カルト
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カルト(cult)は、ラテン語 colere から派生した宗教色の強い文化活動を意味する語。儀式や崇拝を意味する。近年、宗教団体による様々な社会問題が頻発するようになってからは、社会との軋轢を起こす宗教を本来の宗教と区別する意味で、「カルト」(あるいは「破壊的カルト」とも)と呼ぶようになった。
中国語では邪教(じゃきょう)が訳語になっており、日本では排他的な宗教団体が異端視している宗教を「邪教」と呼ぶことも多い。
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[編集] 社会学のカルト
社会学では、キリスト教団体を「教会」(各国の主要な教団)と「セクト」に分ける類型法があった。セクトは既存の教会を批判し宗教的により正しい生き方を目指して分派した小規模団体であると定義した。このような教会とセクトの分類は、キリスト教世界内の団体間の緊張関係に着目している。
1950年、社会学者のハワード・S・ベッカー(Howard Becker) は、米国発祥のキリスト教的スタイルをもつ新興団体を新たな類型として含め、「カルト」と定義した。ベッカーのいうカルトは、心霊術、占星術などの信者集団で、小規模かつ緩やかな組織構成という特徴を持つものである。
[編集] 米国社会のなかのカルト
1978年、米国から南米のガイアナに移動した人民寺院信者の900人に及ぶ集団自殺は、米国で社会問題化し、社会的に危険とみなされる宗教団体を指して「カルト」と呼ぶようになる。
臨床心理学、社会心理学、社会学の学者達が、新たなカルトの理論的な定義付けを試みている。カルトを社会的問題とする陣営の統一見解としては1985年にまとめられた Cultism:A conference for scholars and policy makers という文書がある。
米国での統一教会信者の強制脱会に関する裁判で、マインドコントロール理論を唱える学者の証言が採用されなかった事もあり、カルト理論の学術的な定着は達成されていない。
[編集] ヨーロッパにおけるカルト
ヨーロッパにおいては「カルト」のことを「セクト」と呼び、特にフランスは2006年時点において「MIVILUDES」という組織を中心に大々的にセクト対策を行っている。これはセクトによる反社会的な行動に対する予防、抑止、対処のために作られた首相所轄の機関である。ヨーロッパにおける各国のセクト対策についてはフランス政府のセクト対策組織である「Miviludes」が出した2004年度MIVILUDES報告書の 「14-行政関連活動 省庁」の「外務省」に俯瞰的な話が載っている(日本語訳:s:MIVILUDES2004年度報告書)。
1995年にフランスの下院である国民議会にフランス国内で活動中の「セクト」のリストが提出された。 「セクト」の選別基準は、警察、司法の記録などに基づき人権侵害・犯罪性・社会問題などの実害である。 国際的な団体も多数記載された報告書であり、日本語訳は国立国会図書館に蔵書がある。
ここで言う「セクト」は問題の多い団体という意味を持つ言葉であり、実害を基準にセクト対策がなされたのであるが、フランス政府のセクト対策は単純ではなく、「セクト」に加入することでよりよい人生を送っている人間もいるので単純な否定はできない、また多文化を許容する側面も重要であるという視点も含めて対策が行われた。
ヨーロッパのセクト対策を調査するために「日本弁護士連合会」から視察団が出て山口広弁護士他6名の弁護士と2名の新聞記者が参加した。 山口広弁護士他3名による共著『カルト宗教のトラブル対策』においてヨーロッパの事例が紹介されている。 この本にてドイツ、フランス、イギリス、ベルギー、それとアメリカのカルト対策が紹介されている。 ヨーロッパのカルト対策の共通点は、「セクト」の明らかな問題行動や犯罪が、信教の自由の名の元に見過ごされている点を改善することである。 「セクト」を宗教として見るのではなく、実際にどのような活動をし、どのような問題がおきているのか。 国の関係機関や警察、司法、民間団体が連携して情報収集をし、個々の団体の問題行動に対処する。著書に置いてこの方向性が議会報告書の抜粋に基づき解説される。 実際に、労働法や脱税、完全な営利目的の団体や詐欺、子供への教育等の観点からの対策が提起され実行に移された。 またヨーロッパにおいては信者の社会復帰や、教育から隔離された「セクト」の子供たちの教育問題に力が注がれているが、対して 日本ではカルト団体の信者が、教団を離れても支援がないために社会復帰できず教団に戻ったり、子供が教団内で軟禁状態になり、教育から隔離させられているのに放置されている状況を比較し問題提起している。 その他に弁護士の観点から日本の主要なカルト事件について述べ、子供への教育、信者の社会復帰、行政の怠慢について論じた章。 判例の観点から見た、宗教団体との契約における不当威圧と詐欺の成立要件についての解説等が掲載されている。
[編集] 日本社会のなかのカルト
