MZ (コンピュータ)
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MZ(えむぜっと)は1970年代から1980年代にかけてSHARPが販売していたパソコンのシリーズ名。
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[編集] 概要
MZシリーズの始まりは、マイコン博士MZ-40Kという4ビットマイコンのトレーニングキットからで、MZの由来は通常信じられているMicrocomputer Z80の頭文字を取ったわけではない。ただし、すべての8ビット機のCPUにはZ80シリーズを使用している。
シンボルマークとしてアルゴ号(ギリシャ神話より)が描かれていた。当初は、MZ-80Kを半完成キットとして発売を始めた。80K/K2/K2Eのキーボードは角型のスイッチを碁盤の目状に配列したものであったが、MZ-80C(完成品として発売)は通常のキーボードとなった。あまり知られていないが、MZ-80Tというワンボードトレーニングマイコンも用意されていた。
発売当初から、MZ-2200発売より前は、本体・ディスプレイ・キーボード・データレコーダを一体としたオールインワンの筐体を採用していた。また、それに加え、1980年代頃から主流となったPC/AT等のPCと同様に、BIOS以外の、BASICなどの言語や、OSをROMとして持たせない設計(クリーンコンピュータ)に特徴があった。そのため、ハドソンソフトをはじめとしてシャープ以外のさまざまなソフトハウスから言語、オペレーティングシステム等が発売された。フロッピーディスクドライブの価格は高かった当時、一体化されているデータレコーダの信頼性は高いものであった上に他社より高速であった。そのためか、逆に他社の競合製品に比較し、フロッピーディスクの標準搭載への対応が遅かった。MZ-80B系はデータレコーダの性能がよかった(電磁制御、2000ボー)ことが挙げられるが、ピンチローラーの原材料のためか、年月の経過によってテープ送りのピンチローラーが溶けて、カセットテープからのデータの読み込みができなくなる現象がある。
附属マニュアルには、関西弁を話すキャラクタが使われ、個性的な解説がなされている。
[編集] 製品系列
系列としてはMZ-80K系(キャラクタ画面の他に80×50ドットのグラフィック画面を持つ)の系列とMZ-80B系(320×200のモノクログラフィックラムを別スプライトで持つ)、MZ-3500系(同社内の他系列PC、PC-3100S,PC-3200の後継機の型番をMZとした)、MZ-5500系(MZ-3500系を16bit化)などがある。
また、1982年からは、系列会社シャープビジネスから、まったく別系統の製品として、型番がCZの新シリーズが通称「パソコンテレビX1」としてリリースされた。テレビ画面とのスーパーインポーズ機能が特徴的なこの系列は好評で、MZシリーズからも対抗するようにグラフィックやサウンド機能を強化したMZ-1500/2500を発売したものの、こちらは成功したとはいえなかった。このXシリーズは後に1986年に発表されたX68000シリーズに引き継がれた。
なお、MZの名称は同社のMebiusとZaurusの頭文字に、分割して引き継がれているという。
[編集] MZ-80Kグループ
MZ-40を祖とするマイコンキットから派生したグループ。
- MZ-80K系列
- MZ-80K - 1978年発売。オールインワン筐体・キーボード未組立のセミキット。
- MZ-80K2 - 80Kの完成品販売版。標準価格198,000円。
- MZ-80C - 48KBメモリ搭載・フルキーボード。モニターのグリーン化。部品も80Kに比べて高価なものがつけられていた。標準価格268,000円。
- MZ-80K2E - 80K2の廉価版。CPUにICソケットを使用せず、直接基板に半田付けされているなど、コストダウンが随所に見られる。標準価格148,000円。
- MZ-1200 - 海外向モデルMZ-80Aの国内版・完全一体型筐体。キーボードの改良他。標準価格148,000円。
- 割当メモリアドレス(出荷時)
- 0000~0FFF MONITOR ROM
- 1000~CFFF RAM
- D000~D3FF VRAM
- E000~ メモリマップドI/O
- F000~ 拡張メモリ主にFDC制御のROMに
- MZ-700系列(MZ-80K系列のカラー版)
[編集] MZ-80Bグループ
MZ-80Kグループより派生。当初、ビジネス向けとされた。
- MZ-80B系列
