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共犯

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

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共犯(きょうはん)とは、2人以上の者が共同して犯罪を実行することをいう。これが最も広い意味での共犯(最広義の共犯)であるが、刑法学上はこれをさらに必要的共犯と任意的共犯に分け、後者には共同正犯と教唆犯、幇助犯の3つが属する(これらを総称して広義の共犯ともいう)。そして特に教唆犯と幇助犯の2つのみを指して共犯という場合もある(狭義の共犯)。これら広義、狭義の共犯の関係は以下のようになっている。

  • 共犯(最広義)
    • 任意的共犯(広義の共犯)
      • 共同正犯
      • 教唆犯(狭義の共犯)
      • 幇助犯(狭義の共犯)
    • 必要的共犯
      • 集団犯(多衆犯)
      • 対向犯

刑法上の共犯に対立する概念は正犯である。以下、共犯について個別に見ていく。

目次

[編集] 必要的共犯

必要的共犯とは、構成要件上初めから複数の行為者を予定して定められている犯罪において用いる。内乱罪騒乱罪などの集団犯(多衆犯)と、重婚罪賄賂罪などの対向犯がこれにあたるが、どれも一人では犯罪結果を実現できないものであることから、共犯が存在することが犯罪構成要件から当然に想定されているために、必要的共犯と呼ばれる。 特に、対向犯について、相手方を処罰する規定を欠く片面的対向犯の不可罰性(これを「必要的共犯の不可罰性」とも言う。)の根拠および範囲については争いがある。

[編集] 任意的共犯

任意的共犯とは、法律上単独の行為者を想定して定められている犯罪を、2人以上の行為者が参加して共に実現する場合をいう。これは広義の共犯ともいわれる。例えば殺人罪窃盗罪の条文を見ると行為者が単独でも犯罪結果を実現できるが、こうした犯罪を複数で実行することが任意的共犯である。任意的共犯には共同正犯、教唆犯、幇助犯の3種がある。

共同正犯 
複数の者が共同して犯罪を実行した場合、共犯者の全員が正犯となる。実際の犯行それ自体を共同して実行した場合のみならず、謀議に参加した者や見張り役なども含むとされている。いわゆる「共犯者」はこの関係である場合が多い。この場合、その者は正犯であるが、広義の共犯には含まれることとなる。詳しくは共同正犯の項目を参照。
教唆犯 
人をそそのかして「犯罪」を実行させた者をいい、正犯と同じ刑が科される(刑法61条1項)。この教唆犯を教唆した場合を間接教唆と呼び、刑法61条2項により処罰される。さらにこの間接教唆者に教唆する場合を再間接教唆と呼び、これ以降の間接教唆を連鎖教唆と呼ぶ。連鎖教唆については刑法61条1項のような規定がないことからこれを処罰しうるか争いがあるが、判例は処罰を肯定する。
幇助犯 
正犯」を幇助した者をいう。幇助とは、正犯でない者が正犯の実行を容易にすることをいい、犯罪に使うもの(凶器など)を用意するといった物理的方法はもちろんのこと、犯罪をしやすい環境を整えて正犯者を勇気づけるといった精神的方法でも幇助にあたるとされる。詳しくは幇助の項目を参照。

[編集] 正犯と共犯

刑法各則の定める構成要件を自ら単独で実現する行為を単独正犯といい、共同して実現する共同正犯と合わせて、刑法学上は正犯という。正犯といえるためにはその行為が正犯としての性質、つまり正犯性を備えていなくてはならない。

正犯と共犯の区別が問題となるのは間接正犯の場合である。これに関してそもそも正犯と共犯がいかなる関係に立つかが問題となり、かつては、共犯を処罰縮小事由とする拡張的正犯概念と共犯を処罰拡張事由とする減縮的正犯概念の対立があったが、現在では後者が圧倒的通説である。(なお、両概念は正犯と共犯の関係についてのものであり、正犯そのものを規定する概念ではない。正犯そのものも規定する概念として用いられる場合もあるが、その場合は意味はより狭くなることに注意を要する。)減縮的正犯概念からは、正犯性を有する場合にのみ正犯になりえ、正犯にならない場合には(正犯性がなくても)共犯の成否が問題になるということになろう。もっとも、共犯の成立のためには正犯性を有しないことを要するとする見解もある。正犯性については正犯の項を参照。

正犯と共犯の区別という論点がある。ここでいう共犯は狭義の共犯である。以下のような対立がある。

  1. 主観説:正犯意思の有無による。従来の判例理論はこの立場を採る。
  2. 形式的客観説:実行行為の分担の有無による。かつての通説。
  3. 実質的客観説:構成要件実現への支配・寄与の程度ないし結果の帰属といった点により判断する。現在の多数説。