1992年の「統一教会」の合同結婚式に参加した山崎浩子が、翌1993年の脱会記者会見の際に、「マインド・コントロール」されていました」と発言し、同年、同じ統一教会の元信者で社会心理学のスティーヴン・ハッサンが書いた『マインド・コントロールの恐怖』という著作がベストセラーになったことで、人を巧妙にマインド・コントロールする危険な存在が「カルト」であるとの認識が広まった。 加えて、1995年、日本中を震撼させたオウム真理教による地下鉄サリン事件の際、米国の反カルトの臨床心理学者、マーガレット・シンガーの「オウムはカルトである」とのコメントにより、「カルト」という呼称には「反社会的な集団」、「危険な集団」、「わけのわからない不気味な集団」といった「否定的なニュアンス」が含まれるようになった。マインドコントロール論支持者はカルトの定義を企業、政治団体などに拡大していったが、さほど浸透はせず、日本では一般に新興宗教団体を指す場合が多い。
特に一連のオウム事件は信教の自由があるということで行政が及び腰になり、捜査が遅れ、恐るべきテロを防げず、被害を拡大してしまったという社会的非難が大きくなったこともあり、健全な宗教と様々な世俗的動機を持った集団とを区別するといういう認識や、それまで、「宗教の自由」、「信教の自由」という名のもとに、見過ごされて来た、宗教団体による人権侵害等を見つめ直す土壌が作られた。
その後も、1999年11月、ホテルで死亡した男性を放置しミイラ化させたライフスペース主催者である高橋弘二らが翌2000年に保護責任者遺棄致死罪容疑で逮捕された。(2005年7月4日、最高裁で殺人罪により懲役7年とした東京高裁判決が確定)
また、1999年12月には「足裏診断」という個人面談でマニュアルに従った不安を煽る話術で多額の金銭を騙し取った詐欺容疑で「法の華三法行」が強制捜査され、2000年には教祖福永法源を含む教団関係者が逮捕された。(大半が有罪となり、教団は2001年3月に破産宣告を受け解散) このような事件が相次いだこともあり、社会的な問題を起す団体を「カルト」と呼ぶことが定着してきた。 2000年の岡山高裁においては宗教団体(統一教会)による勧誘・教化行為の違法性を認めた全国初の判決が出たように、社会が宗教を見る目は厳しくなって来ている。
学問的には日本でも社会心理学者西田公昭等、カルト理論を支持し研究する学者もいるが、宗教学以外の学問領域で一つの理論として考察されるには至っていない。実際、問題のある団体について研究する際、「カルト」という表現は避けられている。日本では1970年代に米国で生まれたマインドコントロール理論がそのまま紹介されたが、カルト問題に長年関わってきた神学者 浅見定雄(東北学院大学名誉教授)のスタンスのようにカルト問題は宗教問題ではなく、“社会問題”として扱われている。日本ではカルトという言葉は定義が曖昧な俗語として用いられているのはカルトに関する発言のほとんどが反カルト側か、批難される団体側からのものであって中立的な立場からの提言がほとんどみられない事に起因している。
日本で一般に説明される「カルト」とは、少数であっても熱烈な信者が存在するような宗教的団体を指す。カルト教団、カルト宗教ともいう。 教祖が絶対的な権威を持つカリスマであり、その教義に排他的な所や反社会的な内容があることが多い。また、教え自体が、教祖の宗教的な信念に基づく思想ではなく、経済的搾取等の自己の欲望のために信者を利用するための表向きの看板に過ぎないことも多い。また、それぞれの宗教から派生し、特に社会との軋轢を生まない分派とそのような集団を区別するために、「“破壊的”カルト」と呼ばれることもある。
[編集] 派生的な意味でのカルト
少数の熱烈な信奉者を持つ映画や文学などの作品についてもカルトという言葉がしばしば用いられる。カルト映画などがその例である。 こういった用法は英語にも見られる。ただし、日本では本来の意味での「カルト」が余り知られていなかったため、かつてはこちらの派生的用法の意味で使われていた。 その一例として、特定分野のマニアックな内容を設問にしたクイズ番組カルトQがある。
[編集] 参考文献
- スティーヴン・ハッサン著/浅見定雄訳『マインド・コントロールの恐怖』(1993.6 恒友出版 1993.6) ISBN 4-7652-3071-6
- 一度は統一教会に入会し、考え方や感じ方までも変えられてしまった筆者が、周囲の助けを得て脱会し、その後、数多くの脱会者を助けた実例に基づいた内容で、「マインドコントロールとは何か」を知るための本として、幅広く読まれている。
- 西田公昭(静岡県立大学/社会心理学)著『マインド・コントロールとは何か』(紀伊國屋書店 1995) ISBN 4-314-00713-3
- 裁判の参考資料として提出されたこともある資料を含む書籍で、上記の書籍と共にこの問題について客観的(学術的にも)に知るための極めて重要な参考文献とされる。
- 浅見定雄著『なぜカルト宗教は生まれるのか』(日本キリスト教団出版局 1997) ISBN 4-8184-0257-5
- 竹下節子著『カルトか宗教か』(文藝春秋 1999.11) ISBN 4-16-660073-7
- フランスにおけるカルト(フランスではセクトと称する)問題について詳しく書かれている。
- L・フェスティンガー、H.W. リーケン& S. シャクター著/水野博介訳『予言がはずれるとき――この世の破滅を予知した現代のある集団を解明する』(勁草書房 1995) ISBN 4-326-10106-7
ここに揚げた参考文献はマインドコントロールの項目の「参考文献」と一部重複している。外部リンクのサイトに挙げられている参考文献等も参照されたい。
[編集] 関連項目
- カルトと指摘された団体・人物の一覧
- カルト訴訟に関連する弁護士一覧
- w:List of purported cults(英語版)
- 宗教
- 新宗教
- セクト
- 異端
- 分派
- マインドコントロール
- 洗脳
- 自己啓発セミナー
- ニューエイジ
- 浅見定雄