DTP
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DTP (Desktop publishing、デスクトップパブリッシング)とは、日本語で卓上出版を意味し、書籍、新聞などの編集に際して行う割り付けなどの作業をコンピュータ上で行い、プリンターで出力を行うことである。
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[編集] 概要
"Desktop publishing" の言葉は、その嚆矢となったページレイアウトソフト「PageMaker」の販売開始にあたって、Aldus社(アルダス)の社長ポール・ブレイナードが1986年に提唱した言葉である。
同様に、デスクトップ プリプレス(Desktop prepress) をDTPと言う場合もあるが、この場合は版下、フィルム、プレートなど印刷工程上の出力、もしくは印刷物を直接出力できる形にまですることである。上記のDTPと区別するためにDTPr、DTPRと呼ぶこともある。(詳細は後述)
DTPの分野では、歴史的にMacintoshが多く利用されてきたが、これは当時唯一の実用的なWYSIWYGを実現したシステムであり、ハードウェアやアプリケーションソフトウェアが先行して充実していたことが理由である。しかし、未だWYSIWYGではないWindowsの環境でもアプリケーションの対応は進み、DTPにWindowsが使用される割合も増えてきている。
UnixおよびLinuxはDTPの流れの中で主人公ではない。しかし電算写植システムにはUnix上で動いていたものも多く、また1990年代後半からはDTP業務専用のファイルサーバなどの分野で、Linuxが勃興しつつある。現状では小さな動きだが、他の分野と照らし合わせると、将来的には無視できない存在である。
[編集] 歴史
[編集] DTP以前
DTPの勃興以前にも、コンピュータ上で編集作業を行う環境にはTeXなどが存在していた。TeXは、レイアウトに関する命令を記述したタグを用いる組版ソフトとして用いられたが、当時はこれをデスクトップパブリシングとは呼ばなかった。以後のDTPとの最大の違いはWYSIWYGではないことである。WYSIWYGでない状態では作業の結果の確認を出力(あるいはプレビュー)といった形によってしかできない。TeXが編集環境として一般化するのに至らなかったのはこれが関連しているとされる。
ちなみにTeXをWYSIWYGで使うソフトにGNU TeXmacsなどがあるが日本語の扱いが完全ではないために一般化はしていない。
DTP以前の印刷までの作業工程を、デスクトッププリプレスと比較すると、デザイン、版下作成、製版がそれぞれの専門家に分業化されていた。DTPではこれらをすべてコンピュータを操作するただ1人の作業者が行うことが可能となるが、同時に作業者は上記のどの分野についても深い知識をもっていることが要求されることとなる。
[編集] 3A宣言
DTPの発祥地はアメリカ合衆国である。現在のDTPの萌芽は、アメリカの3つの企業で芽生えた。
最初の実用的なDTPアプリケーションを開発したのはAldus社であった。Aldus PageMakerというソフトウェアは、Apple Computer社のMacintoshプラットフォーム上で動作した。PageMakerは、Adobe社の開発したページ記述言語、PostScript技術を用いて、WYSIWYGを実現したほか、コンピュータとプリンタの組み合わせが変わっても出力結果を維持するという「デバイスインディペンデント」な(使用機器に依存しない)性質を実現していた。
出力結果が使用機器に依存しないのは、出力の品質と並んで、印刷物を制作するにあたっては、最も重要なことの1つである。たとえデータ自体に互換性があったとしても、出力機が異なれば出力結果が変わってしまう(「機器依存」)ようでは商業ベースの印刷業務に使用するのは難しい。活版印刷や写植では当然のこととして実現できていたこの安定性が確保されないことには、DTPの離陸はあり得なかった。
プラットフォームをつくりだしたApple、ページ記述言語を生み出したAdobe、そして実用的なアプリケーションを世に送り出したAldusによって、DTPはそのスタートを切ったと言える。この3社の頭文字を取って、これを『3A宣言』という。
なお、Aldusはその後Adobeに買収され、PageMakerはAdobe製品として販売されることとなり、現在に至っている。
[編集] WYSIWYG の実現
