吉田秀和
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
吉田 秀和(よしだ ひでかず、1913年9月23日 - )は、日本を代表する音楽評論家、随筆家。クラシック音楽の豊富な体験・知識をもとに、音楽の持つ魅力や深い洞察をすぐれた感覚的な言葉で表現、日本の音楽評論において先導的役割を果たす。音楽のみならず文学や美術など幅広い分野にわたる評論活動を続け、日本の音楽評論家としては初の個人全集が刊行されて、第2回大佛次郎賞を受けた。大の相撲好きとしても知られる。
『朝日新聞』夕刊に『音楽展望』を寄稿したり(毎月の寄稿は一時期、中断していたが、2006年11月に復帰、以後、年4回のペースで掲載予定。中断は2003年11月の妻の死去による精神的衝撃が大きいためという)、NHKのFM放送での番組解説を行なうなど、90歳を超える高齢となった現在も健在である。
目次 |
[編集] 略歴
- 東京市日本橋区新和泉町(現在の東京都中央区日本橋人形町)の開業医の家庭に生まれ、4~5歳で日本橋区蛎殻町に転居。母の影響で西洋古典音楽に親しんで育つ。
- 1922年暮に大森へ移住し、関東大震災の被害を危うく免れる。小学校6年の秋に、一家で北海道小樽に転居。旧制の市立中学で2年生の時まで伊藤整に英文法と英作文を教わる。
- 1930年春、4年修了で旧制成城高等学校文科甲類(英語クラス)に入学し寮生活を送るも、同年秋、文科乙類(ドイツ語クラス)に転じると共に、ドイツ語の師である阿部六郎の成城の自宅に同居(~1931年1月まで)。このころ中原中也にフランス語の個人教授を受ける。小林秀雄や大岡昇平とも交遊。
- 1936年、東京帝国大学(現・東大)文学部フランス文学科卒業。戦時中は芸術文化統制を担当する内閣情報局に勤めていたが、敗戦後の混乱期に「自分の本当にやりたいことをやって死にたい」という思いが募って勤めを辞し、ある女性雑誌の別冊付録『世界の名曲』に寄稿したことが契機となって音楽評論の道に入る。
- 1946年、『音楽芸術』誌(音楽之友社)に『モーツァルト』を連載、本格的に評論活動を始める。
- 1948年、斎藤秀雄、井口基成、伊藤武雄と「子供のための音楽教室」を開設し、初代室長。一期生には小澤征爾(指揮者)、中村紘子(ピアニスト)、堤剛(チェリスト、現:桐朋学園大学学長)らがいる。「子供のための音楽教室」は、後の桐朋学園音楽部門の母体となった。
- 1957年、柴田南雄らと「二十世紀音楽研究所」を設立、所長となる。
- 1975年、『吉田秀和全集』(この時点で10巻まで)で第2回大佛次郎賞受賞。
- 1982年、紫綬褒章を受章。
- 1983年、ヴラディーミル・ホロヴィッツが初来日したときに、その演奏を「ひび割れた骨董品」と評して話題となる。
- 1988年、水戸芸術館館長に就任。勲三等瑞宝章を受章。NHK放送文化賞受賞。
- 1990年、水戸芸術館館開館とともに、その専属楽団として、小澤征爾を音楽顧問とする水戸室内管弦楽団を創設。また、音楽・演劇・美術などの各分野で、優れた芸術評論を発表した人に対して贈られる「吉田秀和賞」が設立された。この年に朝日賞、神奈川文化賞を受賞。
- 1993年、『マネの肖像』で第 44回読売文学賞受賞。
- 1996年、文化功労者受賞。
- 2004年、『吉田秀和全集』全24巻で完結。
- 2006年、文化勲章受章。
[編集] 著書
[編集] 全集、選集
- 『吉田秀和全集(全24巻)』(白水社/1975-2004) 1975年に全10巻として出版。その後1979年に11~13巻、1986年に14~16巻、2001~04年に17~24巻が刊行された。
- 『吉田秀和作曲家論集(全6巻)』(音楽之友社/2001-02) 第1巻「ブルックナー、マーラー」、第2巻「シューベルト」、第3巻「ショパン」、第4巻「シューマン」、第5巻「ブラームス」、第6巻「J.S.バッハ、ハイドン」。
[編集] 単著
- 『主題と変奏』(創元社/1953 → 中公文庫/1977)
- 『音楽家の世界』(創元社/1953)
- 『二十世紀の音楽』(岩波新書/1957)
- 『音楽紀行』(新潮社/1957 → 中公文庫/1993)
- 『わたしの音楽室』(新潮社/1961)
- 『批評草紙――日本を見る眼』(音楽之友社/1965)
- 『批評草紙 続』(音楽之友社/1965)
