両床下に設置されたエアコックを車上子として用いる。 重複式が特徴で、2個の信号機が連続して停止現示を示し、その間のアームが立ち上がり、その状態で列車が通過するとアームがエアコックに当たる。エアコックはブレーキ管に接続されており、これが開かれるため非常ブレーキがかかり2個目の停止信号手前で停止する仕組みである。
なお、停止信号現示以外にも警戒信号現示でもトリップアームが立ち上がる路線もあった。その場合、警戒現示が続いていても、列車が手前のある地点を通過してから一定時間後にトリップアームが下がるように設定されていた。つまり、列車が警戒信号に従って徐行していれば、トリップアームはすでに下がっていて、そのまま通過できる。トリップアームが下がる前に進入すれば速度超過と判定されて非常ブレーキがかかる。簡潔な方法ながら確実な速度照査を行なっていた。
原始的な方法ではあるが単純な構造のため信頼性が高く、大阪市営地下鉄各線では1970年代頃には使われなくなったが、銀座線では1993年、丸ノ内線では1998年、東山線では2004年まで使用されていた。
[編集] 国鉄・JRのATS
日本国有鉄道・JRグループで採用されたATSには、下記のような種類がある。また、これらの路線を引き継いだ第三セクター鉄道についても、多くの場合は同様のATSを使用している。
なお、かつてはA形という形式があったが、これは(車警以来の設備の老朽化により)1970年頃までに廃止されてS形に置き換えられている(使用実績が乏しいため、ここでは説明を省略する)。
[編集] B形(軌道電流形)・S形(地上子形)
B形は主に国電区間で用いられた方式で、2本の線路の間に流された軌道電流を用いる。B形は、(通常は流れ続けている)軌道電流が一定時秒停電することにより、「停止信号接近」の情報が地上から車上へ伝達される。
S形は国電区間以外の線区で用いられた方式で、線路の線間に設置された「地上子」と、車両に設置された「車上子」の組み合わせによって構成されている。S形は「変周式」であり、車上の発振周波数が(車上子コイルを通じて)地上子の共振周波数に引き上げられることにより、「停止信号接近」の情報が地上から車上へ伝達される。国鉄が試験を行っていたC形の改良型だが機能の面での違いは無く、真空管を使った回路からトランジスタを使った回路に改良されている。
S形の場合、地上信号の停止現示に対応するロング地上子(130kHz)を通過すると運転台において警告音(ベル)が鳴り、そこで運転士が5秒以内にブレーキをかけて(重なり位置にして)、確認ボタンを押すとチャイム(キンコン音 一部の車両は電子音のタイプもある)に変わる(実際にはチャイム音はベル音とともに鳴り始める)。
B形の場合は、上記の「ロング地上子を通過」を「軌道電流停電を検知」と読み替えるのみで、あとはS形と同じである。
この確認作業をしない場合、列車は自動的に非常ブレーキがかかる。しかしこの方式では、いったん確認作業をしてしまうと、それ以降は停止信号を通過しても非常ブレーキがかからないという欠点がある。
しかしながら、国鉄型ATSは衝突防止に一義的に必要な特性値を管理する方式ではなく、事故の現象面だけを追って改良したことで、着目外の人為エラーにより、次々重大事故が発生していることが私鉄ATS通達仕様と大きく異なる点である。運転を担当する人員の、システムとしての選別という内容に踏み込んだ対策で事故発生率は減らせてもゼロにはできない。
そのため現在では、B形は全て廃止されてP形に換装され、S形には即時停止地上子(123kHz)や時素式速度照査地上子対(108.5kHz)による非常制動を付加したSx形に改善された。(旧来のS形をそのまま含んでSx形を構成している)
[編集] ATS-S改良形(ATS-Sx形)
