海上自衛隊
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海上自衛隊(かいじょうじえいたい、Japan Maritime Self Defense Force:JMSDF)とは防衛省の特別の機関のひとつ。海上幕僚監部並びに統合幕僚長および海上幕僚長の監督を受ける部隊及び機関からなる。主として海において行動し、日本の平和と独立を守り、国の安全を保つため、直接侵略及び間接侵略に対し日本を防衛することを主たる任務とし、必要に応じ、公共の秩序の維持に当る。その長は海上幕僚長。なお、日本では法律上軍隊としての機能は発揮できないが、他国からは海軍と同じものとみなされている。
潜水艦16隻と護衛艦(他国での駆逐艦に相当)約50隻、そして対潜哨戒機をはじめとする各種航空機を多数保有する。この護衛艦にはイージス艦5隻が含まれ、さらに1隻を建造中である。また13500トン型護衛艦と呼ばれる実質的なヘリ空母を建造中である。冷戦が終結し長年の仮想敵だったロシア艦隊が機能低下状態にある現在、このような装備は明らかに過大として批判が一部の左翼勢力からある一方、護衛艦等の定数削減への対応、あるいは拡大する中国海軍の脅威への対処として、能力向上型を建造する必要があるとする意見がある。(実際には、大規模災害時の洋上司令部となりうる高度な機能を有した大規模艦となっている)。
目次 |
歴史
帝國海軍の解体
ポツダム宣言受諾により、帝國海軍は解体されることが決まり、海軍でも順次復員が行われると共に、海軍省自体も第二復員省に改組された。第二復員省は、特別輸送艦船の運航や掃海に関する事務を掌るものとされ、第一復員省(旧陸軍省)等と協力して復員及び在外邦人の引き揚げ等を行った。そのため、必要な艦船、職員をそのまま保有し、日本海軍の残存艦船は、復員船・引き揚げ船(特別輸送艦船)として各地と日本の間を往復したほか、航路啓開のため日本近海の掃海作業に当った。
第二復員局の掃海部隊は、昭和23年5月1日、装備や人員はそのままに、新たに発足した海上保安庁保安局掃海課に組み入れられ、機雷の除去作業を行った。このことが、結果的に、日本海軍が培ってきた操船技術などのノウハウやマンパワーを維持することになる。また、旧海軍軍令部作戦課が、第二復員省資料整理部として温存され、ここで、海軍再建の研究が行われた。なお、第二復員省は、復員庁、厚生省第二復員局へと改組された(海軍省参照)。
海上自衛隊の創設
1950年に朝鮮戦争が起こると、旧海軍関係者は海軍再建の好機と見てGHQに海軍再建を打診、多くの折衝を経てスモールネーヴィーを再建する方針が決まった。選択肢として、海軍を復活させる選択肢と海上保安庁を拡充する選択肢が示されたが、旧日本軍の復活を危惧する国際社会と、日本国憲法により平和国家として歩き始めた日本国内の世論を考慮して、組織構想が練られることとなった。
具体的には、1951年(昭和26年)10月、連合国軍最高司令官リッジウェイ大将より、フリゲート(PF)18隻と大型上陸支援艇(LSSL)50隻の貸与の提案があった。この提案を受け入れる事にした日本政府は、1952年に旧海軍軍人と海上保安庁から人材を集め、受け入れた態勢を整える事にし、内閣直属の委員会が置かれた。