- 『わたしの音楽室――LP300選 1966年版』(新潮社/1966)
- 『現代の演奏』(新潮社/1967)
- 『モーツァルト』(講談社/1970 → 講談社学術文庫/1990)
- 『今日の演奏と演奏家』(音楽之友社/1970)
- 『ソロモンの歌』(河出書房新社/1970 → 河出書房新社/1976 → 朝日文庫/1986 →『ソロモンの歌 一本の木』として講談社文芸文庫/2006)
- 『一枚のレコード』(中央公論社/1972 → 中公文庫/1978)
- 『ヨーロッパの響、ヨーロッパの姿』(新潮社/1972 → 中公文庫/1988)
- 『音楽を語る――対話による音楽入門(上下巻)』(芸術現代社/1974-75)
- 『一本の木』(大西書店/1975 → 『ソロモンの歌 一本の木』として講談社文芸文庫/2006)
- 『レコードのモーツァルト』(中央公論社/1975 → 中公文庫/1980)
- 『現代音楽を考える』(新潮社/1975)
- 『世界のピアニスト』(ラジオ技術社/1976 → 新潮文庫/1983)
- 『レコードと演奏』(音楽之友社/1976)
- 『私の好きな曲』(新潮社/1977 → 新潮文庫/1985)
- 『私のなかの音楽・音楽のなかの私』(音楽之友社/1977)
- 『音楽展望(全3巻)』(講談社/1978-85)
- 『批評の小径――現代の随想』(日本書籍/1979)
- 『音楽の旅・絵の旅』(中央公論社/1979 → 中公文庫/1982)
- 『音楽の光と翳』(鎌倉書房/1980 → 中公文庫/1989)
- 『世界の指揮者』(ラジオ技術社/1980 → 新潮文庫/1982)
- 『響きと鏡』(文芸春秋/1980 → 中公文庫/1990)
- 『調和の幻想』(中央公論社/1981)
- 『LP300選』(新潮文庫/1981)
- 『モーツァルトを求めて』(白水社/1982 → 白水社/2005)
- 『レコード音楽のたのしみ』(音楽之友社/1982)
- 『私の時間』(海竜社/1982 → 中公文庫/1985)
- 『トゥールーズ=ロートレック』(中央公論社/1983)
- 『レコードの四季』(音楽之友社/1983)
- 『音楽からきこえてくるもの』(音楽之友社/1984)
- 『ベートーヴェンを求めて』(白水社/1984)
- 『このレコードがいい・25選』(新潮社/1985)
- 『もう一つの時間』(海竜社/1985)
- 『セザンヌ物語』(中央公論社/1986)
- 『音楽――批評と展望(全3巻)』(朝日文庫/1986)
- 『このディスクがいい・25選』(新潮社/1987)
- 『セザンヌは何を描いたか』(白水社/1988)
- 『音楽の時間――CD25選』(新潮社/1989)
- 『二度目のニューヨーク』(読売新聞社/1989)
- 『オペラ・ノート』(白水社/1991)
- 『新・音楽展望 1984-1990』(朝日新聞社/1991)
- 『この一枚』(新潮文庫/1992) 『このレコードがいい・25選』と『このディスクがいい・25選』をカップリングしたもの。
- 『このCD、このLD・25選』(新潮社/1992)
- 『人生を深く愉しむために――自然と芸術と人生と』(海竜社/1992)
- 『マネの肖像』(白水社/1993)
- 『新・音楽展望 1991-1993』(朝日新聞社/1994)
- 『時の流れのなかで』(読売新聞社/1994 → 中公文庫/2000)
- 『文学のとき』(白水社/1994)
- 『音楽のある場所――CD・LD30選』(新潮社/1995)
- 『この一枚 part2』(新潮文庫/1995) 『音楽の時間』と『このCD、このLD・25選』をカップリングしたもの。
- 『改めて、また満たされる喜び――新・音楽展望 1994-1996』(朝日新聞社/1998)
- 『音楽の二十世紀――CD・LD30選』(新潮社/1998)
- 『物には決ったよさはなく…』(読売新聞社/1999)
- 『くりかえし聴く、くりかえし読む――新・音楽展望 1997-1999』(朝日新聞社/2000)
- 歌崎和彦編、吉田秀和著『ブラームスの音楽と生涯』(音楽之友社/2000)
- 『今月の一枚――CD・LD36選』(新潮社/2001)
- 『千年の文化百年の文明』(海竜社/2004)
- 『たとえ世界が不条理だったとしても――新・音楽展望 2000-2004』(朝日新聞社/2005)
[編集] 共著