警報機能のみのS形に、全JRが即時停止機能を追加し、更にJR東海以西の各社とJR貨物で時素式速度照査の機能を追加した方式。
即時停止機能は、確認ボタンを押して警報を解除しても、停止現示の絶対信号機直下の地上子を通過(信号冒進)すると即座に非常ブレーキをかける機能である。時素式速度照査機能は、地上子対通過時間を車上タイマーと比較して速度照査し、速度超過時には非常ブレーキをかける機能である。
ATS-S改良形はJR各社で呼び名が異なり受信機が異なるものもあるが、動作周波数は共通で互換性がある。東日本旅客鉄道(JR東日本)はSN、北海道旅客鉄道(JR北海道)はSN、東海旅客鉄道(JR東海)はST、西日本旅客鉄道(JR西日本)はSW(車体表記はS)、四国旅客鉄道(JR四国)はSS(一部車体表記はSS)、九州旅客鉄道(JR九州)はSK、日本貨物鉄道(JR貨物)はSFと呼ばれている。
SN形・SN形には即時停止機能のみが追加されているが、ST形には時素式速度照査機能と列車番号送出機能が追加されている。また、SW形ではST形から列車番号送出機能を省略して設計し直したもので、このSW形がほぼそのままSK形、SS形となった。SF形は当初はSN型機能だったが後日車上に時素速照ボードを追加してST形に対応した。
JR東日本車のうち、JR東海管内へ直通運転をする運用を持つ車両には、ST形と同等の機能を持つATS(SN●と表記)を搭載している。
JR東日本管内に直通運転をしている伊豆急行の車両にはSiの表記があるが、呼び名が異なるだけでSN形と同じものである。JR東海との関係が深い愛知環状鉄道線・東海交通事業城北線・名古屋臨海高速鉄道西名古屋港線(あおなみ線)では、JR東海と同じST形を採用している。また、JR貨物との関係が深い水島臨海鉄道では、ATS-SFとほぼ同形(即時停止機能と時素式速度照査機能のみを使用)のATS-SMを採用している。JR線からの直通運転を行わない第三セクター鉄道でもS形からSx形に更新する事業者が増えている。
なお現状では、改良機能に対応した地上子(即時停止地上子・時素式速度照査地上子)は原則として、絶対信号(場内・出発信号)・線路終端部・分岐部・急曲線部のみに設置する拠点設置であり、閉塞信号には設置されていない。ただし例外として、JR東海の一部駅・あおなみ線の全駅の場内相当閉塞信号には、即時停止地上子が設置されている。愛知環状鉄道線では全ての閉塞信号にも時素式速度照査地上子が設置され、全ての信号でロング地上子をなくしている。
[編集] ATS-P形(デジタル伝送パターン形)
ATS-Pは、山陽本線西明石でのブルートレイン速度超過による西明石駅列車脱線事故を受けて「H-ATS」として開発された方式。
(システム概要)
停止信号・速度制限の位置、勾配、距離等の情報を地上装置・地上子から列車へ伝送し、列車ではその情報に基づき、自車の制動性能と走行距離から刻々の上限速度(パターン;その列車が制動開始から停止・減速するまでの速度変化を表す曲線)を算出・作成し、その上限速度値を用いて速度照査を行う。
停止信号までに徐々に減速できるため冒進は起こらず、安全のための余裕距離も不要な優れた方式である。停止信号に対する制限と、4種の速度制限を設定でき、それらのうちの最低値で速度照査を行う。ATS-S・ATS-Bと異なり、警報ベル音がなったあとに行なう確認扱い動作は必要としない。
速度照査はATS-S改良型のような点照査ではなく、各列車毎に車上で算出したパターンを元に常時速度照査をしており、Sx型の様な安全のための無駄がほとんど要らず列車の制動性能が正常ならば停止信号冒進は発生しないため、車間を詰めながら非常に安全性の高い方式である。
ATS-Pが優れている理由は、上述の通りパターン型照査方式採用により冒進がなく輸送容量が増えることで、これは巷間広まっている様なトランスポンダ使用のデジタル方式採用に拠るものではない。変周型ATS-Sx上位互換でパターン照査を導入したATS-Ps型はデジタル方式ではないが同じ点で優れている。