この委員会は、交互に議長を務めた柳沢米吉海上保安庁長官と山本善雄元少将とのイニシャルをとってY委員会と呼ばれた。このY委員会は、山本善雄元少将(海兵47期・元軍務局長)、秋重実恵元少将(海機28期・元軍需局第4部長)、永井太郎元大佐(海兵48期・元教育局課長)、長沢浩元大佐(海兵49期・元軍務局第一課長兼軍令部第三課長)、初見盈五郎元主計大佐(海経8期・元経理局第三課長)、吉田英三元大佐(海兵50期・元軍務局第三課長)、森下陸一元大佐(海機34期・元海軍予備学生生徒採用試験臨時委員)、寺井義守元中佐(海兵54期・元軍令部第一課部員兼軍務局員)、柳沢米吉海上保安庁長官(東大卒)、三田一也警備救難監(商船学校卒・元海軍予備員たる海軍中佐)で、後に山崎小五郎海上保安庁次長(東大卒)が追加された構成であった。このように、Y委員会は、旧海軍軍人が11名中8名という大勢を占め、海上保安庁側は文官たる長官・次長と海上保安官のトップである警備救難監のみが参与することとなり、人数的にも海軍再建を目指す旧海軍側が主流となっていた。なお、海上保安庁側の専門家の立場である三田一也警備救難監は、商船学校卒で海軍予備員として大東亜戦争中は応召して海軍に勤務していた人物であったが、海軍嫌いで通っており、海軍再建には反対の立場であった。
Y委員会審議では、新部隊を海上保安庁の下に置くことに異論はないものの、一般の海上保安庁の部隊同様に、警備救難監の下に置くか、或いは特別に海上保安庁長官直属の機関とするかで紛糾した。飽くまで新部隊は海上保安庁の警察力強化と理解する海上保安庁側は警備救難監の下に置くことを主張した。他方、新部隊を将来海軍として独立させ名実ともに海軍再建を目指す旧海軍側は将来の分離自立を目指して長官直属とすることを主張した。結局、旧海軍側の主張が通り、長官直属の機関とされた。新組織の名称は当初は警察予備隊に倣って「海上保安予備隊」が予定されたが、後に「海上警備隊」とすることが決まる。
そして、サンフランシスコ平和条約発効の日である1952年(昭和27年)4月28日に海上警備隊が設置される。同年中に、海上警備隊と航路啓開隊(掃海部隊)は、海上保安庁から分離され保安庁警備隊となり、1954年防衛庁の発足と共に、海上自衛隊が誕生する。なお、防衛庁は2007年1月9日に防衛省へと昇格した。
なお、Y委員会のメンバーである長沢浩元大佐、吉田英三元大佐、寺井義守元中佐は海上自衛隊に入り、長沢浩元大佐は海将海上幕僚長、吉田英三元大佐は海将自衛艦隊司令を経て横須賀地方総監、寺井義守元中佐は海将横須賀地方総監まで昇った。
現在
現状では対潜水艦作戦に特化した米軍の補助部隊としての性格が強いとされる(規模と能力の節を参照)。冷戦後は国会での予算削減圧力が強く、新防衛大綱では護衛艦や哨戒機の定数が削減されている(下記外部リンク参照)。このため、防衛省・自衛隊側は予算確保と組織防衛を主張することが多い。反面、主力の潜水艦16隻と護衛艦隊所属の護衛艦32隻の定数は削減されておらず、また、新型潜水艦、イージス艦や実質的にはヘリ空母ともいわれる13500トン型護衛艦の建造により、戦力は増強されているとの見方もある。
任務
海上防衛
海上自衛隊では専守防衛の観点から、直接侵略への対応が想定されている。日常の訓練では対潜戦、対空戦、対水上戦、対機雷戦に重点を置いている。各国海軍と比較すれば訓練予算、運用体制は充実しており、戦術的には高い練度をもつといえる。しかし、有事法制の不備があり、現行法制下で、もし防衛出動が下令された場合には、ただひたすら各個での自衛戦闘のみを繰り広げることになる。このため、情報通信能力と打撃力に富むアメリカ海軍第七艦隊との共同作戦が不可欠であり、アメリカの支援なしでの活動は非常に限定的なものとなる。