[編集] 共犯の従属性

狭義の共犯は正犯との関係において独立しているのか(共犯独立性説)、従属しているのか(共犯従属性説)ということが、かつては近代派=主観的共犯論と古典派=客観的共犯論との対立として争われていた。しかし、やがて従属性の多義性が指摘されるようになり、古典派内部でも新たな見直しが迫られた。従属性の有無と程度という分析を経て,近年は、実行従属性、要素従属性、罪名従属性の3つに分けて考えられるようになっている。

Aは借金で首が回らなくなっていた友人のBに対して、「借金取りなど殺してしまえ」と執拗に勧めた。しかしBは「馬鹿なことを言うな」といって全く取り合わなかった。

この例で、もしもBが殺人の実行に着手していたとすれば、Aには殺人罪の教唆犯か、少なくとも殺人未遂罪の教唆犯(教唆の未遂)として処罰される。教唆者であるAが殺人をそそのかしているが、Bは殺人の実行に着手すらしていない。しかし、正犯者が少なくとも犯罪の実行に着手しなければ教唆者や幇助者は罰せられない。例えばAがBに殺人をそそのかしたがBは全く取り合わなかったという場合、Bが殺人の実行に着手してすらいないのであるから、Aが殺人の教唆犯や教唆の未遂として処罰されることはない。このような見解を共犯従属性説といい、判決例や学会の通説が採る立場である。この「正犯者が犯罪の実行に着手しなければ共犯は成立しない」という考え方は実行従属性の原則といわれる。かつては正犯者が犯罪の実行に着手せずとも、教唆者や幇助者は教唆行為や幇助行為をしただけで教唆の未遂または幇助の未遂として罰せられると考える共犯独立性説という見解も有力であったが、支持を失った。ただし、これは一般法としての刑法で認められた原則であって、特別刑法において教唆行為それ自体を犯罪として処罰することはできる。例としては破壊活動防止法38条以下にある内乱の教唆などがあるが、このように教唆された者の行動に関わらず罰せられる教唆犯を独立教唆犯という。

以上の実行従属性を巡る問題の他に、共犯の従属性に関してはもう一つ、要素従属性という問題がある。これは、共犯が成立するためには概念上の正犯がどこまで犯罪要素を備えていなければならないか、という議論である。つまり、ある行為が犯罪として処罰されるのは、その行為が構成要件に該当し、違法であり、行為者に責任が問えるという3つの条件をすべて満たしている場合だけである。よって共犯が処罰されるのは、正犯者の行為がこの3つの条件すべてを満たしているという意味での「犯罪」である時に限られるのではないか、というのがこの議論の出発点である。この点については,以下のような形式があるとされる。

  • 極端従属形式(正犯に構成要件該当性,違法性および有責性が必要。)
  • 制限従属形式(正犯に構成要件該当性および違法性が必要。)
  • 最小限従属形式(正犯に構成要件該当性が必要。)
  • 単純な違法への従属形式(正犯に単純な違法性が必要。)
  • 規範的障害への従属形式(正犯に規範的障害が必要。)

通説は、制限従属形式を採る。違法の連帯と責任の個別性がその根拠とされた。一方、正犯には構成要件該当性すら不要であるという見解が、古くから関西では有力である。近年は、関東においても、違法の相対性を部分的に承認し,制限従属形式を出発点としつつも要素従属性を緩和する見解や最小限従属形式をとる見解が非常に有力である。その一方で、違法の相対を承認しつつもなお制限従属形式を肯定する見解も登場している。

また、共犯と正犯又は各共犯に成立する罪名は同じである必要があるかという罪名従属性という問題がある。犯罪共同説からはこれを肯定する見解が多数であるが、一部の犯罪共同説や行為共同説からは否定される。もっとも、狭義の共犯については、正犯の構成要件該当性への従属性を肯定する通説からは、共犯の罪名が正犯の罪名を上回らないという意味で片面的な罪名従属性が肯定されることになる。これを前提に、65条2項によってこの例外が認められる(つまり共犯の罪名が正犯の罪名を上回ることになる)か否かは争いがあるが、通説は肯定する。

さらに、近年においては、混合惹起説の登場に伴って従属性の二義性も指摘されている。すなわち、従属性には必要条件としての従属性と連帯性としての従属性があるというものである。例えば、要素従属性は前者の問題とされる。2つの意味の区別は、独立性・(必要条件としての)従属性と個別性・連帯性を分離し、惹起説を前提にしつつ個別的要素についての要素従属性を承認する混合惹起説の論者にとって特に重要だからである。

[編集] 共犯の処罰根拠

共犯がなぜ処罰されるのかということが盛んに論じられている(ここでいう共犯とは、狭義の共犯(すなわち教唆犯と幇助犯)を含むことが前提であるが、さらに共同正犯を含めるかについては争いがある。)。これを共犯の処罰根拠の問題という。共犯の処罰根拠が論じられるようになったのは、元来議論が錯綜してきた共犯を巡る問題に対して一定の立場から首尾一貫した解釈論を導こうとしたためであるが、限界も指摘されている。