- 吉田秀和等『私たちの歌曲集』(筑摩書房/1951)
- 福田恒存編『芸術の教養』(河出書房/1953) 吉田は「音楽」の項目を担当。
- 芥川也寸志等『現代人のための音楽』(新潮社/1953) 「ベーラ・バルトーク」の項目を担当。
- 吉田秀和、佐々木英也、高階秀爾著『世界の名画5 マネとドガ』(中央公論社/1972)
- 井上靖、高階秀爾編・吉田秀和、大高保二郎執筆『カンヴァス世界の大画家15 ベラスケス』(中央公論社/1983)
- 吉田秀和、渡辺護著・S.Lauterwasser写真『バイロイト音楽祭――ニーベルングの指環』(音楽之友社/1984)
- 吉田秀和ほか[文]・Buhs Remmlerほか写真『ベルリン・ドイツ・オペラ』(音楽之友社/1987)
- 吉田秀和、佐々木喜久[文]・大窪道治写真『小澤征爾=水戸室内管弦楽団――奇跡のオーケストラヨーロッパを行く』(音楽之友社/1998)
- 吉田秀和、小澤征爾[述]・諸石幸生、音楽之友社構成・編『理想の室内オーケストラとは!――水戸室内管弦楽団での実験と成就』(音楽之友社/2002)
[編集] 編著
- 諸井三郎、野村良雄、吉田秀和編『音楽辞典』(河出書房/1953)
- 吉田秀和、入野義朗編『青春の歌曲集』(河出書房/1954)
- 吉田秀和、入野義朗編『世界民謡曲集』(修道社/1955)
- 吉田秀和編『若き日の音楽』(河出書房/1956)
- 吉田秀和編『音楽留学生』(音楽之友社/1957)
- 吉田秀和、高橋英郎編『モーツァルト頌』(白水社/1966;1995新装)
[編集] 訳書
- リヒァルト・ベンツ『永遠の音楽家』(創元社/1943)
- シューマン『音楽と音楽家』(創元社/1948 → 岩波文庫/1958)
- アラン『哲学入門 思想(上下巻)』(アルス/1949-51)
- ハーリッヒ・シュナイダー『現代音楽と日本の作曲家』(創元社/1950)
- モオツァルト『モオツァルトの手紙』(ダヴィッド社/1951) → 「吉田秀和編訳」として改訂増補版『モーツァルトの手紙』(講談社/1974) → 『モーツァルトの手紙』(講談社学術文庫/1991)
- アンドレ・オデール『音楽の形式』(白水社/1952;1973改訂新版)
- クロード・ロスタン『現代フランス音楽』(白水社/1953)
- アルテュール・オネゲル『わたしは作曲家である』(創元社/1953 → 音楽之友社/1970)
- ベルナール・シャンピニュル『音楽の歴史』(白水社/1953;1969改訳)
- ロラン・マニュエル『音楽のたのしみ(全4巻)』(白水社/1953-55) 各巻のタイトルは第1巻「音楽の要素」、第2巻「音楽のあゆみ第1(ベートーヴェンまで)」、第3巻「音楽のあゆみ ベートーヴェンから今日まで」、第4巻「オペラ」。第1巻から第3巻までは1966年に同社から再刊、第4巻は『オペラのたのしみ』として1979年に再刊。
- アンドレ・オデール『現代音楽――フランスを除く』(白水社/1956)
- シュトゥッケンシュミット『現代音楽の創造者たち』(新潮社/1959)
- シュトウッケンシュミット『シェーンベルク』(音楽之友社/1959)
- ロバート・クラフト、I.ストラヴィンスキー『118の質問に答える』(音楽之友社/1960)
- レナード・バーンスタイン『音楽のよろこび』(音楽之友社/1966)
- クロード・ロスタン『ドイツ音楽』(白水社/1966)
- ロマン・ロラン『ベートーヴェン――偉大な創造の時期』(みすず書房/1970) 吉田秀和等訳。
- H.シュトゥッケンシュミット『20世紀音楽』(平凡社/1971)
- アルバート・E.カーン編、パブロ・カザルス『パブロ・カザルス喜びと悲しみ』(新潮社/1973 → 朝日新聞社/1991) 郷司敬吾との共訳。
- クルト・パーレン編著『モーツァルト』(朝日出版社/1975) 荒井秀直、鈴木威との共訳。
[編集] 訳詞
- シューベルト作曲『冬の旅』(東京音楽書院)
- シューベルト作曲『美しい水車屋の乙女』(東京音楽書院)
- シューマン作曲『さすらいの民』(東京音楽書院)
- ゼーデルマン作曲『婚礼の祝い』(東京音楽書院)
- メンデルスゾーン作曲『三つの民謡』(カワイ楽譜)
他多数。
[編集] 吉田秀和論
- 丘山万里子『吉田秀和私論――なお語りたき音』(楽/1992) → 加筆版『吉田秀和――音追いびと』(アルヒーフ/2001)