現代戦において、実際に敵艦隊に対応するのは主に潜水艦と航空機であり、護衛艦隊は対潜水艦戦と米軍支援が主な任務となる。
海上保安庁との関係
海上保安庁は海上での警察または消防機関であり、領海、排他的経済水域の警備を第一の任務としている。海上保安庁は、国土交通省(旧運輸省)の機関(外局)であり、防衛省とは行政上、別系統の機関である。海上自衛隊は防衛大臣による海上警備行動の発令によって初めて洋上の警備行動が取れる。近年は、一連の不審船事案から、海上保安庁との共同対処訓練が頻繁に行われるようになっており、同時に、海上警備行動発令下のROE(行動基準)、とりわけ武器の使用に関する隊員教育が行われるようになっている。海上警備行動は、『軍服を着た海上保安官』としての行動であり、警察官職務執行法に準じた行動が求められるためである。
ただし、自衛隊法第80条には、「内閣総理大臣は、第七十六条第一項又は第七十八条第一項の規定による自衛隊の全部又は一部に対する出動命令があつた場合において、特別の必要があると認めるときは、海上保安庁の全部又は一部をその統制下に入れることができる。」(第1項)「内閣総理大臣は、前項の規定により海上保安庁の全部又は一部をその統制下に入れた場合には、政令で定めるところにより、長官にこれを指揮させるものとする。」(第2項)との規定があり、有事の際には海上保安庁の指揮権を一時的に防衛大臣に委ねることができる旨を定めている。
しかし、自衛隊法第80条に基づく海上自衛隊艦艇と海上保安庁船舶の統一運用は、指揮命令系統がまったく別であること、これを調整する諸規定が定められていないこと、船名艦名で同一のものが少なからず存在すること等から困難であるとの考えが有力である。
また、海上保安庁法第25条は「この法律のいかなる規定も海上保安庁又はその職員が軍隊として組織され、訓練され、又は軍隊の機能を営むことを認めるものとこれを解釈してはならない。」と海上保安庁を非軍事組織として強く定義しており、これについての法的整理も必要と考えられる。この点が、軍の一種であるアメリカ沿岸警備隊との非常に大きな違いである。
日米同盟
日米安全保障条約にのっとり、自衛隊の中で一番米軍との連携が深いのは海上自衛隊である。現在の日本政府の公式見解では、内閣法制局によると集団的自衛権は認められていないとされているが、アメリカ海軍第七艦隊と海上自衛隊はほぼ相互の組織関係とまでなっているため、アメリカ海軍第七艦隊のサポートや有事の際の後方支援といった任務は暗黙的に存在する。米海軍は空母等の正面戦力の増強に予算を重点的に振り分けているため、補助艦艇の整備の為の予算は十分とはいえず、海上自衛隊を主力の空母部隊を補助する有力な戦力として期待している。米軍は反国家分裂法を制定し台湾への圧力を強めた中国政府を強く批判しており、以前も中国への圧力のため台湾海峡に空母2隻を派遣した実績がある(台湾有事の項を参照)。北朝鮮については「弾道ミサイル実験や核開発疑惑、人権問題などを大きく問題視しており、悪の枢軸」と呼んで厳しく批判している。このことから台湾海峡以上に軍事行動の可能性は高いと言われ、有事の際は自衛隊の役割も非常に重要となると考えられている。
国際協力
海外派遣
湾岸戦争後の自衛隊ペルシャ湾派遣に始まり、自然災害やPKO派遣等による海外派遣の輸送の要として活躍している。米軍のアフガニスタン攻撃の際は、海上での米軍支援のためインド洋に自衛隊の大型補給艦を派遣した(自衛隊インド洋派遣参照)。
防衛交流
