不発弾
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不発弾(ふはつだん)とは、炸薬系列に何等かの異常があって爆発せずにある砲弾・ロケット弾・誘導弾等の弾薬類の総称。一般には航空機から投下された爆弾が爆発せずに残っている物をこのように呼ぶ。
- 発射薬系列の異常で発射されなかった弾薬類は、一般では同じく不発弾とも呼ぶが、専門的には不発射弾として区別される。
- 本項では主に、不爆の弾薬類・爆弾について述べる。
- 転じて、何等かの効果が期待されて行われた動作・興行などが、期待された効果を生まなかった場合に、このように形容される。単に不発とも。
目次 |
[編集] 概要
不発弾は火工品であるこれらの物品が正常に機能しなかったという点で、広義の不良品である。ただ、これらが人や施設・設備を破壊する等して損害を与えるために使用される以上、その構造は破壊を目的としたものが満たされており、これが後々になって動作した場合には、本来の目標とは異なる対象を破壊してしまう事もあるため、問題とされる。
不発弾の原因のほとんどは信管の動作不良によるものだが、外見から原因を断定するのは困難かつ危険である。原因の一例を挙げれば以下のようなものがある。
- 適切な衝撃が与えられなかったために撃針が作動しなかったもの
- 起爆薬・伝爆薬・炸薬いずれかの劣化による炸薬系列の断裂によるもの
- 安全機構の解除に必要な遠心力等の外力がなんらかの原因で得られなかったもの
- レーダーの電気的なトラブルによるもの
この他にも様々な要因によって発生し得る。中には起爆させるためのタイマーが数百時間にセットされているために、一見すると不発弾に見えるものも存在し、これは外見からは判別は不可能である。
- 弾薬類の構造は、先端・後端または両端に取り付けられた非常に敏感な信管が先に炸裂し、鈍感だが威力の高い炸薬を誘爆させるという構成をとる。信管の細部構造は、衝撃等で作動する撃針が、敏感だが威力の弱い起爆薬を爆発させ、やや感度は劣るが威力の高い伝爆薬を誘爆させる構成が一般的である。このような弱い爆薬から強い爆薬へと連鎖反応的に誘爆させていく機構が、炸薬系列である。
- 通常は、この炸薬系列にカム・タイマー・電池・レーダー等を組み合わせた安全機構が加わり、これにより無用に爆発しないような状態で貯蔵されたり運搬される。使用される際には、安全機構内のストッパー等を外してから投下機構などに装填される。
[編集] 日本に於ける不発弾の扱い
不発弾処理は特に危険であるため、自衛隊内でも特に専門教育を修了した隊員のみ実施できる業務である。陸上自衛隊および航空自衛隊では、不発弾処理要員として一定以上の資格を持つ隊員に対して不発弾処理き章が授与される。
第二次世界大戦において空襲を受けた市街地や、地上戦の行われた沖縄や硫黄島の建設現場や海岸から不発弾が発掘されることは現在でも珍しくなく、空襲を受けなかった京都でも戊辰戦争当時の砲弾が発掘された事例もある。これらの自衛隊外で発生した不発弾を部外不発弾と呼び、陸上自衛隊および海上自衛隊が自治体からの要請で処理にあたっている。
実際に戦争で使われたものではなく、演習場での実弾演習時にも砲弾等の不発弾は一定量発生し得る。このような物は部内不発弾と呼び、通常はただちに爆破処理されるので社会的な問題になることはない。しかし中には演習場に入り込んだ軍事マニアらが不発弾を持ち出し、演習場外で誤って爆発させてしまうという事故もごくわずかであるが発生している。
これら不発弾は所持だけでも爆発物取締罰則にて罪に問われる。過去の爆発(爆死)事故事例では、マニアが持ち出した砲弾を置物に改造しようとして、信管を外そうとしている内に誤って爆発させてしまったケースなどが報じられており、このほか爆死した自衛官の家宅捜索で違法な銃火器・爆発物収集マニア向けに加工不発弾などを販売するためたくわえられていた大量の武器弾薬が発見されたことから、周辺住民退避の上で爆弾処理班が出動したケースも2003年に報じられている(→沖縄・自衛官爆死事件)。
不発弾を発見した場合は、いつ爆発するか予測が付かないため、無闇に近付かずに最寄の警察に110番通報するなどして、専門家に任せる事が奨められる。
[編集] 弾丸の不発(不発射弾)
