ディロフォサウルス
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ディロフォサウルス |
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ディロフォサウルスの復元模型 |
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分類 | ||||||||||||||||||
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種 | ||||||||||||||||||
ディロフォサウルス(Dilophosaurus)は、ジュラ紀前期シネムール期からプリンスバック期にかけて北米・中国に生息した原始的な獣脚類恐竜。頭骨の上部に1対を持つ半月状の鶏冠が特徴的で、「二つの隆起を持つトカゲ」という意味の学名はこれに依るもの。小説・映画『ジュラシック・パーク』に大きく脚色された形で登場することでも有名。
目次 |
[編集] 特徴
ディロフォサウルスの体長は5~7mと、獣脚類としては中型の部類になる。
特徴的な頭骨は比較的細長く、上部に半月状の鶏冠(とさか)を一対持ち故に“ジュラ紀のエルヴィス・プレスリー”の異名をとる。この鶏冠は非常に薄くもろかったため、用途はもっぱらディスプレーであったとの解釈が一般的である。また、上顎の前部(前上顎骨)と後部(上顎骨)の間で歯列が分かれており、このうち前上顎骨の歯は反りがなく真直ぐであるなどコエロフィシスと似た特徴を持つ。また、この細長い頭部と反りのない歯という特徴は現生のワニやバリオニクスなどのスピノサウルス科とも類似の特徴であるため、同じように魚食性であったと考えられるが直接的な証拠は見つかっていない。一般にはトカゲのような小型の爬虫類やより小型の恐竜を捕食していた、あるいは腐肉食性で死肉を漁っていたと考えられている。
[編集] 分類
[編集] 系統
ディロフォサウルス属の分類については諸説ある。以下に主なものを挙げる。
- 竜盤目>獣脚亜目>コエロフィシス科
- 竜盤目>獣脚亜目>コエロフィシス上科>ディロフォサウルス科
- 竜盤目>獣脚亜目>コエロフィシス上科>ハルティコサウルス科
- 竜盤目>獣脚亜目>カルノサウルス下目>ケラトサウルス科
- 竜盤類>テタヌラ類
[編集] 種
現在までのところ3種が記載されている。
[編集] ディロフォサウルス・ウェテリリ
ディロフォサウルス・ウェテリリ(D. wetherilli)は、米国アリゾナ州Tuba City西方のナバホ族保留地で発見されたディロフォサウルス属最初の種である。発見当時はメガロサウルスの一種と見られており、1954年のサミュエル・ウェルズによる記載ではメガロサウルス・ウェテリリ(Megalosaurus wetherilli)とされていた。しかし同属との違いが明確になったことからウェルズは1970年にディロフォサウルス属を創設し、ウェテリリ種をここに含めた。
- 学名: Dilophosaurus wetherilli
- 発見: アメリカ合衆国アリゾナ州
- 記載: 1970年、サミュエル・ウェルズ(メガロサウルス属での記載は1954年)
- 全長: 6~7m
- 重量: 300~400kg
[編集] ディロフォサウルス・シネンシス
ディロフォサウルス・シネンシス(D. sinensis)は、中国雲南省晋寧県夕陽村で発見されたディロフォサウルス属第二の種である。この種は1987年、昆明市博物館の胡紹錦によって全身骨格がユンナノサウルスとともに発見された。当初はクンミンゴサウルスと呼ばれていたが、後にディロフォサウルスと同定されたことから現在の学名となり、クンミンゴサウルスの名は後に別の恐竜を指すようになった。ウェテリリ種とは鶏冠の形状などに大きな違いがあり、別属とされることも今なおある。なお1990年には禄豊県沙湾において禄豊県恐竜博物館の王濤が、晋寧県のものよりも大型の全身骨格を発見した。
[編集] ディロフォサウルス・ブリードルム
ディロフォサウルス・ブリードルム(D. breedorum)は、米国アリゾナ州で発見されたとされるディロフォサウルス属第三の種である。
[編集] フィクションにおけるディロフォサウルス
ディロフォサウルスはマイケル・クライトンの小説『ジュラシック・パーク』および同名の映画版などに、いくつかのフィクションを加えられた形で登場している。
[編集] 小説版『ジュラシック・パーク』
小説『ジュラシック・パーク』における最大の特徴は、ドクハキコブラのように毒性の唾を使って狩りをすることである。その唾の飛距離は15メートルに及び、フェンスにかこまれた囲いの中からでもゆうにツアー客の位置にまで達する。パークのスタッフはゲストの安全確保のため毒嚢を切除する決定を下したものの、毒嚢の位置特定のための解剖に経営者側が難色を示したため、開園直前になっても切除段階には至っていなかった。
この小説の執筆当時は魚食説がまだ提唱されておらず、脆弱な顎での捕食手段について議論が交わされていた。毒の唾はこれに対する解としてクライトンが提示したアイデアだが、絶滅動物が再生された場合に化石証拠のみでは分からなかった性質が発見される可能性を指摘することにもなり、小説のリアリティ向上に寄与している。ただし、この毒に関する記述は当然ながら完全なフィクションであり、存在の可能性を裏付けるいかなる根拠も伴っていないことには留意する必要がある。
また作中、小川を挟んで雌雄が求愛行動をとるシーンがある。しかし設定では、カエルのDNAを使用されていないディロフォサウルスは自力での性転換が出来ない。このため全個体が誕生時と同様雌であると考えられ、本来異性間で行うはずの求愛行動を行なうはずがない。このシーンは、文庫版巻末の訳者あとがきで酒井昭伸が記している「物語の設定上の誤り」にあたると思われる。
[編集] 映画版『ジュラシック・パーク』
映画版『ジュラシック・パーク』では、主に視覚的な面からフィクションが加えられた。
1つは、首の周りに備える折りたたみ式のフリルである。エリマキトカゲのように展開し、細かく揺らしカチカチ音を鳴らすことができる。
劇中では、とあるディロフォサウルスがこのフリルを広げるとともに粘着質で黒い毒の唾を吐きかけ狩りをする姿が描かれているため、フリルは威嚇の役割を担っていると考えられる。しかしながら一般にこのような威嚇行動は被捕食者が外敵から逃れるために行うものであり、捕食する側がそれを行うというのはやや奇妙な描写であるといえる。
もう1つのフィクションは、その大きさである。現実のディロフォサウルスは全長7メートル程度に達するとみられているが、本作品では全長1~1.5メートル程度の小柄な恐竜として描かれていた。この理由については、同じく劇中に登場するティラノサウルス・レックスのスケール感を強調するための演出上の調整という見方が一般的である。なお、劇中にディロフォサウルスは1頭しか登場しないため、その個体が偶然幼体であったと解釈すれば現実との矛盾は発生しない。
余談だが、日本のアニメ「恐竜冒険記ジュラトリッパー」にこの形態及び習性を踏襲したディロフォサウルスが登場する。