J-10 (戦闘機)
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J-10(Jianji-10、殲撃十型、せんげきじゅうがた)は、中国人民解放軍の戦闘機である。中国の航空機メーカー、成都飛機工業公司によって設計され、現在も生産が行われている。
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[編集] 開発の経緯
人民解放軍では、長らくMiG-21の流れを汲むJ-7を運用してきたが、1980年代に入ると、ソビエト連邦はSu-27やMiG-29を実用化し、中華民国はF-CK-1の開発を進め、日本の航空自衛隊はF-15を200機にまで増強を始めるなど、中国周辺の国家では第4世代戦闘機の配備や戦力増強が進んだ。自国にも新戦闘機J-8IやJ-8IIがあるとは言え、J-8Iは基本的にJ-7の双発拡大型であり、またJ-8IIも外見上はMiG-23を可変翼からデルタ翼に変えたような物でアビオニクスが低性能でもあった。ただでさえ数頼みで質的に優れているとはいえない中国の空軍戦力は、さらに陳腐化しつつあった。 中国はそれらに対抗できる国産戦闘機を入手するため、1986年からカナード付き無尾翼デルタを持ち、安定性を劣化させて敏捷性を高めた戦闘機を開発する事を目指したのである。しかしこのような機体を開発するには、中国が苦手としていたフライ・バイ・ワイヤ操縦装置や運動性向上技術(CCV)概念といった最新の技術が必要だった。そのため中国はイスラエル航空機工業(IAI)から、アメリカの圧力によって1987年に開発が中止された新世代戦闘機ラビの技術者を呼び寄せ、J-10の開発に参加させたと言われている。一応は対外的な配慮により、中国・イスラエル同国はラビ開発スタッフを農業技術者という名義でイスラエルより招聘し、戦闘機開発の事実は否定している。だが同スタッフが何らかの形で開発に携わっている事は確実視されている。
これで順調に開発が進むと思われていたが、1989年に起こった天安門事件が開発を阻んだ。J-10はエンジンとアビオニクスを西側から輸入する予定だったが、アメリカをはじめとする西側諸国は天安門事件を契機に対中政策を見直し、武器輸出を規制したのだ。これにより中国は戦闘機の心臓と頭脳とも言うべき部分を失ってしまった。しかし道筋は思いがけない方向から開けた。元々旧ソ連の新鋭戦闘機に対抗するために開発が始まったJ-10にとっては皮肉な事だが、関係が改善されたロシアがAL-31Fターボファン・エンジンとアビオニクスの提供に合意したのだ。
1996年に原型1号機が初飛行したと伝えられているが、この1号機は試験中に墜落し失われてしまった。この墜落事故の教訓を基にシステムの再設計を行い完成した原型2号機(3号機?)は1998年3月23日に初飛行した。2000年末現在、最低4機の原型機が完成し各種飛行試験に従事しているようだ。 中国人民軍は2005年から当機の調達を開始したいと考えていたようで、当機が導入されることで中国は世界最高水準の多目的軽戦闘機を手にすることできると考えられた。
2007年1月5日に、中国の航空兵器メーカーである中国航空工業第一集団は「J-10の自主開発に成功した」と正式発表した。2006年末に中国人民解放軍の機関紙「解放軍報」が写真を載せていたが、2007年1月5日の発表が正式発表となる。中国航空工業第一集団の中国内メディア向けの記者会見を開き、J-10以外にも新型空対空ミサイルや戦闘機用エンジン太行を開発したと発表した。また、記者会見の会場ではJ-10の模型も公開された。
[編集] 特徴
中国はJ-10についての情報をほとんど公開せず、技術的な細部は明らかになっていないが、その外形はF-16をもとに開発されていたイスラエルの戦闘機ラビに良く似ている。もっとも、装備するエンジンの違いもあり、寸法はJ-10の方がラビより一回り大きい。
単一の大きな垂直尾翼を持ち、デルタ翼の主翼に近接してやや面積の大きなカナードを置く翼の配置は、ヨーロッパの第4世代戦闘機であるタイフーンやラファール、グリペンの配置に近い。低い抗力・十分な強度を持つ構造・大きな機体内容積を実現するために翼胴の接合部を滑らかに整形する(これはブレンデッドウイングボディと言われる)、エア・インテークを機首下面に設けて大迎え角でも安定した空気流入を確保する、機体後端の左右に主翼から延長する形で棚のような張り出しを置いてベントラルフィンを配置する、垂直尾翼根元を厚く太くして十分な構造強度を確保するとともに電子機器の配置場所とする、水滴型の全周視界の良いキャノピーを装備するなどといった点はラビやその元となったF-16と共通する特徴である。しかし、このエア・インテークは角ばっていてリップも張り出しており(F-4のインテークを1つ、機首下面に付けたような感じである)、これが外見どおりに可変インテークであるのならばラビやF-16よりも高速性能の発揮に重きを置いていることになる。