- MZ-80B - 1981年発売。CPUはZ80A。64KBオールRAM構成。オールインワン筐体・320*200ドットグラフィック可(ソフトウェアバンクで切り替えるG-RAM1,2は別売り)データレコーダ部を電磁的に完全ソフトウェアコントロール可能(高機能データレコーダ)。オプションで外付けカラーモニター対応可。付属BASICはSB-5520。標準価格278,000円。
- MZ-80B2 - 80BにG-RAMを搭載したもの。MZ-2000の発表後に発売。(2000としばらく併売)
- MZ-2000 - 1982年発売。640*200/320*200(メインメモリ64Kのうち16Kをソフトウェアバンクで切り替える。G-RAM1,2,3は別売り)ドットグリーン(モノクロ)ディスプレイ、高機能データレコーダ内蔵。オプションでカラーモニター対応可。付属BASICはMZ-1Z001で、MZ-80BとはBASICレベルでの互換性にとどまっていた。標準価格218,000円。
- MZ-2200 - 1983年発売。MZ-2000の一体型筐体(本体+ディスプレイ+データレコーダ)を廃止し、ディスプレイ(モニター)や外部記憶装置(データレコーダやフロッピーディスクドライブなど)が選択可能となった。
- MZ-2500系列 - (SuperMZ) 1985年発売。 Z80B(6MHz)搭載。標準でRAM 128KB。256KBまで拡張可。高機能データレコーダと3.5インチ2DDフロッピーディスクドライブを両搭載し、FM音源+SSG音源(YM2203)、スムーススクロール機能つき独立2画面合成、アナログパレット同時16色または256色、PCG、漢字VRAMなど。オプションで4096色モードや文節変換も可能に。MZ-80B互換/MZ-2000互換/MZ-2500モードをスイッチで切り替える。MB-S1やFM77AVと並び「最強の8bit機」と呼ばれた。一部では不死鳥とも呼ばれた。
- MZ-2511(FDD1ドライブタイプ)
- MZ-2520 - MZ-80B,MZ-2000モード無し、内蔵データレコーダ無しの廉価版。
- MZ-2521(FDD2ドライブタイプ)
- MZ-2531(MZ-2500V2) 1986年発売。
- MZ-2800系列 - 1987年発売。MZ-2500互換モードをもつ8bit(Z80) & 16bit(80286)CPU両搭載のハイブリッドマシン。16bitモードはMS-DOSのほか、付属のソフトウエアでPC-9801エミュレーションが可能。高機能データレコーダは対応しない。
- MZ-2861 (MZ書院)
[編集] MZ-3500/5500/6500グループ
ビジネス向けのPCシリーズ、PC-3000シリーズのの新型機の型番をMZに移行したもの。5.25インチフロッピーディスクドライブを搭載。
- MZ-3500 - 1982年発売。Z-80A×2基搭載、日本語表示。ビジネス向けPC-3000シリーズの上位機。
- MZ-5500系列 - 1983年発売。16ビットの8086CPUを搭載、CP/M採用。BOOT-ROM付MS-DOSが発売された。
- MZ-6500系列 - 1984年発売。MZ-5500を改良して高速化。CAD向けとして販売。
- MZ-6500
- MZ-6550 - 80286CPU、3.5インチフロッピーディスクドライブを搭載、縦型筐体。
[編集] その他
- MZ-8000系列 - (AX286/AX386) 型番はMZだが、PC/AT互換機(AX)仕様に移行。MZシリーズに含めるかは賛否両論ある。
- プリンタインターフェースはMZ-80K系、MZ-80B系列それぞれ異なる独自仕様だった。MZ-2000以降は一般的なセントロニクス準拠インターフェースに変わっている。
- MZ-80Kシリーズの標準BASICであるSP-5000系の文法は、コモドール社のPET2001に搭載されていたものと酷似している。ちなみに、PET2001はCPUにモトローラ社6502を採用しているため、マシン語レベルでの互換性はない。この文法は後の80BシリーズのSB-5500系にも受け継がれた。
- またハードウエアもCPUが異なるが周辺のチップの配置や回路構成もPETと似ている。
[編集] 搭載言語
クリーンコンピュータを標榜した本シリーズは80Kシリーズではモニタのみが、80Bシリーズ以降はIPL以外全てソフトウェアを読み込んで動作するため、他社のPCの様に当初から搭載されている言語だけでなくそのほかの高級言語も搭載できるようになっていた。
[編集] 自社供給
[編集] MZ-80K系(SP系)
- BASIC SP-5001
- MZ-80K 初代のBASIC
- BASIC SP-5002