海上自衛隊は、各国海軍との防衛交流を積極的に推進している。
1980年(昭和55年)以降は、米海軍主催でハワイ付近で実施されている多国軍事演習である環太平洋合同演習(RIMPAC)に参加している。また、ロシア海軍300周年記念観艦式に参加するため、1996年7月には71年振りに海上自衛隊の艦船がウラジオストク港へ派遣された。また、これに対して、ロシア連邦側も1997年6月に103年振りにロシア海軍軍艦ウラジミール・ビノグラードフが東京港に来航した。
2006年(平成18年)10月3日から5日まで、第6回アジア太平洋潜水艦会議(APSC2006)を初めて海上自衛隊が主催した。この会議には、日、豪、加、中、コロンビア、仏、印、インドネシア、マレーシア、パキスタン、韓、露、シンガポール、タイ、英、米の16ヶ国海軍が参加した。同会議は2001年(平成13年)から毎年開催されている。
外国との共同訓練
平成17年度実績
海上自衛隊では、外国との共同訓練を頻繁に実施している。平成17年度の実蹟は次の通りである。日本にとって唯一の同盟国である米国との共同訓練が際立って多いのが特徴であるが、韓露両国とも比較的軍事行動色の薄い捜索・救難共同訓練を実施した。
- 日米共同訓練
- 米国派遣訓練…3回
- 対潜特別訓練…2回
- 掃海特別訓練…3回
- 輸送特別訓練…1回
- 基地警備特別訓練…1回
- 衛生特別訓練…1回
- 小規模基礎訓練…34回
- 米国以外の国との2国間共同訓練
- 日露捜索・救難共同訓練…1回
- 日韓捜索・救難共同訓練…1回
- 多国間共同訓練
- 拡散に対する安全保障構想(PSI)海上阻止訓練(シンガポール主催)…1回
- WPNS(Western Pacific Naval Symposium、西太平洋海軍シンポジウム多国間訓練(シンガポール主催)…1回
- 親善訓練
- 訪日国(外国海軍等の艦艇、航空機が親善訪問で訪日時に実施):ニュージーランド2回(艦艇部隊及び航空機部隊各1回)、オーストラリア1回
- 訪問国(海上自衛隊艦艇が遠洋航海等で訪問時に実施):メキシコ、アメリカ、フランス、インド各1回
規模と能力
平成17年4月現在、海上自衛隊は人員約4万4000名、艦艇152隻(イージス艦4隻、ヘリ3機搭載護衛艦4隻、防空ミサイル護衛艦4隻、汎用護衛艦約20隻、潜水艦16隻等:計42万6020t)と航空機309機(哨戒機P-3C約80機、哨戒ヘリSH-60J約90機)を保有している。主力部隊は8個の固定翼哨戒機部隊と6個潜水艦部隊、4個護衛隊群である。1個の護衛隊群は、ヘリ搭載護衛艦1、防空ミサイル護衛艦2、汎用護衛艦5隻、計8隻からなる。
海上自衛隊は世界有数の規模と能力を持つ外洋海軍である。特に対潜哨戒能力に関しては世界でトップクラスと言えよう。対潜水艦戦能力は米国に次ぐ世界第2位といわれている。しかし専守防衛というドクトリンに基づき、米海軍等の外征型海軍とは異なり大規模な揚陸戦遂行能力や、巡航ミサイルや空母艦載機による対地攻撃能力を有しておらず外征能力はない。太平洋戦争の戦訓により、シーレーン防衛を重視し、対潜水艦戦に特化した傾向にある。また掃海技術は、戦後の航路啓開で技術の蓄積を得ており、ペルシャ湾等の掃海作業でも米海軍から高い評価を得た。