PostScript(PS)フォントは基本的に、プリンタにインストールするアウトラインフォントと、作業に用いるコンピュータ(編集機)にインストールする画面表示用のビットマップフォントの2種類から構成され、これが同期して働くことによって、確実かつ迅速な作業を約束している。 それに対してTrueType(TT)フォントはプリンタフォントを持たず、編集機からプリンタに各文字の形状の情報を送って印刷する仕様であったため、DTP勃興当時のコンピュータには処理が重すぎるという欠点も抱えていた。これがPSフォントをDTPの主役にした要因の一つである。
アウトラインフォントは文字の形に関する情報を持っているだけなので、そのままでは印字に用いることができず、文字の輪郭の内側を「塗りつぶした」面状態のデータに変換する必要がある。これをラスタライズというが、編集機側でラスタライズするTTフォントの場合、当然プリントアウトしている間、編集機はこの処理のために拘束されることになる。それに対してPSフォントは、ラスタライズはPSプリンタで行うため、文字の種類、サイズと位置などのレイアウト情報(実際には画像などの情報が入るため、より複雑だが)をプリンタに転送した時点で編集機は処理から開放される。ただし画面表示がビットマップフォントであることから、そのフォントにあらかじめ用意された表示サイズ以外の文字は画面上でギザギザの状態で表示されるため、これは真の意味でWYSIWYGとは言えなかった。そのため開発されたのがAdobe Type Manager(ATM)で、ATM専用版フォントを編集機側にインストールすることで、ビットマップフォントに代わってアウトライン表示を行うことができるようになった。(コンピュータの処理能力の向上や技術の進展により、その後採用されたOpenTypeフォントはプリンタフォントを持たず、ダイナミックダウンロード(字形も含めて編集機から送信する)する仕様になっている)
[編集] 日本におけるDTP化
アメリカでは瞬く間にDTP革命が進行し、活版の印刷所を駆逐していったとされるが、日本などではそのようなわけには行かなかった。それは基本的にASCIIコードだけで書籍組版ができる1バイト言語の英語と違い、日本語は多数の漢字を抱える2バイト言語(カナも2バイト)であったことが理由として挙げられる。当時のデスクトップマシンの処理能力、記憶容量では、多数の2バイトフォントを搭載して自由自在に組版する、というわけにはいかなかった上に、そもそも搭載して利用できるフォント自体が限られていたためである。手動、電算写植において、多彩なフォントの発展や、精密な組版の成果が既に定着していた日本では、そのようなシステムはときに机の上の玩具として横目で見られることもあった。
多数の漢字を抱える日本語では、フォント1書体あたりのデータ量が多いことなどもあり、DTP黎明期においてはかつての活字が事実上そうであったのと同様に、明朝体とゴシック体、それぞれ1書体しか使えなかった。また、その価格も極めて高額であったが、文字通り、机上で実際の仕上がりに近いものが確認できることからデザイナーなどの間で支持され、地歩を固めていった。2書体しか使えないというのはデザインの観点からは大きな制約であったが、それぞれのデザイナーが競い合うようにして、アイディアを凝らした作品を制作していた。
この当時の2書体とはモリサワのリュウミンと中ゴシックで、これが同社の投入した、そして日本で最初の和文PostScriptフォントであった。スタートダッシュの早さから、同社は和文フォントのトップベンダーとなっていく。
[編集] 「Mac組版」の興隆
印刷・出版業界、特に日本の業界においては、QuarkXPressが事実上の標準(デファクトスタンダード)であったことから、「マックで組む」という言葉は、「QuarkXPressで組む」という意味であることが多かった。前述の通り、最初に発売され、利用が進んでいたのはPageMakerであったが、Quark (XPress)は、早い段階でカラー対応を果たしたほか、扱いやすい操作性と軽快な動作などが受け入れられ、その価格(最も普及した日本語版3.3は約20万円)にも拘わらず、市場を席巻していった。
Macintoshによる組版は、仕上がりをその場で確認できることや、文字通り机上で、ぎりぎりまでデータ修正が可能なことなどのアドバンテージを持っていたが、上述したように当初は扱える書体が少なかった。だが活字・写植機向けに書体を開発していたベンダーや、あるいはDTP時代から書体開発を始めた新興勢力が次々と参入し、和文PostScriptフォントのラインナップを豊富なものにしていった。 そしてMacintosh対応のイメージセッターの発展や、印刷会社、あるいは製版専門の会社などにおいて対応がなされたことで足場が整い、また製作コストを下げたいという出版社の需要の中で、次第にDTPへの移行がなされていった。