- BASIC SP-5010
- SP-500x 系の処理速度を高速化した初代のBASIC
- BASIC SP-5020
- BASIC SP-5030
- MZ-80K/K2/C/K2E 系での最終版BASIC
- DISK BASIC SP-6010 ディスク版BASICで倍精度演算を搭載していた
- インタプリタ Pascal SP-4010
- コンパイラを通さないインクリメントコンパイルにより即時記述・即時実行が可能だった。
[編集] MZ-80B/2000系
- BASIC SB-5520/MZ-1Z001
- DISK BASIC SB-6520/MZ-2Z001
- 倍精度BASIC
- Pascal Interpreter SB-4510/
- Floppy Disk Operating System(FDOS) SB-7010/
BASICについては、テープのほか、フロッピーディスク対応版も販売された。 さらに、カラーグラフィック制御可能なBASIC、アセンブラ言語、マシンランゲージモニタ(現在でいうバイナリエディタ)も別売されていた。このうち、アセンブラ言語については、リロケータブルバイナリ出力のマクロアセンブラ(リンカ・シンボリックデバッガ・P-ROMフォーマッタ含む)であり、テープメディアゆえ使い勝手に難ありといえども極めて強力な開発ツールであった。Floppy Disk Operating System(FDOS)には前記アセンブラのほかBASICコンパイラも同梱されており、Z80のセルフ開発環境としてはコストパフォーマンスを考慮すると当時のCP/M-80をも凌駕するものであった。
シャープ純正の言語は前記のとおりバリエーションが直交している場合が多かったため、プログラマーはさまざまな言語を選択できたかわりに、アプリケーション使用者はその言語を購入する必要がある場合もあった。
MZ-80B/2000においては、全回路図やモニタプログラムの全アセンブラソースがマニュアルで公開された。また、CPUZ80の内部動作説明を含めたプログラミング解説にもマニュアルのページが割かれており、技術者向けの仕様がそろっていたともいえる。ただ、当時としてはフリーソフトの文化がまだ育っておらず、価格も高く、これらシャープ純正の言語や開発ツールを使いこなしていた人は多くはなかった。シャープ社内開発担当者ではこれらの開発ツールが縦横無尽に有効活用されていたことが、前記モニタプログラムのソースコードから読み取れる。
[編集] サードパーティによる供給
[編集] ハドソン
- Hu-BASIC(マイクロソフトBASICに似た高機能BASICインタープリター)
- Hu-BASICコンパイラ(マイクロソフトBASICに似た高機能BASICコンパイラー)
- 数多くのバグを含んでいた。
- MZ-80K系列のみの販売
- Hu-G-BASIC(Hu-BASICのグラフィック機能実装版)
- GAL (GAME言語コンパイラ)
- ハドソン風に拡張したGAME言語だが、バグやアスキーからのクレームにより回収処理された。
- MZ-80K系列のみの販売
- Tiny Pascal PALL (Pascal言語コンパイラ)
- ハドソン風に拡張したTiny Pascal言語。MZ-80K用ゲーム開発言語として重宝された。
- MZ-80K系列のみの販売
[編集] キャリーラボ
- BASE(BASIC記述風アセンブラ)
- WICSインタプリタはBASEで記述されていた。
- WICS(整数型高速BASICコンパイラ/インタプリタ)
- 工学社刊のI/OにBASEで記述されたインタプリタのソースとWICS自身で記述されたコンパイラのソースが公開されていた。
[編集] アスキー(ACP)
- GAME-MZ(GAME言語コンパイラ)
- TOS-80B(テープオペレーティングシステム)
[編集] デービーソフト (dB-SOFT)
- dB-BASIC (MZ-2000/2200 BASICインタプリタ)
- 当時Hu-BASICのある意味でライバル。
- dB-IBASIC (MZ-2000/2200 BASICインタプリタ・コンパイラ)
- マシン語へのコンパイルが可能。ソフトウェア的にPCGを実現するなど、画期的な言語だった。整数型BASIC。
[編集] COMPAC(工学社)
いずれもSB-5520の追加機能版。単体では動作しないので、SB-5520をロードした後、ソフトを読み込み、一旦上書きされたBASIC自身を別のメディアに保存する必要がある。
- BASIC機能拡張(SB-5520にTRACE機能などをつけたもの)
- COMMAND UP(マシン語モニタの高機能化)