反面、降雪時など想定制動性能を保証できない環境下では、安全のための余裕距離がない分、適切な位置までに停止・減速できない恐れがあり、現に関空特急はるかの280m冒進事故となっていて、増圧改造や減速運転、早期制動など適切な対処が特に求められる。
地上子から情報を受信した列車は、停止現示の信号機やカーブなどの速度制限までの距離に応じて、パターンを作成・記憶する。実際の速度がパターン速度を超える恐れがある場合は、運転台のATS-P動作表示灯にて「パターン接近警告」を表示する。
パターン速度を超えると、直通ブレーキ系車両では常用最大制動にて信号機やカーブの手前で列車を減速または停止させる(常用制動は緩解時間が短いので、動作しても遅延が発生しにくい)。自動ブレーキ車では非常制動にて停止する。
信号関係の「保安コード(電文)」はJR各社共通で協議決定すると定められているため、JR各社間で互換性がある。
JR東日本とJR西日本で異なるコードとなっているのは「列番情報(JR東日本)」「列車選別情報(JR西日本)」「速度制限を許容不足カント量(110mmふりこ、70mm高速、60mm普通、50=該当なし)毎に加算するコード領域(JR西日本)」「架線電圧切替、交直切替(JR東日本)」などである。
ちなみに、「速度制限を許容不足カント量ごとに加算するコード領域」については一部の曲線に導入されていたが、1990年頃の導入以来2005年までにわたり、設定値の大部分が間違っていたことが判明した。
なお、このコード領域については、尼崎事故(2005年)を受けての曲線速度照査義務化に伴い、JR東日本にも採用されることとなった。
以上の位置基準型の車上演算型速度照査方式:いわゆるパターン型速度照査が(停止信号)冒進のない安全なATSとしてJR東日本を中心にATS-Pとして普及し、これが安全度を落とさずに列車間隔を詰め線路容量を増やすことに成功した優れた実績で、その照査方式が自動列車制御装置(ATC)にも取り入れられDS-ATC/D-ATC/KS-ATC=ATC-NS等で採用されて線路容量を増やし、総武快速線-横須賀線の東京トンネルや埼京線池袋-新宿間など、在来線のATC区間をATS-Pに換装した例も現れている。
なお、JR東日本が保有する「D51 498」には、蒸気機関車としては唯一ATS-P型が追設されている。
[編集] 開発当初の経歴
H-ATSは1986年末に、西明石・大阪・京都・草津の4駅に地上設備が設置され、寝台特急牽引用のEF66型電気機関車16両に車上設備が搭載されて拠点PとしてATS-Sと併用する形で運用が始まった。
「ATS-P」という名称は当初、関西本線で試験が行われていたパターン機能付きATS(変周式)に対して用いられており、これに対しH-ATSは「ATS-P'」とも呼ばれていた。変周式ATS-Pは実用化されずに廃止され、H-ATSが「ATS-P」と名称変更された。
名称変更後に初めて設置されたのは、1988年末に新規開業した京葉線の1型ATS-Pであり、「全面P」として、全ての信号機に対して設置された。
[編集] エンコーダ方式ATS-P地上装置
情報伝達は従来方式のように地上→車上の一方向ではなく、デジタル信号で地上←→車上の双方向に伝達・応答をするトランスポンダ式で開発された。2型~4N型と統合型地上装置ではそれを利用して現示アップ機能を設けたので減速性能の良い列車は、その情報を車上→地上へ伝達する事により信号現示を上げる事ができ、その結果運転間隔をさらに短縮する事ができた。(H-ATS、1型、PN型地上装置では現示アップ機能は不使用)
