X68000
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X68000シリーズは1987年にシャープが発売した16ビットパソコン(「パーソナルワークステーション」を自称)。型名はCZ-600シリーズ。
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[編集] 概要
発表したのは発売前年の1986年。開発はコンピュータ事業部ではなくテレビ事業部。互換性はないが、同社のパソコンテレビ、X1シリーズの実質上の後継である(X1シリーズも当然テレビ事業部開発。コンピュータ事業部は当時MZシリーズをリリース。Xシリーズとは方向性が異なっていた)。当時のパーソナルコンピュータ市場において主流であったNECのPC-9801シリーズ等と比較しても強力なグラフィック/サウンド機能を誇っており、これらの圧倒的な表現力を活用した業務用ゲームの移植も数多く行われた。逆に、一部の業務用ゲームの筐体に組み込まれていたこともあった。
実務面においては既にNECのPC-9800シリーズがビジネス向けパーソナルコンピュータとして広まっていた背景もあり、応用アプリケーションの対応状況などは芳しくなかった。グラフィック・音楽・ゲーム向けとしては贅沢な機能を搭載する反面で、これらの機能を搭載したことによる高コスト=高価格は単に割高と見ることも出来、また、長らく処理能力の向上が無かった(後述)上に後継機による能力の向上も本質的な解決とはならず、幅広く普及することはなかった。
教育・組み込み向けなどへの営業展開もなされていた。PROシリーズなどが業務用組込みシステムの開発用途に着目され、Forks社などからX68000での動作を前提にしたOS-9LANボードなどの周辺機器が発売されたこともあった。しかし、後発のFM-TOWNSも同じ教育分野でシェアを伸ばしてきたこと、PC-9821シリーズのグラフィック強化や処理の高速化が進んだため、この分野で生き残ることも出来なかった。
その反面、プログラミング環境が整備されるにつれ、X68000 の機能を生かした多彩なソフトウェアが自作され、また国産機としては初めてMPEG(MPEG-1)による動画再生(動作OSはOS-9/X68030)を実現した。
結果的にはホビー向けマシンとして、プログラムやハードウェアなどを自作するマニアに支持されていた。しかし最終機種である、X68030が発売された1993年頃にはCD-ROMが普及し始めていたにも拘らず、メディア供給が相変わらずFDDのみという状況が、より閉塞感をもたらすことになる。SCSIのCD-ROMドライバがサードパーティーやフリーソフトで開発されたが、オフィシャルな対応ではなかったのと、一部のCD-ROMドライブでは動作しないため、ほとんど普及しなかった。このため、X68シリーズでのCD-ROMドライブの使用は、あくまで自己責任での扱いとなった。
X68K、ペケロク、ロクハチ、ロッパー、ペケロッパなどと略されたほか、後に発表された32ビット版のX68030シリーズと併せ、X680x0と表記される事もあった。
キャッチコピーは「夢を超えた」(初代)「アートの領域へ」(ACE)「夢の続きを語ろう」(EXPERT/PRO)「父のパソコンを越えろ」(XVI)「夢の、頂きへ」(X68030)など。
イメージキャラクターはツタンカーメン(X68000)、火の鳥(X68030)など。
[編集] 外観上の特徴
X68000の筐体は「マンハッタンシェイプ」と称するプラスチック製の左右分割ツインタワー型デザインとなっており、片側にオートイジェクトが可能な5.25インチ2HD対応のFDD2機を搭載、反対側には拡張I/Oスロットを2基搭載した。2つのタワーの間にはポップアップハンドルを内蔵していた。付属の専用マウスは上部の蓋を外すとトラックボールにもなった。マウス端子は本体に1つ、専用キーボードに2つあった。このデザインは初代と、後継機のACE・EXPERT(II)・SUPER・XVI、X68030(CZ-500)に受け継がれた。
- マンハッタンシェイプという名前は、当時アメリカ合衆国・ニューヨーク州のマンハッタン島に建造されていた世界貿易センタービルのツインタワーの景観を連想させる事から名付けられた。若手デザイナーによるこの概観は、日本製PCのデザインとしても秀逸なものとされ、評価も高い。なお、この本体ケースの金型制作に多額のコストが掛かったという。
PROシリーズはこれとは異なる横置きボディで、他モデルとデザインの異なる専用キーボード及びX1turboZ付属のものと同じマウスが付属し、拡張I/Oスロットを4基搭載した。
Compactシリーズはオートイジェクトが可能な3.5インチFDDを搭載、プラスチック製で縦置きであるが非ツインタワー型で、専用キーボードはテンキーを省いたもの、マウスはPROと同じものが付属した。
ボディ色はグレーまたはブラック、SUPER以降はチタンブラックのみとなった。「X68000」のバッジは金色、Compactでは白色印刷、「X68030」のバッジは赤色(スカイラインGT-Rのエンブレムがモチーフらしい)。
[編集] X68000の仕様
[編集] CPU
CPUには当時のMacintoshなどと同じモトローラ社の68000を採用した。動作クロック周波数は10MHzで、無印、ACE、EXPERT、SUPERまではセカンドソースの日立製HD68HC000が使用された。当時CMOS版の68000を生産していたのは日立だけであった。
搭載されたMC68000についての詳説は専用ページに譲るが、16bit CPU でありながら 32bit 環境を前提に設計された直交性の高い命令アーキテクチャが特徴であり、同時代のCPUとしてはアセンブリ言語の扱いやすさにも定評があった。
X68000 にはFPUとしてMC68881が使用可能であり、拡張スロットに装着するものが純正品としてシャープから発売されていた。
毎年高速化されていく他機種を横目に、5年を経てようやく、基本性能はそのままでクロック周波数が高速化されたXVIが登場した。このXVIと次のCompact XVIではモトローラ社製のMC68000が使用され、クロック周波数が16/10MHzの選択式になった。またFPUはメイン基板に専用ソケットが搭載された。
なおXVIの発売をきっかけとして従来の10MHz機やXVI・Compact XVIのクロック周波数を高速化する改造がBBSや雑誌で公開され、ユーザーの間で流行した。
MPUは、Compact以外はソケットに実装されていたため交換が容易で、HD68HC000搭載機においてはモトローラ純正MC68000に交換したり、変換基板を自作しての68020搭載を試みるツワモノが現れた。また、上位の32bit MPU MC68030に換装するアクセラレータボードなども他社から発売された。
[編集] 主記憶
メモリ空間は、MC68000が利用可能な16MBのうち、主記憶空間として12MBを使用することができた。この主記憶領域はリニアアドレシングが可能であり、また、領域を指定しスーパーバイザ領域とする事で、アプリケーション側からアクセス禁止にすることも可能であった。