弾丸の場合、銃器からこの動作不良を起こした弾丸を抜き出してからでないと次の弾丸を発射できない構造の物も多い。特に弾丸を連続的に発射する機関砲・機関銃・短機関銃・自動拳銃等ではそこで連続発射が停まってしまう物もあるため、発射トラブル(排莢不良/ジャム)となる。 ただしガトリング砲のように外部から動力を得ている物は、強制的に不発の弾丸が排除されるため、動作不良には成らない。
迫撃砲の不発射の場合、信管は作動していないが発射火薬が活きている状態となる。しかも砲身の一番下にある砲弾を砲口から取り出すという、極めて特殊な処理が必要になる。
戦車のように密閉された場所の場合、不発射弾の処理は非常に危険である。ただでさえ狭い車内で砲弾を安全に薬室から取り出さなければならないのに、それを狭いハッチから外に出さなくてはならず、しかもそれを地上まで降ろさなくてはいけないからである。
[編集] 不発弾の問題
戦時中に於いて、不発弾が問題とされるのは作戦(戦術)の可否においてのみで、特に大量の爆弾を使用している場合には、何割かが爆発しなくても、予測できる範疇内で在れば、ほとんど問題とされない。例えば爆撃において常に2割の爆弾が不発弾であるならば、2割多めに爆弾を積載して爆撃すればよいためである。
だがこの不発弾に「機能上に欠陥が無くとも爆発しなかった物」がある場合に、これが後々の問題となる事がある。これらは安全装置が外れた状態で爆発しないまま放置されるためである。
これらの「信管に適切に衝撃を加えさえすれば、すぐ爆発する」と云う状態は、戦争終結後にも残る可能性があり、これが戦後復興を妨げるケースがある。このような不発弾は一種の地雷のようなもので、何年も放置された結果、不注意にもこの不発弾を発見した人が衝撃を与えてしまい、被害を被るケースも発生する。
爆弾は通常、鉄製の容器に火薬を充填しており、特に戦乱の長く続いた地域で発生する資源不足の折に、スクラップとして鉄製品にリサイクルするというケースも聞かれる。だが信管を処理する段階で失敗、爆発させてしまってスクラップ業者等が爆死すると云う事件も報じられている。また畑等に落ちた爆弾を処理しようと掘り起こしていて、被害に遭うケースも聞かれる。
- 余禄ではあるが、米国は日本に対して第二次大戦の際に焼夷弾を大量に使用し、この中には発火に失敗してそのまま残った物も在った。これにはマグネシウムが使用されていた。第二次大戦当時の日本では生活に必要な鍋釜といった調理器具でさえも徴発して兵器の製造に充てたため、深刻な金属不足に見舞われていた。そのような状況下で横行した悪徳商法の中には、一見アルミニウムのように見えるマグネシウムを加工して鍋釜を作り、これを売ると云う信じられないようなケースもあったという。これらマグネシウム製の鍋釜の中には、火に掛けられた途端に発火して、跡形も無く燃え尽きた事まで在ったようだ。
これらは一つずつ航空機から落していた時代よりも、クラスター爆弾のような大量の爆発物を撒き散らして四散する爆弾の方が、後々に残る不発弾の量的な問題も多く、かつての紛争国での大きな問題となっているため、禁止せよとする議論も盛んである。(→クラスター爆弾の項を参照されたし)
[編集] 問題の回避
戦時中の不発弾の問題に関して、爆弾をわざと劣化しやすいように設計して、一定期間経った物は爆発しないようにするという設計思想もある。ただこの方法は、平時に於いて備蓄され、有事の際に使用される兵器の場合(大抵の兵器は、そのような物ではあるが)には動作不良にも繋がる事から、余り採用は進んでいない。
その一方で注意を喚起するように、わざと目立ち易い色(黄色など)に塗装する事もある。これらは不発弾回収の便を考慮してのものではあるが、逆に目立つ色である事から、事情を知らない子供が拾って弄っていて爆死するケースも聞かれた。
- アフガニスタンでも使用されたクラスター爆弾では、黄色い清涼飲料水の容器サイズである円筒形の子爆弾に帯や風船(小さなパラシュート構造)がついていたが、これを市民が弄って死傷したため、先の使用禁止の議論にも繋がっている。これらは人道的な目的で空中投下ないし配布した難民救済用の食糧パック(→レーション)も、黄色いビニール袋に包装されていたため、更なる混乱を煽っていると非難された事例である。
- 食糧パックと「そっくり」な不発弾
- BLU-97クラスター爆弾(英文・写真付き)
なお食糧パックは後に、この混乱を避けるため、オレンジ色のパッケージへと変更される事と成った。