不作為犯
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不作為犯(ふさくいはん)とは、不作為による犯罪をいい、より具体的には、一定の作為を行う義務(作為義務)を行わないことによって実現される犯罪をいう。刑法上、不作為とは作為と並んで「行為」の一つと考えられている。
目次 |
[編集] 真正不作為犯と不真正不作為犯
不作為犯は、以下の2つに分類される。
- 真正不作為犯(純正不作為犯)
- 刑法などの刑罰法規がもともと不作為による犯罪形態を想定している場合をいう。すなわち、構成要件に定める実行行為が、もともと不作為のかたちで記述されている犯罪類型。法文には「○○しなかったときは・・・」などのかたちで規定される。例えば、多衆不解散罪(刑法107条)、不退去罪(同130条)、保護責任者遺棄罪(不保護罪、同218条後段)など。
- 不真正不作為犯(不純正不作為犯)
- 構成要件に定める実行行為が作為のかたちで規定されている犯罪を、不作為のかたちで実現する犯罪類型。例えば、自動車で轢いて重傷を負わせた被害者を、病院に運ぼうと考えて一旦車内に引き入れたものの、犯罪の発覚をおそれて逡巡しているうちに死亡させてしまった場合などは、殺人罪の不真正不作為犯が成立しうる。
[編集] 不真正不作為犯
条文上は、作為を犯罪として規定している場合であっても、不作為によってもその犯罪を実現した、といいうる場合があることは確かである。
ところが、具体的な作為を犯罪として捉える場合と比べると、不作為の場合には、どこまでを処罰すべき不作為と取るかは必ずしも明確に限定されない恐れがある。真正不作為犯として作為義務が規定されている場合はまだしも、不真正不作為犯は、作為義務が条文上明らかとはいえないことから、これを明確化しなければ罪刑法定主義に悖るおそれがあると考えられている。
不真正不作為犯の成立要件を明確化するためには、様々な議論が交わされている。議論の方向性は、何かをしなかった者(不作為犯)が、何か具体的に悪いことをした者(作為犯)と同様に処罰するに値するかどうかを検討する基準をどう設けるかに係ってくる。通説(保障人説)では、ある作為義務を負った者(保障人、Garant)を中心に理論構成し、次の3つの要件を措定する。
- 作為義務が存在すること。 - 不作為が義務違反になることを意味する。何らかの作為義務が存在しなければ、行為の違法性(義務違反)が生じず、不作為を犯罪に問うことはできない。この作為義務は、法令の規定に明示されるほか、契約や事務管理、慣習や条理によっても発生する。
- 作為の可能性と容易性があること。 - 法は人に不可能を強いるものではない。作為の可能性(作為を行うことが出来ること)がなければ、作為義務も発生しない。また、作為の容易もなければ同様である。ただ、作為の容易性は、作為の可能性と異なり、程度問題であるため、作為義務の強さとの相関によって存否が決まる。
- 作為の場合との構成要件的同価値性があること。 - 具体的に行った不作為が、構成要件に実行行為として規定された作為と、法的に同価値のものと評価できなければならない。例えば、轢いてしまった被害者を車内に引き入れ(引受行為)、他の者の手出しを出来なくしてしまうこと(排他的な支配の設定)などである。
[編集] 改正刑法草案
1974年(昭和49年)に法制審議会総会で決定された改正刑法草案には、その第12条に不真正不作為犯を規定する。改正刑法草案は国会に上程されることなく、今日に至る。
- 第12条(不作為による作為犯)
- 罪となるべき事実の発生を防止する責任を負う者が、その発生を防止することができたにもかかわらず、ことさらにこれを防止しないことによつてその事実を発生させたときは、作為によつて罪となるべき事実を生ぜしめた者と同じである。
[編集] 備考
- 江戸時代には現在の刑法よりも多くの不作為犯の規定が存在した。特に封建的な道徳観に基づく規定が多い。公事方御定書71条寛保4年(1744年)追加によれば、目上の親族・主人・師匠が生命の危険に晒された場合に、目下の親族・召使・弟子には救助義務があり、これに違反すれば重刑が科せられ、特にそれが親子関係であった場合には原則的に死刑が適用された。当時の江戸町奉行の記録によれば、火災に巻き込まれた親を救出出来なかった子供が「子であれば、自分が焼け死んでも親を救うべきであるのにそれをしなかったのは人倫に反する大罪である」として打ち首とされた例が記されている。
[編集] 関連項目
- 義務
- 改正刑法草案