標準では、初代・ACE・PRO・PROIIは1MB(追加1MBは専用メモリボードによってメインボード上に増設可能だが、2MB以上のメモリを増設する場合はこの専用メモリボードによってまず2MBまで増設することが必須である)、その他は2MBを搭載していた。 SHARPからは拡張スロットに差すタイプの4MBの拡張メモリボードが発売されていたが、後に他社から8MB以上のメモリを装備したものが発売された。 X68000のメインメモリは拡張スロットを介したものを含め,すべてノーウェイトアクセスであるが、動作クロックの上昇したXVI・Compact XVI 以降の機種では、10MHz動作の汎用拡張スロット経由でのノーウェイトアクセスは不可能であったため、本体内部に8MBまで増設可能なメモリソケットも用意された。 ただし、この場合12MBまで増設するには8MB以降は拡張スロットによる増設となるため、この4MBをアクセスする場合は多大なウェイトが挿入されることとなり、これによる速度低下を回避するため、この領域をRAMディスクとして使用するなどして、この範囲にコードが置かれることを回避する使用法もあった。
X68030シリーズでは、標準で4MBの主記憶を搭載しており、さらに本体内部にX68000シリーズで扱えるメモリの最大容量である12MBまで増設可能なメモリソケットも用意された。
またメモリバックアップ機能を持つ16KBのSRAMを内蔵し、メモリスイッチの設定を保存するほか、RAMディスクとしての使用やSRAMからのシステム起動も可能であった。ただし、SRAM領域は通常は書き込み禁止に設定されており、プログラムの暴走など万一の事態でも書き換わる事はまず無いとされた。一方、このSRAM領域を利用して潜伏・感染するコンピュータウイルスも存在した。
[編集] グラフィック
グラフィック画面表示用のVRAM(フレームバッファ)は512KBを搭載してる。これを使用して、256*256または512*512*最大16bit(65535色)、768*512*最大4bit(16色)の表示が可能である。また、CRTCを直接操作することにより、1024*768*4bitの表示や640*400に近い解像度、384*512での表示も可能である。
グラフィックVRAMへのアクセスには、領域として 全2MB(1024ドット*1024ライン*16ビット)が予約されているが、実際に搭載されている512KBのVRAMは、画面モードによらず常に1ワード(16bit)=1ピクセルとなるように 512KB~2MBのメモリ空間に配置される。すなわち、16色ならば、2MB のメモリ空間の下位 4bit が有効になり、256色表示ならば、1MB の領域の 下位 8bit(残り 1MB の領域は無効)、65536色表示であれば先頭の 512KB の領域で 全16bit が有効になるという仕組みである。これによりピクセル単位のカラー操作を容易なものとしていた反面、多数のピクセルを書き換える際にアクセス速度の点では不利であったが、のちにデータ転送時のみグラフィックVRAMの構成を切り換えて隙間なしでデータ転送するテクニックが登場した。
また、グラフィック画面だけで独立した面(プレーン)を最大4プレーン(512x512ドット 16色時)持つことができた。16色モード時には1024×1024ドット1プレーンまたは 512x512ドット4プレーン、256色モード時には512×512ドット2プレーン、65536色モード時には512×512ドット1プレーンという構成で、複数のプレーンを重ねあわせて表示することができる他、半透明機能があった。また、それぞれ独立に上下左右がつながった球面スクロールが可能となっている。
同時代のパーソナルコンピュータとして標準的な環境における解像度は640x400ドット16色であり、この表示に必要なVRAMは128KB弱である(ただし、PC-9801シリーズなどはこれを2画面分搭載し、切り替えて表示することが可能である)ことからも、X68000の圧倒的な表現力がうかがえる。X68000の65536色はGGGGGRRRRRBBBBBIの16ビットによって構成されており,RGB5ビットの32768色と輝度ビット(半段階の明るさ調整)によって実現されている。
グラフィック画面は、上記の他、高速クリアなどの画面制御機能はあったものの、基本的にはMPUの直接制御によって図形描画が行われた。同時代の主なパーソナルコンピュータにおいては、グラフィックディスプレイコントローラにラインや多角形、塗り潰しなどの簡易的な描画機能が搭載されていた点とは対照的である。
[編集] テキスト表示
いわゆるキャラクタ単位のテキスト画面は用意されず、グラフィック面とは別に512KBのビットマップVRAMが用意されていた。
X68000におけるテキスト面はプレーンドピクセル方式のビットマッププレーンであり、同時代の標準的なパーソナルコンピュータのグラフィック画面に相当する情報量と表現力を持っていた。ビットマップによるテキスト表示は、その表現力と引き換えに、キャラクタ型VRAMと比較すると負荷が重い(遅い)ものであるが、X68000のテキストVRAMには同時プレーンアクセス機能やラスタコピー機能、ビットマスク機能などの画面制御機能が用意されており、CPUの処理を大幅に軽減することが可能となっていたため、十分な速度を得ることができた。
テキストVRAMは4プレーン存在するが,通常,そのうち2プレーンはマウスカーソルとソフトウェアキーボード,電卓の表示に使用されるため,テキスト表示は2プレーンで行われることが多い。
テキスト表示用にフォントパターンをROMに搭載している。このCGROMに搭載されている文字種は,16×16ドットのJIS第1/2水準漢字に加え,24×24ドット,12×12ドットのJIS第1/2水準漢字(非漢字752文字、第1水準漢字3008文字、第2水準漢字3478文字)である。このほか、ビットマッププレーンを生かし、ユーザー定義のフォントを使用することも可能であった。
通常の16ドットフォントを使用した際のテキスト表示は半角で96文字×32行であるが,VRAM自体は1024×1024ドットの広さを持っており,のちにCRTCのクロックアップで1024×1024ドットのフルスクリーン表示なども実現されている。
このテキスト面は前述の画面制御機能が使用できるほか、1ワードで最大16ドット、ロングワードで32ドットの書き換えが可能となるため、用途によってはテキスト画面をグラフィック画面代わりに使用し、他機種からのゲーム等の移植にも使われた。ビジュアルシェルやSX-WindowもテキストVRAMで実現されている。
[編集] スプライト表示・その他の表示機能
その他には、16ドット×16ラインで65536色中16色、同時表示枚数128枚の「スプライト機能」と「BG面」を持っており、特にアクションゲームやシューティングゲームの作成において非常に有効だった。スプライトとBGのパターンデータは共用であり、VRAMとは独立した16KBの高速SRAMを使用していた。
スプライト以外の、これらのすべての画面を合わせると、最大で7枚(グラフィック4+テキスト1+BG2)もの独立スクロール機能付きの画面をハードウェアで合成表示することが可能だった。
他には「走査線(ラスタ)割り込み」を可能としており、後のゲームで「ラスタースクロールブーム」を引き起こした。
また、専用端子へ接続するカラーイメージユニットを使用する事により、当時としては先進の、ビデオ信号のキャプチャが可能であった。
X1のパソコンテレビの機能も受け継いでおり、テレビチューナー付の純正の専用モニタでは、チャンネル操作やスーパーインポーズなどのテレビコントロールも可能だった。
[編集] その他の機能
サウンド機能として、X1turboZと同じ8チャンネルのステレオFM音源(YM2151)に加え、ADPCM (MSM6258) を1チャンネル搭載した。
