生駒トンネル
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生駒トンネル(いこまトンネル)とは、大阪府東大阪市と奈良県生駒市の境にある生駒山を貫く、近畿日本鉄道けいはんな線の新石切駅~生駒駅間にある鉄道トンネル(全長4,737m)、および同社奈良線の孔舎衛坂駅~生駒駅間にあった鉄道トンネル(全長3,388m)である。
なお、本項では同社奈良線の石切駅~生駒駅間にて現在使用している新生駒トンネル(全長3,494m)についても述べる。
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[編集] 奈良線 生駒トンネル
近鉄奈良線の生駒トンネルは1914年に、近畿日本鉄道(近鉄)の前身である大阪電気軌道(大軌)により日本国内初の広軌(標準軌)の複線トンネルとして開通した。開通当時は、中央本線の笹子トンネル(4,656m)についで日本2番目の長さであった。工事は大林組が請け負い、朝鮮人の労働力も頼りに1911年に着工された。
建設は地質の変化や湧水等に悩まされ、予想外の難工事となった。1913年1月26日には落盤事故を起こし152人が生き埋めとなり、20人の犠牲者が出た。この時代には、中央政府による現日本本土外から本土への徴用は未だ実施されていなかったが、当時の建設現場の過酷さ、また多数の外国人労働者が劣悪な労働条件下で従事していたことから、現在でもしばしば非難の対象となる場合がある。
更に工事費用が見込みを上回ったため、当時の大軌社長である岩下清周は、私財を叩いて建設を続行させたという。
開通後もしばらく大軌は同トンネルの工費の支払いや利用不振から、社員の給料支払いや切符の印刷費にも事欠くほど経営が行き詰まり、取締役支配人の金森又一郎がその生駒山にある宝山寺へ賽銭を借りに行った。 また、建設した大林組のほうも、大軌による建設費の支払い遅延が原因で、一時経営危機に陥った。しかし、そのような状況にもかかわらず、大林組は手抜きをせず最高の資材を使って工事を進め、検査に来た監理局員がその質の高さに驚かされたというエピソードが残っている。
1946年4月16日にトンネル内で車両火災が発生、23人が死亡して75名が負傷するという事故が起きた。そして翌1947年に再び火災があり約40名が負傷、さらに1948年3月31日には、急行列車がトンネル内を走行中にエアーブレーキを破損。ブレーキが利かなくなった列車は、そのまま大阪平野に向かって下る線路上を加速し続け、河内花園駅で先行の普通列車に追突。49人が死亡、282名が負傷するという大惨事が発生した(→近鉄奈良線列車暴走追突事故)。これらは全て戦後の混乱によって整備が満足に行えず、車両・設備が荒廃していた事が原因の一つであり、当時は全国どこの鉄道も同じ状態であった。以上の事故のため、関西地区では心霊スポットとして知られている。旧トンネルは、新生駒トンネルや、けいはんな線生駒トンネルとの交通があり、高電圧の通る電力設備が設置されている。このためトンネル内への不法侵入は非常に危険であり、大阪側抗口は近鉄により厳重に管理されている。
その後、1964年に南側に並行して新生駒トンネルが開通したことにより、このトンネル(旧生駒トンネル)は使用されなくなり、線路も付け替えられたため、西側(大阪側)坑口にあった孔舎衛坂駅も同時に廃止、石切駅が奈良寄りに移設された。
[編集] 奈良線 新生駒トンネル
旧生駒トンネルは断面が狭小で大型車両を通すことが出来ず近鉄奈良線の輸送力増強の支障となっていたため、旧生駒トンネルの南側に並行して建設された。1962年(昭和37年)に着工され1964年(昭和39年)7月23日に供用開始された。
トンネル西坑口には当時の社長である佐伯勇揮毫による「日々新」、東坑口には「又日新」の扁額が掲げられている。
[編集] けいはんな線 生駒トンネル
1986年(昭和61年)に開業した近鉄けいはんな線(当時は東大阪線)の生駒トンネルは、1964年(昭和39年)まで使われていた奈良線旧生駒トンネルの一部(東坑口側395m)を拡幅再利用したものである。東側(生駒側)坑口はそのまま使われ、大阪側はトンネル途中から新石切駅までのトンネルが新たに掘られている。当トンネルは途中1箇所で奈良線新生駒トンネルの下を、また西坑口付近で奈良線額田~石切間の地下をくぐり、奈良線とは都合2回交差している。 なお、トンネル内からの緊急脱出路が旧生駒トンネルの大阪方坑口に近い場所に通じている。
なお、工事中の1984年(昭和59年)3月28日には、西坑口(新石切駅)側導坑切羽付近で湧水による地表陥没事故が発生した。地元への補償として、同年11月のダイヤ変更から奈良線石切駅の急行停車が行われることになった。
トンネル坑口には当時の会長である佐伯勇揮毫による「一任天機」の扁額が掲げられている。
1987年(昭和62年)9月21日にトンネル内で漏電によるケーブル火災が発生し、通過中の電車が立ち往生。1人が煙に巻かれ死亡する事故が起きている。これを受けて消火設備・連絡設備の整備や当トンネルについては救急用工作車の配備が行われている。鉄道事故も参照。