イージス艦5隻に加え1隻(たちかぜ型護衛艦の代替としてイージスシステム搭載のあたご型護衛艦)および、全通甲板を持つヘリ空母(はるな型護衛艦の代替として13500トン型護衛艦)が建造中である(ともに平成19年3月末現在)。これら装備増強は、護衛艦の総隻数の削減にを補うための質的な能力向上を目指したものである。また、長年の仮想敵国だったロシア海軍がソ連全盛期に比べると組織的にも装備的にも機能低下状態であるが、北朝鮮や台湾有事、中国軍の急進的な軍備増強による脅威の増大など、想定される不測の事態への対応を強化するという側面もある。
このような装備の能力向上について、中国などのごく一部の国から懸念が表されることもあるが、自衛隊は前述のように侵攻能力を有しておらず、周辺国にとって脅威とはならない。
主要な部隊・機関
全般を統括する海上幕僚監部のもと、以下の主な部隊・機関がある
部隊
- 自衛艦隊(横須賀)
- 横須賀地方隊(横須賀)
- 呉地方隊(呉)
- 佐世保地方隊(佐世保)
- 舞鶴地方隊(舞鶴)
- 大湊地方隊(大湊)
- 教育航空集団(下総)
- 練習艦隊(呉)
- システム通信隊群(市ヶ谷)
- 海上自衛隊警務隊(市ヶ谷)
- 海上自衛隊情報保全隊(市ヶ谷)
- 潜水医学実験隊(久里浜)
- 印刷補給隊(市ヶ谷)
- 東京業務隊(市ヶ谷)
- 東京音楽隊(上用賀)
機関
- 海上自衛隊幹部学校(目黒)
- 海上自衛隊幹部候補生学校(江田島)
- 海上自衛隊第1術科学校(江田島)(攻撃、船務要員養成)
- 海上自衛隊第2術科学校(横須賀)(機関科要員養成)
- 海上自衛隊第3術科学校(下総)(航空要員養成)
- 海上自衛隊第4術科学校(舞鶴)(経理補給要員、事務官養成)
- 海上自衛隊補給本部(十条)
- 海上自衛隊艦船補給処(横須賀)
- 海上自衛隊航空補給処(木更津)
自衛隊病院
海上幕僚長の指揮監督を受ける自衛隊病院
- 自衛隊大湊病院(大湊)
- 自衛隊横須賀病院(横須賀)
- 自衛隊舞鶴病院(舞鶴)
- 自衛隊呉病院(呉)
- 自衛隊佐世保病院(佐世保)
自衛艦名の命名方法
艦名の付与基準については船名を参照のこと。艦名の漢字表記は、昭和40年頃から提唱されているが、依然実行されていない。旧軍艦との同名により侵略的なイメージを避けたいという主旨ではあるが、平仮名の艦名を制服の胸の名札に記入している隊員にとっては、士気の低下につながりかねない。「はるな」「はるさめ」などの乗員にとっては、漢字表記を希望するものが多い。また、海上保安庁の巡視船艇と同名の艦艇もあり、それぞれの命名法について、調整が必要との指摘もされている。
文化
概要
陸上自衛隊がアメリカ陸軍式に編成・教育され、旧陸軍との関係を断絶しているの比べ、旧海軍77年の歴史と伝統を重視しており、旧海軍の末裔を自認している。現在でも、スマートネイビーを標榜とする日本海軍の伝統を重んじている組織である。伝統的な気質としては、純粋な軍人育成を嫌い、シーマンシップ(スマートで、目先が利いて、几帳面。負けじ根性といった船乗りの心得)に基づいたリーダーシップ(指導、統率力)を持ち、クリューコーディネート(協調、統制能力)も可能な人材育成を前面に掲げることなどがあげられる。これは、陸軍が基本的に国内にとどまって国土を防衛する任務を担うのに対して、海軍(特にBlue Water Navy)は外国を訪問することが多く、海軍士官は相互親善を深める外交官的な役割をも担ってきたことに由来する。そのこともあり、陸海空の中で海上自衛隊のみ初任幹部ほぼ全員を海外に出して見聞を広めさせている(練習艦隊参照)。