他には本体の電源を制御する機能がついており、ソフト上から時間を指定して電源をON/OFFすることが出来た。このため、現在のPC/AT互換機におけるATX/BTX筐体のように、前面の電源スイッチとは別に背面に主電源スイッチがあった(Compact/Pro/ProIIを除く)。さらに正面電源スイッチのほかに背面にリモード電源端子があり、マグネットコイルリレーなどの外部スイッチより起動することも可能であった。 また、4チャンネルのDMAも搭載していた。
キーボードは80C51を内蔵したシリアル制御で、本体からLEDを制御することも可能だった。
[編集] 拡張性他
本体の背面には10MHz動作の汎用拡張スロットが用意され、各種拡張カードや増設メモリカードなどの搭載が可能であった。
ジョイスティックポートは同時代に標準的であったD-sub9ピンのATARI規格であり、縦型の機種では本体前面と背面に1ポートずつあった。プリンタはセントロニクス仕様のパラレルポートで、X1同様のMIL-C-83503に準拠した俗に言うMILタイプ圧接コネクタだった。RS-232C上位規格のRS-232Eに準拠したシリアルポート、FDDの増設端子などのコネクタも搭載した。
また初代機からSASI相当のHDD増設端子を備えており、PC-9801用のSASIハードディスクを流用できた。またこの端子は、後に有志が公開したドライバによってSCSIとして使用することもできた。
HDD増設端子は、X68000 SUPERからはSCSI端子に変更された。そのほか、機種によっては3.5インチHDDを本体に内蔵することも出来た。
SCSI機器は、SCSI端子を持つX68000に接続して利用することができるはずであるが、ある一時期に発売されたSCSI機器については、X68000に接続しても認識できない問題が少なくなかった。 SCSI機器を認識できない問題には、終端抵抗の有無(SCSI機器末端の終端抵抗を取り外すことで動作する機器も存在した)といった電気的特性の他、俗に言うNECチェックの巻き添え(※1)に因るものがあり、パソコン通信を中心にSCSI機器動作確認情報の交換が行われていた。
- ※1 NECが発売していたPC-9801-55ボードや同時期のNEC PC-9801本体内蔵SCSIには1台目SCSI機器のベンダID先頭3文字がNECでないと起動しないという制限がかけられていた。この為、サードパーティー各社はSCSI機器のベンダIDをNECO、NECITU、NECY等と書き換えてこのチェックを通していたが、一部のSCSI機器については、X68000(NEC以外のコンピュータ、FM-TOWNSなども含む)側でベンダID情報を正常に取得することができず、SCSI機器と認識できずに使用できなかった。詳しくは55ボード問題を参照の事。
初代機からX68000 XVI(PROを除く)までは立体視端子も装備されていたが、利用するための専用ハードウェアが発売されることはなく、満開製作所がファミリーコンピュータ用『3D SYSTEM』をX68000の立体視端子に接続するためのアダプタセット(立体視端子を持たないPROやCompact、X68030にも対応)を発売するだけにとどまった。
意外と知られていないが、拡張カードを自作・試作するためのユニバーサルカードが、サンハヤト等から発売されていた。 またX68000の拡張カードの仕様はPC-9801用の拡張カードの大きさと概ね寸法が近似していたため、X68000用のユニバーサルカードが入手が難しい場合には、PC-9801用の物を電源及びグランドのパターンにパターンカットを施し、部品面/配線面を裏返しに用いることにより流用できた。
独自規格ではなく安価なデファクトスタンダードに対応した点は、当時のシャープの、本体の極めて高い独自性に対するプライドと、それらの活用をはかる際のユーザ本位の利便性を両立する姿勢が伺えた。
[編集] 標準ソフトウェア
本体内蔵の512KBのROMには、CP/MのBDOSやMS-DOSのIO.SYS、MacintoshのToolBoxなどに相当する基本入出力システムIOCSを搭載、これを活用する標準添付のオペレーティングシステムとしては、ハドソンとSHARPがMS-DOSを参考に開発したCUIベースのHuman68kが標準添付されていた。このHuman68kは、単にユーザーインターフェイスのルック&フィールがMS-DOSに酷似しているだけではなく、システムコールのファンクションもMS-DOSとほぼ同等であった。
MC68000MPU特有の特権モード(スーパーバイザモード)を生かし、一部システム領域を、アプリケーションからのアクセスから保護する機能も有していたため、アプリケーションエラーを検出し、実行を停止させることもできたが、OS として特権モードとユーザーモードの分離が十分でなく、その後システムに復帰できるかどうかは運頼みの側面もあった。
Human68k上で動作する独自のGUIを取り入れた簡易的なウインドウシステムであるビジュアルシェルが付属していたが、後により洗練されたウインドウシステムであるSX-Windowによって置き換えられ標準添付となった。
言語としては、BASICを独自にC言語ライクな構文表記に拡張したX-BASICなども付属していた。X-BASICで作られたプログラムはC言語に変換してコンパイルすることも可能である。
日本語入力ソフトとしてはASK68kというFEPが添付されていた。同時代の水準と比較してその変換精度にはやや難のあるものであったが、細部に目を移せば、ローマ字かな変換モードで「 X 」 1文字で「ん」を入力できるといった操作体系や、あらかじめ日本語処理を意識して設計されたキーボード上の専用キーとの親和性は高かった。
X68000 初代から日本語ワープロソフトwp.xが標準で添付されていた。機能的にシンプルでやや安定性に欠けていたものの,文書を書いて印刷するための最低限の機能は備えており,動作も軽いほか,メモリが許す限りファイルを同時に扱ったり,子プロセスを立ち上げられたりなどもできた。
SX-Windowでは,wp.x に代わり、シャーペン.xというエディタが付属した。シャーペンは基本的にテキストエディタであるが,SX-Windowの機能をフルに生かすソフトとなっており,多彩な表現力を持ち,自在なカスタマイズの可能なものとなっていた。 シャーペン.xはSX-Window環境ではほぼ唯一のエディタであり、他に選択肢が無かったこともあり、SX-Windows上ではあらゆる用途で使用できるものとなっていた。
[編集] X68030
1993年3月に発売されたX68030シリーズ(型名はCZ-500/CZ-300シリーズ)は25MHzのMC68EC030を搭載したX68000の後継機種。名実ともに32ビットパソコンとなった。5インチFDDを装備するX68030(CZ-500)と、3.5インチFDDを装備するX68030Compact(CZ-300)の2機種が発売された。角を強調したデザインがX68000との外観上の差異である。
MC68EC030はソケットによって実装されており、ユーザがより高速な33MHz版のMPUに差し替えたり、MMUを内蔵するMC68030に換装することが可能となっていた。後に、MC68040や、MC68060を搭載するためのアクセラレータが他社から発売された。
