東武熊谷線
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熊谷線（くまがやせん）は、埼玉県熊谷市の熊谷駅から大里郡妻沼町（現・熊谷市）の妻沼駅までを結んでいた東武鉄道が運営していた鉄道路線。地元では妻沼線（めぬません）とも呼ばれていた。
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[編集] 路線データ
- 管轄：東武鉄道
- 区間（営業キロ）：熊谷～妻沼 10.1km
- 軌間：1067mm
- 駅数：4駅（起終点駅含む）
- 複線区間：なし（全線単線・熊谷～上熊谷間は、秩父鉄道線を借用）
- 電化区間：なし（全線非電化）
- 閉塞方式：スタフ閉塞
[編集] 概要
もともと軍の命令で建設された路線で、第二次世界大戦末期（1943年12月5日）に、太田市の中島飛行機（現:富士重工業）への要員・資材輸送を目的として、熊谷駅～東武小泉線の西小泉駅間の建設が計画され、第一期工事区間として熊谷駅～妻沼駅間が開業した。
- 建設には上熊谷駅付近の高崎線と秩父鉄道秩父本線の分岐部の三角地帯に転車台など、作業基地をおいて、秩父鉄道の大麻生付近の貨物線で荒川から土砂を採取し、秩父鉄道のダイヤを縫いながら7分で石原付近の盛土部へ輸送した。高崎線の立体交差は、幹線として日夜運行量の多い高崎線の邪魔にならないように、土を盛るのは微妙な調整のいる難工事であった。そのため熊谷線の盛土部は荒川の河川部と同じ礫を含んだ砂地であり、周囲の地質とは異なっていた。また、三交代制の突貫工事であったにもかかわらず死者は一人も出なかった。
- 建設には戦時中の資材不足のため、熊谷線建設のため東武日光線合戦場駅以北を単線化し、その際に発生したレール等を使用している。
- 利根川の橋梁部は中央部を国鉄のルート変更によって不要となったトラス橋、河川敷部は日光線単線化によって捻出した上路式ガーター橋（桁橋の一種）を流用する予定であった。
- 免許は東小泉駅（起点）～熊谷駅間。
- 熊谷市石原付近（上熊谷駅～石原駅中間地点のやや石原駅より、かつての熊谷線と秩父鉄道の分岐点）で秩父鉄道をオーバークロスして秩父鉄道の南側に平行して建設、熊谷駅南側に熊谷線のホームを設置する予定であったが、そのための盛土を構築する時間はないため秩父鉄道の複線化用地と熊谷駅ホームを借用し、熊谷駅～上熊谷駅～熊谷市石原付近を仮線として開通した。このさいに、利根川への架橋（第二期工事）が完成したときまたは秩父鉄道が複線化するときにこれを返還するとした協定が結ばれた。
- 軍事路線であったためほぼ一直線に大泉町を目指すルートとなっている。住民の生活路線として建設されたものではなかったので、沿線の集落、交通を考慮したルートではなかった。中奈良付近の 埼玉県道341号太田熊谷線（かつての国道407号）との交差部は盛土による立体交差の予定であったが、急を要するため平面交差とされた。これも利根川への架橋が完成したときには立体交差とするとして当局より平面交差（踏切設置）の許可をえた。
しかし、第二期工事区間である新小泉駅～妻沼駅間開通前に終戦を迎え、戦後、治水上の都合から工事の中断は直にはできず、利根川を渡る橋梁の橋脚部分が完成するまで行い終了した。そのため、利根川を挟んで南北に分断された形で営業を行うことになった。その南側が熊谷線である。
東小泉駅～熊谷市石原付近まで複線化用地があったが、急を要するため一部の路盤は単線分しかなく、のこった用地での耕作は事実上黙認され、熊谷市、妻沼町の台帳に登録されていない幻の耕地ということになり、戦後の食糧難時にそこで収穫された物はヤミ食料として出回ったといわれ、熊谷線はヤミ食料の買い出しで大変混雑した。今でも田んぼの中に残る杭までが東武鉄道の所有地である。
戦後、さらに熊谷駅から南下し、東武東上線東松山駅までの延長も検討されていた。
開通以来赤字続きだった事もあり廃線の話はいくどなく東武鉄道と沿線自治体の間で話し合われ、沿線自治体からは橋梁を完成させ全線開通の要望は強くあったが、1983年6月1日に廃線となった。
廃線のおもな理由は
- 営業係数が500を超えており年間2億円あまりの赤字であること。また、さらに投資を行っても改善する見込みが得られないこと。
- 上越新幹線開通に合わせた熊谷駅の橋上駅化の際に、熊谷市かねてからの要望であった、熊谷駅南口開設のための自由通路が秩父鉄道の敷地を通るため承諾が必要になった。秩父鉄道側は熊谷線にホームの一角を貸しているために、秩父・寄居方面と羽生方面との列車交換ができず、複線化もできなかった。よって承諾する際には、熊谷線が借用している施設を複線化のために返還するように求めた。そのため南口開設の際には熊谷線は熊谷市石原付近で秩父鉄道をオーバークロスするとしたかつての協定を守るため、莫大な資金が必要になったが赤字路線である熊谷線に東武鉄道が資金を投入することはできないため、最後まで熊谷線廃止に反対していた熊谷市は南口開設か熊谷線の廃止といった二者択一をせまられ、ジレンマに陥った。その結果、熊谷市は南口の開設、熊谷線の廃止を選んだ
