名探偵ホームズ
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名探偵ホームズ(めいたんていホームズ)は、小説シャーロック・ホームズシリーズを原作にしたドタバタアニメ。日本の東京ムービー新社とイタリアの国営放送局 RAI の合作。1984年11月6日から1985年5月20日までテレビ朝日系で放送。全26話。制作初期の6編は宮崎駿が監督・演出などを務める。
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[編集] 作品概要
[編集] 内容
原作から登場人物と舞台を借りただけのオリジナル・ストーリーである。登場人物はすべて擬人化した犬に置き換わっている。ストーリーは単純で、毎回モリアーティ教授と2人の部下が悪事を働こうとし、ホームズがそれを阻止する。推理小説色は薄いが、その代わりに、教授の奇妙な発明品や、警官隊と教授一味の追いかけっこなど、全体的に明るく楽しい雰囲気で作られている。ほとんどが盗難事件で、殺人事件はひとつもない。原作には様々な悪人や数人の警官が登場するが、本作では犯人はいつもモリアーティ教授で、事件の捜査担当はいつもレストレード警部になっており、登場人物の役割が子どもに分かりやすくなっている。
[編集] 放送まで
イタリアの国営放送局RAIが、イタリアの民間制作会社REVERに制作を発注。REVERが日本の東京ムービー新社に共同製作を持ちかけて、実現した日伊合作作品。実際の制作は東京ムービー新社傘下のテレコム・アニメーションフィルムで行なわれ、監督には宮崎駿があたった。しかし、1982年に6話分を手がけたところで、制作は一時中断。音声はない状態だった。1984年の宮崎監督の劇場アニメ『風の谷のナウシカ』の同時上映作品に2話分が選ばれて、ようやく陽の目を見ることになる。これがきっかけとなり、制作を再開し、テレビ朝日での放送も決定した。宮崎を継いで監督したのは、『ルパン三世 (TV第2シリーズ)』の中心演出家だった御厨恭輔。東京ムービー新社からの発注で、創設間もないスタジオぎゃろっぷが制作で中心的役割を果たした。
イギリスに留学していた夏目漱石や、始まったばかりの郵便飛行機が登場するなど、1900年前後のイギリスという舞台設定を活かして話が作られている。「まだらの紐」や「青い紅玉」「技師の親指」など原作のモチーフが登場するが、「バスカビル家の犬」は子供向けでないとしてイタリアのRAI側から却下されるなど、原作のような不気味な雰囲気や奇妙な可笑しさはなく、原作の愛読者にとってはささやかなファンサービスにしかなっていない。
テレビ版でホームズを演じているのは、イギリスのコメディ番組『モンティ・パイソン』の吹き替えで有名な広川太一郎である。広川節とも言われるアドリブ混じりの独特の台詞回しが楽しく、作品の雰囲気作りに貢献している。
[編集] 登場人物
括弧内は声優。
- ホームズ(テレビ版:広川太一郎、劇場版:柴田侊彦)
- ワトソン(富田耕生)
- ホームズの相棒。ホームズの推理の聞き役。中年太りのおじさん医師、ただし作中で医師として誰かを治療することはほとんどない。愛銃はエンフィールドNo.2。次回予告をしているのもワトソンである。
- ホームズとは第1話で知り合い、以後同じ下宿で生活する事になる。
- ハドソン夫人(テレビ版:麻上洋子、劇場版:信沢三恵子)
- ホームズとワトソンの下宿の家主。19歳(「ミセス・ハドソン人質事件」のモリアーティのセリフ)の未亡人。周りで何が起こっても常に落ち着いている。夫を飛行機事故で亡くしたため、飛行機がトラウマになっていた。古い友人には「マリー」(Malian)と呼ばれていることから 本名は マリアン・ハドソンと推定される(注:ただし、これはアニメに限ってのことであり、実際のシャーロックホームズのハドソン夫人のファーストネームはファン達の間で いまだ、議論中である)。飛行機の登場する「ドーバー海峡の大空中戦」ではとてもアクティブなハドソン夫人を見ることが出来る。劇場版では「ヘディスン夫人」と呼ばれていた。
- モリアーティ(大塚周夫)
- 悪党の親玉。白いシルクハットとマントをまとうオシャレな知能犯。出来の悪い部下を叱り付けながら、犯罪計画を進める。ホームズ曰く「あんにゃろめ」「あんちくしょう」。