285系「サンライズエクスプレス」はJR東日本の区間とJR東海の区間とJR西日本の区間にまたがって運転されているが、車上子の設置位置がJR東日本車は運転室直下であるのに対して、JR西日本車は中央だったため、入線試験時に停止定位の出発信号でパターンに当たることがあった。営業運転に際しては車上子を運転室直下に移設して東西双方のATS-P区間でトラブルが起こらないようにした。
[編集] エンコーダ方式地上装置設置区間(1型~4N型、統合型)
- JR東日本のATC導入線区を除く首都圏地域
- 山形・秋田新幹線(山形新幹線は、奥羽本線(福島~新庄)。秋田新幹線は、田沢湖線全線、奥羽本線(大曲~秋田))
- JR西日本の大阪環状線・桜島線(JRゆめ咲線)・阪和線(日根野駅-和歌山駅間は工事中)・関西空港線・関西本線(大和路線)王寺駅-JR難波駅間・奈良駅構内・JR東西線・奈良線・嵯峨野線(2008年春に運用開始予定)
- 智頭急行智頭線
- 北越急行ほくほく線
- 東京臨海高速鉄道りんかい線
SN形などの変周式とは互換性がないため、P形が搭載されていない列車が入線する可能性がある線区では、ATS-S改良形(=Sx)を併用している。関西空港線(りんくうタウン駅-関西空港駅間)は南海電気鉄道との共用区間であるため、南海ATSを併用している。
[編集] ATS-PN(無電源地上子方式ATS-P)地上装置
比較的列車密度の低い線区に導入されているATS-P形の地上装置。地上設備費用を低減するためエンコーダを使わずに無電源地上子の現示によるリレー切替としたもので、それにより車上→地上への情報伝達機能が省略されたものである。
当初無電源地上子は1コマンドだったが、これを最大5現示対応に拡張して「電文」=コードを複数持たせている。Sx地上子と同様に現示条件だけで制御できるので非常に安価に設置でき、2001年初頭に首都圏周辺部の現示アップ機能の必要ない線区約600kmに導入されている。
省略されて存在しない機能は、エンコーダ(EC)間通信、車上列番受信、光電送、現示アップ、踏切定時間機能。車上装置はすべて共通である。
[編集] 設置区間
川越線、武蔵野線、中央東線、成田線、外房線、内房線、八高線、五日市線、鶴見線、上越線等。
[編集] ATS-PT形(JR東海ATS-P)
JR東海がATS-STの取り替えにより、2010年度から導入する予定の方式。
[編集] 設置予定区間
- 2010年度導入予定線区
- 2011年度導入予定線区
- 上記路線以外のJR東海の在来線全線
[編集] ATS-PF形(貨物用ATS-P車上装置)
JR貨物の機関車にはATS-PF形車上装置が搭載されているものがありPFと表記されている。ATS-Pコードが貨物の速度制限に対応しておらず、更に貨物のブレーキは強める一方のブレーキ操作しか出来ないものも多くあって減速特性が異なるので車上装置を旅客と共用出来ないことが分かったため貨物用のATS-P車上装置を開発したものである。同じ制動特性なら本来は電車、気動車、列車の様に空走時間や制動定数、車上子取り付け位置を車上装置に設定して使う。
[編集] 拠点P
ATS-P地上装置を、絶対信号機付近にのみ拠点設置する方法。JR西日本で採用されている。
絶対信号(場内・出発信号)のみにATS-P地上子を設置し、閉塞信号には設置しない(現示アップ動作が欲しい駅入口(場内信号)手前等、一部の閉塞信号には設置する)方式。
この方式を採用した区間では、全ての信号に対してATS-SW地上子が設置してあるため、Sx形のみを搭載した列車も拠点P区間へ入線可能(ATS-SWが機能)である。また、ATS-Pを設置した列車も、ATS-SxとATS-Pを同時に作動させて運転する(扱いは「ATS-S」となる)。
この方式を採用した区間では、(ATS-P地上子の設置されていない)閉塞信号は最高速度のまま冒進可能という危険性は変わらないが、列車間隔の詰まる駅周辺では、ATS-P自体の位置基準速度照査方式(パターン方式)と現示アップ動作により列車間隔を詰められるので線区全体としての線路容量を増やすことができる。