[編集] カラーマネージメント
前述したWYSIWYGとも関連するが、カラー対応とその後の進化においてDTPを普及させた、そして現在その特徴のようにも捉えられているもののひとつに、カラーマネージメント(色の管理)がある。モニタ画面の出力の色彩と、プリンタ出力の色彩、そして最終的な印刷物の色彩に整合性を持たせることは、極めて困難なことであった。
第一には、それらの出力機器の原理が異なっているためであり、そのためDTPに係わる者は心を砕くこととなった。作業するための画面(CRT、LCD)表示はRGBカラーであるし、校正のためのプリンタは(レーザーの場合)CMYKカラーのトナー(粉末)、最終的な完成品となる印刷機はCMYK(さらに特色を使用することも少なくない)のインクである状況では、それぞれの色彩を合わせるのは困難を極める。
また、同じ原理で動作している装置であっても、メーカーごと、あるいは個体差、経年変化、湿度や温度(気温、機械内の温度)によって出力結果は異なる。先進的と言われる現場では、カラープロファイルを使って色の管理を図り、非PSのカラープリンタでも色校正ができるようなワークフローを確立しつつある。
カラーマネージメントというのは、なまじ画面やプリンタでカラー出力ができるようになったため発生してきた問題とも言える。これを解消するために用いられているのが、ウィリアム・シュライバーの開発した色管理システムである。1985年に成立したシュライバー特許により、その後のカラープロファイル技術は支えられている。 また、MacにおいてはAppleのColorSyncにより、優れたカラーマネージメントが行える。
[編集] 日本のDTPにおけるOCFフォント
和文PostScriptフォントは、当初OCFと呼ばれる形式のものが販売され、普及していった。OCFは、少ない文字数しか扱えないフォーマットのフォントをいくつも積み重ねて多数の文字を扱えるようにした規格であるため、その後データ構造を簡略化したCIDフォントが登場し、フォントベンダーはこちらへの置き換えを推奨したが、現場では現在にいたるまでOCFフォントが根強く使用されており、互換性の問題を引き起こしている。逆にOCF-CID間の問題をうまく解決できることが組版・印刷のスキルがあることだ、というような風潮も一部で見られる。
リプレース(置き換え)が進まない背景には、CIDへの交換にかかるコストの問題があった。編集機にインストールするATMフォントだけならばさほどのことではなかったと思われるが、校正用プリンタ、さらには製版フィルムを出力するためのイメージセッター用のフォントは解像度が高い分価格も桁違いであり(フォントデータそのものは解像度や使用目的を問わず同一であり、単にベンダーが価格を変えて販売しているのみである)、不景気の中で印刷会社の足を引っ張った。また、和文フォントのトップベンダーであるモリサワが、当初リリースしたCIDフォントは、アウトライン情報が取得できない仕様であったこと(Illustratorなどで図形化できないため、出力機側にも必ずフォントが必要になる)、OCFと同じフォント名がつけられていたこと(一つのマシン上で混在ができない)などがユーザーの反感を呼び、それらを改善したNew-CIDフォントを改めて発表することになるなどの経緯も、混乱に拍車をかけた。
その上で現在、Mac OS XやOpenTypeへの移行という流れが起きており、現場からは期待と戸惑い、両方の声が上がっている。
[編集] 薔薇色ではないDTP化
1990年代、いわゆる失われた10年の中での、日本におけるDTPの普及の背景には、国内の出版状況が一つの要因として考えられる。1冊あたりの実売部数が減少していく状況の中で、出版社は利益を確保するために出版点数を増加させていった。これは出版飽和と呼ばれる状況を生み出し、さらに悪循環を招いているともされるが、実際に効果のある処方を目の前にして(全体の傾向として)営利企業がその道を選ばないわけには行かなかった。
コストを下げつつ出版点数を増やすためには、何らかの新しい方法の導入が必須であった。時を同じくして訪れたDTP技術の発展も一つの要因となって、出版業界のDTP化が進んだと言われる。複雑なレイアウトをする必要のない書籍などの場合、出版社の編集者が自分で修正や、あるいは組み付け自体を行うことができることも経営者にその道を選ばせる理由となった。
ただしそこには負の面がつきまとう。印刷会社あるいは専門の組版会社が受け取る1ページあたりの組版単価は(写植、活版の時代から比較すると特に)下落の一歩をたどり、利益を維持するために時には過剰な負荷を伴う業務を受注することにより、DTPオペレーターや編集者が連日深夜まで(あるいは徹夜で)作業をする、というような状況も生まれており、心身両面で健康を害することもある。このため作業者の定着率が悪く、慢性的な人手不足に陥っているという意見もある。