- 作品前期では用済みになった技師を殺そうとするなど残酷な面も見せていた。一方で同じく前期のエピソードで誘拐したハドソン夫人を丁重に扱うなど紳士的な一面も見せており、そういった面では行動が読みにくい一面もある。ただし物語が後半に進むにつれ残酷な面はほとんど見せなくなる。
- 結構な頻度で新しい大型機械を投入するためか、あるいは下準備が大掛かりな盗難計画が多いためか、慢性的に貧乏。食事もままならない生活を送っている(裏の川の魚、公園の鯉、パンと水のみなど)。
- 目標は「犯罪界のナポレオン」と呼ばれること。
- トッド(テレビ版:増岡弘、劇場版:肝付兼太)
- モリアーティの部下。元海賊。スマイリーの兄貴分。アニメのオリジナルキャラクター。
- スマイリー(テレビ版:千田光男、劇場版:二又一成)
- モリアーティの部下。元海賊。ひょろりとした体で頼り無いが心は優しい。アニメのオリジナルキャラクター。長銃の扱いに長ける。
- レストレード(テレビ版:飯塚昭三、劇場版:玄田哲章)
- スコットランドヤードの警部。警官隊を引き連れてモリアーティ一味を追いかける。
[編集] 犬になった理由
登場人物が犬になったのは、イタリア側の要請による。動物にしたら面白いという発想は昔からあるので、日本では今さらやる意味がないといって、宮崎駿は犬にするのを嫌がった。しかし、イタリア側の要請が強く、犬にせざるを得なかった。宮崎駿は、下宿の家主のハドソン夫人だけは人間にして、超人的なホームズでさえ人間の前ではおとなしくなる、という風にしようとしたが、これもイタリア側から受け入れられなかった。しかし、このアイデアは、第4話「ミセス・ハドソン人質事件」で少し活かされることになる。この話では、ハドソン夫人はモリアーティ一味に誘拐され秘密のアジトに連れていかれるが、動揺する素振りも見せずに掃除・料理などいつも通りの家事をする。解放されてからも、何事もなかったかのようにひとり超然としているのである。犬である特徴は外見以外全く見られず全ての登場人物が人間と同じように振舞うが、一回だけレストレード警部が手紙の臭いを嗅いで犬らしさを見せたことがある。
[編集] 宮崎駿作品
制作初期の6編には宮崎駿が参加している。話数は制作順と異なる。
- 第3話「小さなマーサの大事件!?」(監督、脚本、絵コンテ、演出)
- 第4話「ミセス・ハドソン人質事件」(絵コンテ、演出)
- 第5話「青い紅玉」(監督、絵コンテ、演出)
- 第9話「海底の財宝」(監督、絵コンテ、演出)
- 第10話「ドーバー海峡の大空中戦!」(絵コンテ、演出)
- 第11話「ねらわれた巨大貯金箱」(監督)
[編集] スタッフ
- 制作:東京ムービー新社、 RAI 、 REVER
- 制作協力:東京ムービー、ぎゃろっぷ、テレコム・アニメーションフィルム
- 原作:アーサー・コナン・ドイル
- 製作:藤岡豊、ルチアノ・スカッファ
- オリジナル・アイデア:マルコ・パゴット
- グラフィック・デザイン:ジー・パゴット
- 監督:御厨恭輔、宮崎駿
- プロデューサー:高橋美光
- シリーズ構成:山崎敬之、島崎真弓
- 脚本:片渕須直、荒木芳久、伊藤敏也、伊東恒久、山鳥早起、石堂淑朗
- 演出:早川啓二、宮崎駿、所すみお、奥田誠治、富沢信雄、水谷高哉、柳沢隆
- コンテ:奥田誠治、早川啓二、冨沢信雄、所すみお、小華和ためお、湯山邦彦、水谷貴哉、
- キャラクターデザイン:近藤喜文
- 作画監督:丹内司、近藤喜文、友永和秀、山内昇寿郎、田中平八郎、柳野竜雄、北原健雄、吉田詔治、田中保、小林一幸、高坂希太郎、道旗義宣
- 美術監督:影山仁、山本二三
- 撮影監督:若菜章夫、高橋宏固
- 音楽監督:鈴木清司
- 録音監督伊達康将(劇場版:斯波重治)
- 録音技術:丹波晴道
- 製作担当:水沼健二、木村健吾、竹内孝次
- 色指定:山本雅世、近藤浩子、山本智子、橋本直子
- 美術:現代制作集団、TAF、スタジオ風雅、スタジオロフト、小林プロダクション、みに・あーと
- 編集:掛須秀一、瀬山武司
- 音楽:羽田健太郎(劇場版:村松邦男)
- 選曲:合田豊
- 効果:東洋音響
- 製作進行:神田修吉、佐藤育郎、笹原克彦、小板橋司、山路晴久、小笠忠孝、押切直之