閉塞信号区間内での曲線に対する速度照査はATS-SW車上時素速照で可能だが、尼崎事故現場の様な車間を詰めたい路線ではATS-P速度照査地上子も設置されている。
なお、ATS-P2はJR西日本の車上装置の形式であり、拠点Pを示すものではない。
[編集] 設置区間
[編集] ATS-Ps形(変周地上子組合せパターン型)
SN形・SX形(ST・SW・SF形等)にパターン発生機能を追加し、P形に近い機能を持たせたものである。
列車がパターン速度を超過すると、非常制動をかけて信号機の手前で列車を停止させる。カーブなどの速度制限でも速度照査を行うことが可能であるが、P形では所定の速度まで落ちるとブレーキが自動解緩するのに対し、Ps形は非常制動がかかり、停車した後に手動で解緩させるようになっている。また、SX形の速度照査機能もそのまま使用できる。
Ps形はSN形・SX形と同じく変周式のため、Ps形のパターン生成は、地上子の共振周波数・設置間隔の組み合わせにより行う。 Ps形はSN形・SX形と上位互換性が確保されているため、SN形・SX形を搭載した車両はPs設置区間へ入線可能であり、Ps形を搭載した車両はSN・SX設置区間に入線可能となっている。
運転席に設置の動作モニタはP形のものとは異なり、現在の速度とパターン速度が表示できるよう改良されている(これらの速度は、2色のカラーバーLEDにより表示)。
地上子を規定通り設置すると、SN形・SX形を搭載した車両は即時停止地上子に反応し、停止信号時に通過すると非常制動がかかる。更にSX形を搭載した車両は、信号機380m手前の第2パターン発生地上子(=時素式速度照査地上子)にも反応し、速度超過時には非常制動がかかる。
[編集] 設置区間
現在は仙台・新潟地区のみに導入されており、以下の区間で運用されている。
※このほか、楯山~陸前白沢間では曲線に対する速度制限のみが設置されている。
なお、仙台・新潟地区において、設置当初は絶対信号(場内・出発信号)に対してのみPs形地上子が設置されており、閉そく信号および曲線に対しては設置されていなかった。曲線に対する速度照査は、仙山線において先行して速度照査が行われていたが、他の路線においても速度照査が行われている。
今後の予定として、東北・信越地区の主要駅(23駅)への導入が発表されているが、一定距離の区間へ連続的に設置するのではなく、中心駅の出入口へのピンポイント的な設置にとどまる。
当該地区における車両はもちろんのこと、この他にも関東の一部の車両(ジョイフルトレインなど)にもPs形が設置されている。また、2006年12月より、JR東日本高崎車両センターに在籍し、P形を装備している蒸気機関車D51形498号機にも追加装備がなされた。さらに2007年4月に大宮総合車両センターを全検出場する蒸気機関車C57形180号機も、新潟県内在籍のため追加装備がされる。
[編集] 私鉄のATS
大手私鉄各社で採用されているATSには、1967年1月に運輸省(現・国土交通省)通達により「速度照査機能」の付加と「常時自動投入」が義務づけられていて、多くの種類が存在する。
設置が義務付けられた速度照査機能は、最終的な冒進速度照査を20km/hとしているから、最高速度で冒進可能な国鉄・JRのATS-B、ATS-S、後の改良型ATS-Sxと比較して、衝突防止に大変有効な優れたものである。破壊力を示す冒進時の速度エネルギー比でみれば国鉄JR:私鉄:ATS-P≒36:1:0の大差があり、これが私鉄が小事故で収まる基本的理由である。 だが、通達はJRへの適用を避けるためJR発足の前日である1987年3月31日付けで廃止された。しかし、廃止以降JR各社を中心に衝突事故が繰り返されたことにより、2005年5月16日の衆議院予算委員会で通達廃止について政府小泉首相から反省が表明されたが、その後の北側国交相答弁で逆転され「国鉄方式も私鉄方式も停止信号で止めるから安全性に違いはない」と強弁され、それに拠り国交相自身の述べていたATS-P化義務化路線選定方針も自ら必要性を否定したことになったが、質問者が切り返せず吹き飛んでしまった。
