運賃
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運賃(うんちん)とは、交通機関(運輸会社など)との運送契約に基づき、旅客や貨物の運送の対価として、交通機関に支払う金銭のこと。
鉄道の旅客運賃は、一般的に普通列車一般車両の自由席を利用する運送のための対価をいい、急行列車や特別車両などを利用するために支払う料金と区別される。
国内線航空運賃は、鉄道同様に一般席を利用するためのもので、特別席(スーパーシート)を利用する場合は追加料金を支払う形となる。
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[編集] 鉄道(旅客)
[編集] 概説
鉄道の運賃は、駅間ごとに定められた営業キロの総和に応じて決められるのが一般的である。これ以外の方式としては
- 乗車1回あたりの運賃のみを定める(均一運賃、均一制運賃などと呼ぶ)。路面電車に採用例が多い。また北神急行電鉄北神線や芝山鉄道線のように途中駅のない路線は必然的に均一運賃となる。
- 区間ごとに特段の運賃を定める(いわゆる三角表方式)。駅数が少ない路線などに採用される。
- 路線をブロックに分割し、その利用するブロック数で運賃を定める(区間制と呼ばれる)。日本の鉄道路線では数は少ない(筑豊電気鉄道線などにその例がある)。
といったものがある。
営業キロに応じて運賃を定める場合でも、どのように運賃と営業キロを対応させるかによって2つのタイプに大分出来る。
- 1つは、運賃が初乗り区間付近を除き営業キロにほぼ比例する形で運賃を定めるもので、対キロ制と呼ばれる。JRではこの方式を採用しているが、それ以外の日本の鉄道事業者においてはこの方式を採用するものは少ない。
- もう1つは、初乗り運賃を定め、これにキロ数にほぼ比例した運賃を加算していくもので、対キロ区間制と呼ばれる。日本では私鉄で主流である。
また線区ごとに収益に差がある場合などに、一部区間において営業キロをそのまま利用せず、営業キロより割り増しされたキロ数を適用した上で運賃を計算する場合がある(日本の場合、JR四国・JR九州の地方交通線や、名古屋鉄道にその例がある)。詳細は「営業キロ」の項を参照のこと。
2社にまたがる場合で双方が最低運賃の区間の場合、双方の運賃をそのまま合算すると距離の割に運賃が高くなるために、救済措置として乗り継ぎ割引を適用した連絡乗車券が発売されることもある。
[編集] 遠距離逓減制
鉄道の運賃は多くの場合、長距離で利用するほど「運賃÷利用キロ数」が低くなるように設定されている。これを遠距離逓減制(えんきょりていげんせい)と言う。
対キロ制運賃の場合、キロ数に比例して定められる運賃を全区間において同一にせず、一定のキロ数を越えた分については低い運賃を比例させるといった方法が取られる。
対キロ区間制運賃の場合はそもそも制度上「運賃÷利用キロ数」は低くなっていく(「運賃=一定額+(距離比例額×キロ数)」であるため、これをキロ数で割ると「運賃÷利用キロ数=(一定額÷利用キロ数)+距離比例額」となる)。ただ、それでも距離が長くなると距離に比例する運賃を下げることもある。
遠距離逓減制のため、同一区間を乗車する場合においては、切符は2枚に分かれているよりも1枚になっていた方が安くなる場合が多い(「途中下車」も参照)。しかし、運賃計算制度の構造上2枚に分けた方が運賃が安くなる場合もある。この点については以下のページに詳しい。
[編集] 運賃計算における特例
通常の運賃計算のルールを適用すると利用実態にそぐわない場合などに、以下のような特例を設けて対処されることがある。
[編集] 通過連絡運賃
他社線を挟んで2区間に分割された1社の路線を利用する場合に、その2区間のキロ数を通して計算すること。2区間に分割されることによって運賃が急増することを抑えるものである。詳細は連絡運輸#通過連絡運輸を参照。
[編集] 分岐駅通過の特例
分岐駅を通過する列車に乗車して分岐する他線区に乗り換えをするとき、途中下車しないことを条件に、最寄りの停車駅と分岐駅間のキロ数を計算しない制度のこと。JRでは各社で合わせて52ヶ所ある。私鉄にも数例ある。
- 例えば、北宇和島駅~宇和島駅の例では、北宇和島駅が特急列車の原則通過駅となっている為、松山駅方面から予土線方面に行くとき、宇和島駅と北宇和島駅間を計算せずに往復乗車ができる。ただし、1駅区間の場合北宇和島駅~宇和島駅間の駅では途中下車が出来ない。
- なお、運賃についてはこれらの区間を利用する場合は常に重複乗車区間のキロ数を免除されるが、料金(特急料金、急行料金、グリーン料金など)について重複乗車区間のキロ数を免除するのは、その列車が折り返し運転する場合の折り返し区間(たとえば寝台特急北陸の宮内駅~長岡駅間)だけである(それ以外の場合は乗った区間に応じた金額となる)。
