衛星攻撃兵器
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衛星攻撃兵器(えいせいこうげきへいき、Anti-SATellite Weapon、ASAT)とは、軌道上の人工衛星を目標とする兵器である。対衛星兵器と呼ぶこともある。
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[編集] 概要
1950年代に初期の写真偵察衛星が実用化されるとすぐに、敵側の軍事衛星を攻撃する手段である衛星攻撃兵器の開発が始まっている。アメリカでは地上から打ち上げたミサイルを人工衛星に直接体当たりさせる直接上昇方式 (Direct Ascent) の兵器が主に開発された。一方、旧ソ連では、地上から打ち上げたロケットで誘導体を目標となる人工衛星と同じ軌道に遷移させ、接近させて自爆し、破片によって目標を破壊する共通軌道方式 (Co-Orbital) の兵器(キラー衛星)が研究された。
核弾頭による衛星破壊も考案されたが、1967年の宇宙条約において、大気圏外における核兵器利用が制限されたため、核による衛星攻撃兵器はそれ以降すすめられなかった。
衛星攻撃兵器の目標は敵側の人工衛星である。現在人工衛星の役割は偵察・通信のみならず多岐にわたっており、衛星誘導装置やグローバル・ポジショニング・システムなどもある。冷戦期においては、特に偵察衛星が主攻撃目標とされていた。
[編集] アメリカのASAT
アメリカでもっとも実用に近づいた衛星攻撃兵器は、空軍の対衛星ミサイル・ASM-135ミサイルである。航空機から発射されるロケット推進のミサイルで、1977年から開発されている。このミサイルは二段式固体ロケット(二段とも既存のミサイルからの流用)で、重量60kgの誘導体を最大到達高度1,900km(低軌道衛星の高度)まで打ち上げることができた。偵察衛星は低軌道を周回する事から充分に射程内であった。このミサイルはF-15戦闘機に搭載されて、高度1万2千メートルで空中発射される。1985年9月13日に実際の衛星を目標に試験が行われ、目標衛星に誘導体を命中させて完全破壊することに成功している。しかしながら議会の反対によって量産されること無く計画はキャンセルされた。破壊された衛星の破片がスペースデブリとなって周回し、危険になったからである。
この他、地上もしくは衛星からのレーザー攻撃も検討され、1997年にはMIRACL (Mid-Infrared Advanced Chemical Laser) と呼ばれる対人工衛星レーザーの実験も行われた。しかしその後は、衛星攻撃は主に目潰しを目的とした攻撃にシフトして研究されている。
なお後述するように、2006年9月に中国の対衛星兵器による攻撃を受けたとの報道がされていることから、米国の衛星には一定の被攻撃を感知する能力が付与されていると考えられる。
[編集] 旧ソ連のASAT
旧ソ連では1968年には最初の衛星破壊実験が行われ、1971年には対衛星兵器を実戦配備していたといわれる。その後、R-36 (SS-9 Scarp) から発展したSL-11と呼ばれる衛星打ち上げロケットが、チュラタム(現カザフスタン)に配備され、1990年まで運用されていたらしい。またMiG-31を母機とした空中発射式の対衛星ミサイルの開発も行われていたが、こちらは一度も正式な実験を行う前に開発は中断された。
この他にも旧ソ連の核開発施設のあるセミパラチンスクでは核爆発で発生したエネルギーを利用した粒子ビーム設備を保有しているのが知られている。その他にサミー・シャガンではヨウ素パルスレーザー装置があり、電子ビームを使用した炭酸ガスダイナミック型レーザーもモスクワ近郊の施設で実験されていた。すでに1960年代の時点でソ連はタングステンまたはモリブデンなどの高密度金属電磁流を空気中では25km/s、真空中で60km/sの速度で発射できる電気銃の試作にも成功している。これらの中でレーザー装置に関してはテストを兼ねて何度かアメリカの偵察衛星に対して使用され、一時的にカメラを盲目にすると言った成果も上げている。なおこれらの高エネルギー兵器はソ連崩壊後はそのほとんどが開発休止状態となっている。
[編集] 中国のASAT
中華人民共和国は、2003年から弾道ミサイルを転用したASATの実験を進めていたと見られており、このASATは2007年1月の人工衛星破壊実験により、その存在が公式に認められることとなった。この実験で使用されたASATは中距離弾道ミサイル東風21号 (DF21) をベースとした固体ロケット開拓者1号 (KT-1) で、弾頭には運動エネルギー弾頭を用いたと見られている。実験では四川省の西昌宇宙センター付近から打ち上げられ、高度約850~860kmの軌道に存在した同国の老朽化した気象衛星(風雲一号C型)に命中、これを破壊した(実験の詳細は中国の人工衛星破壊実験 (2007年)を参照)[1]。
1985年のアメリカの実験と同様、この実験でも多数のスペースデブリが発生したことから、欧米諸国を中心とする各国から激しい抗議が浴びせられることとなった。また、アメリカを中心として、各国で中国への警戒論を強めさせることにもなった。このため、中国政府は以降の実験は行わない方針を示した[2]。
また、中国では上記以外の方式のASATの開発も行っていると見られており、2006年9月には、軍事専門誌のディフェンス・ニュースによって、軌道上の米国の偵察衛星が、中国領内に設置された対衛星兵器によるレーザー照射を受けていた、との報道がなされた。この照射は、おもに衛星の目潰しを狙ったものとみられる[3]。
なお、中国は2001年以降、ジュネーブ軍縮会議にて、宇宙の軍事化防止を進める提案を行っている[4]。この提案の禁止対象にはASATも含まれている[5]。
[編集] 脚注
- ^ 古森義久、「SAFETY JAPAN - “外交弱小国”日本の安全保障を考える 第41回 中国の衛星破壊で米国は大ショック」、日経BP、2007年2月2日。
- ^ 「二度と実施せずと中国国防相、宇宙の衛星攻撃兵器実験」、CNN、2007年2月13日。
- ^ 「中国、米偵察衛星にレーザー照射 米紙が報道」、産経新聞イザ!、2006年9月27日。
- ^ 「中国代表、宇宙の軍事化防止に関する構想を提案」、人民網日本語版、2001年6月8日。
- ^ 「宇宙の平和利用と宇宙戦争」、週刊オブイェクト、2007年1月29日。
[編集] 関連項目
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