主記憶は標準で4MBとなり、内蔵の専用スロットに12MBまで搭載可能であった。MC68030/MC68EC030は4GBのメモリ空間を持つが、X68030ではX68000のアーキテクチャを引き継ぎ互換性の維持を優先した結果、このメモリ空間の12~16MBの領域にメモリマップドI/OやVRAMが配置され、分断されることとなってしまった(セグメントによる制限のないリニアアドレッシングが売りであった68系コンピュータでありながら、Intelの86系16bitコンピュータの「640KB/768KBの壁」などと同様の状態を生み出してしまった)。
後に、16MB以上の空間にSIMMメモリを増設するボードが他社から発売され、これとMC68030のMMUを活用しハイメモリ空間にメインメモリを配置することも可能となった(一部、既存のアプリケーションとの互換性には問題が生じるものもあった)
- ちなみにHuman68kバージョン3.0におけるプログラミングでは16MB以上のメモリ空間は、予約済み領域とされアドレスの上位1バイトはゼロで埋めることが要求されている。これは、将来16MBを超えるメモリ空間を利用する際に互換性を確保するためである。
他のスペックは基本的にX68000を踏襲しており、内部増設メモリの動作クロックが向上し32bitバスで接続された結果、従来よりも高速なアクセスが可能となった点や、一部の周辺I/Oなどは従来より高速な動作が可能となった。DMAコントローラには、定格でより高い動作周波数でも動作が可能なバージョンを使用したり、クロックアップのためのパターンが基板上に記されている、起動時のBIOS表示で定格よりも高速な動作クロック周波数や標準では搭載されていないMMUの有無が自動判別されて表示される、などという作りになっており、一部の雑誌では発売と同時にクロックアップの記事が公開された。
反面、元々強力なグラフィック機能などは16bitバスで接続され、I/Oには多大なウェイトが挿入される等、高速化されたCPUを持て余す面もあった。
FPUソケットも用意され、MC68881や、より高速なMC68882がコプロセッサとして使用可能であった。内蔵ハードディスクにはどちらのモデルにもSCSIの2.5インチタイプのものを使用するようになっていた。
旧機種互換用のモード切り替えスイッチはなく、起動時にキーボードを押すことでMPUの動作速度を旧機種と相当する速度に変更できるようになっていた。
OSのHuman68Kはバージョン3.0となったほか、互換性のためバージョン2もROMで内蔵されていた。またSX-Windowは3.0となった。また、MC68030が内蔵するMMUや仮想記憶に本格的に対応する NetBSD 等の UNIX も有志の手で移植された。
本当の意味での32ビット機にはなったものの、既に他のモトローラ採用機種(Apple Macintoshなど)では RISC プロセッサへ移行しつつあるか、より高速なMC68040が搭載されるなどしていた。同時期に80486時代に突入していたインテル機と比較すると価格と演算性能で劣勢な感は否めなかった。(モトローラ自身もRISCの台頭とインテル80486の板挟みで苦しい時期だった。)
次世代機「NewX」をメーカーで開発中という話も専門誌である雑誌Oh!X誌の編集後記で流されたものの、発売には至らず、Oh!X誌自体もプレイステーションなどの次世代ゲーム機とWindows95の発売で盛り上がった年である1995年末の、12月号をもって休刊。そのままX1から続いたXシリーズの最終機となった。
シャープから発売されているPC/AT互換機として「Mebius」が存在するが、これはまったく異なる部署の製品である。
[編集] OS
1988年、マルチタスクリアルタイムオペレーティングシステムとしてMicroware社の OS-9/X68000 が発売された。OS-9/68Kの単一機種売り上げでは世界記録を樹立するが、当時 poor man's UNIX(貧者のUNIX)とまで言われた、個人所有可能なUNIXライクな環境としては当時ほぼ唯一と言ってよかったOS-9自体や、OS-9上で主流を占めるUNIX系由来のツール環境に馴染むユーザーの絶対数が少なく、X68000ユーザーの間で広く普及することはなかった。その後、Ver.2.4が発売された。そして、X68030の登場とともに1993年にはMicroware社よりOS-9/X68030及びX-Window V11R5 for OS-9/X68030が発売された。
1989 年には計測技研からCP/M-68K が発売されている。
また商用ソフトウェアのOSの他にも、X68030(またはMC68030に換装したX68000)においては、Minixなども移植され、さらにユーザーモードでもVRAMなどのアクセスが出来るように一部のピンを撤去する加工をして、MC68030・アクセラレータ基板を介したMC68040・MC68060にMPUを交換する必要があったが、アマチュア有志によりNetBSDが移植された。
[編集] 発売機種一覧
- 1987年 X68000(CZ-600C) - SASI内蔵、コナミ「グラディウス」をバンドル(ソフト単体では市販せず)
- 1988年 X68000ACE(CZ-601C) - 後部I/O配置変更
- 1988年 X68000ACE-HD(CZ-611C) - 20MB HD搭載モデル
- 1989年 X68000EXPERT(CZ-602C) - メモリ2MB標準化(以降縦置きボディのみ)
- 1989年 X68000EXPERT-HD(CZ-612C) - 40MB HD搭載モデル
- 1989年 X68000PRO(CZ-652C) - 横置きボディ、拡張I/Oスロット4基、PRO専用キーボード・マウス
- 1989年 X68000PRO-HD(CZ-662C) - 40MB HD搭載モデル
- 1990年 X68000EXPERT II(CZ-603C) - BIOS改良高速化、SX-WINDOW添付
- 1990年 X68000EXPERT II-HD(CZ-613C) - 40MB HD搭載モデル
- 1990年 X68000PRO II(CZ-653C) - 横置きボディ、拡張I/Oスロット4基、PRO専用キーボード・マウス
- 1990年 X68000PRO II-HD(CZ-663C) - 40MB HD搭載モデル
- 1990年 X68000SUPER(CZ-604C) - SCSI標準化、チタンブラック
- 1990年 X68000SUPER-HD(CZ-623C) - 81MB HD搭載モデル
- 1991年 X68000XVI(CZ-634C) - 16MHzクロック標準化(10MHz切換付)、ボディ形状変更
- 1991年 X68000XVI-HD(CZ-644C) - 81MB HD搭載モデル
- 1992年 X68000Compact(CZ-674C) - 3.5インチFDD搭載、コンパクトボディ、別名CompactXVI
- 1993年 X68030(CZ-500) - MC68EC030の25MHzを搭載、メモリ4MB標準化
- 1993年 X68030-HD(CZ-510) - 80MB HD搭載モデル
- 1993年 X68030Compact(CZ-300) - 2HD/2DD両対応3.5インチFDD搭載、コンパクトボディ
- 1993年 X68030Compact-HD(CZ-310) - 80MB HD搭載モデル
※ PROシリーズにはパイオニアのOEMも存在している(本体のSHARPロゴがPIONNERになっている)。主に伝言ダイヤルなどの制御用として使用されていた。
[編集] 周辺機器
[編集] シャープ純正
- 増設RAMボード
- CZ-6BE1 - CZ-600C用(1MB)