組版の品質についても、様々なことが言われている。DTPの主流となっているQuark XPressやAdobe PageMakerは英語圏のレイアウトソフトであるため、縦組みやルビ、禁則処理など、日本語特有の組版に対する対応が十分ではなかったため、職人の手になる、活版・手動写植・電算写植における組版品質の実現が難しく、組版にこだわりのある編集者や著作家にとっては得心のいくものではなかった。
そのような中で日本のメーカーが、日本語を念頭において設計したDTPシステム、ソフトウェアを投入し、一定の支持を得たが、QuarkXPressの牙城を崩すには至らなかった。
[編集] WindowsDTPの台頭
DTPにおいては、世界のオペレーティングシステム市場の9割を占めるWindowsではなく、Macintoshが圧倒的シェアを占めている。その要因としては、多くのDTPソフトがまずMacintosh向けに作られたことなど、DTPに使うための環境が整っていたことが挙げられる。
WindowsのDTPではTrueTypeフォントが使われることが多いが、スプライン曲線を使うTrueTypeは、ベジェ曲線を使うPostScriptフォントに比べ多彩な曲線の表現において見劣りがした点や、無数のTrueTypeフォントが乱立しデファクトスタンダードとなるフォントベンダーが出現しなかった点(これにより、データの標準化が困難となる)、ほかにも様々な要素がある。
しかし顧客の要望がMicrosoft Wordで作成したビジネス文書を印刷する、というものであるとすれば、印刷会社が「それはDTPではないので、うちではできない」と言うことはできない。印刷会社がWindows対応をしていく中、Windows向けDTPソフトも次第に充実していった。ただし、同じアプリケーションでも完全な互換性が確保できず、Windows版で作ったデータをMacintosh版で開くと文字がずれているなどの現象が時におきていた。それには(特に日本では)なによりもフォントの問題が係わっていた。WindowsとMacintoshでは採用している文字セットが異なるため、特に英数字や外字において完全な互換性を維持できなかったのである。また、横組みでは問題なくとも縦組みの箇所のみ画面表示に問題がある、などの例もあった。
和文フォントのトップベンダーとなっていたモリサワからはViewフォントと呼ばれる、Windows上で組版をする際に同社のPostScriptフォントを指定できるフォントが販売されて一定の支持を受けていたが、英数字などの互換性がないという問題があった。
しかし昨今においては、OpenTypeフォントと、それに対応したレイアウトソフトの登場によって新しい状況が生まれつつある。その急先鋒はAdobe社のInDesignである。いち早くOpenTypeに完全対応したこのアプリケーションは、同じバージョンで同じOpenTypeを使っている限り、Windows版とMacintosh版で完全な互換性があり、OpenTypeの各機能を扱えることや、同社のAdobe IllustratorやAdobe Photoshopなどとの操作感やファイルの共通性を武器に市場占有率を拡大していった。
新たにDTP部門を立ち上げるなど新規の設備投資においては、Windows版が伸びている。現に、地方自治体による市政だよりなどの内製化においては、WindowsとMacintosh間における文字セットの差異の問題、異なるOSを並行稼動させるコスト・スキルの問題などのためにWindows版が主に導入されている。
現在MacintoshDTPとの比較において、唯一の欠点がカラーマネージメントの歴史が浅くカラーマネージメント対応製品も多くない、そもそもデバイスの種類が多すぎてプロファイル管理が難しいなどの問題である。そのため品質が求められる高級印刷物などでWindowsが用いられることはない。ただし、これもIndesignやPhotoshop、Illustratorに搭載されているAdobe Color Engine(ACE)を利用したワークフローを構築すれば解決する問題であり、またCMYKの数値が印刷物でどのように表現されるかを、「勘」「感覚」によって作業するオペレータも少なくないため、カラーマネージメントそのものを重視しない(利用しない)ケースも散見される。
[編集] 進みはじめたMac OS Xへの移行