地方私鉄においては、JRや大手私鉄と同一・類似方式のATSが採用されている事が多い。しかしながら、通達の基準に該当しない事業者で、経営が苦しいためにATSの整備が大幅に遅れ、京福電鉄衝突事故後に補助金が支給されて多くの未対策私鉄に誤出発防止ATSが設置された。
例えば2000・2001年の京福電気鉄道(現、えちぜん鉄道)の2度の正面衝突事故で、ATSが設置されていない事が問題になった(但し、2000年の正面衝突事故はブレーキロッドの破断が原因であり、事故そのものは回避できなかったが、対向列車を停止させられれば事故の規模は低減できた)。そのためえちぜん鉄道に引き継いで営業再開する際にATSが整備された。
通達:「自動列車停止装置の設置について」 昭和42年鉄運第11号 (1967/01発)「自動列車停止装置の構造基準」
[編集] 変周式(単変周・多変周)地上子
国鉄のATS-S型に近いが、地上子を2つ並べて、その2つの地上子を通過する時間によって速照する方式である。 国鉄のATSーSの改良型に似ている。
[編集] 多変周式信号ATS(多変周式(点制御、連続照査型))
地上子で車両側が信号を受信・記憶し、その信号に合わせた一定の速度で連続的に照査する。信号機の現示アップ等で照査速度が上がっても、次の地上子を通過して信号を受信するまでは照査を続けるか、確認ボタンを押して照査を解除する。
採用例 近畿日本鉄道・京王電鉄・小田急電鉄・三岐鉄道(北勢線)
近鉄には終点用や速度超過防止用のATSもあり、これらも多変周式である。
[編集] 東武鉄道TSP式(多変周式・パターン照査型)
多変周・点制御式ATSだが、速度照査を他の方式のように信号現示に応じて階段的に行うのではなく、車上装置で発生する2段階のパターンを用いて連続的に行う、東武鉄道独自のATS。JRのATS-Pと異なる点は、トランズポンダのように停止信号までの距離を伝送して1段階の減速パターンを発生するのではなく、信号機の現示に応じて2段階のパターン(電車の場合60km/hまで減速、15km/hまで減速の2パターン)を用いて速度照査を行う点。東武鉄道や後述の西武鉄道においてパターン式を必要としていたのは、導入当時電車列車に比べて制動性能の劣る貨物列車が多数設定されていたことに対応するため。
採用例 東武鉄道、かつての都営地下鉄三田線。JRのATS-Psは多変周ではなく、単機能変周式地上子を組み合わせたもの。
[編集] AF軌道回路方式(連続照査型)
後に国鉄ATCでも採用されたAF軌道回路を使って連続的に信号を流し、列車側がこの信号を受信して連続的にある一定の速度で(西武はパターンで)照査する。信号の現示がアップした際はすぐにアップした照査速度の信号を受信することができる。ただし、地上子を併用している場合は多変周式と同様次の地上子まで照査を続ける。
採用例 阪神電気鉄道・阪急電鉄・山陽電気鉄道・相模鉄道・西武鉄道・西日本鉄道
- このうち西武と阪急(神戸本線のみ)はパターン式ATSとなっている。
[編集] 軌道電流式(半連続照査型・点照査型)
国鉄ATSのB型と同様にレールに常に電流を流し、電流を切ることによって信号を送っている。この電流を切る時間で照査速度を車両側に伝えている。照査は一定の速度で連続的に照査する。
採用例 東京急行電鉄および1号型ATS(下記)
[編集] 1号型ATS