- CZ-6BE1A/CZ-6BE1B/CZ-6BE1B(A) - CZ-601C/611C/652C/653C/662C/663C用(1MB)
- CZ-6BE2/CZ-6BE4/CZ-6BE4C - 拡張スロット用(2MB/4MB/4MB)
- CZ-6BE2A - CZ-634C/644C用(2MB)
- CZ-6BE2B - CZ-6BE2A/CZ-674C用(2MB)
- CZ-6BE2D - CZ-674C用(2MB)
- CZ-5BE4 - CZ-300C/310C/500C/510C用(4MB)
- CZ-5BE4 - CZ-5BE4用(4MB)
- カラーイメージユニット (CZ-6VT1(-GY/-BK))
- カラーイメージスキャナ (CZ-8NS1/JX-220X)
- ビデオボード (CZ-6BV1)
- Compact用増設5インチFDD (CZ-6FD5)
- カラービデオプリンタ
- ドットマトリクスカラー漢字プリンタ
- ドットマトリクス漢字プリンタ
- 48ドット熱転写カラー漢字プリンタ
- カラーイメージジェット
- 増設用ハードディスクドライブ
- モデムユニット
- MIDIボード (CZ-6BM1/CZ-6BM1A) - BM1A:VCCI基準適合
- LANボード (CZ-6BL1/CZ-6BL2) - BL1:10Base5/BL2:10Base-2/5
- 光磁気ディスクユニット (CZ-6MO1) - 5.25インチMOドライブ
- SCSIボード (CZ-6BS1)
- GPIBボード (CZ-6BG1)
- 増設用RS-232Cボード (CZ-6BF1) - 2チャンネル
- ユニバーサルI/Oボード (CZ-6BU1)
- 数値演算プロセッサボード (CZ-6BP1)
- 数値演算プロセッサ (CZ-6BP2) - CZ-634C/644C/674C用
- FAXボード (CZ-6BC1)
- RS-232Cケーブル (CZ-8LM1/CZ-8LM2) - LM1:平/LM2:クロス
- SCSI接続ケーブル (CZ-6CS1) - CZ-300C/310C/500C/510C/674C用
- RGBケーブル (CZ-6CR1) - CZ-300C/310C/674C用
- テレビコントロールケーブル (CZ-6CT1) - CZ-300C/310C/674C用
- インテリジェントコントローラー(サイバースティック) (CZ-8NJ2)
- マウス (CZ-8NM1/CZ-8NM2/CZ-8NM2A)
- マウス・トラックボール (CZ-8NM3)
- トラックボール (CZ-8NT1)
- ジョイカード (CZ-8NJ1)
- スピーカーシステム
- 拡張I/Oボックス (CZ-6EB1) - 4スロット 無印:グレー/-BK:ブラック PRO/PROII非対応
- 液晶ディスプレイ(XVI以降専用、解像度はVGA相当のみ)
[編集] 他メーカーから
- V30 CPU Board
- V70 CPU Board
- Polyphone サブCPU搭載MIDIボード
- ARCNET Board
- MIDI Board
- EtherNet Board
- Xellent30(X68000用68030アクセラレータ 東京システムリサーチ)
- 060turbo(X68030用68060アクセラレータ 満開製作所)
[編集] パワーユーザーによる各種拡張カード
Oh!Xが休刊した1995年頃から、ユーザーが拡張ハードを自主製作することが流行した。 (何故か太陽系の惑星の名称がついたものが多かった。事の発端は、Mercury Unitの作者が、美少女戦士セーラームーンの登場人物であるセーラーマーキュリー役の声優・久川綾の声を高音質で録音・再生することを目的としてMercury Unitと命名したことに始まる。)
- Mercury Unit(PCM)
- Neptune-X(ISA用EtherNetカード接続アダプタ)
- Nereid (LAN+USB+Memory統合拡張ボード X-PowerStation製作)
- Jupiter-X(X68000用68040/68060アクセラレータ)
- Venus-X(X68030用68030アクセラレータ+セカンドキャッシュメモリ)
- 040turbo(X68030用68040アクセラレータ)
- ビデオキャプチャーユニット
- キーボード変換機
- 060turboX(X68000,X68030用68060+Coldfireアクセラレータ X-PowerStation ※開発中)
など
本体を作ろうとする試みもあったが結局、完成していない。
[編集] ソフトウェア
[編集] シャープ純正
[編集] サウンドツール
- Sampling PRO-68K
- SOUND PRO-68K
- MUSIC PRO-68K
- MUSIC PRO-68K〔MIDI〕
- Musicstudio PRO-68K
- SOUND SX-68K
- MUSIC SX-68K
[編集] グラフィックツール
- NEW Print Shop PRO-68K
- CANVAS PRO-68K
- Easydraw SX-68K
- Easypaint SX-68K
[編集] OS
[編集] 開発環境
- X-BASIC - (Human68k標準付属のC言語ライクなBASIC)
- C Compiler PRO-68K - (XC + ライブラリ)
- THE福袋
- XBAStoC CHECKER PRO68K - (X-BASICのコードをC言語に変換したときに起こりえる問題点を指摘する)
- AI-68K (Staff LISP/OPS PRO-68K)
- SX-WINDOW開発キット Workroom SX-68K
[編集] ビジネスツール
- Teleportion PRO-68K
- Multiword PRO-68K
- Hyperword PRO-68K
- CYBERNOTE PRO-68K
- Stationary PRO-68K
- BUSINESS PRO-68K
- BUSINESS PRO-68K Popular
- CARD PRO-68K
- DATA PRO-68K
- TOP給与計算エキスパート
- TOP財務会計
- PressConductor PRO-68K
- CHART PRO-68K
- EGWord SX-68K
- フォント&ロゴ デザインツール 書家万流 SX-68K
- XDTP SX-68K
- Datacalc SX-68K
[編集] 通信ツール
- Communication PRO-68K
- Communication SX-68K
[編集] ゲーム
[編集] アーケード移植
- ツインビー (コナミ) - CZ-217AS/CZ-217ASC
- アルカノイド (タイトー) - CZ-222AS/CZ-222ASC
- 熱血高校ドッジボール部 (テクノスジャパン) - CZ-232AS/CZ-232ASC
- 沙羅曼蛇 (コナミ) - CZ-218AS/CZ-218ASC
- フルスロットル (タイトー) - CZ-231AS/CZ-231ASC
- パックマニア (ナムコ) - CZ-233AS/CZ-233ASC
- ニュージーランドストーリー (タイトー) - CZ-230AS/CZ-230ASC
- V'BALL (テクノスジャパン) - CZ-246AS/CZ-246ASC
- スーパーハングオン (セガ) - CZ-238AS/CZ-238ASC