Apple社は従来のMac OS 9から、Mac OS Xへの移行を進め、イベントにおいてMac OS 9の埋葬という演出までしてユーザーに新OSへの移行を奨めていたが、(アメリカにおいても)印刷・出版業界においてはなかなかそれは進まなかった。その最大の理由はQuarkXPressがMac OS Xに対応していなかったことと言われていた。現在ではQuarkXpress 6.5が対応しているが、Mac OS Xに移行するということは高機能で自由度が高いInDesignへの移行と同義になりつつあり、OpenType ProフォントやPDF導入によるコスト削減とともに移行が進みはじめている。
[編集] オープンソース DTP
サーバーの世界ではLinuxに代表されるオープンソースのソフトウェアが伸長し、デスクトップPCにも次第に進出しつつある。Apple自身がMac OS Xにもオープンソースを取り入れるなどしている中、DTPにおいて、これはさほど目立った動きではない。しかし、まずは大規模に組版を行っている会社(印刷会社など)向けに、協調作業用のファイルサーバーとしてLinuxサーバーが導入されつつある。
レイアウトソフトとしては、アスキーが自社向けに開発し、後に無償公開したEditor's Work Bench(EWB)が挙げられる。これはFreeBSDやLinuxなどUNIX系OS上で動作する、TeXをベースにした組版システムで、編集者(Editor)の作業による高速組版を念頭に置いている。バッチ処理を得意とするため、定型パターンの繰り返しとなる書籍やマニュアル類などに威力を発揮する(一方で、WYSIWYGな操作性が要求されるような、不定形の誌面構成の書籍には向かない)。現在のところ、強力なアプリケーション、たとえばAdobe Illustratorに相当するようなベクトルグラフィックツールなどが無いことから、オープンソースのみで固めたDTPシステムの構築は難しいと言える。そうした状況のため目立った動きは無いが、他の分野での実績から考えると無視できない存在であろう(Publishing TeXを参照)。
[編集] 自動組版
QuarkXPressやInDesignなどのDTPソフトが、一ページのレイアウト・デザインに重きを置き、一ページの制作費用を比較的高く設定できる環境での使用から、ページ物印刷での組版作業という環境で使用され始めると、生産性というWYSIWYG方式でのDTPの基本的な要素と矛盾する要求を満足させる必要性が出てきた。
また、印刷する内容(ソースデータ)も、紙での原稿入稿から、テキストデータファイルやスプレッドシートファイルのような電子媒体での入稿にシフトし、多種類のデータフォーマットの取り込みを行わなければならなくなった。このような、電子媒体でのデータが一般的になると、インターネットやCD-ROMなど多種類の表示方法の普及にともない、紙への印刷という範疇を超えて、データの互換性・再利用性の問題から、TeXのように組版を意識したマークアップデータ構造のデータから、SGMLやXMLのような意味性に重きを置いたマークアップデータ構造によるデータ入稿が、印刷クライアントからの要求として印刷会社に求められるようになった。
このような背景から、大量の電子媒体データから、人手を省力化でき、生産性を高めることの出来る自動組版処理の機能をDTPソフトに付加することが課題となって登場した。
QuarkXPressやInDesignなどは、Xtention,Plug-In等という形で、DTPソフトの機能拡張を可能としているほか、AppleScriptやVBScriptなどでDTPソフトが内蔵する機能を外部から利用する手段も公開し、第三書の各種の利用に供している。
これらのDTPソフトの公開機能を使用して、様々な「自動組版処理」のアプリケーションが開発され販売されている。
自動組版の方法としては、
- レイアウト指定のないデータに、如何にして、レイアウトを付加するのか。
- 付加されるレイアウトが定形レイアウトなのか、非定形レイアウトなのか。
- 文字の大きさや色などを部分的に変えたりする場合の方法は。
といった、レイアウト、文字属性設定への対処方法と、
の2種類の入稿データへの対処方法ということの考え方の違いにより、アプリケーションベンダー各社で異なった実現方法となっている。
このようなデータベースやXMLのデータが、データベースやXMLデータとして蓄積保存される価値があるデータとして成立するのに対して、そこまでは利用しないが、データ量としては大きい、あるいは、一時入力では、データベース化するまでの資力がないといったような様々な要因から、データベースやXMLにならないデータに対する自動組版ということも、一方では潜在化した需要として存在する。 この用途に対して、従来の専用組版システム(電算写植)で用いられた「バッチ・コマンド組版」を、DTPソフト上で実現しようとする考え方があり、開発あるいは販売されている。