[編集] 経路特定区間
ある区間に対して複数の経路が存在する場合、旅客営業規則に定められた区間についてはいずれの経路を通る場合でも短い方の経路によって計算を行うもの。乗客はいずれの経路を通ってもよく、途中下車の条件を満たす乗車券の場合はいずれの経路途上でも途中下車が可能。詳細は該当項目を参照。似た制度として、列車を限って短い経路で計算する列車特定区間、複数のルートのどちらかで計算された乗車券で別のルートを経由できる選択乗車がある。
[編集] 磁気式プリペイドカード利用時の運賃計算
改札口を通過可能な磁気式プリペイドカード導入各社(関西のスルッとKANSAI、関東のパスネットなど)ではカードで入場した場合には途中で改札口を通過しない限り、もっとも安い経路の運賃が適用される。これは、実際の乗車経路の把握が困難なためである。たとえば東京メトロの大手町から半蔵門線~(直通)~東武伊勢崎線北千住を利用した場合、乗車券購入であれば東京メトロ190円+東武鉄道160円の350円となるが、パスネットでは東京メトロ千代田線の大手町~北千住運賃の190円が適用される(北千住が東京メトロと東武鉄道の共同使用駅であるため)。
[編集] IC式乗車カード利用時の運賃計算
IC式乗車カード(関西のICOCA、PiTaPa、関東のSuica、PASMOなど)についても運賃計算の原則は磁気式プリペイドカードと同様である。しかしながら、JR~私鉄~JRと改札内で乗り継ぐ場合には、きっぷを予め購入した場合と運賃が異なる場合がある。たとえばJR東日本三鷹から中央緩行線~東京メトロ東西線~総武本線津田沼と乗車した場合、連絡切符を予め購入した場合は590円であるが、SuicまたはPASMO使用の場合には直通列車に乗った場合には全区間でJR線を利用したものとして780円を、西船橋駅で乗換え改札を通った場合にはJR+東京メトロ+JRの運賃を合算した620円が引き落とされることとなる(磁気式プリペイドカードの場合にはJRと私鉄を相互利用できるものは存在しないのでこの問題はない)。
[編集] 加算運賃
加算運賃(かさんうんちん)とは、鉄道会社が特に定めた区間に対して特定額だけ加算される運賃である。
このような区間が設定される理由として、路線建設時の減価償却及び維持に莫大な費用がかかるというものがある。また大規模改良工事に際して完成後に便宜を受ける利用者から運賃を前取りする、「特定都市鉄道整備促進特別措置法」(昭和61年法律42号、通称「特々法」)に定める特定都市鉄道整備積立金制度にもとづく加算制度もある(現在、この制度による加算適用区間はない)。
JRの場合は単に乗車区間に対しての設定となっているが、私鉄の場合は対距離(キロ数)で定めているところもある。
加算運賃を設定された区間は短距離の乗車では距離に対して運賃が高くなりすぎるため、路線によっては運賃の加算額を引き下げたり、特定区間運賃を適用したりしている。例えば本四備讃線(瀬戸大橋線)児島駅~宇多津駅間には加算運賃100円が指定されているが、児島駅と、宇多津駅およびその周辺の駅との相互乗車においては特定区間運賃を定めて運賃を下げている。
- 加算運賃の設定例
カッコ内は記載の全区間を通しで利用した場合の加算運賃(大人運賃)。
- *印は、利用区間によっては加算運賃の減額等の措置があるもの。
- #印は、加算運賃が対キロで設定されている区間・会社(他は乗車区間に対して設定)。
- 京成電鉄
- 本線:京成成田駅~成田空港駅(140円*)
- 東成田線:全線(70円)
- 京浜急行電鉄
- 空港線:天空橋駅~羽田空港駅(170円*)
- 京王電鉄
- 相模原線:京王多摩川駅~橋本駅(80円#)
- 相模鉄道
- いずみ野線:全線(70円# 一部二重加算)
- 名古屋鉄道
- 豊田線:全線(60円#)
- 空港線:全線(80円)
- 知多新線:全線(70円#)
- 羽島線:全線(30円)
- 近畿日本鉄道
- 詳細は近畿日本鉄道の運賃を参照。(#)
- 京阪電気鉄道
- 鴨東線:全線(60円)
- 南海電気鉄道
- 空港線:全線(220円)
[編集] 特定区間運賃
特定区間運賃(とくていくかんうんちん)とは、鉄道事業者が特に定めた区間に対してキロ数で出される運賃よりも安く設定された運賃のことである。
特定区間運賃は「○○駅~○○駅間は○○円」というように設定されている。このような区間が設定される最も多い理由は、並行する他の路線との競争上、通常のキロ数の計算による運賃では高すぎて不利になる場合である。