- サンダーブレード (セガ) - CZ-239AS/CZ-239ASC
- ダウンタウン熱血物語 (テクノスジャパン) - CZ-254AS/CZ-254ASC
- サイバリオン (タイトー) - CZ-229AS/CZ-229ASC
- 熱血高校ドッジボール部サッカー編 (テクノスジャパン) - CZ-262AS/CZ-262ASC
- 中華大仙 (タイトー) - CZ-268AS/CZ-268ASC
- ダッシュ野郎 (東亜プラン) - CZ-269AS/CZ-269ASC
- ボナンザブラザーズ (セガ) - CZ-270AS/CZ-270ASC
[編集] 他メーカーから
[編集] OS・開発環境
- OS-9/X68030
- Microware Ultra-C Compiler for OS-9/X680x0
- X-Window&Motif for OS-9/X68030
[編集] ゲームメーカー
以下は、X68000/X68030向けのゲームソフトを精力的に開発し提供してきたゲームメーカー。
- SPS
- 電波新聞社(マイコンソフト) - 末期には「ビデオゲームアンソロジー」シリーズを展開した。
- コナミ
- カプコン
- ズーム
- エグザクト
- ウルフチーム
- システムサコム
- M.N.Mソフトウェア
- 魔法
- エレクトロニック・アーツ・ビクター
- 満開製作所 (ゲームだけでなくX68000関連商品全般を開発し販売していた)
[編集] ビデオゲームアンソロジー
電波新聞社販売/マイコンソフト開発 全13組18作
- vol.1 テラクレスタ/ムーンクレスタ (日本物産) 1992年11月20日発売
- vol.2 チェルノブ (メガドライブ用コントロールパッド変換アダプター付属) (データイースト) 1993年1月29日発売
- vol.3 スターフォース (テーカン) 1993年3月26日発売
- vol.4 リブルラブル (専用十字パッド付属) (ナムコ) 1993年6月25日発売
- vol.5 クレイジークライマー/クレイジークライマー2 (日本物産) 1993年8月27日発売
- vol.6 ぶたさん (ジャレコ) 1993年10月30日発売
- vol.7 ドラゴンバスター (ナムコ) 1993年12月10日発売
- vol.8 エキサイティングアワー/出世大相撲 (テクノスジャパン) 1994年2月25日発売
- vol.9 アルゴスの戦士 (テクモ) 1994年4月28日発売
- vol.10 Mr.Do! / Mr.Do! v.s UNICORNS (ユニバーサル販売) 1994年7月2日発売
- vol.11 パックランド (専用3ボタンジョイパッド付属) (ナムコ) 1994年12月9日発売
- vol.12 ディグダグ/ディグダグⅡ (ナムコ) 1995年3月10日発売
- vol.13 バラデューク (ナムコ) 1995年5月26日発売
[編集] フリーソフトウェア
本体のシェアでは他機種に劣っていたことを補完するように、ユーザー(有志)の手により様々なソフトウェアが作られ、パソコン通信や書籍などを通じて配布された。市場占有率を勘案すると、ユーザーの絶対数の割にその充実ぶりには目を見張るものがあった。特に主な標準ソフトウェアには、機能を強化した、リバースエンジニアリングによるパッチまたは互換プログラムが存在した。またGNUのツール環境の多くもHuman68K環境に移植された。 パーソナルコンピュータ市場における主流であったMS-DOS環境から孤立していたX68000の世界では、プロプライエタリなソフトウェアの供給を期待することがほぼ不可能といった事情などを受け、ユーザー間や専門誌Oh!X誌上では、しばしば「無ければ作る」という合言葉が使われた。
[編集] GNU C Compiler
SHARPから発売された XC コンパイラーは C言語の標準である K&R に非準拠であり、数々の制限があった。しかし有志の手により 1988年初頭には GNU C Compiler (以下 GCC)が移植され、X68000 への最適化も行われた。その後、GNU C++(g++)も移植されるとともにライブラリも整備され、これらの開発環境の整備により多くのフリーソフトウェアを生み出した。これらは当時のパーソナルコンピュータとしては比較的大規模なソフトウェアであり、MS-DOS 環境と比較して、X68000 の持つリニアで巨大なメモリ空間を生かしたソフトウェア(移植)であると言える。
- Nemacs、microEmacs - エディタ
- GDB - GNU Debugger - デバッガ
- GNU make - make
- bash - シェル
- HLK - High speed linker - リンカー
- HAS - High speed assembler - アセンブラ
- TEX ツール 等
[編集] Z-MUSIC
Z-MUSICとはX68000本体付属のOPMDRV.Xを改造したりするものではなく、まったく新しくゼロから開発されたミュージックマクロ言語である。 X68000の内蔵音源であるFM音源8声とADPCM1声(MPCM.X ©Wachomanを使用すれば16声まで)、MIDIボードが接続されていればMIDI楽器も同時にコントロールすることが出来る。 一般の音楽制御ドライバでは1台のMIDI楽器をコンピュータの外部音源という位置付けで扱っていたが、Z-MUSICではX68000をホストに複数のMIDI楽器をコントロールすることができるように設計されている。
Z-MUSICは、ゲームに組み込んで使うことも考慮して設計されおり、一部の市販ゲームや同人ゲームで実際に採用された。 また、第三者によって、コンバータ(変換器)やコンパイラ(翻訳器)、プレイヤー(再生器)やセレクタ(選択器)、データ制作や開発支援、ADPCMユーティリティーなど様々なツールが作られた。
なお、Z-MUSICのZは、作者の名前である西川善司 (Nishikawa Zenji) から採ったものである。
Z-MUSICシステム ver.3.0の特長
- X68000本体付属のOPMDRV.Xと上位互換性あり。Z-MUSIC ver.2.0以前の演奏データはver.3.0以降とソース (ZMS) レベルで上位互換があり、そのまま演奏可能。
- FM音源、ADPCM、MIDI楽器を同時に同期演奏可能(MIDIシステムのない環境でもZ-MUSICは利用可能)。
- 複数のX68000を相互に接続しての同期演奏も可能。
- 汎用トラックを65535本装備。最大同時演奏トラック数65535本。RS-232C MIDIを2ポートと2枚のMIDIボードを同時に制御可能。MIDIは、64チャンネルまでを同時制御可能。最大同時演奏チャンネル数88チャンネル(FM8+ADPCM16+MIDI64)。
- 独自のADPCMドライバ「MPCM.X」©WachomanにてADPCM音源をFM音源のように柔軟に制御可能。
- ポルタメントやオートベンド、和音やビブラートなどの特殊効果を内蔵音源とMIDIの両方で使用可能。ARCC (Assignable Realtime Control Change) 機能も、1トラックあたり同時に4つまで独立に動作させることが可能。
- コンピュータ音楽ならではの音楽情緒を作り出すアゴーギク機能やエンハンスドベロシティシーケンス機能を装備。
- 2曲までテンポの異なった音楽を同時に演奏可能。