コマンド組版をDTPで実現しようとする場合、従来の専用組版システムのコマンドそのものの動きをDTPソフトで実現しようとする考え方(移植)をとり開発を行ったベンダーがあったが、結局、この方法は旨く行かなかったようである。DTPソフトと専用組版ソフトでは制御方法の考え方が基本的に異なるので無理であったと推測される。 もうひとつのコマンド組版の実現方法として、DTPソフトが持っている機能をコマンド化するということが考えられる。細かな組版機能は専用組版ソフトを移植するような上記の形での実現方法に比べれば、劣るが、そもそもが基本DTPソフトの機能の枠内での実現となるので、実用使用では問題はないと思える。
DTPソフトを自動組版のエンジンとして使用することにより、従来の方式でのDTPでの制作と自動処理での制作のワークフローがシンプルとなるばかりか、オペレータに対する作業負荷が軽減されるという効果も期待できる。
[編集] DTPの定義と再定義
広辞苑第五版ではDTPを、パソコンやワークステーション、高品位プリンタなどを用いて「原稿作成・編集・印刷のすべてを行い、従来の活字印刷物に近い水準のものを作成すること」と定義しているが、DTPの進化発展を見ると既にそれでは不十分と言えよう。また、原稿が手書きであったり、印刷まで包括できなくても、DTPという言葉は使われ、おもに組版工程を中心とした概念としての共通理解が(日本では)存在するようである。
「DTP」は「Desktop Publishing」の略であるが、「出版(Publishing)とは印刷(Press)、断裁・製本・宣伝・流通など(=Postpress工程)まで包括したトータルな活動を意味するのに、DTPでは製版前まで(=Prepress工程)しかできないのだから言葉のねじれがある」という意見があり、近年のAppleではDTPではなく「D&P(Design And Publishing)」を使っている。 ただし、言うまでもないことだが、「DTP」という両義的・あるいは多義的な略語の意味を1つに集約したり、再定義することはあまり生産的ではない。大切なことは、「DTP」というコトバをはさんでコミュニケーションを行なう場合に、「publishing」なのか「prepress」なのか、あるいはまったく別のイメージで話しているのかを見極めるリテラシーを持つことである。多義的にならざるを得ない略語に振り回されることなく、企画・編集・執筆・素材作成・レイアウトデザイン・出力・印刷・加工といった、印刷媒体の制作に関する全工程を俯瞰でき、自分の立ち位置を把握できていれば、それでよいのである。
なお、DTP検定では、このような略語の意味づけにとらわれることなく、職種別にDTP業務で必要となるスキルの判定を行なっている。あえて略語に即して意味づければ、「Desktop Publishing」的な工程に強く関係しているエディトリアルデザイナー(I種対象者)や編集者・ディレクター(II種対象者)にも、「Desktop Prepress」といわれる出力・印刷・加工作業への理解と責任があることを啓蒙している。その点から両義的にDTPを使っている、と規定できるかもしれない。
もっとも、今後オンライン出版やオンデマンド出版などが伸長してくると、本当の意味で卓上出版が可能となり、DTPという語のねじれは解消されていくものと考えられる。
このねじれに関して言えば、CIP4という考え方もある。プリプレスで作成されたデータを元に、印刷の際に必要な色情報、断裁位置、折り加工位置などの情報を持った1つのフォーマットデータを生成。そのデータを用い、さらに業務用基幹システムとの連携によって在庫管理、原価管理なども視野に入れた、各行程(Prepress、Press、Postpress)の統一を図れるようになる。
[編集] 代表的なDTPソフト、システム
- Quark XPress
- InDesign
- PageMaker
- FrameMaker
- Illustrator
- EDICOLOR
- Edian
- UrbanPress
- RYOBI EP-X
- Editor's Work Bench(EWB)
- AVANAS BookStudio
- Diov-cx
- Microsoft Publisher
- EZPS
- AXIS
- HITCAP
- 大地 (DTPシステム)
- Scribus
- パーソナル編集長
[編集] DTP自動組版ソフト
[編集] 関連記事
- CTS
- 写研
- PostScript
- プリプレス
- ポストプレス
- 書体
- フォント