などである。遠因としては、
- 当時、妻沼ニュータウンの開発で東武が用地買収に失敗し「空から種をばらまいたように」未取得地が点在して大規模な開発がいまだできない状態であり妻沼町の人口の伸びが予想よりも鈍く、輸送人員が伸びなかった。
- 住民の要望によって開通した路線ではないので大規模な廃線反対運動が地域で繰り広げられなかった。
- 東武側が戦後、詳細な調査を行う前に「全線開通は是非とも当社で行いたい。」などと繰り返し発言し、沿線住民の間では「いつか東武が作ってくれる」といった甘い期待があった。
などがある。
なお、妻沼町は廃止をせまる東武側に、逆に「妻沼町田島付近、熊谷市奈良付近・大原付近に新駅を設置し熊谷線の利用を促進したらどうか。」と提案したが、「新駅を設置しても50人程度しか利用者が見込めない。」として東武側はこれを退けた。この後、妻沼町は熊谷市よりも先に廃線反対を諦め、条件闘争に突入する。
東武鉄道側は全線開通すると、それまで東武線を使って都心に出ていた通勤客が高崎線熊谷駅経由で都心に出てしまうという経営上の理由から全線建設に消極的だったともいわれており、事実、社内にはそのような観点から反対する者もいたが、東武側は調査の結果、
- 「開通させるのは簡単だが採算が取れそうも無いことが判明したため、地元の資本によって新会社を設立、その会社が運営にあたるのなら用地、設備を無償譲渡するなどの協力をしてもよい。」とのコメントを出している。
このため、必ずしも全線開通に消極的な訳ではなくむしろ、
- 東武側は、地元にも東武の資本による建設を行わないことを通告した上でその案を再三にわたって提案しているが、群馬県側のメリットに対して埼玉県側のメリットは少ないため、群馬側にくらべて埼玉側は乗り気でなく、ついに廃線が決まったときにあわてて第三セクターの新会社による西小泉駅～熊谷駅間の鉄道運行を埼玉側が群馬側に持ちかけたところ、群馬側はとっくに冷めており乗り気でなく、計画を断念した。
など、沿線住民の足並みが揃っていなかったことが廃線の早まった一因とも思われる。
現在は妻沼町～熊谷駅間には鉄道代行路線バスとして国道407号経由の急行バスが運行されており、その他にも廃線以前より運行している 埼玉県道341号太田熊谷線経由の路線バス、ゆうゆうバス（秩父鉄道観光バス）というコミュニティバスなど複数の系統がある。太田駅～熊谷駅間には朝日自動車の路線バスが運行しているほか、おおたCityシャトル500として太田駅南口～熊谷駅南口（BUSターミナルおおた経由）間にシャトルバスが運行している。 また、太田駅から東武熊谷線の廃線跡を利用して、熊谷駅まで新線を敷設する埼群軌道新線計画が沿線地元住民を中心に提唱されている。この動きに対し東武鉄道では、上記のような経緯から「自治体等の動向を見守っているところである」としている。
[編集] 運転
開通当初は蒸気機関車牽引で運転されていた。熊谷駅～妻沼駅間は工員輸送しか行われず、資材輸送はおこなわれなかった。日夜を違わずピストン輸送が行われ、妻沼駅から工場までの連絡は東武バスによって刀水橋を経由しておこなった。妻沼駅に着いた列車からバスへの乗り換えがうまくいかないと憲兵がとんできたそうである。また熊谷線は米軍機による被害はいっさい出さなかったが、乗務員は乗客を守るために米軍機を見つけると木立の陰に列車を停車させ隠すなど、涙ぐましいまでの努力をしていた。
終戦後は工員輸送も終わり、利用者の少ない熊谷線は本線よりも低質な石炭をまわされたため、高崎線とのオーバークロスで蒸気機関車の蒸気圧が上がらなくて勾配をのぼれず、乗客が降りて列車を押すほどであった。当時、現在の熊谷市立大原中学校付近にあった埼玉県立熊谷商業高等学校の生徒たちはあまりに遅いので列車を飛び降りて、土手を下って学校に通ったほどであった。後にはやや改善したものの、その鈍足ぶり（熊谷～妻沼間10.1キロを24分）から沿線乗客には揶揄混じりの「カメ」と呼ばれていた。
1954年（昭和29年）に旅客列車の無煙化をはかり3両導入した東急車輌製キハ2000形気動車は 17分で走破し、またずんぐりむっくりな車両でもあったので「特急カメ号」という呼び名で親しまれた。しかしその後いつの間にか「特急」の部分がとれてしまい、また「カメ号」に戻った。また、一部沿線住民は蒸気機関からディーゼル機関となったため「ジーゼル」とも愛称で呼んでいた。
晩年はほぼ毎時1本の運転であり、平日朝夕など混雑時はキハ2000形気動車2両編成、そのほかの閑散時は単行。大幡駅にあった交換設備も撤去され、全線1閉塞となっていた。終点妻沼駅には「杉戸機関区妻沼派出所」が置かれていた。
[編集] 歴史
[編集] 駅一覧
熊谷駅は国鉄（後に秩父鉄道）、上熊谷駅は秩父鉄道に委託しており、大幡駅も無人化され、晩年東武鉄道の職員が配置されたのは妻沼駅だけであった。
[編集] 接続路線
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