- 送信MIDIデータをリアルタイムで最適な送信方法を選択して送信するVTMS機構、送信MIDIメッセージをリアルタイムに最適化するARS機構を装備。これらにより多チャンネル演奏時でもテンポずれの最大限抑止、CPU負荷の低減を両立。
- MT-32/U220/M1/SC-55/SC-88/GM音源などに対応した楽器個別の制御命令を装備。
- MIDI楽器側の音色や設定データ、ユーザーの演奏をスタンダードMIDIファイルに出力可能。
- オブジェクトレベルの演奏データ(ZMD)を出力可能(コンパイル機能)。
- Z-MUSICが持つ機能のすべてを公開。外部プログラムから利用可能。プログラム間通信機能も装備し、高度な連動動作機能を提供。
- 専用A/Dコンバータによってサンプリングされた高音質のADPCMデータライブラリを標準装備。
- 全情報公開。ライセンスフリー。
[編集] MXDRV
パソコン通信等で広く使われた音楽ドライバ。FM音源とADPCM音源を制御する事が出来る。本体に付属する純正のOPMDRVを元にして作られた。 対応するのはMDXファイル(演奏データ、拡張子.mdx)とPDXファイル(ADPCMデータ、拡張子.pdx)。 複数人で頻繁に改良が加えられたために数多くのバージョンが存在し、ADPCMを擬似的に多重発音出来るPCM8・PCM8Aに対応しているバージョンも有る。 パソコン通信等ではコピー曲やオリジナル曲などのMDXファイルが数多く流通した。 MADRV、MUDRV、MCDRVなどの互換または類似のサウンドドライバや、MMDSP、LMZのように演奏をビジュアル表示する再生ソフトも数多く作られ、Z-MUSICと組み合わせてMDXを再生させることが出来るものもあった。 MXDRVは後にPC-9800シリーズとFM TOWNSにも移植され、音源チップの差からパート数や音色などが不完全ながらもMDX再生が出来た。WindowsにおいてもFM音源YM-2151をエミュレートするDLLドライバと組み合わせてMDXファイルを演奏する事が出来るアプリケーションが幾つか存在する。
[編集] PCM8.X
ADPCMについては、故・江藤啓作のリアルタイムADPCM多重再生ドライバPCM8.X (PCM8A.X, PCM8SB.X) を使用することにより、ソフトウェアレベルでPCMを合成し見かけ上最大8チャンネルでの再生が可能である。別人によりPCM16.Xが試作されたが一般的には知られていない。
[編集] 電脳倶楽部
電脳倶楽部は、満開製作所が発行していたX68000用ディスクマガジン。内容は読者投稿が大半を占めていた。『月刊電脳倶楽部』は1988年5月に創刊され、12年間に亘って発行された。初代編集長は故・三上之彦(祝一平)であった。Vol.140から媒体がCD-ROMに変更されたが、同社がX68000関連事業から撤退した2000年8月発行のVol.148で廃刊。
その間に別冊も数多く発行され、『電脳倶楽部別冊』が壱號から拾六号まで、CD-ROMによる『すてきな電脳倶楽部』(すて電)、『すごい電脳倶楽部』(すご電)、『激光電脳倶楽部』がVol.1からVol.7まで発行。
フロッピーディスクで発行されたVol.1からVol.139までは、『月刊電脳倶楽部パーフェクトコレクションVol.1~50』、『月刊電脳倶楽部パーフェクトコレクションVol.51~100』、『月刊電脳倶楽部パーフェクトコレクション1997年度版』(Vol.101~115)、『月刊電脳倶楽部パーフェクトコレクション1998年度版/1999年度版』(Vol.116~139)としてCD-ROMにまとめられた。別冊も『電脳倶楽部別冊・完全保存版』としてCD-ROM化されている。
[編集] DoGAとの関係
DoGAは、大阪大学コンピュータクラブや京大マイコンクラブの有志が集まり、共同研究プロジェクト「PROJECT TEAM DoGA」として1985年に設立された。 さらに1993年には、子会社として株式会社ドーガを設立し、法人としてDoGAの活動をサポートしている。
DoGAは、シャープと提携し、X68000上で動くCG制作ソフト「DoGA CGAシステム」を開発。この活動にアスキー社が関心を示し、月刊ASCIIに開発状況を連載した。その後、ソフトバンクのOh!Xに連載が引き継がれた。
当時パソコン上でCGアニメを動画として見ることができるのは画期的で、「DoGA CGAシステム」は、国産ソフトとしては日本初の試みとして注目を集めた。
DoGA(PROJECT TEAM DoGA、株式会社ドーガ)
[編集] その後
シリーズ終焉後、Webが流行するようになると、ユーザーは徐々にMicrosoft Windowsなどに流れていったものの、ユーザーが拡張ハードを自主製作するなど、しばらくは勢いは衰えなかった。また、EX68をはじめとするエミュレータも作成され、単行本としても発売された。その後も秋葉原などでユーザー主催のイベントが何回か開かれ、健在ぶりを示している。後述。
一旦休刊した「Oh!X」はシリーズ終焉から暫くして、1998年にムック形態で復刊(休刊した雑誌が復刊することは稀である)したものの、2001年春号を最後に自然消滅状態となっている。またシリーズ終焉後も周辺機器などを発売していた満開製作所は、創業者三上之彦が1999年4月2日に死去した後、2000年に事業撤退を表明して翌2001年には消滅してしまった。
2000年、オペレーティングシステム、開発環境、BIOSなどがNIFTY-SERVEシャーププロダクツユーザーズフォーラムスタッフの尽力により無償公開された。またZOOMなど一部のメーカーも自社製のソフトを無償で公開した。
発売から10年を過ぎたあたりから電源ユニットの寿命に伴う破損が相次いでいる。 既にシャープでは修理を行っていない為、ネットオークションなどを通じてジャンク品として取引される事も少なくない。
電源ユニットを自分で修理し利用し続けているユーザーもいるが、洗練されたツインタワー型デザインを好み、X68000の筐体にPC/AT互換機用パーツを搭載した通称「ATX68000」を自作し、WindowsマシンとしてのX68000を復活させるユーザーもいる。 その際、5.25インチFDDの位置にスロットインタイプのCD(DVD)ドライブを取り付け、X68000特有の機能であったオートイジェクト機能をそのまま再現するなどの工夫が施されているマシンもある。
[編集] 『フェスタ・68』と『オリゲーフェスタ』
『フェスタ・68』は、しゃかんきょりたもつ主催による秋葉原の損保会館にて開催されたX68000専門のイベントである。 毎回、各サークルおよび各企業が参加し、X68000関連のハードウェア、ソフトウェア、資料、グッズ、その他が展示販売される。
第1回は、1999年5月4日に秋葉原のマーク・インタースペースにて開催された。第2回からは損保会館で開催され、1999年10月11日、2000年5月4日、2000年11月4日、2001年5月5日(前日2001年5月4日にはオリジナルゲーム即売会『オリゲーフェスタ』も開催)の順に、2002年以降は毎年5月4日に開催されている。第6回では『オリゲーフェスタ』と同時開催されたが、第7回と第8回には融合して『オリゲーフェスタ・68』、第9回からは『オリゲーフェスタ』と名称変更した。
[編集] 遺産
エミュレータとして、MS-Windows上ではEX68、けろぴー、WinX68k高速版、XM6、Macintosh上ではX68EMなどがフリーソフトとして公開されている。
[編集] 関連書籍
- X68000テクニカルデータブック 1987年 アスキー出版局テクライト編 監修シャープ株式会社テレビ事業部 ISBN 4-87148-426-2