海上自衛隊は、伝統墨守といわれるほど旧日本海軍の伝統を汲んでいる。観艦式などには日本海軍伝統の軍艦行進曲(軍艦マーチ)が演奏され、海軍の軍艦旗をそのまま自衛艦旗としており、日本海海戦を記念して制定された戦前の海軍記念日(5月27日)の前後には、現在の海上自衛隊も、基地祭などの祝祭イベントを設けている。海上自衛隊で使われる信号喇叭の喇叭譜も一部を除いて旧海軍のものをそのまま使用しており、君が代の喇叭譜が陸海それぞれ別にあるという変則なことになっている。金曜にカレーを食べる習慣(海軍カレー)も旧海軍の伝統である。
なお、陸空では使用されない「士官」の語も「幹部自衛官」のほかに法令上も用いられている(士官#自衛隊参照)。
艦内生活
- 詳細は護衛艦#護衛艦での生活を参照
海上自衛隊では、海軍再建に関与したアメリカ海軍の影響もある。例えば、艦内飲酒について、イギリス海軍では紳士の嗜みとして許されていたのに対し、海上自衛隊では、禁酒法を制定したアメリカ海軍の流れを汲み、基本的に一切許可されず、厳重な罰則規定も存在する。
曹士の艦内生活での実権は士官(幹部自衛官)ではなく、CPO(チーフ・ペティー・オフィサー)と呼ばれる下士官(先任伍長)が掌握していている。
艦艇乗組員は、「総員起こし」の号令で起床し、自衛艦旗掲揚の儀式の後、朝食を摂り(海士と下級海曹は科員食堂、上級海曹はCPO室、士官は士官室。)、日中に課業を行う。夜は、甲板掃除の後、副長又は当直士官の巡検が行われる。また、分隊点検も非常に重視される。
旧海軍から継受した技術
現在使われているUS-1飛行艇は、戦後、川西航空機株式会社から新明和工業株式会社に改称した技術者の製作によるもので、二式大艇の技術の伝承を得ている。2006年度から採用が始まる次期飛行艇XUS-2も、US-1を改良したものであり、飛行艇は、装備の面でも旧海軍の伝統を引き継いでいる。
海上自衛官の階級
平成18年度現在、海上自衛官の階級は以下のとおり。
- 将官
- 海将 (海保の一等海上保安監(甲) 警察の警視監に相当)
- 海将補 (海保の一等海上保安監(乙) 警察の警視長に相当)
- 佐官
- 一等海佐 (海保の二等海上保安監 警察の警視正に相当)
- 二等海佐 (海保の三等海上保安監 警察の警視に相当)
- 三等海佐 (海保の一等海上保安正 警察の警部に相当)
- 准尉
- 准海尉
- 曹・士
- 海曹長
- 一等海曹
- 二等海曹(海保の一等海上保安士 警察の巡査部長に相当)
- 三等海曹(この階級から背広型の制服になる)
- 海士長
- 一等海士
- 二等海士(練習員とも呼ばれ、一般的に高校卒業後入隊した際はこの階級から始まる)
- 三等海士(少年自衛官とも呼ばれる自衛隊生徒はこの階級から始まる)
曹士隊員のおもな特技(職域)
陸上自衛隊の職種に類似した特技(特定技能)の制度がある。これらの術科教育は術科学校等で行われる。
攻撃要員
- 運用員 - ボースンともよばれ、甲板作業全般を担当する。船乗りの花形と呼ばれる。
- 射撃員 - 速射砲、揚弾機等の整備を担当する。
- 射管員 - 射撃管制装置の操作と整備を行なう。
- 魚雷員 - 魚雷および魚雷発射管の操作と整備を行なう。
- 水測員 - ソーナー及び関連機器の操作と整備を行なう。
- ミサイル員 - ミサイル、ミサイル発射台、VLS等の整備を担当する
- 掃海員 - 掃海艦艇などで掃海具等を取り扱い、機雷の敷設・除去作業などを行う。
船務航海科要員
- 電測員 - CICでレーダーやESMの操作を行なう。
- 電子整備員 - レーダーや通信装置などの整備を行なう。略号ET:electronics technician