欧米の軍事メディアは、作戦行動半径は1100kmに達すると推測しており、総合的な能力はF-16A/BもしくはC/Dに匹敵するとの見方もあるが詳細は不明である。
[編集] エンジン
第1期量産分50機はロシアのAL-31Fターボファン・エンジンを積んでいると思われる。第2期量産分からはAL-31Fをコピーした渦噴10Aに換装されるだろう。また中国は2005年7月に二次元推力偏向型エンジンのAL-31FNをロシアに発注しており、第1期分の100基は既に納入されている。これはJ-10用だといわれ、このエンジンを装備したJ-10は機動力が大幅にアップすると言われている。
[編集] アビオニクス
レーダーは南京の第14電子技術研究所で開発されたKLJ-3パルスドップラー・レーダーの搭載を計画していた。このレーダーは最大探知距離130km、2目標を同時追跡することができるといわれている。ロシアは自国製のファズトロン・ジューク10PDを提案しており、このレーダーは160kmの探知距離を有し10~15目標を同時探知、そのうち4~6目標を同時追跡するTWS機能を持っている。またイスラエルはElta EL/M-2035レーダーを提案しているという。中国は最終的にロシア製のファズトロンRP-35を3機分導入しロシアの援助を受けて組み立てたが、追加発注は行わなかったという。中国はこのレーダーを解析したが、重要チップのコピーを行う事ができなかったようだ。J-10はLANTIRNのような前方赤外線・レーザー目標指示ポッド(イスラエルの技術援助で開発)も搭載可能とされているので、夜間や悪天候下でも攻撃ミッションを行うことが出来る。
[編集] 搭載兵装
胴体に23mm機関砲を搭載するほか、両翼下に3ヶ所ずつ、胴体中心線下に1ヶ所、胴体前後左右に4ヶ所の計11ヶ所のハードポイントを持ち、空対空/空対地の各種兵装を搭載できる。
[編集] 配備
2004年1月に中国人民解放軍空軍第44師団によって15機が初めて配備された現在65機以上が成都軍区や南京軍区に配備されているという説がある(『航空ファン』2007/4より)。
今のところ、J-10の輸出は中国軍需産業の最大顧客であるパキスタンにのみ持ちかけられている。2006年2月下旬に中国のJ-10製造工場を視察し、J-10の詳細について説明を受けたパキスタンのムシャラフ大統領は、報道陣に対して「パキスタンは中国のJ-10を購入することを検討する」と延べた。4月12日には、FC-10として少なくとも36機のJ-10を購入することで合意した。
[編集] J-10の映像
[編集] 派生型
- J-10:基本の単座型。
- J-10B:複座タイプ。訓練や爆撃用途に使われると思われる。
2006年1月9日付けのジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー(Jane's Defence Weekly)によれば、J-10を改良したSuper-10が計画されており、これはより強力なエンジン、フレームや三次元推力偏向装置、パッシヴ式フェーズドアレイレーダーを搭載したものだという。また、空母艦載型 やステルス性を強化した発展型などが構想されているとされる。
[編集] 要目
[編集] 仕様
- 乗員:1名
- 全長:12.57 m
- 全幅:8.78 m
- 全高:4.80 m
- 翼面積:33.00 m
- 空虚重量:9,750 kg(6,940kg説あり)
- ペイロード:4,500 kg
- 最大離陸重量:18,400 kg
- エンジン:リューリカ・サトゥールン製AL-31F A/B ターボファンエンジン(第三期量産分以降は二次元推力偏向型のAL-31FN)×1
- 推力:79.43 kN / 122.58 kN (ドライ / アフターバーナー)
[編集] 性能
- 最大速度:マッハ 2
- 許容G:+9g / -3g
- 戦闘行動半径:550 km
- 最大航続距離:1,850 km
- 実用上昇限度:18,000 m