- 月刊Oh!X(ソフトバンク、1987年12月号~1995年12月号)
- 図解16ビットマイクロコンピュータMC68000の使い方(オーム社、小島進)
- 作りながら学ぶMC68000(CQ出版社、トランジスタ技術編集部)
- 68000ソフト&ハードのすべて(CQ出版社、トランジスタ技術編集部)
- VMEシステム完全マスタ(CQ出版社、インタ-フェ-ス編集部)
- 68000 PROGRAMMER'S HAND BOOK(技術評論社、宍倉幸則)
- 68000 マシン語プログラミング(工学社、村山二郎)
- X68000マシン語プログラミング 入門編(ソフトバンク、村田敏行)
- X68000マシン語プログラミング グラフィックス編(ソフトバンク、村田敏行)
- SX-WINDOWプログラミング(ソフトバンク、吉沢正敏)
- X68000 Cプログラミング(ソフトバンク、中森章)
- X68000 ゲーム・プログラミング(技術評論社、京大マイコンクラブ)
- GCCによるX680x0ゲームプログラミング(ソフトバンク、吉村智興)
- X68000ベストプログラミング入門(技術評論社、千葉憲昭)
- X68000パワーアッププログラミング(アスキー、島田広道・丸川一志・ 石橋尚史)
- プログラマーのためのX68000環境ハンドブック(工学社、吉沢正敏・市原昌文)
- X68000 X-BASIC入門(BNN、荻野浩一郎・デブッタボーイズA・デブッタボーイズB)
- SX-WINDOW ver.3.1開発キット(ソフトバンク、吉沢正敏・牛島健雄・西田文彦・小浜純)
- X68000データブック(小学館、ポプコム編集部)
- Inside X68000(ソフトバンク、桒野雅彦)
- Outside X68000(ソフトバンク、桒野雅彦)
- X68030 Inside/Out(ソフトバンク、桒野雅彦) ISBN 4-89052-499-1
- X68040turbo(ソフトバンク、BEEPs)
- X680x0 Develop. & libc II(ソフトバンク、吉野智興・中村祐一・石丸敏弘・今野幸義・村上敬一郎・大西恵司)
- X680x0 Develop. Manual Books(ソフトバンク、吉野智興・中村祐一・石丸敏弘・今野幸義)
- X680x0 libc Manual Books(ソフトバンク、村上敬一郎・大西恵司・荻野裕二)
- OS-9ユーザーノート(啓学出版、ピーター C.ディブル・西脇弘[訳])
- パーソナルコンピュータのためのOS-9入門(オーム社、蜂谷博)
- OS-9/68000トレーニングマニュアル(JICC出版局、大内和博・熊谷博・角田多幸)
- RAINBOW OS-9ガイド(SPIRIT Publishing、デイルL.パケット・ピーター C.ディブル・西脇弘[訳])
- OS-9/68000マルチユーザシステムガイド(SPIRIT Publishing、矢野公正)
- 初心者のためのOS-9/X68000操作ガイド(BNN、インタープログ編)
- GNUツールボックス(ソフトバンク、吉村智興・村上敬一郎)
- X680x0 TeX(ソフトバンク、吉野智興)
- NetBSD/X68k(ソフトバンク、NetBSD/X68k委員会)
- X68000 3Dグラフィックス入門(BNN、BNN第2企画部編)
- Z’s Triphony DIGITAL CRAFTによる誰でもできる3次元グラフィックス(アーマット・工学図書、玉川美土里)
- ナムコビデオゲームミュージックライブラリーVol1(電波新聞社、磯田 健一郎・マイコンBASICマガジン編集部)
- パソコンFM音源音色ライブラリーVol.1(電波新聞社、原田雅司・永田英哉)
- パソコンFM音源音色ライブラリーVol.2(電波新聞社、永田英哉)
- パソコンFM音源音色ライブラリー フロッピー・バージョン(電波新聞社、マイコンBASICマガジン編集部編)
- NAGDRV for X68000(電波新聞社、マイコンソフト)
- Z-MUSICシステムver.2.0(ソフトバンク、Oh!X編集部、1993年12月) ISBN 4-8905-2460-6
- Z-MUSICシステムver.3.0(ソフトバンク、元Oh!X編集部、1997年1月) ISBN 4-7973-0184-8
- The World of X68000(電波新聞社、山下章)
- The World of X68000 II(電波新聞社、山下章)
- X68000傑作ゲーム選-ログインソフトウェアコンテスト(ソフトバンク、中森章)
- X68000フリーソフトウェア 最新・ゲーム&ユーティリティ集(日本文芸社、望月馳也)
- X68000 Free Software Book(ソフトバンク、グループ68K)
- バックアップ活用テクニック総集編(三才ブックス)
- バックアップ活用テクニック総集編2(三才ブックス)
- X68000やさしいプロテクトの外し方のすべて(日本文芸社、PEC編集部・編)
- 究極!! X68000エミュレータ(秀和システム、高木啓多)
[編集] ムック
- X68000活用研究(電波新聞社、塚越一雄)
- X68000活用研究Ⅱ X-BASICマスター編(電波新聞社、宮原哲也・深沢幸三)
- X68000活用研究Ⅲ X-BASIC活用Q&A (電波新聞社、塚越一雄)
- X1/X68000ゲーム・ミュージック・プログラム大全集(電波新聞社、マイコンBASICマガジン編集部編)
- Z-MUSICシステムver.1.0(ソフトバンク、Oh!X編集部、1991年11月)
- I/O別冊X68k ディスク本1(工学社、I/O編集部・星正明)
- Oh!X 1998復刊記念号(ソフトバンク、1998年11月)
- Oh!X 1999春号(ソフトバンク、1999年5月)
- Oh!X 1999夏号(ソフトバンク、1999年9月)
- Oh!X 2000春号(ソフトバンク、2000年3月)
- Oh!X 2001春号(ソフトバンク、2001年3月)
[編集] X68000関連記事を掲載したことがある定期刊行誌
現在ではX68000関連の記事が掲載されることはほとんどない。
- 月刊ログイン(アスキー[掲載当時] - 現在はエンターブレインから発行)
- 月刊コンプティーク(角川書店)
- 月刊I/O(工学社)
- 月刊マイコン(電波新聞社) - 後にマイコンピュータマガジンと誌名変更するが最終的に休刊
- 月刊マイコンBASICマガジン(電波新聞社) 休刊
- 月刊テクノポリス(徳間書店) 休刊
- 月刊ポプコム(小学館) 休刊
- 月刊Hacker(日本文芸社) 廃刊
- 月刊電撃王(メディアワークス) - 後にDengekiGAMESとなるも休刊
- 隔月刊PEC(PEC編集部) 廃刊
- ラジオライフ別冊バックアップ活用テクニック(三才ブックス、PART14まで)
- 季刊バックアップ活用テクニック(三才ブックス、1989年6月号PART15-1993年3月号PART30)
- 隔月刊バックアップ活用テクニック(三才ブックス、1993年6月号PART31-1994年8月号PART38)
- 隔月刊ゲームラボ(三才ブックス、1994年10月号-1997年12月号)
- 月刊ゲームラボ(三才ブックス、1998年2月号-)
[編集] 関連項目
- パソコンサンデー - 小倉智昭が司会をつとめたシャープ提供のパソコン情報番組
- FM TOWNS - シリーズの実質的なライバル
- Category:X68000用ゲームソフト