- 船務航海員 - 航海に関する業務やレーダーなどの戦術活動を行う。
- 通信員 - 暗号通信の解読、隊内電報の接受、基地内通信システムの構築、整備などを行う。
- 気象員 - 気象・海洋観測、天気図などの作成、気象・海洋関係の情報の伝達などを行う。
機関科要員
- 機械員 - ボイラー員、ガスタービン員などに分類され、機関の操作、整備などの業務を行う。
- 電機員 - 発電機の保守管理及び電機機器全般の整備を担当する。蛍光灯や電池までも受け持っている。
- 応急工作員 - ダメージコントロールとよばれ、艦体の被害極限を担当し、真水の管理も行っている。
- 艦上救難員 - 艦上での航空機運用時における事故対処を主任務とする。基地勤務時は地上救難員とよばれる。
航空要員
- パイロット -主に航空学生で入隊したものはP-3C、SH-60等のパイロットとなる。
- 戦術航空士 - P-3Cに搭乗し、戦術全般の指揮統制を行なう。主に航空学生のなかから選抜される。
- 航空管制 - 航空機の離着陸などに関する業務を行う。陸上基地のほか、ヘリ搭載艦での配置もある。
- 航空機整備 - 航空機体整備員 航空発動機整備員 航空電機計器整備員 航空電子整備員 航空武器整備員から成り立つ。選抜により、航空士またはFEフライトエンジニアとしての搭乗員配置がある。
経理補給衛生要員
- 経理・補給 - 任務において必要な経費などに関する業務を行う。
- 法務 - 自衛隊が起こした損害賠償訴訟などに関する業務を行う。
- 施設 - おもに各基地設備の維持管理を行なう。除雪作業専門の機動施設隊も存在する。
- 情報 - 情報資料の収集、処理及び情報の配布、秘密保全、映像技術及び関連器材整備などに関する業務を行う。
- 潜水 - 職種には関係なくスクーバ課程を修業したものには潜水の副特技(サブマーク)が付与される。潜水作業によって、機雷の除去などを行う水中処分隊員EODは、海上自衛隊随一の精鋭である。
- 衛生 - 医療業務などを行う。救難飛行艇US-1、救難ヘリUH-60の機上救護員としての勤務も可能である。
- 給養 - 国家資格である調理師、栄養士に相当する者が給養員である。
これらを含めて約50種類ある。
関連項目
- 防衛省 / 自衛隊 / 防衛施設庁
- 陸上自衛隊 / 航空自衛隊
- 自衛官 / 予備自衛官 / 先任伍長
- 自衛艦隊 / 自衛艦 / 護衛艦 / 海上自衛隊の航空母艦建造構想
- 海上自衛隊の装備品一覧 / 陸上自衛隊の装備品一覧 / 航空自衛隊の装備品一覧
- 海上自衛隊の基地一覧 / 陸上自衛隊の駐屯地一覧 / 航空自衛隊の基地一覧
- 海軍 / 大日本帝国海軍 / 沿岸警備隊 / 海上保安庁
- 軍艦旗 / 海上自衛隊の礼式
- 海上作戦部隊指揮管制支援システム / 海上自衛隊指揮管制支援ターミナル
参考文献
- 海上自衛隊50年史編さん委員会『海上自衛隊50年史-本編』防衛庁海上幕僚監部、2003年。
- 海上自衛隊50年史編さん委員会『海上自衛隊50年史-資料編』防衛庁海上幕僚監部、2003年。
- 阿川尚之『海の友情-米国海軍と海上自衛隊』中央公論新社(中公新書)、2001年。
- ジェイムス・E.アワー『よみがえる日本海軍-海上自衛隊の創設・現状・問題点(上)』妹尾作太男訳、時事通信社、1972年。
- ジェイムス・E.アワー『よみがえる日本海軍-海上自衛隊の創設・現状・問題点(下)』妹尾作太男訳、時事通信社、1972年。