[編集] 主題歌
[編集] 劇場版
テレビ放送前の1984年に、宮崎駿が監督した「青い紅玉」と「海底の財宝」の2編が『風の谷のナウシカ』と同時上映された。これは劇場版と呼ばれていて、声優、台詞、登場人物の名前、編集、効果音、音楽がテレビ放送時と異なる。特にホームズ役の声優の違いが、作品の雰囲気を変えている。柴田侊彦(『大草原の小さな家』チャールズ・インガルス役で有名)の声は頼りがいのある大人のホームズという感じで、作品全体を少し落ち着いた雰囲気にしている。
劇場版においては、本作はコナン・ドイルの著作物には基づかない旨の断りを入れるクレジットが入っており、数人の登場人物の名前が変更されている。モリアーティ教授はモロアッチ教授、ハドソン夫人はエリソン夫人、レストレード警部はレストラント警部になっている。他にも、音声処理により「シャー□ック・ホームズ」と伏せ字で名乗っているようにみえる。
劇場版のいくつかのシーンはテレビ放送時にカットされた。1986年の『天空の城ラピュタ』の同時上映の「ミセス・ハドソン人質事件」と「ドーバー海峡の大空中戦!」はテレビ版と同じである。なお、テレビ版で原作と同じ名前になったのは、劇場版上映からテレビ版放送開始までの間に原作の著作権が消滅したから。
[編集] 主題歌
[編集] 関連書籍
劇場版を含む宮崎演出作品の書籍化は以下のとおり。いずれも徳間書店。
- アニメージュ文庫
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- (池田憲章・編)『名探偵ホームズ(1)「青い紅玉」』 ISBN 4-19-669520-5
- (池田憲章・編)『名探偵ホームズ(2)「海底の財宝」』 ISBN 4-19-669521-3
- (町田知之・編)『名探偵ホームズ(3)「小さな依頼人」』 ISBN 4-19-669532-9
- (アニメージュ編集部・編)『名探偵ホームズ(4)「ソベリン金貨の行方」』 ISBN 4-19-669533-7
- (ただのかずみ・編)『名探偵ホームズ(5)「ミセス・ハドソン人質事件」』 ISBN 4-19-669535-3
- (池田憲章・編)『名探偵ホームズ(6)「ドーバーの白い崖」』 ISBN 4-19-669536-1
- スタジオジブリ絵コンテ全集
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- 『絵コンテ全集 第2期 4 名探偵ホームズ』 宮崎駿/絵コンテ・演出 徳間書店スタジオジブリ事業本部 2003年6月 ISBN 4-19-861679-5 (「小さなマーサの大事件!?」「ミセス・ハドソン人質事件」「青い紅玉」)
- 『絵コンテ全集 第2期 5 名探偵ホームズ』 宮崎駿/絵コンテ・演出 徳間書店スタジオジブリ事業本部 2003年6月 ISBN 4-19-861680-9 (「海底の財宝」「ドーバー海峡の大空中戦!」「ねらわれた巨大貯金箱」)
劇場版の書籍化は以下のとおり。いずれも徳間書店。
- 徳間アニメ絵本
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- 徳間アニメ絵本 <26>『名探偵ホームズ 劇場版 1(「青い紅玉」「海底の財宝」)』 ISBN 4-19-861843-7
- 徳間アニメ絵本 <27>『名探偵ホームズ 劇場版 2(「ミセス・ハドソン人質事件」「ドーバー海峡の大空中戦!」)』 ISBN 4-19-861877-1
[編集] ビデオグラム
[編集] テレビシリーズ
- 『徳間コレクション 名探偵ホームズ DVD-BOX』(全26話) 徳間書店・発売、パイオニアLDC・販売 2001年3月23日 PIBA-3020
- 『名探偵ホームズ DVD-BOX』(全26話) ジェネオンエンタテインメント 2005年6月24日 GNBA-3020(PIBA-3020の新価格再発売)
(以下のテレビシリーズ各巻バラ売りは、生産完了。2006年10月現在)
- DVD『名探偵ホームズ I(1)』(第1話~第6話) パイオニアLDC(ジェネオン) 2001年12月21日 PIBA-302001