新京成電鉄・京成電鉄・京浜急行電鉄・北総鉄道・芝山鉄道・東京都交通局(都営地下鉄浅草線)で使用されている。1960年12月、都営地下鉄1号線(現・浅草線)への相互乗り入れに際して採用され、1967年1月の私鉄ATS通達(S42鉄運第11号)で速度照査段を増やす改良をされた方式。打子式ATS以外では日本で最初のATSでもある。ATSに関しては、上記7者の中でどの事業者の車両がどの事業者の線路を走っても問題なく作動する。古い規格ながら、保安度としてはATS-Pに準ずる優れたものである。無閉塞運転中も信号電流が無ければ15km/hの速度照査が行われることが他ATSには見られない特徴。ただし、現行の装置と新京成電鉄で採用された車上装置を除き「絶対停止」機能はない。
交流50Hzの軌道電流を常時流しておき、それを0.8秒間遮断する事で45km/h速度照査を、さらに3秒間遮断する事で15km/h速度照査を車上装置に伝達し、車上装置では、速度超過している場合に自動的にブレーキをかけ、45km/hまたは15km/hまで減速した時点で緩解する。それ以外の速度で照査する場合には、レールに設置した2箇所1対の検知子(その間隔は照査する速度によって調整する)を列車が通過する時間差が基準以下の場合に速度超過と判定して、上記のように軌道電流を遮断する。検知子は任意の場所に設置できるので、点照査であっても連続照査と同等の機能を有する。しかし、車上装置側では、地上での照査速度が45km/h以上の場合には一律45km/h、45km/h未満の場合には一律15km/hの速度照査がかかってしまうので、地上装置で照査した速度に比べて必要以上に減速させてしまうことになる。そのため、下記のC-ATSの導入が進められている。
[編集] C-ATS
新京成電鉄(予定)・京成電鉄(予定)・京浜急行電鉄・北総鉄道(予定)・芝山鉄道(予定)・東京都交通局(都営地下鉄浅草線)で使用されるATS。2007年3月17日より浅草線で先行使用開始された。MSK変調(デジタル変調の一種)を用いて1号型ATSより詳細な情報(5km/h単位の速度照査など)を伝達でき、JRのATS-Pに匹敵する機能を持つ。車上装置については、地上側からの信号で1号型ATSとC-ATSを自動的に切り替え可能なものに更新済みである(新京成・京成車の一部を除く)。 従来の1号型ATSと互換性を持ち、速度照査機能の強化などの改良をされた形式。浅草線内では常に70km/h照査になり、停止信号手前では車上装置に「パターン接近」表示が出る他、停止した際も「NB」表示と共にマスコン・ブレーキハンドル位置に関わらずにブレーキをかけておく機能を有する。
[編集] 軌道のATS
軌道法による軌道の場合には、新設軌道と併用軌道が混在している軌道と道路の路面以外の併用軌道については、続行運転や道路上にある交通信号や、海上や河川での運行上、閉塞方式自体が不要か簡略化されており、ATSなどの警報装置自体の設置が完全に義務化されていない。
[編集] 関連項目
- 自動列車警報装置(AWS)
- 自動列車制御装置(ATC)
- 自動列車運転装置(ATO)
- 定位置停止装置(TASC)
- 自動列車防護装置(ATP)
- 緊急列車防護装置(TE装置)
- 緊急停止装置(EB装置)
- デッドマン装置
- 新交通システム
- 速度照査
- 踏切
- 鉄道信号
- 閉塞方式
- 列車選別装置
[編集] ATS関連の鉄道事故
- 鉄道事故
- 列車衝突事故
- 列車脱線事故
- 六軒事故(1956年)
- 三河島事故(1962年)
- 近鉄大阪線列車衝突事故(1971年)
- 西明石駅列車脱線事故(1984年)
- 東中野駅列車追突事故(1988年)
- 京福電気鉄道越前本線列車衝突事故(2000年・2001年)
- 土佐くろしお鉄道宿毛駅衝突事故(2005年)
- JR福知山線脱線事故(2005年)