- (例)JR東西線・福知山線の北新地駅~宝塚駅間は、本来ならば営業キロ25.5kmの幹線運賃で480円であるが、特定区間運賃で320円と設定されている(この区間で阪急宝塚本線・阪急今津線が並行しているためと考えられる)。
このような並行他社路線が存在する区間では、さらに一般よりも割引率を高めた回数券を発売して、旅客の誘致に力を入れることが多い。
ところが、「ある2駅間の運賃」という前提のため、たった1駅区間からはみ出した駅までの運賃は正規の距離計算をもって運賃をあてるため、そのギャップが激しくなることが多い。
また、特定運賃区間内にある任意の2駅間の距離は、特定運賃区間の距離以下になるから、その区間内の任意の2駅間の運賃も自動的に正規の料金より安くなることがある。
- (例)JR中央線の高尾駅~新宿駅(特定運賃区間)の間にある2駅・例えば西八王子駅~大久保駅38.1kmは正規の計算に基づくと620円となるが、これは先の例で述べた高尾駅~新宿駅540円よりも高くなってしまうため、西八王子駅~大久保駅は540円の運賃が適用されている。
また、前述のように本四備讃線(瀬戸大橋線)児島駅とそれ以南の周辺の駅での相互乗車においても特定区間運賃が定められている。これは本四備讃線の児島駅~宇多津駅間には加算運賃が適用されており、距離に対して運賃が高くなりすぎることへの救済措置である。
加算運賃・区間特定運賃の設定区間については以下のページを参照。
[編集] JR各社
JR各社の場合、旧国鉄が残した旅客営業規則(略して「旅規」という)をそのまま引き継ぎ、1989年、1997年の消費税改訂に伴う消費税を加えた額に変更しただけであるが、1996年より北海道旅客鉄道・四国旅客鉄道・九州旅客鉄道(いわゆる三島会社)と東日本旅客鉄道・東海旅客鉄道・西日本旅客鉄道との経営格差が生じたため、全国一律の形態が崩れている。
基本的には、各社ごとの乗車するキロ数(小数点切り上げ)を計算し、キロ数から運賃表に当てはめて算出することができる(前述・後述のような例外あり)。
[編集] JRの旅客運賃・料金の種類
- 旅客運賃
- 普通旅客運賃
- 片道普通旅客運賃
- 往復普通旅客運賃
- 連続普通旅客運賃
- 定期旅客運賃
- 通勤定期旅客運賃
- 通学定期旅客運賃
- 特殊定期旅客運賃
- 特別車両定期旅客運賃
- 特殊均一定期旅客運賃
- 回数旅客運賃
- 普通回数旅客運賃
- 一般普通回数旅客運賃
- 特別車両普通回数旅客運賃
- 普通回数旅客運賃
- 団体旅客運賃
- 貸切旅客運賃
- 普通旅客運賃
- ここまでが狭義の鉄道旅客運賃。
- 急行料金
- 特別急行料金
- 指定席特急料金
- 立席特急料金
- 自由席特急料金
- 特定特急料金
- 普通急行料金
- 特別急行料金
- 特別車両料金
- 特別車両料金(A)
- 特別車両料金(B)
- 寝台料金
- A寝台料金
- B寝台料金
- コンパートメント料金
- 座席指定料金
[編集] JRの旅客運賃計算法
- 発着区間がJR北海道・東日本・東海・西日本の場合
- 発着区間がJR四国・九州の場合
- 幹線の運賃
- JR四国の瀬戸大橋線にまたがる区間
- 地方交通線の運賃
- 発着区間がJR北海道・東日本・東海・西日本とJR北海道にまたがる場合
- 発着区間がJR北海道・東日本・東海・西日本とJR四国かJR九州にまたがる場合
- 特定の区間に対する運賃割引・割増
[編集] 鉄道以外(旅客)
タクシーは、走行キロ数と乗車時間によって料金が算出される。日本のタクシーの基本的な運賃制度については、日本のタクシー#タクシーの運賃を参照。
他の交通機関では、鉄道旅客運賃で主流の乗車キロ数から算出される方式ではなく、路線の区間ごとに運賃が決められている(いわゆる三角表方式)ことが多い。一部路線バスやコミュニティバスでは均一料金の場合もある。
貸し切りバスについては、基本的には時間と走行距離をもとに算出されるといわれている。
[編集] 貨物運賃(国内)
基本的には、重量や大きさと運送距離によって算出される。通信販売を行う企業など、恒常的に多くの荷物を発送する荷主に対しては、割引などの優遇措置が行われることが多い。
一般市民の利用も多い宅配便では、距離区分はおおよそ日本の地方ごと(北海道、北東北、南東北、関東、信越、北陸、東海、関西、中国、四国、九州、沖縄)のブロックに区分けされ、同一ブロックや陸続きの隣接ブロック当ての荷物に対しては最も安い運賃が適用される。
[編集] 貨物運賃(貿易)
基本的には、重量や大きさと運送距離によって算出される点は国内と変わらないが、コンテナ輸送の場合では、積地・揚地の荷動き量(コンテナの多少)に左右され、主要港間の運賃が地方港に比べて安くなる傾向がある。
[編集] 関連項目
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