- DVD『名探偵ホームズ II(2)』(第7話~第12話) パイオニアLDC(ジェネオン) 2001年12月21日 PIBA-302002
- DVD『名探偵ホームズ III(3)』(第13話~第18話) パイオニアLDC(ジェネオン) 2001年12月21日 PIBA-302003
- DVD『名探偵ホームズ IV(4)』(第19話~第24話) パイオニアLDC(ジェネオン) 2001年12月21日 PIBA-302004
- DVD『名探偵ホームズ V(5)』(第25話~第26話) パイオニアLDC(ジェネオン) 2001年12月21日 PIBA-302005 (映像特典:各話予告編/番組宣伝スポット(14種類)/ノンテロップOP&ED/英語版OP/宮崎駿ほかによるイメージ・ボード(127枚・静止画))
[編集] 劇場版
- ブエナビスタホームエンタテインメント 「ジブリがいっぱいCOLLECTIONスペシャル TMS東京ムービー作品」
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- 『劇場版 名探偵ホームズ』(「青い紅玉」「海底の財宝」を収録)
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- DVD 2002年5月24日発売 約46分 VWDZ-8028 (映像特典 … 絵コンテ映像(本編と完全にリンクした絵コンテを全編収録)、劇場予告編2種類(約5分)、対談 黒澤明vs宮崎駿(「映画に恋して愛して生きて・黒澤明と宮崎駿」1993年度作品)、テレコムスタッフ座談会)
- VHS 1999年11月19日発売 生産終了 約46分 VWSZ-8028
[編集] パチスロ台
[編集] 関連項目
- モンタナ・ジョーンズ
- 1994年にNHKで放送されたインディ・ジョーンズ風の冒険アニメ。登場人物がすべてネコ科のライオンとトラになっている。日本のスタジオジュニオとイタリアの REVER の合作。マルコ・パゴットとジー・パゴットも参加している。敵役であるゼロ卿一味は、モリアーティ一味を思わせる雰囲気がある。ちなみに、モンタナ・ジョーンズ役の大塚明夫は、モリアーティ役の大塚周夫の息子。
- ケモノ
[編集] 外部リンク
- 制作会社による紹介ページ:第1話から第13話、第14話から第26話
- SHERLOCK HOUND remix
テレビ朝日系 火曜19:00枠(1984年11月-1985年3月) | ||
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前番組 | 名探偵ホームズ | 次番組 |
オヨネコぶーにゃん | 藤子不二雄ワイド (19:00-20:00) |
テレビ朝日系 月曜19:00枠(1985年4月-5月) | ||
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前番組 | 名探偵ホームズ | 次番組 |
忍者ハットリくん | コンポラキッド |
宮崎駿 監督作品 |
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長編作品 |
ルパン三世 カリオストロの城 | 風の谷のナウシカ | 天空の城ラピュタ | となりのトトロ | 魔女の宅急便 | 紅の豚 | もののけ姫 | 千と千尋の神隠し | ハウルの動く城 | 崖の上のポニョ |
テレビアニメーション |
ルパン三世(第1シリーズ) (一部) | 未来少年コナン | ルパン三世(第2シリーズ)(145・155話) | 名探偵ホームズ(3~5・9~11話) |
宮崎駿 主要参加作品 |
劇場用アニメーション映画 |
ガリバーの宇宙旅行 | 太陽の王子 ホルスの大冒険 | 長靴をはいた猫 | 空飛ぶゆうれい船 | どうぶつ宝島 | パンダコパンダ | パンダコパンダ 雨ふりサーカスの巻 | 草原の子テングリ | 耳をすませば |
テレビアニメーション |
アルプスの少女ハイジ | 母をたずねて三千里 | 赤毛のアン(1~15話) |
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