ヤマトヌマエビ
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?ヤマトヌマエビ | ||||||||||||||||||||||||
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ヤマトヌマエビ |
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分類 | ||||||||||||||||||||||||
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学名 | ||||||||||||||||||||||||
Caridina multidentata Stimpson, 1860 (シノニムCaridina japonica De Man, 1892) |
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英名 | ||||||||||||||||||||||||
Japanese marsh shrimpなど |
ヤマトヌマエビ(大和沼蝦)Caridina multidentata は、エビ目・ヌマエビ科に分類されるエビの一種。日本に分布するヌマエビ科の中では大型種で、ペットとしても人気がある。学名は Caridina japonica が多く用いられるが、こちらは2006年にシノニムとされるようになった。
目次 |
[編集] 特徴
成体の体長はオス35mm、メス45mmほど。メスの方が大きく、体つきもずんぐりしている。スジエビなどにくらべると体型は紡錘形に近い。眼柄(目がついている柄)や額角(目の間から突き出す、ノコギリのような突起)も短く、触角以外の器官はあまり突き出ない。脚は短くてがっちりしており、ヌマエビ類としては複眼が大きく黒い。
体色は半透明の薄緑色か褐色で、個体によっては背中の真ん中に黄色の細い線が尾まで走り、尾の中央に三角形の黒い小斑、尾の両端に楕円形の黒い斑点がある。体側には線状に赤い斑点が並ぶが、オスは点線状(・・・)、メスが破線状(- - -)である。
マダガスカル、フィジー、日本まで、インド洋と西太平洋の熱帯・亜熱帯域に広く分布する。日本での分布域は日本海側は島根県以西、太平洋側は千葉県以西の西日本である。海で生活する幼生期(後述)に、海流に乗って分散するため分布域が広く、海洋上に孤立した島の小河川にも生息している。
[編集] 生態
暖流が流れる海に面した川の、上流域の渓流や中流域に生息する。夜に餌を探して動き出すが、昼間は石の下や積もった落ち葉の中などにひそむ。捕えるにはそれらの植物ごとタモ網ですくい、網の中身を広げて探すと見つかる。エビ類はふつう水から出すと腹部の筋肉を使ってピチピチと跳ねるが、ヤマトヌマエビは跳ねずに歩きだすのが特徴である。
食性は雑食性で、藻類、小動物、生物の死骸やそれらが分解したデトリタスなど何でも食べる。前の2対4本の歩脚の先端に小さなはさみがあり、これを使って餌を小さくちぎり、忙しく口に運ぶ動作を繰り返す。小さなかたまり状の餌は顎脚と歩脚で抱きこみ、大顎で齧って食べる。
現在は川や海の水質悪化、熱帯魚の業者による乱獲などで、野生の個体は減少している。ダムや堰の建設によって遡上が困難になり、生息域が狭まった川もある。
[編集] 生活史
ヤマトヌマエビはアユと同じように幼生が海に下り、海で成長して川に遡上する両側回遊型(りょうそくかいゆうがた)の動物である。
成体のメスは脱皮前にフェロモンを発し、オスを誘引して交尾を行う。メスは脱皮後に産卵し、直径0.5mmほどの小さな卵を1000-3000個ほども腹脚にかかえ、孵化するまで保護する。卵ははじめくすんだ緑色をしているが、やがて褐色になり、幼生の小さな複眼が確認できるようになる。孵化までは2週間-1ヶ月ほどかかる。
孵化する幼生は体長1.5mm程度で、孵化した瞬間から親の体を離れ、川の流れに乗って海へ下る。幼生の成長には塩分が不可欠で、海か、少なくとも汽水域までたどり着かないと生きていくことができない。
初期の幼生は泳ぐ力も弱く、逆立ちして浮遊するプランクトン生活を送る。漂ってきたデトリタスや植物プランクトンを脚で抱きこんで捕食し、脱皮を繰り返しながら少しずつ大きくなる。体長2-3mmほどになると体が赤くなり、次第に遊泳力もつく。わずかながらも腹部の筋肉で飛びのいたり、泳いで水底の餌を取りに行くようになる。
稚エビになるまでには1ヶ月ほどかかり、その間に9回脱皮する。9回目の脱皮をして体長4mmほどの稚エビになると浮遊生活をやめて水底生活に移るが、これを境に運動能力が格段に上昇し、かなりの速度で泳げるようになる。
稚エビは河口域に集まり、夜間に腹脚で水をかきながら川底を歩いてさかのぼる。流れの激しいところはいったん上陸し、流れの横の濡れた岩場を歩いてよじ登る。成体の生息域は川の上流・中流だが、河口から200km以上離れた地点で成体が見つかった記録もあり、生涯遡上をし続けるとみられる。
![アクアリウム内のヤマトヌマエビ](../../../upload/shared/thumb/0/00/Caridina_japonica.jpg/200px-Caridina_japonica.jpg)
[編集] 飼育
ヤマトヌマエビはあまり食用とはしないが、現在は熱帯魚と一緒に飼うタンクメイトとしてよく流通する。成体はわりと丈夫で飼育しやすいが、繁殖させるのはやや難しい。
メダカやテトラ類、他のヌマエビ類などと一緒に飼うと水槽内を活発に動き回って水槽内の藻類や水垢などを食べ、掃除役をこなす。固形飼料を与えると素早くつかみ取るしぐさなども愛嬌があり、うまく飼えば3年くらい生きる。
ただし自分より大きい魚がいると物陰に隠れて出てこないし、えさが少ないと同居している小魚やエビを捕食することがある。また、薬などにも弱いので、魚用の薬や殺虫剤などの使用にも注意が必要である。
両側回遊型なので、繁殖させるには抱卵したメスを2週間目頃から隔離して飼育し、さらに孵化した幼生を海水水槽に移さなければならない。幼生を飼育するには海水水槽に藻類を生やしておくと藻類を餌に成長させることができるが、飼育環境によってはこまめな世話が必要となる。