共犯の処罰根拠についての学説の分類にはさまざまな方法があり、同一の名称でも意味が異なることがあり、しばしば混乱の元となっている(なお、現在の日本では因果共犯論=惹起説が通説とされるが、このことは、2分説を前提とする限りでは、換言すれば、責任共犯論を採らないという意味に解する限りでは、正しい。)。ここでは、近年、もっとも有力である5分説を元に新たな学説を付け加えて紹介する。

[編集] 責任共犯説(責任共犯論、堕落説)

共犯(特に教唆犯)は(法益侵害への加功に加えて)正犯者を誘惑・堕落させ、罪責と刑罰に陥らせたために処罰されるべきだという立場である。 日本ではあまり支持はないが、伝統的な古典派はこれに近い見解を採っていたと思われる。極端従属形式に至る。

[編集] 不法共犯説(不法共犯論、違法共犯論)

共犯は正犯の不法(構成要件該当性+違法性)を惹起したために処罰されるべきという立場である。違法論のバリエーションによってさまざまな説がここに分類される。例えば、(二元論を含む)行為無価値論からは行為無価値惹起説が採られたり、二元論からは(法益侵害も処罰根拠に含める)二重の不法内容の理論が唱えられたりする。結果無価値論ないし二元論から唱えられる修正惹起説(後述)もこの一種とされることもある。制限従属形式に至る。 日本では、これと同じかあるいは近似する見解が、行為無価値論者に多い。

[編集] 惹起説(因果共犯論)

共犯の結果への因果性に処罰根拠を求める見解である。 純粋惹起説、修正惹起説、混合惹起説の3つがあるとされる。

  • 純粋惹起説
共犯自身の不法こそが処罰根拠であるとして、正犯に構成要件該当性は必ずしも不要とする。要素従属性は緩和される。日本では、関西系の結果無価値論者に多い。元々このような見解は近代派によって支持されていた。
  • 修正惹起説
違法の連帯を唱え、共犯不法は正犯不法から導かれるとする。制限従属形式に至る。日本では、これをそのまま採る見解はほとんどないが、違法の相対性をある程度は認め、その限りで要素従属性を緩和する見解(これをある学者は第3の惹起説と称する。)が、関東系の結果無価値論者に多い。
  • 混合惹起説
共犯の不法は共犯固有の要素と正犯不法から導かれる要素からなるとする。あるいは、共犯固有の不法が処罰根拠ではあるが、正犯不法によって処罰が限定付けられるとするもの。違法の相対を承認しつつも制限従属性を固持する。さまざまな学派から唱えられている、近年、非常に有力な見解である。
なお,必ずしも正犯不法は必要でないが正犯の構成要件該当性は必要とする見解(なお,必要としつつも65条2項による修正は可能である。)もここに含めることがある。この場合には前述の第3の惹起説との違いは不明瞭となる。(なお,少なくとも正犯の構成要件該当性を要求する惹起説を純粋惹起説と対置して構成要件的惹起説と総称することもある。)

[編集] 他人の不法との連帯説

共犯の処罰根拠は,共犯独自の特別の行為無価値に求められるとする。そしてその行為無価値は印象説が未遂犯の処罰根拠とするものと同じであるとする。日本にも影響を与えてはいるが,支持されているわけではない。

[編集] 共犯の本質

共犯の本質が何であるかについては大きく分けて犯罪共同説と行為共同説が存在する。

[編集] 犯罪共同説

共犯とは、数人がある特定の犯罪(構成要件該当行為である実行行為)を共同して行うことであると考える。この説では「数人一罪」と捉える。 構成要件に該当しない行為を共同したとしても、それは犯罪を共同して行ったことにはならないため、共犯とはならない。 この説は行為無価値論の立場から主張される。

[編集] 完全犯罪共同説

複数の犯罪が完全に一致していることを要求する説である。例えば、AとBが共謀して甲に対して殴る蹴るの暴行を加えて死に至らしめた場合、Aが殺人の故意をもって行い、Bが傷害の故意をもって行っていれば共犯は不成立となる。

[編集] 部分的犯罪共同説

複数の犯罪の部分が法的に一致してしていればよいとする説である。上記の例の場合、Bには傷害(致死)共同正犯が成立し、Aには殺人罪が成立し、さらに、傷害致死罪の限度で共同正犯となる。判例はこのような立場のようである。

[編集] 行為共同説

共犯とは、数人がある事実行為を共同して行うことであると考える。この説では「数人数罪」と捉える。 数人の間に何らかの行為を共同する意思があり、そういった事実があれば共犯が成立することとなる。

[編集] 構成要件的行為共同説

上記の説を修正し、事実行為ではなく構成要件に客観的に該当する行為を共同することを必要とする。ただ、犯罪共同説とは異なり、罪名が全部または一部において一致することは必要とはしない。 上記の例の場合、Aには殺人罪の共同正犯が成立し、Bには傷害致死罪の共同正犯が成立する。

[編集] 関連項目

他の言語
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